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最弱勇者は吟遊詩人  作者: 神崎柴乃
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迷宮の攻略

夢とはっきり分かる夢を確か明晰夢と言った気がする。暗い場所で声が聞こえる夢だ。子どもの頃からこうした夢を見た事があった。そういう時はだいたいあまり良くないことが起きる。そしてその予感は今まで外れたことは無い。


「ユウ様?大丈夫ですか?魘されていましたが」

目を開けると白い髪の赤い目をした少女が覗き込んで来ており、心配そうな顔がそこにあった。

「平気だ平気そろそろ時間か?」

「えぇ。」

「装備の点検をして片付けたら行く」

「分かりました。」

そこでふと近くにあるもうひとつの気配に気づいた。正体はアリスで意地の悪そうな目を向けている。

「おはよう。魘され勇者さん。」

「聞いてたのか?」

「あっちの陣営男ばかりでむさ苦しいからこっちに来てルウちゃんと喋ってたの。」

「なるほどな。」

夜中にこっそり抜け出して大丈夫なのかよとは思うが大丈夫そうなのでそのまま準備を進める。


今回の探索メンバーは俺、ルウ、アリス、クリス、レフの部活1,2、である。4人パーティ+俺達2人と言った具合で探索を行うことになった。


今回入る迷宮は国の管理されている為冒険者はいない。故に独自の魔物の生態系が垣間見えるので研究者に人気だそうだ。


「今回は第10層まで進みます。第10層にはアイアンゴーレムが居るのでそいつを倒したら帰還します。ペースとしては1日2層です。」

「分かった。」

「ポーンの勇者とその巫女殿を前に、アリス様は後に。最後尾はクリスという順番で行きましょうぞ。」


レフの部下2はなにか胡散臭い雰囲気を放っている。


「悠達を前に中央に私、その後ろにクリス、最後にあなた達の方が安全性が高いと判断するわ。どうかしら?」

「……。分かりました。ではその布陣で向かいましょう。」


ふむ、微妙な間があったな。こいつら実はなにか企んでいる可能性は大いにありえる。警戒しておこう。


中に入ると暗く湿った空気が鼻につき、少々黴臭い。音界の旋律を吹けばそこら中に魔物の反応があり、どうやら異世界初のダンジョン探索に暇を与えてくれないようだ。


「2時の方角から4。12時の方角から2。接敵まで30秒。来るぞ!」

「はい!」


攻撃力と敏捷と防御力を上げる旋律を奏で、即座に隠蔽を発動させる。すると、俺に向けていた殺意がルウへと向かい、ルウは危なげなく剣で処理していく。

「……。凄いっすね。出会ってまだ数日でしかないでしょうに……。」

「あの勇者……何者よ。私より強いんじゃない?」


始まりは極めて順調だった。音界でソナーのように探索し、部屋を見つければ罠を発見。クリスがそれを解除。レベルの上がりも順調で9層に着いた時には30台になっていた。


「気をつけろ。罠がある」

「魔物寄せの罠っすね。陰湿な……。」

「密室で魔物だらけとかゾッとするな。」

「そうっすね〜。」


クリスが罠を解除した途端、カチリと何科が作動する音が聞こえ、背後の扉が閉まってしまう。扉の外にはレフの部下共がこちらを見ていた。

「何故だ!?」

「いや、罠は確かに解除しましたぜ?」

「クソ、やはりか。おい、アリス!お前障壁系魔法使えるか?」

「えぇ。」

「合図したら打ってくれ。ルウ。9時方向から10、12時方向から8!そこの穴に火炎魔法を放て!」

「はい!聖なる炎よその熱をもって悪を討て! 『火炎撃』」


火の玉のような物質を穴に向けて放つと一気に空気が熱くなる。

「アリス!」

「聖なる壁よ我らを守れ『シールドプロテクション』!」

穴に放り込まれた火の玉が穴の中でその熱を奮う。そして、その出口に蓋をすることで火炎は穴から出てこようとした魔物達に襲いかかり 焦がしていく。

「厄介な事になってしまったっす」

「確か予定では下の階のボスを倒せば出口に戻れるゲートが開くんだったよな。」

「そうっすね。」

「あいつらはなんの為にここで俺達をMPKしようとしたんだ?下のボスを倒したあとでもよかったはずなのに」

「MPK?ってなんすか?」

「魔物を使って人を殺す事だよ。さっきみたいに閉じ込めて魔物が溢れてくる系の部屋でやると効果的なんだ。」

「災厄迫ってるのに未だにユウさん殺す気なんすか?」

「ユウ様この部屋出口が……。」

「まぁ、殺すための部屋だからな。初めからそういうつもりは無いかもしれない。」

「どうするの?ここで餓死?」

「どいつもこいつも人の足引っ張るの好きみたいだからなったく。全員耳を塞げ。まぁ、鼓膜が破けても回復させるから問題ないか」

「何する気よ。」

「ここの壁だけ反響音が違う。どうやら空洞がある。だから穴ぶち開けようかと」

「そんな事不可能よ!」

「やってみなきゃ分かんねぇよ。」

先程のレベルアップで獲得したスキルを試したいという気があった。『破砕の音』と書かれた旋律を発動させる。魔力が力を持って出ていくようなそんな感じを受けながら演奏を続ける。

音が意思を持って広がっていく。すると、床に罅が入り次第に大きくなっていく。


ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。するとそこにはレフの部下共が耳を抑え、地に伏していた。


「おい、なんかいるぞ?」

「ひっ。」

「おやおや?さっきはどうもっす。それで遺言は何かあります?」


クリスはナイフを抜くとレフの部下のひとりの首に突きつけ嗤う。

「ひった、助け……ひぐっ」

「何故?」

「お、俺らは命令されて……。」

「誰からだ?」

「ひっ。」

「こっちはユウさんのおかげで何とかなったんすけどアリス嬢が危険にさらされてんすよ。俺、怒ってるんすよ?1人いりゃいいっすよね?素直に言わないとここで殺しますよ?」

「クリス、落ち着け。」

「でも……。」

「こいつらを殺しても意味は無い。なら殺す必要は無い。どの道楽には死なねぇだろうしな。そんな事より縄持ってねぇか?」

「縄っすか?どうぞ。」


部下共の首に縄を巻いて片足にも巻き付ける。一緒に逃げなければ片方の首が絞まるようにしてある。


「斬らなくてよろしいので?」

「今回は損害無かったろ。取り敢えず今はこのままにしてやる。外に出りゃ話をつけるがな。階段はこの先だ。下は大きな空洞みたいだしそのままボス戦になるだろうから今のうちに回復しとけ。」

「え、えぇ。」

「ひっひひ。あれに勝つというのですか」

「何か言ったか?」

先日武器屋のおやっさんに用意してもらった鉄串を部下の足に突き刺し、地面と縫い止める。

「グアッ」

苦痛に表情を歪めつつ、部下は更に喋り出した。

「くっ第10層には第一位の宮廷魔術師様が作り出した最高峰のゴーレムが眠っている。今の勇者の実力では到底勝ち目はない!」

「……。俺、実は優しい訳じゃねぇんだわ。お前らは俺達を嵌めた。その報いは相応に受けてもらうつもりだからな。さて、ゴーレムか確かに厳しいかもなぁ。」

自己修復機能、超強固な外装、繰り出される重い攻撃クリエイターが作るとしたら物理攻撃半減か無効にして魔法属性に弱く耐久値を設定する……か。まぁ、ゲームではだが。


「なるほど。どうやら王とはまた別の派閥が今回動いてるのかもな。」

「それどころじゃないはずなんすけどね」

「この国の上層部は災厄を軽視しすぎています。嘆かわしい。」

「え?ほんとに私まで殺す気なの?」

「大方キングの勇者のみを信奉してるグループっすかね」

「それ以外は勇者ではないと?神聖たる勇者を僭称する輩に死をーってか?」

「そんな所っすね」

「……。なんの為に私達を呼びつけたのよ……。ほんとに」

「世界滅ぼしたいのか救いたいのか分かりませんね。」

「全くだな。お、階段だ準備はいいな?」

「はい。」「えぇ。」「うっす。」「……。」

階段を下るとそこには重厚な扉が行く手を阻み、俺達を拒絶している。少し力を加えればどういう訳か開き始め、その先では話にあったゴーレムとおとぎ話で見かけるようなドラゴンが熾烈な争いを繰り広げている最中だった。





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