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最弱勇者は吟遊詩人  作者: 神崎柴乃
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竜と勇者

異世界に召喚され、数日をすごした迷宮奥深く竜と巨人が死闘を繰り広げている。炎が空気を焦がし、巨人の腕が壁を穿つ。強烈な尾による攻撃で巨人の腕はひしゃげているが徐々に再生しているように見える。一方で竜の方もきつい一撃が胴部に突き刺さり、鮮血が溢れている。


「ドラゴンの方が分が悪いな」

「そうですか?」

「あぁ。ドラゴンの方が確実に弱っている。」


よく見れば竜は老齢な様子だった。所々に癒えない傷を持ち、鱗はくすみ、全体的に弱っている印象を受ける。一方ゴーレムはギリギリ致命傷を受けずに戦っている。自己再生を有している為に多少の傷なら数分で癒えてしまっている。


「助けますか?」

「あの間に入って生き残れるとは俺には思えないな。」


周りは戦いの余波でボロボロである。床に至っては一部が溶けているように見える。どれだけ熱いのやら……。ゴーレムもなぜ動けるのかわからないくらいの損傷が見える。

「あのゴーレムの動力炉はどこだ?お前ら知らないのか?」

「……。」

「あそこ。胸部の中央にはめ込まれてるあの結晶からよ」

アリスの瞳がオーラのようなものに包まれている。どうやら何かのスキルで弱点を見抜いたようだ。

「OK。あれだな。アリス、空中に足場を作れたりしないか?」

「無理よ。あるにはあるけど効果時間が短いわ。」

「マジか。」

「にしてもあのドラゴン何市に来たんすかね。」

「私には……分かります。とても悲しい事が……。」

「ルウ、なにか感じたのか?」

「これは……怒り?いえ、焦りも含まれていますね。ユウ様、どうか彼女にこれ以上無理をさせないようにお願いできませんか?」

「あぁ、じゃあ一か八かやってみるか。」


意識をあの石ころに向けて先程の破壊の音を奏でる。竜はあまりの音量に耳を塞ぎ、蹲りゴーレムも俺を脅威として認識したのか襲いかかる素振りを見せた。


『バキンッ』


拳を叩きつけるためか大きく振り上げた時、ゴーレムのコアは粉々に砕け散った。その結果ゴーレムは動きを止め、足元から砂のように崩れて去っていった。


「……汝。何故我の獲物を横取りした?答えによっては生かして返さんぞ。」

「黙っとけ。今治す。」


竜が声を上げたことにほかの面々は驚き、遠目に見守る形になっていた。

「ふんっ我は直に死にゆく身。治療は不要だ。」

「やはりそうか。ココは一体どういう場所なんだ?」

「我にとっては母なる地にて我の揺りかごである。死にゆく時はここに帰ると決めておるのだ。」

「ふぅん。お前どのぐらい生きたんだ?」

「ざっと4500年くらいか。もう十分生きた。」

「4500年!?随分と長いな」

「はっ。そんなもんよ。汝は何者だ?なぜ我と会話を試みる」

「死に際に1人ってのは寂しいだろ。俺はこれでも勇者だ。まぁ、無能だがな。」

「すると、ポーンの勇者か。優しいのだな……。」

「安心しろ。お前の最後見届けてやる。」

「ふふ……。次の生は……お前のような人間と共に……いてもいいかもな……。」

徐々に力を失う声を聞きながらいつしか4500年もの時を生きた古き竜の肌を撫でる。

「共に戦った英雄よ。安らかに。」


息絶えた竜の身体が大地に横たわる。その姿は歴戦の猛者にして天空を翔ける偉大な生命体だった。


「よし、確か地上までの転送ゲートがあるんだったよな。」

「ドラゴンの死に目に遭遇して共に過ごすなんて……ほんとにポーンの勇者っすか?」

「?ポーンの勇者って決めたのは国だ。俺がどんな勇者であろうとその辺は変わらねぇよ」

「……ユウ様。」

「ユウ……。」

「さて、急いで戻るぞ。災厄に間に合わなくなる」

「そうですね。分かりました」


その後転送ゲートを無事に見つけ、そのまま早足で王都へ帰還する。すると、城門でレフやその部下に見つかり、一悶着あったが何とか災厄の前日までに王都へたどり着けた。明日一日で準備を整え、万全の体制で災厄に挑む為である。


翌朝事件は起きた。

宿屋に宿泊し、俺は熟睡していた。思えば久々に寝床で寝た気がする。朝、肌寒さを感じ目を開けると掛け毛布がめくれていた。寝相は確かそんなに悪くなかったはずなのになぁと再度寝直そうとした時、確かに硬い殻のようなものに触れた。


「……殻?」


鳥の卵のような硬い殻が砕け、破片がベッド内に散らばっている。


「……。何だこれ」


不審に思い起き上がってみるとベッドのそばで誰かが倒れていた。どこから持ってきたのかシーツを被っているが白い尾がはみ出している。頭の方へ回ると綺麗な金髪の女の子が寝ていた。


「……。よし、俺は知らねぇ。」

酒も入っていなければ卵を抱えて寝た記憶もない。故にこれは何かの間違いで決して現実ではなく……。


「ユウ様、朝です。起きてください。」


まるで計ったようなタイミングでルウが呼ぶ。事情を説明すれば分かってもらえるだろうが……。いや、分からなかったとしてもスキルを総動員して理解させるが。


「あぁ。今行く。」

取り敢えず風邪をひかないようにベッドに寝かせ直すとそのまま静かに部屋を出た。

部屋を出るとルウが食堂へ案内しわざわざ調理場を借りて作った朝ご飯が並ぶ。

「どうかなさいました?」

「ん?あぁ。ベッドによくわかんない奴が潜り込んでいてな。取り敢えず寝てたから寝かせてきた。」

「え……?」

「俺にも何が何だかさっぱりだ。取り敢えず起きたら何か食わせて話を聞こうかと思ってる。」

「……わ、分かりました。では軽食を改めて用意しておきます。」

「あぁ。頼んだ。話が済んだら装備の点検と消耗品の買い出しに行くからそのつもりで頼む」

「了解です。」

食事を済ませ、部屋に戻るとシーツを被って不機嫌そうな女の子がベッドの上でふんぞり返っていた。

「どこに行っていたのだ主殿」

不機嫌そうに少女は問う。

「……まず聞きたいのはお前何者だ?」

「なっよもや我を忘れたのか主殿!?そんなっ」

「『我』……お前……もしかして」

「せっかく荷物に紛れ昨晩生まれ出て主殿の寝床に忍び込んだのに」

「あのドラゴンか?」

「そうだぞ。なんだやはり覚えておったのだな。」

「その見た目で気づけってのが無理だ。」


あのダンジョンで死んだはずの竜が金髪碧眼の美少女(角と尻尾有り)になっているだなんて誰が気付こうか。


「そうか?人の姿を真似てみたのだが……。どこか変か?」

「……なるほど。だいたい話は見えてきたぞ……。」


数分後、軽食を持ってきたルウが美少女の姿を見て驚き、自分の服を着せ替え人形に着せるように着せまくったが余談である。


「で、何しに来た」

「言ったであろう。次の生は主殿のような人間と共にいてもいい。とだからこうしてきたのだ。」

「……。そうか。そういやお前名前は?」

「名などない。魔物だからな」

「ふぅん。じゃあ『リン』って呼ぶからな」

「……。名前……!?」

「んあ?あぁ。お前は今日から『リン』だ。」

「よろしくお願いします。リン。」

「……。あ、ありがとう。」


感謝の声はとても小さかったがこうして俺達の仲間が増えた。

『新たな称号を入手しました。「竜の友人」を獲得しました。称号「魔物使い」を獲得しました』

新たな仲間を得て俺達は第1の災厄に挑むことになった。一応王国軍は来るらしいが戦闘ともなると厳しいかもしれない。だが、万が一にも負けることは許されず、また逃げる事も許されていない。争いから遠い国でぬくぬく育った俺にとって明日は人生初の大規模戦闘になりそうだった。

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