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最弱勇者は吟遊詩人  作者: 神崎柴乃
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勇者と巫女

日が高く登り始めた頃、街に衛兵と医療団が到着した。衛兵とかち合っては都合が悪いので俺は協会の隠し部屋へ巫女共々押し込まれ、衛兵相手にはファルコとかいうオヤジが対応するらしい。


「勇者様はこの世界の事、どこまでご存知なのですか?」

「……。あーえっと俺のことは呼び捨てで構わんぞ。」

「では、ユウ様とお呼びします。私の事は『ルウ』とお呼びください。」

「了解。ちなみに俺の知ってる情報はもうすぐこの世界に『災厄』が訪れる。その為に各国で勇者が召喚され、俺は最後の勇者。役職は『歩兵(ポーン)』って事くらいだな。職業というか武器は笛だ。」

「なるほど。ではまず災厄の方からご説明させていただきます。災厄と言うのは魔王の復活です。正確には魔王の復活時に発生する魔力の波が原因の複合災害ですね。」

「あー、もう少し簡潔に頼む。」

「えっと簡単に言うと魔王が再誕するとき、魔王を中心に魔力の波が発生します。その波が人体に与える影響を災厄として言われています。」

「種類は?」

「人間の魔物化、魔物の強化、ユニーク級の魔物の出現等ですね。」

「なるほど、人間が魔物になるほど強力な魔力を浴びても平気なのが勇者ということか。」

「その通りです。加えて各宗派に所属する『巫女』も強力な魔力から身を守ることができます。」

「へぇ。なるほど。それじゃあ勇者の役職ってなんだ?」

「勇者のランク付けといったようなものです。『キング』『クィーン』『ルーク』『ビショップ』『ナイト』『ポーン』が確認されています。魔王もその数と等しく6体発生します。この6人のうち1人だけ残っていれば問題ありません。」

「なるほどね。中でも俺は一番下のポーンというわけか」

「そうです。因みに昨日の先頭で見せて頂いた武術は何だったのですか?」

ワクワクと期待に満ちた表情でこちらを見つめる少女。本当のことをいうべきかぼかすべきか悩ましいところだが……。

「内緒だ。ただ、あれはできれば使いたくはない。」

主にRPG要素が無くなるから。

「わ、分かりました。ではユウ様。私を仲間にしてください。」

「そういえばその話がまだだったな。そもそも巫女ってなんだ?」

「我々は先見の瞳と武術の神を信奉するガンドルムの民です。」

「へぇ。」

「私達が今いるこの建物も実は星読みの社なのですよ。」

「なるほど。わかった。それで巫女がどうしてランク最弱な勇者である俺につく?」

「この世界には6つの宗教組織があり、そこに所属する者が勇者に付くしきたりなのです。それと、巫女がつくことにより他国の余計な干渉をさせない効果もあります。」

「なるほど。納得はした。国際情勢は知らんがな。」


「巫女様、お話は終わりましたか?」

「えぇ。終わりました。」


そういえばあの貴族この子のこと『亜人』と言っていたが……。どの辺が?

「気になりますか?」

「んあ?顔に出てたか?」

「いえ、私は人の考えを少しだけ読めるのです。そういう種族なもので。」

「へぇ。」

「気味悪がらないんですね。正直意外です。」

「知り合いにそういう奴が居たもんでね。」


と言っても母の実家の近所の婆さんの事だが……。あのババァは絶対妖怪の類いだ。


「男は力が強く、女は知覚が敏感になり人の考えをある程度読み取れるようになるんです。」

「へ、へぇ。」

話を一旦切上げ、ルウとパーティーを結成する運びとなった。パーティー編成画面ではルウの種族は鬼人と表記されている。Lvは15と言ったところだ。そこで、自分のステータスも少し見てみることにした。昨日の戦いでかなり経験値が入り、Lvが12になったからだ。

『DEXの値が規定値を超えました。スキル『隠蔽Lv.1』を解放します。』

その他にも看破、目利きのレベルアップ、回復旋律も小から中になり、まずまず強化された。

「さて、じゃあ1度城下のとある店に戻るか。話を聞きたい奴がいる。ここの住人はファルコと衛兵に任せるぞ?」

「勇者様こそ、巫女様の事しっかりと頼みましたぞ?」

おいおい……おっさん勇者をご自慢の筋肉で威嚇するんじゃあない。本職のボディビルダーもびっくりするぜそりゃ。


すぐにでも出発したかったがルウの準備もあるらしく、1日この街で過ごすことになった。

「勇者様……その…よろしいのですか?」

医療班に従事している衛兵が様子を伺うように話しかけてきた。

「何がだ?」

「本来は皆我々が治す立場にあります。いくら勇者様とはいえ……我々にも面子があります故……。」

どうやら回復旋律でのけが人治療に文句があるようだ。そりゃまぁ、こいつらにも立場というものがあるが、今回の被害者の順番を亜人だからと言って後回しにするような奴らに言われる筋合いはない。傷は酷いやつから順番である。


「お前らの面子なんて知らねぇよ。俺のは範囲回復なんだ。酷いやつには重点的に薬を与えて酷くねぇ奴はこっちに回せ。まとめて回復させる。」

「りょ、了解です。」

まぁ、亜人の方が体力の面でも傷の治り方の面でも優秀で普通の人間の方が弱いんだがそれとこれは別の話である。

その日の夕方教会の隠し部屋へ戻ると旅支度を整えたルウがいた。

「ユウ様、明日の朝出ましょう。」

「別にそれはいいが一旦王城の方に戻るぞ?ルウの武器や防具がいるから」

「心得ております。教会より準備金として銀貨3000枚の支給も受けました。」

「……。そうか。」


翌朝、目が覚めるとルウが警戒の面持ちで外を見ていた。まだ夜明け前である。


「どうした?何かあったのか?」

「いえ、大した事ではありません。あちらの方角から邪気を感じたので…。」

「なるほど。ところで魔王が復活する場所ってのは決まってるのか?」

「いえ、ランダムで世界各地に現れます。」

「もしかしたらその邪気の方角から出るかもしれないな。」

「その可能性はありますね。」

一応気に留めておくとしようか。

「巫女様ァァ!」


今日も今日とて喧しいな『ファ〇コン』。

「どうしたのです?」

「りょ、領主様の面会です!」

「な、」

「朝早くからご立派なことで。で?何の用だよ。」

「王城からの出頭命令書に従い罪人である『桜馬悠』を連れて来いとの命令でね。」

「りょっ領主様!?」

「っちファルコ……つけられたな。」

「おぉ、確かに犯罪者みたいな口ぶりだな。」

狐のような雰囲気の男はファルコの後ろから現れるとどこに潜ませていたのか衛兵たちを教会の周りに配備し俺達を囲った。


「まぁ、安心しろよ。このギルバート全力で君たちのサポートを行うつもりだから。」

「は?」

「どうせ碌でもない言いがかりつけてこの命令書を近くの街や村に配ったんだろう?自国の領民の窮地も知らずに。その窮地に現れた英雄を捕まえろだなんてセンスが無さすぎる。」

「は、はぁ。」


どうやらこの狐野郎敵ではないようである。


「そもそも、巫女付きの勇者ってことは正式な勇者って事じゃないか。魔王に対する手札を自分から切るだなんて時期尚早すぎるね。私なら散々使い倒した後にする。」

「サラッと最低な一言だな。」

「使えるうちは使うのさ。」

「なるほど?なら何故俺を捕らえる?」

「申し遅れた。私はウルシア王国のエデンガルド地方領主ギルバート・エリシュだ。一応木っ端役人なんでな。ここで1つ手柄も欲しいのさ。」

「その為に俺を利用すると?」

「いや?さっきも言ったろう?私はあくまで君側のサポーターさ。横暴で自己中心的な愚王だけど腐っても王族。ただ、次の世代も同じであってはならないと思ってる木っ端役人の英雄になってくれないか?」

「話と状況とその他諸々が色々面倒臭いから嫌なんだが?」

「何、時間は取らせないよ。」

「なら、話だけ聞かせてもらう。どうせ王都に向かうつもりだったしな。構わないか?ルウ。」

「?私はユウ様の向かう場所に剣としてお供させていただきます。」

「そうか。そりゃ頼もしい。」

「どうもありがとう。では早速勇者様を王城へ連行しようか。」


ギルバートが手を鳴らすと質素だが流麗な造りをした馬車がどこからともなく現れる。

「少し狭いが王城までの辛抱だ。」


中は言うほど狭くもなく直ぐにそれが謙遜だとわかった。それにしても、どうしてこうも出鼻をくじかれ続けるのか……。俺はステータス画面と経験値をみてあと18日となった日付を確認した。

先行きはだいぶ不透明である。


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