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家族の奮闘② 狂信者の来訪(ディオス)

1章と2章の間で起こった話です。

 ガゴンッ!


 ガガガッ! ドゴッ!


 ガゴガンッ! ガゴンッ!!


 ボガンッ!!


 屋敷の周囲に張り巡らせた防壁の向こう側から爆発音が響く。


「かぁー、彼奴ら本気だな」


 窓の外から見えた巨大な影は、赤、青、黄色の3つの目と巨大な角を持つ魔獣ビュゲシャスだ。獰猛な性格で、魔力の高い獲物を見つけて捕食し成長する特徴を持っている。奴の爪には解毒剤でも完治できない麻痺毒が含まれているのだ。一度遭遇すれば、逃げ延びる事はできないと恐れられている。今、眼前に映る魔獣は、屋敷を優に倍以上越える大きさまで成長している。


 あの大きさにさせるために、相当な犠牲があったはずだ。


 奴らの行いの愚かさに反吐が出るな。


「防壁が打ち破られた、まず彼奴を仕留める」

「周囲の雑魚共に警戒しろ」

「畏まりました、旦那様」


 ユステアが、烈火の神アーバルヴィシュアを召喚し、メイノワールとメリリア、リンナが武器を構える、そしてラフィアが弓をつがえ臨戦態勢を取った。


 ドガガガンッ!


 バシャッ!


 防壁の中腹にビュゲシャスの黒ずんで禍々しい腕が現れる。


 突き抜けた腕によって防壁に亀裂が入り、ドドッドガッ! と音を立てて防壁に穴があき人影が雪崩れ込んでくる。


「雑魚は任せる! 俺はビュゲシャスを殺る!」


 そう言い放ち、俺は魔力を限界まで込めた両手に持った剣で、ビュゲシャスに向かって斬り払う。七色の斬撃が、奴に目掛けて飛んでいった。


 続けて二発、三発、四発と間髪入れずに斬り払い、斬撃を命中させる。


 的がデカいからな。易々と、ビュゲシャスに七色の刃が直撃する。防壁に腕を取られ、身動きが出来ない奴は、苦悶の咆哮を上げながら、無様に切り刻まれた。飼い主が馬鹿だと容易くてしょうがない。


 サクッとビュゲシャスを肉塊にして、ユステア達に視線を向ける。


 ユステアの召喚した烈火の神が、雪崩れ込む人影の中心で暴れている。烈火の神にほど近い者達は、次々と青い炎に焼かれ炭とかして消えていく。うちの嫁は、怒らせると容赦がないのだ。


 娘達としばし離れてしまった事に、怒りは倍増しているのであろう、手加減は一切ない。


 ユステアの荒ぶる炎から逃れた者達は、メイノワール達に滅多斬りにされるか、ラフィアの速射で針ねずみのような姿になっている。此奴らも全く容赦がなかった。人の事は言えないが、我が家の者達は、戦闘になると人が変わったように雄雄しくなる。


 襲撃者の殆どを、瞬く間に殲滅した俺達は、生き逃れの数人を捕縛し尋問する。


「名を名乗れ、下郎!」


 司祭の衣装を纏った顔色の悪い神官を鋭く睨みつける。


「ひぃっ、お命だけはお助けください」


 顔色の悪い神官は、歯をガタガタ言わせながら命乞いをしてきた。


「二度は言わんぞ」


 俺の殺気のこもった視線と怒声で堪らず失禁した神官は、震える声で名乗った。


「ドッ、ドルヴィン教会中央司祭のジェリコでございます」


 中央司祭か——。やはり、アレサンディウェール王国からこちらに来ていたか。しかし、国を跨いで兵を送り込む事など、戦争の火種にしかならない。どうやってここまで軍を動かして来たのか、問い詰める必要があるな。


 自分達の国に手引きした奴がいるはずだ。


「いかにして魔獣付きの軍を送り込んだ。話せ! 偽りの疑惑があれば叩き斬る! 分かっているだろうが、我々はお前達に容赦はしない」


 俺に睨まれた神官は口に泡を含みながら、襲撃してきた経緯を説明する。


 ――なるほどな。


 我々が住まうサントブリュッセル王国の貴族共が国境を通したか。その手引きした貴族はユステアの放った炎に巻かれ、炭と化し絶命した。やはり手加減は大事だな……。ともあれ名は割れたので、後ほど挨拶に伺おう。場合によっては、最上神の元に還ってもらうかもしれぬが、我々に刃を向けたのだ、タダではすまさん。


「で、ここに来た目的は?」


 分かっている事なので敢えて聞く必要もないが、聞いておいた。俺、優しい。


「赤子を探しております。我等の聖神アンリローゼス様の生まれ変わりに、一目会いたく馳せ参じた次第でございます」


 さっきまで震えて失禁していた神官がやたらハキハキ話す。こいつらが、これまでどんな残酷な行いをしていたのか知っている俺に向かってだ。


 いけしゃあしゃあと……虫酸が走るわ!


「ほう、それで遠方からわざわざ軍隊で来たと」

「道中、危険がつっつきまとうものですから……用心に用心を重ねてこのような集団に……」

「戯言は良せ! 戯けが! 何処に道中の護衛に災害級の魔獣を引き連れてくるか奴がおると思ってか! 我を舐めてるのか?」


 俺は切っ先を奴の喉に向ける。


「はっひぃぃぃ!」


 再び神官は失禁し、泡は吹いて倒れた。


 周囲を見て、まだ息のある奴等に視線を移す。どいつもこいつも血の気が引いて顔が真っ青だ。状態の良さそうな同族の裏切り者に、手引きした貴族の屋敷に案内させる事にした。他の奴等は屋敷の牢にぶち込んで置く。後で騎士団に引き取らせるよう、メイノワールに命じておいた。


 ――王都にある貴族街へ向かう途中、通信の魔道具が届く。


「エルステアとアリシアは無事保護した。ふたりとも大事はない。リリアは負傷、致命傷は避けられたようで命に影響はない。助けが必要であれば呼べ」


 レオナールからの言霊伝令を受け、俺もユステアも安堵する。


 一刻も早くレオナールと合流したい気持ちが溢れる。しかし、娘達の将来の憂いを払拭するため、今は迎えなかった。母親であるユステアは、子供達と離れてしまった事が辛いのか、唇をギュッと噛みながら俺に頷く。


 ――王都までの道程は、馬車で移動しておよそ三日。


 途中、村や町に立ち寄りドルヴィン教会を見て回った。一部の教会では、狂信者による赤子拉致が行われていたので問答無用で潰していった。連れ去られた赤子を住人達で手分けして親元へ返して行ったが、親が殺されていた赤子もいた。


 親を失った赤子は孤児院に引き取らせるしかなかった。奴等の行いで、不幸になる子供が増えている。許しがたい蛮行に俺は怒りを覚える。


 ――三日で着くはずだった王都まで、村々の教会を潰し回ったせいで、二月の時間を要した。


 王都間近で日が陰り辺りが暗くなる。完全に辺りが闇に包まれてから、俺達は裏切り者達の住まう屋敷に到着する。メイノワールに、予め騎士団に連絡を入れ外患誘致、逆賊討伐の許可を得るように命じ返答を待った。


 このまま討ち入ると、我等が謀反の誹りを受けるからだ。建前はいつの世でも大事なのである。


 メイノワールに連れ立って来た騎士団の副団長バハムートが俺に敬礼する。


「ディオス様、逆賊討伐に馳せ参じました!」

「ご命令を!」


 ドンッ! と槍を床に叩きつけ、笑顔で俺を見るバハムート。


 いや、張り切ってくれるのはいいんだか、敵に気付かれるであろう。相変わらずこいつは空気が読めない。


 バハムートは、俺が剣と槍の稽古をつけてやったひとりで弟子みたいなものなのだが、如何せん真っ直ぐ過ぎる。今日も俺と共に戦える事にしか頭が働いていないのか、立ち振る舞い雑なのだ。とは言え、剣と槍の腕前は確かなので、この場では戦力として使える。


「中央からは我等とお主、それと一部の騎士で入る。バハムート、同行する騎士を選定しておけ。残りの者達でこの屋敷を包囲しろ。1人も逃すな!」

「おうっ!」


 騎士達が返事をしたと同時に、俺達は一気に屋敷の扉を破壊し突撃する。扉を叩き壊した瞬間、幾重もの矢が頭上に降り注ぐ。


「かかか、その程度の攻撃は予測済みだ!」

「ユステア!」

「風の女神エンリエータよ! 竜巻の壁で我らに害を成す者へ憂いを与えたまえ!」


 ユステアに風の魔法を放つように伝えていたので、降り注ぐ矢はそのまま放った者へと押し返された。


「そんな鈍な攻撃など通用せぬわ!」


 陳腐な攻撃に俺は苛立ちの咆哮をあげる。


 すぐ様、矢の放たれた方向へ斬撃を放つ。嗚咽と共に人影が倒れ攻撃が止んだ。


 抵抗があまりに少ない。俺達は屋敷を隈なく探索し始める。2階へ上がり、ここの館の主であろう執務室で不気味な音を耳にする。この中にまだ残党がいる。そう直感が告げると、追従する者達を一歩下がらせ、扉を蹴破った。


 そこには、語るにも悍ましい光景が広がっていた。


「ユステア! 見るな!」


 叫ぶと同時に、メリリアがユステアの前に立ち塞がり視界を遮る。


「ディオス様、こいつら狂って……」


 俺の後ろから続く騎士達も幾つも戦場を生き抜いてきたとは言え、目を逸らしたくなる惨劇だった。


 俺の視界には部屋全体が赤く血に染まり、床には血だまりと共にいくつもの小さい手足が転がっている……祭壇前には人間族とエルフ族、魔族に獣人まで裸で奇声を上げながら祈りを捧げている。奴らは、俺達がいる事に何の関心も向かずただ祭壇の前にいるのだ。


「外道め」


 こいつらは魂ごと堕ちたのだ。最早ヒトではない。


 こんな奴等が俺達や子供を持つ者達の幸せを奪おうとしたのだ。


 胸糞の悪い奴等を騎士団に任せ、俺達は屋敷を出る。


 どこかで狂った教会。娘達の未来が奴等に踏みにじられる。そう思った時、俺は改めてドルヴィン教会を徹底的に潰さねばならぬと感じた。


 娘達から離れて2カ月と少し……。


 悲しみに堪えるユステアを抱き寄せ、今すぐにでも、エルステアとアリシアに会いたい思いを胸にしまい、狂信者の本拠地、アレサンディウェール王国にある、ドルヴィン教会中央に俺達は向かった。

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