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悲劇は突然に(エルステア)

運命回転のつづきです。

 お母様と別れてからどのくらい時間が経ったのでしょう。


 今はもう私たちの家は見えなくなり、高い木々が生い茂る路を走り抜けています。すごく速く移動しているのに、馬車の揺れを全く感じません。リリアに聞くと風の女神エンリエータの加護が馬車に付与されていてるそうです。路の小さいデコボコくらいなら振動を吸収してくれるそうです。


 魔法ってそういう使い方もできるのですね、私、ちょっと賢くなりました。


 ドガッガガッ!ガッ!


「ひゃっん!」


 馬車が大きな音を立て、一瞬身体が宙に浮いてしまい思わず声が出てしまいました。


 大きいデコボコに当たったようです。ちょっと心臓に悪いですね。




 大事に抱きしめている妹は気持ち良さそうに指をしゃぶりながら眠っています。今の衝撃で目を覚まさなくて安心しました。目を覚ましてお母様がいない事に気づいて泣かれてしまうと、私には泣き止ませる方法が思いつかないのです。私たちの不安と焦りとは別に妹の幸せそうな顔を見て、少し気持ちが和らいだ気がします。


「リリア、いまどのくらい進んだのですか?」


 現在地を把握したくてリリアに尋ねました。


「お嬢様、もう間も無くレオナール様と合流できるかと思います」


 レオナール様は私の叔父様の名前です。私たちの住んでいたトゥレーゼ領に隣接するヒッツバイン領を治める領主様なのです。叔父様との合流予定時刻は一刻後、ヒッツバイン領の境界門に続く道のちょうど中間を越えた場所でなんだと予測しました。このまま進んで行ければ、事もなく叔父様と合流できそうです。




 しばらく路なりに進んだところで、小さい村が遠目に見えます。

 お家から遠く離れた場所に行った事がないので、村の様子に少し興味が惹かれました。


 私たちが住んでいるような大きく構えたお屋敷は見当たらなく、どこの家も屋根に枯れ草が積んであり外壁も木の板が貼り付けてあるだけの簡素な作りした。馬小屋と例えたらいいのでしょうか。見かける人々は誰ひとり着飾った服を着ていませんでした。


 村の様子を横目に見て、馬車は速度を落とさないで村の側道を走り抜けようとしました。


 村の中腹を過ぎようとした時、私たちに指をさして何か騒いでいる人がいます。この馬車に珍しい飾りなんかついていたかしら?


 騒いでいた人は急いで馬に跨り馬車目掛けて走り出してきました。側にいた人達も同じように馬に跨り、続いて向かってきます。もしかして、叔父様の騎士があの村で待っていてくれたのでしょうか。無事に叔父様と合流が出来そうでホッとしました。


 叔父様の騎士達がぐんぐんと速度をあげて勢いよく駆けつけて来てくれます。


 駆けつけてくる騎士達の一人がキラリと光りました。


 その直後、


 ヒュッンッ! バッバンッ!!


 私の後ろにある壁に穴が空き、目で見えなかった何かが突き抜けました。


 騎士達がキラキラと光り、その度に馬車は音を立てながら壊れていきます。何が起こっているのか理解できません。どうして叔父様の騎士達は私達が乗っている馬車を壊そうとしてくるのか。


 私の横に木の棒突き刺さりビィィィンッ! と音を立てながら振動しています。頭が真っ白になっている私の肩に痛みを感じます。恐る恐る肩に手を触れると手が赤く染まりました。その状況を見て私は理解しました。


 ひゅっと、喉が勝手に鳴り同時に顔から血の気が引いてきます。


 あの人たちは叔父様の騎士では無いのです。盗賊か何かの集団が私たちを狙ってい襲ってきている思った瞬間、歯がガチガチと鳴り恐怖しました。座っているお尻が生暖かくなっていき、馬車の床が濡れていきます。


「ああっ!」


 前方にいるリリアから呻き声が聞こえます。視線を上げて彼女を見ると肩に深く矢が刺さっています。


「リリアっ! 貴方、矢が刺さっていますわ!大丈夫ですのっ?」


「おっお嬢様! 大丈夫でございます。このまま合流地点まで逃げきってみせます!」


 そうリリアが告げると、肩に刺さっていた矢を無理やり引き抜き、手綱をさらに激しく動かします。彼女の肩口が赤色に染まっていくのを私はただ見ているだけしか出来ませんでした。


 今は、リリアに託すしか生き延びられない。速く叔父様達の下へ祈るように願いました。


 追ってくる盗賊達の矢を無数に受け、馬車の壁や装飾が剥がれ落ちていきます。それでもリリアのおかけで馬車は前を進みます。私は、妹に飛んでくる矢が当たってしまわないように、身体全体で覆い被さるよう抱え直しました。妹は絶対に守ると強く思い震える身体を抑え踞りました。




 一頭の馬がさらに加速して来て、馬車の横に張り付いて来ます。その途端にガッガガッ! バリバリバリバリッ! と馬車の扉が壊され投げ捨てられました。


 扉を投げ捨てた黒装束の大きな身体の獣人が馬車の中に入って来ます。鋭く冷たい目で私に凄んで近づいてきました。男の手には鈍く光る銀色の大剣が握られ切っ先を私に向けてきました。不気味な笑顔で男は私を見てるとそのまま視線を妹へ向けてきます。男の視線に恐怖を感じ、身体が縮こまり目から涙が溢れ唇の震えが止まらなくなりました。


 男は私に向けた剣を振り上げてきます……妹だけは死なせたくないっ! と思い、私は妹を庇うように身体を丸めジッと固まりました。


 ごめんなさい、お父様、お母様。私、約束を守れないかもしれない。目を瞑って死ぬ瞬間を待ちました。


 バシュンッ! ドゴォッンッ!!!


 大きな音が頭上から聞こえてきます。


 まだ生きてる?私、まだ死んでない?私は両肩を抑えていた手にグッと力を入れます。強く握って痛みを感じた私はまだ死んでいない事を理解しました。


 頭を恐る恐る上げると、さっきまで私に剣を向けていた男は忽然と姿を消しています。馬車の屋根と壁に大きな穴が空いて壊れていました。


 助かった。私達助かったのね。


 安堵した私は、首元が光っている事に気付きました。あぁ、お母様から貰ったこのネックレスの力で救われたのですね。お母様が準備していてくれたから……。


「お母様ぁ……。会いたいよぉ、お家に帰りたいよぉ」


 私はネックレスを握りしめて、お母様に会いたくて怖くて涙が止まりません。


 私はずっと恐怖と絶望で身体を強張らせていたので、もう腰が抜けてその場から一歩も動けなくなってしまいました。涙で顔はもうくしゃくしゃになっています。でも、お父様、お母様との約束を守るために、歯を食いしばって妹を強く抱きしめました。


 早くこの時間が過ぎて欲しいと願いながらジッと蹲りました。




 段々と馬車の速さが落ちてきました。速く行かないとまた追いつかれてしまう! そう感じてリリアに視線を向けました。先ほどまで手綱を握っていたリリアの身体に幾つも矢が刺さっています。矢を受けて今にも倒れそうな彼女は手綱を持つ手だけは離さないようにしっかり握られています。だけど、彼女の服は大きく血が滲んで黒く染まっていました。


「リリア!」


 声にならない声を振り絞り彼女の名前を呼んだ。


 でも、彼女からは声が返ってこない。


 リリアの状態を直視できず思考が歪んでいきます。このまま追いつかれて、また盗賊が私達を殺しに来る。


 馬の足はどんどん鈍くなり、ついに馬車の動きが止まった。


 早く馬車から降りて逃げないとっ!森の中に隠れて逃げればまだ助かるかもしれない!


 意識は逃げる方法を考えられるのに、身体は思い通りに動いてくれない。


 お願い、動いて私。このまま死んじゃダメなのっ! 動いてよ!


 何度も、何度も身体を前に動かそうとするのに動いてくれない。


「どうしてなの、どうして……」


 何も出来ない、どうにもならない状況に私は悲嘆にくれ始めた。


 もう諦めてしまうの、それでいいのと自分を責め出した時、前方から、ドッドッドッ! ドドドドッ! と大きな音を立てて何かが向かってきました。盗賊が前方からも襲ってきたのかと絶望を感じ、私は破壊された屋根から空を仰ぎ見ました。


「どうか神様、私はどうなっても良いので妹だけは、妹の命だけはお助けください!」


 そう呟いて、盗賊達が襲ってくる瞬間まで祈りを捧げました。




 しかし、前方から聞こえて来た音は、私達の馬車を通過して行き、後ろから迫る盗賊へ向かって行きました。


 通過する集団の鎧馬には、叔父様の家紋が刻印されています。


 叔父様達は間一髪のところで間に合ったようです。


「ランドグリス! エルグレス! 一匹も逃さず殲滅せよ!」


 力強い怒声のような声が響き渡ります。


「おうっ!」


 と騎士達が応えるや否や、盗賊達のいる方向から爆発がいくつもおきました。


 激しい爆発と、幾重にも金属が重なる音が聞こえてきます。


 しばらくして、その音は無くなり辺りに静寂が訪れました。



 叔父様の騎士は襲って来た盗賊を事ごとく撃ち払い、殲滅してくれたのです。


 騎士達は私達の馬車に近づいてきます。


 その中で、ひとりの大柄な男が馬車の中を覗き見て、私に視線を向けました。


 その男は私たちを見るや少し顔を緩ませます。


「エルステア!」


 私の名前を告げる男は、見覚えのある顔でした。男は咄嗟に私の肩を掴んできました。


「叔父様っ!」


「すまない! 奴らがこんなに早く伏兵を忍ばせているとは思っておらず、其方らを危険に晒してしまった」


「本当にすまぬ」


 叔父様はボロボロに破壊された馬車と、震える私を見て申し訳なさそうに見つめています。


 私は叔父様の顔から視線を逸らさずジッと見つめ、妹を抱える腕をさらに深く潜らせ胸にしっかり抱き締めました。


 襲撃の恐怖から解消されたとは言え、皆の前で泣いてはいけないと唇をキュッと締めました。


 でも、死なずに済んだ安堵から零れ落ちる涙を止める事が出来ず、ひくひくと肩を震わせて泣いてしまいました。


 怖かった、本当に怖かった。何も悪い事なんてした事ないのに、赤ちゃんの妹だっているのに、どうしてこんな目に私たちが合わなければならないの。


 そんな理不尽な出来事に悔しさと悲しさがこみ上げ、叔父様の胸に顔を付けて咽び泣きました。

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