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私の可愛い妹(エルステア)

本編の0話になります。

 私は、あの日の貴方を今でも忘れない――




 お母様に新しい命が宿ったお話を聞いた日、生まれてくる新しい家族に何をしてあげようか……そう考える日々は、とても楽しかったのです。


「生まれてくる赤ちゃんは弟かな、それとも妹かな?」


 弟なら、お父様がよく話をしてくれる、エルフ族に伝わる英雄の物語を聞かせてあげようかな。


 妹であれば、メイド長のメリリアが私に作ってくれた、大きくて長い耳が特徴の白いフィニョンのぬいぐるみで一緒に遊んであげて、大きくなったら、お母様と一緒にお茶会したいな。


 と、まだ見ぬ家族に思いを募らせていました。


「ラフィア、お母様とお腹の赤ちゃんの様子を見に行きますわ」


 お母様は私を産んだ経験もあって、二人目の妊娠は、心も身体もお腹の赤ちゃんの経過も順調だと教えてくれました。


 私を産んだ時よりも調子が良かったので、夕食の後には大きくなったお腹に顔を当てて、まだ見ぬ赤ちゃんとお腹を挟んで触れ合わせてくれます。


「私が貴方のお姉ちゃんだよ。生まれてきたらいっぱい遊ぼうね」


 と、囁くと、ポコポコとお腹の向こうから返事をしてくれました。


 赤ちゃんが生まれる日を心待ちに過ごしているうちに、あれよあれよと妹が産まれる予定日がきました。


 でも、お腹にいる妹はちょっとのんびりやさんなのか、それとも、お母様のお腹の中が居心地が良いせいなのか、予定日より一週間も後になって、ようやく出てくる気になったようです。


「メリリア、赤ちゃんが産まれてきそうですわ」


 お母様は陣痛が始まったようで、冷静にメイド長のメリリアを呼ばれました。


 ベテランのメイドであるメリリアも、すでに予感していたのか準備はできているようで、お母様をお部屋まで案内されました。


「奥様、こちらに。エルステア様は、自室で無事に産まれてくるように祈ってくださいませ。ラフィア、エルステア様をお願いします」


 お母様と一緒について行こうとしたのですが、メリリアに止められてしまいました。


 仕方なく、お母様がお部屋に入るまでは見送らせてもらい、自室に戻ります。


 ラフィアと無事に赤ちゃんが生まれてくる事を願い、最上神ハルヴェスマール様に祈りを捧げ続けました。


「元気な赤ちゃんが生まれますように。お姉ちゃんは貴方が産まれてくるのを待ってますわ。早くお顔を見せてくださいまし」


 本当は、すごくお母様の出産に立ち会いたかったのですが、私はまだ四歳なので許されませんでした。


 一番最初に、新しい家族とお会いしたかったのに……残念ですわ。


 どのくらい時が経ったのでしょう。


 先ほどまで陽の光で明るかった部屋は、魔道具の照らされる光に代わり、夜が訪れていました。


 それでも、新しい家族が増える事の期待は衰えず、今か今かと待ち続けました。


 しばらくして、廊下からドアを開く音が聞こえ、私達の部屋がノックされます。


 ラフィアが扉を開くと、お淑やかな動きだけど機敏な速さで歩いてきた、メイドのリリアが出産の報告を告げました。


「お嬢様、今しがた、無事にユステア様が元気な赤ちゃんをお産みになられました」


 リリアの知らせを聞いた瞬間、目に見える物全てが神々しく輝くように感じ、暖かい気持ちで満たされていきました。


 そして、赤ちゃんが無事にこの世に産まれてくれた事に喜び、空を見上げて神に感謝の言葉を述べました。


 私達エルフ族は、寿命はとても長いのですが、中々子供が産まれない体質なので、ひとつひとつの出産機会がとても重要なのです。


 それこそ、三百歳を越えても、ひとりも子供が授からない事もあるのです。


 私は興奮した気持ちを落ち着けるために一息吐いて、リリアに問いかけます。


「それで、リリア。私の新しい家族は男の子? それとも女の子のどちらですか?」

「はい、新しくお生まれになったお子様は、ユステア様にそっくりな女の子でございますよ」

「まぁ、女の子ですの!」


 リリアは私に優しく微笑みかけました。


 何ということでしょう。


 私の新しい家族は妹です。


 正直、私は弟よりも妹が欲しいなと思っていたので、希望が叶って胸が嬉しさでいっぱいに膨れ上がってしまいました。


 毎日祈りを捧げている神様達に、素晴らしい祝福をいただけたようです。


 これからも、神様達に感謝の祈りは欠かさず行う事を……心に決めました。


「我らが始祖ユグドゥラシル様、そして最上神ハルヴェスマール様、妹を授けていただきありがとうございます」


 これ以上この部屋に止まる必要もないでしょう。


 急いで新しい家族、妹の顔を見なくてはと思い、ラフィアとリリアを連れ部屋を出ました。


 お母様とまだ見ぬ妹がいる部屋へ駆けつけた時には、既にお父様も到着されていました。


 さすがお父様です。


 家族の事になると、任務も仕事も全てほっぽり出して駆けつける。


 その行動は、良くある話なので驚きません。


 ですが、妹との面会の一番を取られてしまった事には嫉妬してしまいますわ。


 お父様は、お母様の手を握り大粒の涙を滝のように流しながら、何度も「ありがとう」「ありがとう」と言葉を掛けています。


 そんな様子を見てしまうと、心がキュッと締め付けられてしまい、ちょっと嫉妬してしまった自分を恥ずかしく感じてしまいました。


 お母様に宥められているお父様を横目に、お母様の横で白い毛布に包まれた妹に視線を向けました。


 妹との初めての対面。


 心臓の鼓動はどくんどくんと鼓動が高鳴ります。


 待ち焦がれた期待と、お姉ちゃんになれた事への希望に、勝手に膨らんでいく思いに胸が詰まりそうです。


 白い毛布から小さく覗く妹のぷっくりしたお顔に、可愛いお口。


 肌は私と同じだけど、ぷるんとした柔らかさを感じさせる透き通った白い肌色。


 耳は私達エルフ族を象徴する先の尖った耳。


 髪の色はお母様譲りの白金に輝く金色。


 はわぁ、私の妹はどうしてこんなに可愛いのでしょう。


 この可愛い子は、まるで天使様ではありませんか。


 きっと将来は、私よりも美しい女の子になるに違いありません!


 そんな事を考えている私は、きっとだらしないほど顔が緩んでいるのではないでしょうか。


 妹は、生まれてすぐに泣き疲れてしまったのか、眠っています。


 そんな妹を見て、これからの生活に想像を膨らませていると、自然と涙が溢れ落ちました。


「生まれてきてありがとう。これからお姉ちゃんがずっと一緒だよ」


 私は感極まって、震える声で妹に語りかけました。


「すー」「すー」と可愛い寝息を立てている妹から目が離せない私に、お母様が優しく声を掛けてくれます。


「エルちゃんもこれでお姉ちゃんですわねー。頑張ってこの子の面倒を見てくれると嬉しいな」


 と、お母様が私の頭を撫でてくれます。


「うん。私、お姉ちゃんだからいっぱい、いっぱいお世話してあげますわ、お母様」

「エルちゃんは優しいお姉ちゃんだから、お母さん嬉しいなー。ふふふふ」

「私、妹に尊敬される立派なお姉ちゃんになりますわ」


 お母様と私は小さく可愛い妹を見つめながら、私はお姉ちゃんらしく妹を導いていくと誓ったのです。


 私、お姉ちゃんですから、妹から頼られてもすぐに助けてあげられるように、これから何でもできるようになるのです。ふふん。


「エルステアは頼もしいな。でも、独り占めはダメだぞ。お父さんもこの子を可愛がりたいからな」


 と、さっきまでお母様と妹の前で号泣していたお父様が、優しい目を私に向けて言いました。


「お父様はすぐやり過ぎちゃうので、自重も必要ですよ」


 そう、お父様は何でも加減がきかないのです。


 つい先日も、遠征から帰ってきて私を見るや分厚い腕で抱き上げ、力一杯高い高いをしてしまい吹き抜けのホールの天井すれすれまで飛ばされてしまったのです。


 なんて怪力ですか。まったく。


「うっ、うむ。加減をするように努めよう」


 と、苦い顔をするお父様。


 自重しないと、私も妹も命が幾つあっても足りないと思いますわ。


 新しい家族が誕生したその日から、私達の家は賑やかで笑いの絶えない幸せに包まれた日々が始まりました。


 お姉ちゃん頑張るからね!

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