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家族の奮闘① 襲撃前夜(ディオス)

1章と2章の間で起こった話です。

「メイノアール、報告を」


「はい、旦那様。ドルヴィン教会を探らせていた者の報告を申し上げます」


 ドルヴィン教会とは、隣国アレサンディウェール王国を中心に聖アンリローゼスを信奉する宗教組織だ。主に人間族の貴族からの信者を獲得しており、この国にも少なからず信者が存在する。ドルヴィン教会の教えと言うのは、信者達が死んだ後、聖アンリローゼスの加護により神に最も近い場所で安らかに過ごせると説いたものだ。


 正直、胡散臭すぎて、信じる者がいるのが不思議である。


 そんなものに縋るくらいなら、我らを守護するユグドゥラシルに祈りを捧げるべきだと思う。


 聖アンリローゼスの生前の行いは本物である。彼女は昔の仲間で俺も見たからな。


 誰からも信頼され、人情に厚く、若干ドジで抜けているところもあったが、人間族にも関わらず豊富な魔力量を有していた。魔獣や王国同士の戦争では戦線に立ち俺たちの怪我や、時には補助魔法を行使し助けてくれた。その時の勇姿が、人間族には神々しかったのだろう。彼女に敬謙する奴が増えていったのを覚えている。


 残念ながら彼女は人間族なので、聖女と言われても寿命で死ぬのだ。


 我々エルフ族より寿命は短い。――もう、200年も前の話だ。


 彼女の死後に設立されたドルヴィン教会だが、設立当初から今までは特に問題はなかった。つい10年前までは、アンリローゼスの昔話を信者に教える役を務めていたほどの関係だったからだ。


 だが、ここ数年の教会の動きは異質だった。


 最初は俺の直感で一部の信者が妙な動きを取っている気がしたのだ。


 情報をかき集めているうちに直感が事実へと変わった。アンリローゼスの生まれ変わりを声高に唱える信者が現れたのだ。しかも、それに同調する者が日を追うごとに増加、その勢いは増すばかりなのだ。


 奴らは、アンリローゼスがホルカの1日に転生を果たしたと嘯き、国中の赤子を次々と教会に集め洗礼という名の審査を行っているらしい。しかも、半ば拉致同然に赤子を攫い、適正が無いとわかるとそのまま放置して幾人もの犠牲が出ているとまで噂を聞く。


 狂信者とは目的のためならば手段を選ばない非道振りだ。


 アンリが生きていたら何と言っただろうか――。


 俺がメイノアールを遣わせてドルヴィン教会を探らせていたのには理由がある。


 ついこの間、ユステアが生んだ我が娘アリシアだが、このホルカの1日にこの世に生を成したのだ。アンリの教会とも近しい我が家に危険が迫るのも時間の問題だった。


 メイノアールの報告では、狂信者共がアリシアが生まれた事を既に察知しているようで、近くドルヴィン教会の狂った奴らがこちらに訪問するようだ。間違いなく奴らは強硬な手段でアリシアを奪おうとするだろう。そんじょそこらの鈍ら騎士には負けぬが、奴らは貴族も信者に置いているので数で来られると我が家の被害も甚大だ。下手すると隣の村まで壊滅させかねない。


 俺は直ぐにユステアにこの先起こると予測される事態を話し、わが娘達を安全場所に避難させる必要があると説いた。


 生まれて数か月のアリシアを預けなくてはならない事態にユステアは心を痛めていたが、レオナールであれば信頼できると承諾してくれた。ちょうどレオナールのところにも一昨年に子供が生まれているため、レオナールの妻フレイがアリシアに授乳できると知っているからでもある。


 レオナールに直ぐ連絡の魔道具で知らせを送った。彼から直ぐに返信が届き、明日の陽が落ちる前のクエンタに領地の堺で合流できる事になった。ここからレオナールの領地の堺までおよそ一刻。ちょっとした遠出と思えばエルステアもアリシアもさほど負担もかからないだろうと思うのだ。

 アリシアにはユステアの睡眠魔法と対物理・対魔法の法衣も備え付けさせれば、道中で万が一の事が起きても合流する時まで身を守れるはずだ。


 人里離れた場所で生活していたが故に、必要以上の護衛も雇わなかった事が裏目に出るとは。


 悔やんでも事態の解決はできぬ、今は万全の状態で娘達を送り出せる事に専念する。


 当日の早朝から事は動いた――。


 ドルヴィン教会から50名近い信者がこちらに向かっているとの報告を受ける。平民50人であれば相手にならんが、ほとんどが剣や魔法を使える貴族だ。人間族だけでなくエルフ族まで混じっている。これを相手にするには骨が折れる。こちらも無傷というわけにはいかんだろうと思い、メイノアール達にもいつでも相手ができるように指示を出す。


 俺は、娘達の寝顔を少し見て書庫にある防御装置を起動させる。これで遠方からの攻撃をある程度は防いでくれるはずだ。


 昼食までの時間、最愛の娘達が遊ぶ様子を少し離れて眺めていた。まだ幼い二人がいつまでも仲良く幸せに暮らしていけるような時代にしなくてはならないと誓った。いつか嫁にいかれたらと先走った妄想にまで思いを走らせてしまい、どこの馬の骨かわからん奴らに嫁になんぞやるか! と勝手に心で怒った。


 うちの可愛い娘を欲しがる奴は覚悟しておけ!


 そんな妄想をしているとメリリアから呼ばれて部屋を出る。


 うっ、エルステアが心配そうな目で俺を見る。可愛いなぁうちの娘は。大丈夫だ、お父さんがお前たちの不安を全部振り払ってやるからな!


「レオノール様との合流地点付近に見かけない者が数人現れたそうです」

「なるほど、こちらの動きが悟られているか」

「レオノールに急ぎ領地の境界より先へ向かうように連絡しよう」


 レオノールに即座に連絡の魔道具を送ると、既に準備が出来ているのか騎馬隊が向かっているとの返信が届いた。さすがレオノールだ。俺のように浮世離れしていない都会っこは判断が早くて頼もしい。


 昼食の時間になり、エルステアと一緒に食事を取る。この事態を悟られないよう、アリシアの成長について話をするようにした。エルステアはアリシアの事を本当に大事にしている。お姉ちゃんになれた事で彼女はどんどん成長しているようにも見えて微笑ましかった。


 昼食後、エルステアにアリシアと共にレオノール家に向かうように話した時は胸が張り裂けそうに辛かった。ユステアも辛そうに彼女を見つめる。しかし、この場に幼い子を留めておく事は出来ない。敵の数が圧倒的に多い、いつどの角度から襲撃を受け巻き込まれるのか分からないのだ。


 エルステアは気丈に振舞ってはいるが、震えているのが分かる。


 俺はそんな彼女を誇りに思い強く抱きしめた。この子達に世界樹ユグドゥラシルのご加護がありますように。


 エルステアとアリシアの見送りにユステアを行かせ、俺は表玄関で奴らの到着を待つ。


 しばらくして、ユステアも俺の側に立つ。


「俺たちの子を生贄にしようとする奴らを生かしておくわけにいかぬ」

「ユステア、しばし辛いだろうが助力を頼むぞ」

「あの子たちの未来の不安を除くためですもの。私も頑張りますわ」


 俺たちは、しばし語り合いながら扉の向こうを睨み続けた。

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