会話とその人
正樹は返事につづけた。「どういたしまして。しかしなぜあなたは私とこうして会話ができるのですか」
「それは私たちの世界にある演技器によるものです。今までは何もできなかったのですがこうして神との対話ができるようになったのです」と返事。
ああ、私は神だったのか。しかしどうでもいい。まずこの答えを知らなければ、と訊こうとしたとき、向こうの側から言葉があった。
「こうして助けてもらったのに顔も見せることができずすみません」とあった。いやパソコンの中だから顔など見ることが、と思っていたが。次の瞬間勝手に何かのソフトが立ち上がった。以前入れていた3DCGソフトと画像編集ソフトであった。そして勝手にモデリングが始まった。もはやよく分からない状態にあった。椅子の両脇に手を垂らし、呆然とした状態でその自動成型を見ていた。勝手にリギングまで行くと、今度は発声ソフトが勝手に立ち上がった。イメージを掴むためにインストールして全く使わなかったものだ。これもまた勝手に動き始め、いろはに……と発声が始まると、開いた口がふさがらなかった。裏で何が起きているのかはわからなかったが、独自のソフトウエアが裏で走っていて統一的に管理しているのだろう。などと思った。そして数分ののち、人の像は出来上がった。
「私たちの国の高名な造形師に依頼して作り上げることができました。わかりますか」
はい分かります、と心の中で言ってしまった。動いて声まで出すことができるシステムはこの中にあったかと思ったが、ゲームエンジンか何かかだろうと考えたが、思考の回転で頭が沸騰しそうになり止めた。向こうから聞こえるならばこちらからも伝えることができるのでは、と感じWEBカメラとマイクを持ち出し、「君たちの力で私を映すことはできますか」と打った。
するとその女性、アリスは「恐れ多くてお顔を拝謁することができません」と言った。
いや私は神様でも何でもなく、この現象を解明するには視覚聴覚の情報が最速であると感じた旨を打って伝えた。すると「わかりました」と言った。ついで裏でやはり何かのプログラムが走った。もう何かのウイルスに感染しているのだろうと割り切った。そして光と声を届けることに成功した。
「ああ、恐れ多くございます」とアリス。
「だから私は神様ではないです」と正樹。とにかく、なぜこのようなことが起きているのかを解明しなくてはならないということが大きく。気が付くと朝になっていた。そしてある一つの可能性に達した。それは執筆支援ソフトウェアにあるのではないかと思った。それは文章を書くことに対して予測変換、データベース検索、誤字修正といったことをしてくれるものではあったが、そのソフトウエア自体のサイズが大きくこの問題の一部分でもなしていると感じた。今すぐでも解明しなくてはと思い、ソフトウエア制作にかかわった友人にメールで連絡を入れて家を出る準備をした。
「この現象の理由を突き止めたい」と正樹は言った。
「だとしたら私も連れてってください。お持ちのデバイスに自分を映せます」とアリス。何言っているのかわからなかったが任せた。ふと窓の外を見ると空が白んでいた。