115話
マニスト国
アレクは、マニスト国の救済を急いでいた。暴動寸前なのだ、農地は荒れ果て、食料もなく何もない。
暴動が起きれば、鎮圧しなくてはならなくなる。それはやりたく無い。
アレクは、食料を各地にばらまいた。文字通り空から支援物資をばらまいたのだ。
これには、ユリ他の家臣も口を大きく開けていた。
アレクは大笑いをしていた。
このマニスト国の国土は広くない、獣王国と同じぐらい小さい伯爵領2つ分である。
空から食料を落としていけば、当座はしのげる。後は、地上部隊が順次支援を行うだろう。
カインが、首都に戻ってきた。
アレクは、カインと今後の事を話し、このマニストの治安維持と食料支援を最優先とした。
農地の復興は、民では今は出来そうもない。体力が落ち、気力が無いのだ。食料の支援で落ち着き安心してしまって気が抜けてしまったのだ。
アレクは、獣人のアピール機会だと、獣人で農地を耕す事にした。獣人は馬力が違った。馬も牛も使わずにものすごい勢いで畑が耕されていく。
元の畑は獣人によって穀物を耕作出来るようになり一安心のようだ。だが、その他の農地開発、住宅の修繕、民たちの仕事の斡旋が残っている。民の仕事は、開発をさせることで、民たちにお金を回すようにしていた。これで少しは、経済の活性化が出来れるはずである。
食糧支援も順調に行き渡り、仕事に就く者が増えていくと問題が出てきた。
獣人と人間の確執だ。予想されていた事であり、対応も考えられていたが予想以上に人間が卑屈になっていた。
これにはアレクも頭を抱えた。人間が卑屈になり、取り成そうとしたのだが獣人は単純であった。
獣人が相手の言葉を、真に受けて行動をしてしまった。獣人が悪いわけではない、脳筋が悪いのだ。
人間が煽てて貰いたい、褒めてもらいたい、その気持ちが卑屈な発言をしていたが、獣人には通じなかった。
「これは、一緒には暮らせないな。」アレクは独り言を言っていた。
アレクは、カインに相談をした。事の経緯を話し、対応を協議する予定でいたが、カインにも通じなかった。いくら話しても理解してくれないのだ。
もう、カインと獣人を抜きに開発を進める事になった。理解出来ない人に何を言っても無理である。
カインと獣人には、国境警備を重点に置いてもらい、民たちとの交流を少なくしていった。
アレクは、元マニストの民に移住の話をしていく。オリオン王国に移住すれば、安定した生活が出来ると説得を始めたのである。
あまり上手くはいかなかった。特に、農民たちは土地を離れるのを嫌った。
「リック、やはり獣王国とこのマニスト国を分けるしかないかな。」
「師匠、獣人と人間、特にここの人間では一緒は無理ですよ。」
「そうだよなー。ここの人達少しおかしいよなー。」
「人間と人間でも揉めるでしょう。」
「んーーーん。となると何処に行っても同じだね。」
「そうなります。」
「なら無理して移住させることもないね。」
アレクは民達の相手をするのを止めた。ほっとく事にしたのだ。
機人と木人を使い。農地開拓、都市開発を進めていく。民たちは、相手にされず最初は喚いたり、泣いたりと色々な、手を変え品を変えてアピールをしていたが、相手が乗ってこないのでどうにもならなくなった。
相手にしないと、すり寄ってくるのだ。
それでも相手にしない。やっと普通に話すようになっていった。
「リックも疲れたでしょう。長かったーー。」
「このまま、普通にならないかと思いましたね。」
「うん。洗脳でもされて、思考がおかしくなってたのかな。」
「まさか、それは無いですよ。マリア様とイリア様じゃぁ、ないんですから。」
「洗脳が出来る人間がいるんだった。」
「ま、まさかないですよ。」
「そうだよね、こんなに沢山の集団は無理だよな。」
これは単なる偶然であった。集団洗脳は出来るものは、現状誰もいない。
マニスト国の民たちは、独立を果たし、希望に燃えていた。最初は独立の勢いもあり国として成り立ちそうであった。だが、指導者が影武者に変わり雲行きが怪しくなっていった。国として何もしなくなったのだ。マニスト国の民は、国に訴えた。何も返事がないのだ。弾圧も、脅しも、言い訳も、何もされない、相手にもされない。民たちは少しずつ狂っていった。
そして、ちょうどいいタイミングで獣王国が侵略をしてきたのだ。侵略してきたが支援も相手もしてくれる。民はこれで思考がおかしくなっていったのだ。
アレクの相手にしない。これは正解であった。これも偶然であるが、結果が良ければ全てよし。
偶然は怖いな。
「民が元通りになっても、獣人と人間とは離して生活をさせるか。」
「それがいいと思います。」
「ユリなんでかな。」
「絶対にまた揉めます。」
「だよなーー。」
「一度オリオン王国に行ってくるよ。いない間を頼むね。」
「はい、大丈夫です、マックとリックがいますし、機人もいますから。」
アレクはガレオン号に乗りオリオン王国を目指した。
「父上、ただ今戻りました。」
「アレクか、話は聞いた。マニスト国を占領は成功したようだな。」
「その事なのですが。占領はしたのですが、獣人と人間が揉めまてます。一緒には出来ません。」
「そうなのか。困ったな。」
「移住も嫌がってますので。オリオン王国に吸収するか、獣王国内で領地を区別するかですね。」
「獣王国での獣人と人間の区別は可能か。」
「領主を人間にして、領地内を人間だけにするしかないです。後は徐々に馴らすしかないです。」
「ならそうしなさい。」
「オリオン王国に吸収は出来ないですか。」
「今は、無理だな。」
「分かりました。仕方ないですね。」
アレクは、成果なしで戻ることになった。
だが、ハロルドとの会話は実りがあった。
考えが整理されていったのだ。徐々に慣れさせる。これしかない、アレクは獣人地区と人間地区に分けた。この中間地点に交流地区を設けたのだ。そこには商店街等の人々が集まる施設を集めた。
自然と交流が出来るように、交流が出来れば、仲も良くなるかも知れない。
この交流地区は、評判が頗るよかった。魔化製品の店も出来たり、魔道具店も呼び寄せた。食堂も色々な料理が出来る店を選んで食を広めたのである。甘い物を食べさせる店が大繁盛をしたのである。この店だけは、獣人も人間も店内では一切揉め事は無かった。
アレクは、「慣れれば大丈夫だな。良かった。」と呟いた。
カインも安心したのか、アレクにもう大丈夫なのかと聞いてきたのだ。
「アレク、大丈夫そうだな。」
「何とかなったね。」
「後はカイン兄の民になったんだから、頑張って。」
「困ったら、相談するよ。」
「大丈夫だよ、人間の領主に機人を1体置いとくから。ところで人間の領主は誰にするの。」
「その事なんだけど、俺の領地って今まで獣人ばかりだろう。貴族も獣人が多いし。だからこの際、ロムとサムを獣王国の伯爵に陞爵させよかと思うんだけど。」
「おぉ、いいじゃないですか。確かロムとサムはオリオン王国では騎士爵でしたよね。」
「そうだな。他の獣人達が、騎士爵が多いから横並びでみんな騎士爵だな。」
「そうですか、ならオリオン王国でも男爵に陞爵させて、獣王国では伯爵様にしてあげましょう。」
「おお、いいなぁ。ロムとサムが伯爵様か。」
「あの二人なら隣同士で仲良く出来るでしょうし、気転も効きますから大丈夫でしょう。」
アレクとカインは、楽しく会話をしていた。ロムとサムを伯爵にするのが嬉しいのだ。
アレクとカイン、他の兄弟の直臣で初めての伯爵が生まれたのであった。




