ちいさなひと
ちいさなひとの
ちいさなはなし
小さな人がいたらいい
小さな人がいればいい
君の前には大きな壁
いつも いつも いつも
君は頭を抱えてね
登るなんてとても出来ない
そうだね
とても出来やしない
もがいて もがいて
一生懸命 壁に穴を掘るんだ
泣きたくて 苦しくて
まだ一歩も踏み出せないんだけれど
それでも少しは掘り進み
何か楽な方法はないかな
簡単な方法は
上手くやれる事は
そんな事を
必死に 必死に考える
手は止まり
そんな事だけ考える
大きな人が看板掲げ
「助けてあげましょう」なんて
何人も 何人もくるんだ
『その代わり』っていう言葉が君には聞こえなくてね
「助けて 助けて」って君はすがり付く
大きな人の優しい言葉は
思ったより 何の役にも立たなくて
『その代り』に差し出した
君の心と体は少し弱って
こんなんじゃ駄目だなって
ああ
気が付いてはいるんだけれど
君はそれを認めたくない
時間を奪われ
心はかすれ
それでも君は立ち上がる
進まない穴道のまわりには
掘り出した塵だけが
山のようにたまって
次に
勘違いの人々が
「何にもいらない」
「話を聞くよ」
「愛をあげる」
って来たりする
でも役になど立たないね
『何もいらない』なんて言ってたわりに
寂しそうな顔をするんだもの
君はまた
立ち止まってしまう
世界はひどいって
壁はあるし
どうして死ねないんだろう
なんて思う
「もうやめよう」って
「真実の愛なんてないし」って
感情を捨て
表情を無くし
膝をついて
俯いて
何気に振り返ったんだ
すると
小さな人がさ
君の後ろで
恥しそうに
黙って
君の掘り出した塵を片付けてくれていた
「小さいからボク壁が掘れないんだ」って
静かに微笑んで
「いつからいるの?」
君は聞いてみた
小さな人は照れるだけで
何も答えなかったけれど
一人君が通ってきた道は
それはそれは綺麗に片付けられていた
振り返った道があまりにも美しいんで
君はもうそっちへ引き返そうと思った
すると小さな人がさ
黙って
ホレホレって
先に進めって
促すんだ
綺麗な道を創ったのは君自身だものね
もっと綺麗な道を創ろう
穴を掘ろう
先に進もう
と決める
小さな人がいてくれるんだから
そんなふうに
君は心の奥からわかったね
小さな人
けっして
居なくなることのない人
ねえ
そんな小さな人が
私たちは
そんなのが欲しいのかもしれないね
読んでくれて
ありがとう
ありがとう