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最弱勇者は吟遊詩人  作者: 神崎柴乃
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勇者、街を救う

隣の街までは街道が整備され、敵も少なかった。小柄なゴブリンや角の生えた兎などファンタジー生物を危なっかしく倒しながら歩いて、レベルが1つ上がった。

『レベルアップ。ステータスポイントを獲得。スキルポイントを獲得。スキル『目利き』が解放されました。』


等と視界に表示され、STRやAGI等のステータスが表示される。どうやら個人の戦闘力はここで上げることが出来るらしい。

DEXとAGIに一ポイントずつ振り分け残りを保留しておく。次にスキルポイントを割り振り『目利き』を獲得した。どうやら色々な作品の中で取り上げられる「鑑定眼」のようなスキルらしい。更に回復の付与術も手に入れ少しの傷であれば治せるようになった。

順調な旅に気を良くしていると、街の方で煙が見えた。どうやら何かの襲撃あったようで、肉の焦げるような異臭が立ち込めてくる。俺はすぐに索敵の為、音界を放つと急いで街へと向かう。


街道の先にあったのはまさにこの世の地獄だった。

至る所で死体が転がり、火災があったのか焼け落ちた家屋が未だに燻っている。死体はほとんどが男で、刃物や鈍器、弓矢等で攻撃され、死亡後も滅多刺しにされていたようである。


「う……うわぁ……。地獄だなこりゃ。」

視界のマップには夥しい数の黒い点が広がり、数点赤い点が範囲内に入っていた。

「何があったんだ?戦争?いや、でもそんな雰囲気城下に無かったけど……。」


マップの端で赤い点がこちらに向かい近づいてくる。俺は咄嗟に近くの瓦礫に身を隠し、様子を伺う事にした。

「GURU?」


赤い点の正体はゴブリンだった。小学校低学年程の小さな身体、緑色の皮膚、醜く歪んだ顔。何やら機嫌が悪かったようで足元に転がる男の死体を蹴飛ばし、棍棒で殴りつけ始めていた。どこからか吹き込んだ風が血の臭いとどす黒く変色した羊皮紙を届けに来た。


「……。なるほどな……。」

数多くのファンタジーで最弱とされているゴブリンだが、この世界ではどうやら違うのかもしれない。もしかしたら群れで襲いかかり、街を1つ滅ぼしたとかか?衛兵はどこにいるのか……?


無事そうな建物を探すと少し離れたところに教会のような建物が見える。赤い点もその周りに集結してる所を見ると中で生存者が立て篭もっている可能性が高い。

「さて……どうするか」

1匹1匹のゴブリンは大した事無いが数が多ければ1人しかいない俺のほうが危なくなる可能性がある。ただ、催眠音波を使えば……何体かを処理することが出来るかもしれないが……。


取り敢えず物陰を利用し、教会の窓まで移動することにした。中の様子を覗いて状況を探る。音界は建物の外側から撃っても効果が薄いようなのでこうする他ない。本当は鏡を使って中を見たいが……。無いものをねだっても仕方ないだろう。

恐る恐ると顔を上げれば中にいたのは一人の男と大勢の市民を庇う一人の少女だった。ゴブリンは遠巻きながら中の様子を気にしている様子である。


「とうとう見つけたぞ?災厄の御子。」

「……。」

「お前の力は我々が使う。恭順の意思がなければここで殺す。」

「……い……いや。」

「ならばここで死ぬしかないな。」

金属の擦れ合う音が響いてくる。あの少女、どうやらある程度は戦えるらしいが……。大人と子ども程の力量差。少女の方があからさまに劣勢である。


「知らない奴。今日見かけただけの奴。そんな奴を助けるのはバカか勇者気取りの阿呆だな」

少しでも有利にことを運ぶため、催眠音波の旋律を吹きつつ窓から侵入する。

突然の来訪者に驚き、声をあげようとした奴らもいるが睡魔にやられ、沈黙する。

その場に立っているのはゴブリン数体と少女と男だけだった。


「さて、外野には眠ってもらった。話をしようじゃねぇか。」

男はこちらを見るとすぐに態度を直し、身なりを整え始めた。

「これはこれは()()()。私エルシーク一等子爵と申します。」

「そうか。これは一体どういう状況だ?」

「はい。私近衛を連れてこの辺りを巡回していました所、ゴブリン共を使役し、我らに牙を剥く災厄の御子を見つけましてこうして討伐すべく……。」

「ほう?このゴブリン共は子爵どのものでは無いのか。」

「何故私がゴブリン等下等な魔物を従え、街を襲うのでありましょうか?」

「お前はここの領主かそれに近い何かか?」

「え?えぇ。」

「これは俺の推論であくまで過程の話だ。この国では亜人は冷遇されている。そうだな?」

「え?えぇ。人に劣る亜人風情がこの栄誉あるグラスバーグに居るのも汚らわしい。」

「そうかい。」


子爵のその言葉に憎々しげな表情を浮かべる少女。気が合うな大体俺もそんな気分だ。


「これは俺の推論だ。そこの所はいいな?」

「何を仰るおつもりか知りませんがそこの亜人を庇い立てするなら例え勇者と言えど容赦はしませんぞ?」

「まぁ、慌てんなって。例え話をしよう。例えば、大嫌いな奴が自分の領地にいる。しかし、表立って事を起こすには風評や世間体が悪いとする。」

「何を言うかと思えば……。」

「黙って聞けよ。」

声のトーンを落とし、威圧しながら会話を続ける。

「そこでだ。自分の領地に突如魔物を統べる悪者が登場し、街に被害を出した。その悪者は自分の嫌いな奴でそいつを悪者として仕立て上げる事で街への支援金、軍備増強と宣い税収増加、ほかの貴族と友誼を結び、癒着。随分と美味しい話になるよな」

「ば、馬鹿馬鹿しい!どこにそんな事を示す証拠が有るのです!?」

「言ったろ?これはあくまで推論。酒場で吟遊詩人が歌う社会風刺的な童話の類だ。」

「ふっふざけるなよ貴様!」

「何をそんなに怒る?だってお前の周りに近衛の兵隊見当たらないぜ?表で死んでる奴は見たけど。」

「そ、それは皆表のゴブリンと戦い、戦死したのです。」

「それにしちゃお前の立ってる位置が違うんじゃねぇか?どうして大事な領民の前にお前の嫌いな亜人が立ち塞がってるんだ?普通逆だろ?」


「はっ。そんな事で私を悪だと断ずるのか?」

「まぁ、片方の意見だけ聞いて判断するのは俺は好きじゃない。そこのお前、申し開きはあるか?」

「……。私は……違う。」

「そうか。」


目の前にいる薄汚いおっさんと比べるべくもなく真っ直ぐな紅い瞳をこちらに向けている少女。

「なぁ、ここで聞くのもなんだがここから王城までどのくらいの距離なんだ?」

「は?ここからなら……人の足で半日程度、馬ならもっと早いが?」

「いやね、ここへ来る途中にこんな紙を見かけたもんでさ。さっきからのお前の言葉に疑念を持ってんのよ。何故、俺が『勇者』だと思った?俺がこの世界に来たのは半日ちょっと前だぞ?あまりにも情報が早すぎると思わねぇか?」


羊皮紙には俺の名前、特徴などが事細かに書かれ、最後の文には「生死は問わない。この者には王族への侮辱罪がある。報奨金を弾む!」と書かれている。

おいおい……そんなことして良いのかよ……糞王……。そもそも侮辱してきたのはお前だろうが……。

「……。お前は何故お尋ね者の勇者にそんなに丁寧に応対したんだ?隙を見て後ろから刺すつもりだったか?生憎とそういう話を昔よく作っていたのでねそういう事には鼻が利くんだわ。」

「ふっふふふふ。ふはははは!ポーン風情がこの俺に楯突くとはな。それで?どうするんだ?お得意の笛の音で魔物でも使役するかい?」

「あ、そういう手段もあるな。今度試してみるよ。」

「クソが!やっちまえゴブリン共!」

「GUGAAA!」

「……はぁ。やるしかないか…。本当はもう少し異世界感を楽しみたいんだが…。まぁ、攻撃力無い職だし仕方ないか。」


上段から勢いよく鉈を振り下ろしたゴブリンを軽く避け、いい場所にあった頭を捻る。すると『ゴキュッ』と生々しい感触とともにゴブリンが沈黙した。

続けて襲いかかってきたゴブリンに今しがたこさえた死体を投げつけ倒れた瞬間その細い首をふみ砕く。

「な……その身のこなし……何者だ貴様!」

「何者って……勇者だよ。」

外から流れ込んできた奴らも参戦し、相手にする数が増える。そろそろ首魁をぶちのめした方が早そうである。

「危ない。」

背後より男から投げつけられたナイフを少女がはじき返す。予想外だったがお互い背を預けて戦うことになりそうであった


「ありがとさん。」

ゴブリンの腰から引き抜いた剣を別のゴブリンの喉に突き刺し、更に別のゴブリンの首を掌底にてへし折る。ゴブリン達も力量差を理解したのか少し離れ、様子を伺うような素振りを見せた。


「さて、もうそろそろか。おい、貴族様?一応言っておくがここでの敗北はたとえここで死ななくとも後で必ず死ぬ可能性が高いからな。今のうち身の振り方考えた方がいいぞ?」

「な、」

「何故かって?この国の王様は大層俺がお嫌いのようでな。ここで貴族であるお前を殺したりなんてしたらそれこそ俺を諸悪の根源として裁きかねない。そこに生存者はいらねぇんだわ」

「そ、そんな……。」

「王様からして見りゃ馬鹿な貴族とウザイ勇者の両方を打ち取れるんだからさぞお喜びになるだろうよ」

「う、嘘だ!はったりだ!」

「よく考えてみろ?態々召喚した勇者を半日で見限って犯罪者に仕立て上げる王様だぞ?」

「うっ」

「俺としてはここでさっさと逃げるって選択肢がベターだと思うが?」

「ベター?」

「いい案って意味だ。俺は追わない。」

「そんな世迷言を信じろと?」


男は顔を青ざめさせながら抵抗する。

「俺がお前を殺す理由がないだろ。この街の住人の件はまぁ、ご愁傷さまとしか言えねぇがお前に対して恨みが俺個人にはない。違うか?」


「た、確かに……。」

「そういうこった。さぁ、さっさと手下引き連れて森でもなんでも身を隠せそうなところに隠すがいい」

「く……クソっ」

男は憎々しげに捨て台詞を吐くと数体のゴブリンを引き連れ立ち去って行った。


おぉ、何とかなるもんだな。9割はったりなんだが。

「『詐称』『詐欺師』『虚言』『道化』のスキルが解放されました」

どうもありがとう。だけど、全然嬉しくない。

説明を見る限り嘘を相手に信じやすくさせる効果があるらしいが……使い道があまりない。


「ありがとうございました。」

「あ?」

声のした方を見れば少女が剣を支えに立っており、今にも倒れそうだった。


「あぁ、まぁ、成り行きだ。成り行き。」

「それでも、貴方は私達を救ってくれました。」

「そうかい。でもお前らの街は救えなかった。」

「命あっての物種ですよ。勇者様。」

「そうかもな。」


互いに床に座り込み疲れた体を投げ出していると外から大きな声が響いてきた。


「巫女様ァァ巫女様ァァ!」


教会のドアをぶち破る勢いというかぶち破って禿頭の巨漢が突入してきた。サングラスをかけてロケットランチャーを担げばとある漫画に出てきそうだ。

「騒がしいぞ。」

「巫女様!ご無事ですか!」

「あぁ、無事だ。それよりファルコ、少し黙れ。勇者の傷に障る」

名前まで似てるとはなぁ因果を感じるネ。と視線を男に移すと男は驚愕といった表情を顔に張りつけ目を見開いていた。


「ゆ、勇者ァ!?」

「どうも。桜馬悠と言います。一応勇者らしいです。」

「では、巫女様が担当する勇者って……。」

「この人に決めた。実力も人柄も申し分ない。」

「し、しかし……。」

「何の話だ?」

「勇者様はご存知無いので?」

「知らん。説明すら満足にされていない。」

「では、私が説明させて頂きましょう。」

「その前に、日が暮れる。急いで無事な建物に生存者を集めろ。簡単な傷なら俺が治せる。」

「それもそうですな。」


日が暮れ、気温が少し下がり始めた頃、教会の体育館のような施設にはたくさんの人が押し寄せ、野戦病院のような状態になった。多くの怪我人の傷を覚えたての回復旋律が癒し、痛みを和らげていく。ファルコと巫女の少女は清潔な布や治療に奔走し、夜が明ける頃には疲れ果てていた。

「勇者様、ここは少し我らに任せておやすみください。」

「……。あぁ。そうさせてもらうか」

仕事の納期や工程の遅れのせいで徹夜する事に慣れているのだが万全な状態にしておく必要があると考え直し、少し眠ることにした。

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