父への手紙
尾張から少し東、三河国。少し開けた場所に彼の居城、岡崎城で病床に伏していた。
竹千代の父、松平広忠。1年前から容態が優れなかったが、愛息子が自分の手から離れたことをきっかけに精神的に容態が更に悪化。ストレスも重なって、いつ危篤になってもおかしくなかった。
「竹千代……竹千代ぉ……」
「大丈夫です、広忠様!竹千代様は今川のところで元気にやっております。早く治して元気な姿を見せてあげようではありませんか」
家臣が広忠を必死に励ます。流石に、息子を失ったショックで現松平家当主に死なれれば、松平は今川に吸収される道しか見えない。
「そうだ……そうだなあ…………竹千代ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
いい大人がおいおいと泣くほどの、子供への執着ぶりは戦や人質が当たり前の戦国時代では異様で、それでいて理解されないものだった。
「大丈夫ですから!ほら……ん?竹千代様から手紙?」
全力で慰めにかかっている家臣の元に伝令が入る。手紙。我が子の無事を知るチャンスに、広忠の心臓の鼓動は早くなる。息も少し荒くなり、むしろ悪い状態に向かっているように見えるが。家臣はこれを広忠からストレスを解放させるチャンスと思い、意気揚々と手紙を読み上げ始める。
「えっ……と、『父上様 いかがお過ごしでしょうか。体調はいかがでしょうか。竹千代は元気にやってます』」
「竹千代ぉぉぉ!!!!」
「黙ってください。『私は新しいお友達が出来ました。お兄さんの方が正しいかもしれません。拓海さんと……信長さんです』!?」
信長と言えば、色々な意味で(特に悪い方で)有名な織田信長しか思い浮かばない。家臣の頭はこんがらがり、広忠も状況も把握しきれていない。
「あ……えっ……と。確か、今川の義元の……次男か三男か四男あたりにその名前がありましたな。なあ、皆、そうだよな?」
周りに控えている別の重臣たちに同意を求めると、皆頷き、同調する。
「はて……そうだったか。長男の名前は覚えているのがなあ。年が増えると忘れっぽくてならん。……そう言えば。織田の跡継ぎにもそんな名前がなかったか?確か……」
「さあ! 続きを読んでまいりますぞ!『お二人は私とよく遊びに行ってくれます。この間は熱田の団子屋で団子を食べました』!?」
それを聞いた広忠が疑問を抱く前にすかさず、家臣がフォローに回る。
「そうそう!熱田!今川が治めている駿河国の、市場の盛んな街だったか!私も行ったことがあります!」
「そうなのか。でも、確か尾張に熱田という土地があった気が……」
「気の所為なのでは?」
「……」
「広忠様?」
「……よし、決めた。ここで信長、熱田と尾張を連想させてくれる言葉が出てきたのだ。恐らくこれは、この手紙の真の意味。儂は尾張を攻める。せっかくの機会だ。今川も加勢してくれよう」
「はい?」
「出陣の準備だ!今川に援軍の要請を頼む!狙うは我が三河に潜む織田の城、安祥城!織田信秀!目に物見せてやる!」
今回のはおまけと、広忠の登場回みたいなものです。かなり雑なのは許してください。




