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運命回転(エルステア)

1章のセカンドエピソードです。

「うぅぁあーぁー、あぁうー、うぁあーーぁーあぁぁうああっ!」


「うぅうぅーーあぁ!」


「そうなのぉー、うんうん、お姉ちゃんと遊んでくれるのねー」


「ふふふ、これは私が大事にしているフィニョンのぬいぐるみなのですよー」


「こんにちは。アリシアちゃん。今日のご機嫌いかがですか?」


 フィニョンのぬいぐるみの腕を操ってふりふりと振ってあげると、妹は動きに合わせてクリクリした大きな緑色の眼で追っています。はふっぅ!可愛すぎますわ!


「あー、あー、うぅあーーー」


「そうなのぉ、アリシアちゃんはとってもご機嫌なんですねー」


「あーぁんぁー!」


 私は、妹が産まれて来てから、毎日がとても幸せなのです。お母様と一緒に妹を眺めながら、お眼目がぱっちりしているからきっと将来は美人なエルフになりそうねとか、今日のお洋服は何を着せてあげようとか、リリアに妹の可愛さを教えてあげたりと、本当に存在してくれているだけで心が満たされてしまうの。


 今日も、お昼から妹とお人形遊びをして過ごしてますわ。


 妹の側にいられる時間を作るために、私はこれまでと違って物凄くいろんなことを頑張ってるの。


 朝起きて、お母様の横で眠る妹におはようの挨拶するために欠かさず訪問して、可愛いおでこにキスをして一日が始まるの。その後、丁寧かつお淑やかに素早く一階に降りて朝食をいただきます。


 朝食後、家庭教師のエドルを呼んでお勉強の時間。私は最速でその日の合格が貰えるように真面目に取り組んでいます。お勉強が早く終われば、お昼まで妹と遊ぶ時間が確保できるのですから、それはもう全力を出さざるを得ないのです。


 ふふんっ!思わず鼻息が荒くなってしまいます。


 今日も、午前中の課題を最短で合格したので、こうして妹と遊ぶ時間が出来ました。


 この幸せな妹とのスキンシップが私にとってとても重要なのです。




「旦那様、少しよろしいでしょうか」


 メイド長のメリリアが、私と妹が遊んでいる姿をニコニコしながら見守っているお父様に何かを告げます。


「エルステア。我は席を外すがアリシアと仲良く遊んでいるのだぞ」


「はい、お父様。私はお姉ちゃんですから妹と仲良く遊んでいますね」


「そうだな、エルステアは立派なお姉ちゃんだから心配は無用だな。任せたぞ」


 お父様は、メリリアを伴って部屋を後にしました。




「お父様は何だか落ち着かない感じで出て行かれましたね。お母様は何かご存知なのかしら」


「そうねー。お仕事をほっぽり出して、ここに居たせいかもしれませんわね」



 そうなのです。お父様はアリシアちゃんが産まれてから数か月間ほとんどお家に居て、あまりお仕事に行っていないのです。私たちの家は、エルフ族の中でも家柄が良いらしく、蓄えや財産も持っているので必要以上に働かなくても生活ができてしまうようです。


 とは言え、最近のお父様はアリシアちゃんが可愛すぎるのか、私と同じくらい様子を見にくるのです。少しはお仕事に出掛けた方が良い気がするのですけど。子供がいらない心配をしてもしょうがありませんね。


「あー?あぅ?あーーぁーーぁあ!」


「アリシアちゃんごめんなさい。お人形遊びの続きをしましょう」


「あうぁーうぁー」


 そんな事を考えていたら、妹から催促されちゃいましたわ。


 いけない、いけない、今はこの時間を大事にしないと!




 今日も、昼食の時間までいっぱい遊びました。


 妹は遊びに夢中になってお腹が空いたのか、お母様のお乳にしがみついてそのまま眠ってしまいました。


 気持ちよくお母様の胸の中で眠っている妹が可愛すぎて、私も添い寝をしてあげたいと思う気持ちを抑えて昼食を取りに向かいます。もう少し大きくなったら一緒に寝ても良いそうなので、今は我慢します!


 昼食の席では、お父様もお母様も一緒でした。


 妹はメイドのリリアが傍で見守っているようです。リリアはメイド長のメリリアの娘なので、しっかりメリリアにメイドのお作法を教え込まれているそうで、安心して任せておけるのです。


 お母様が少しでも側を離れるたりするとすぐに泣いてしまうので、眠っている間だけお母様は側を離れるようにしています。子育ては大変なのですね。お母様も妹の様子が気が気でないので手早く用を済ませてすぐに戻ってしまうのです。




 昼食を食べ終えて、メイドのリンナが淹れてくれたお茶を飲み一息入れていると、お父様が神妙な顔で私に向かい合いってきました。ちょっといつものお父様と違って緊張します。


 お父様が私に視線を向けると、お母様も私に顔を向けられました。一体どうしたのでしょう。お母様も真剣な顔をしてらっしゃいます。


「エルステア。大事な話があるのだ」


「大事な話ですか、そんな怖い顔されてどうされたのですか?」


「其方には重い話になる。しばらくの間、アリシアを連れ叔父上の下に行ってはくれ。リリアがお供に付いて行くので心配はいらぬ」


 突然のお話に困惑しました。どうして妹とリリアだけで叔父様の家に行かねばならないのでしょう。妹はまだ産まれて間もないのに私に託す道理が理解ができません。お乳も私はあげられませんし、妹がお腹を空かせたり泣いたりした時にどうすれば良いのか分かりません。


「お父様とお母様は一緒に行かれないのですか? 私とリリアだけでは不安です」


 不安な気持ちでお父様に聞き返しました。


「すまぬ、我らは付いてはいけぬのだ」


「叔父上には事情は説明してある。今から一刻にはここを発つ必要があるのだ、分かってくれエルステア」


 お父様は私を諭すように話を進めました。


「事が済めば、我らも叔父上の下に向かうので心配はいらぬぞ」


「その方らは先に向かっていて欲しいだけだ。そんな心配そうな顔をするでない」


 お父様はツラそうな表情で私を見つめます。それでも、後から向かうと言われてもどのくらい待てば良いのか示してくれず不安がさらに募りました。


「でっでも、私達だけでは危険過ぎます。護衛もいないのに妹を連れて移動なんて……。私にはできません」


 我が家には護衛騎士は駐在していないのです。せいぜい使用人のボックスが門を見張っているくらいです。遠出をする際は、王都から騎士団を派遣してもらってはいましたが、今回はその手配すらされていない状態で移動を命じられたのです。


「その事なら安心せい。叔父上の騎士達が既にこちらに向かっておる。二の刻には合流できるであろう。心配は無用だ」


 叔父様の騎士はエルフ族の中でも選りすぐりの優秀な騎士が集まっているそうで、一騎当千の部隊だそうだ。私は少しだけ安心しました。だけど、女三人、ひとりはまだ赤ちゃんなのに移動する事に不安は解消されそうにありません。


「分かりました。私はお姉ちゃんなので我儘は言いません。妹と一緒に必ず叔父様と合流いたします」


 お父様の表情は厳しいままで、早急に動かないといけない事を理解しました。叔父様も向けに来てくれると言ってましたし、これ以上お父様を困らせないように命令に従うことにしました。


「うむ。私は良い娘を持った。誇りに思う。道中、くれぐれも用心して向かってくれ」


「分かりましたわ、お父様。必ず三人無事に叔父様と合流いたします」


 お父様は突然立ち上がって、私を引き寄せ抱きかかえました。


「お父様、ちょっと力が強すぎます。痛いです」


 いつもより力いっぱい抱きかかえてくるお父様に、胸と背中がぎゅっぎゅっと締め付けられて息ができません。このままでは窒息しながらつぶれてしまいそうです。


「ディオス、エルステアが苦しそうですよ」


 お母様がお父様の腕に手を置き、静止するように促しました。


「エルステア。アリシアをお願いね。アリシアを大事に思う貴方にしか頼めない事なの。ついて行けない母を許してちょうだい」


 お母様は心配そうな眼で私に告げます。


 その眼差しは、これから何かが起こる事を予見しているようでした。




 お父様からの移動の指示が突然にも関わらず、家の裏には私達の荷物が積まれた馬車が用意されています。


 私のお洋服もぬいぐるみも馬車に詰め込まれています。数日間だけ叔父様の家で過ごすだけかと思っていましたが、この荷物の量を見ると長い間戻ってこれない気がしました。


 お母様は、白い紋章の付いた布に包まれた妹を抱きかかかえ、私に託しました。


「貴方の大事な妹を守ってくださいまし」


 この紋章は我が家の家紋であり、光の神エルフェスデュールの加護が付与されているので、敵意に反応し触れる事すらできず弾かれるそうです。私にもお母様は紋章の入ったネックレスを贈られました。


 お母様は私とアリシアを抱き寄せ、


「気をつけてくださいまし。離れても私達は貴方達の事をずっと思っていますからね」


「はい、お母様」


 そう告げると、お母様は私と妹の額にキスをして後ろに下がりました。


 お母様の目は涙で潤んでいて、その姿を見て喉の奥が熱くなってきます。


「リリア、後のことは頼みます。叔父様と必ず合流してください」


「はい。奥様。この身に代えても必ず」


 私達はお母様の手を離し馬車に乗り込みます。


 リリアの掛け声で馬車が動き出しました。私は馬車の後ろにある窓から顔出し、徐々に離れていってしまうお母様の姿を見つめ続けました。


「お父様とお母様が無事に私たちに会いに来てくれますように」


 両親と離れ離れになる不安で涙が止めどなく溢れてきます。


 私は涙で霞む目を指で拭い、小さく寝息を立てている可愛い妹を抱きしめ見つめ続けました。

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