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第5話

 瑞樹の家は、閑静な住宅街の中にあった。決して大きくはないが最近建てたのであろう、とても外装が綺麗だった。


 「さあ、先輩どうぞ入ってください」


 「......本当にお邪魔していいのか?」


 「先輩、何か良からぬこと考えてます?」


 「ふざけるな」


 そう言って瑞樹に優しくゲンコツを落とす。それに大して痛がる様子もなく彼女は舌をぺろっと出した。




 「お邪魔いたします」


 「お母さん、連れて来たよー! 」


 玄関に入るやいなや、瑞樹が大声を張り上げた。すぐに奥から短いテンポで足音が近づいてくる。


 「瑞樹、先輩に向かってそんな言い方ダメじゃない。こんにちは、私が瑞樹の母です。今日は娘をよろしくお願いしますね」


 「いえ、こちらこそ瑞樹さんとは仲良くさせていただいております。今日もお世話になります」


 

 互いの紹介を終え、瑞樹が自分の部屋へ陽を案内する。玄関を入ってすぐにある階段を昇り、2階に上がってすぐ左にある扉を開けた。


 綺麗に整頓された部屋だった。その中に年頃の女子を思わせる小物が配置されている。陽が少し驚いたのは、カーテンとベッドの色が薄い緑色ということだった。女子はピンクが標準だと勝手に決めつけていたために、新鮮味を感じていた。


 「さあ先輩、座ってください」


 部屋の中央にあるテーブル横に荷物を置き、腰を下ろす。瑞樹もそれを見届けると近くにあった本棚から教科書を突りだし、陽と同じく床に座った。


 「それで、どの科目が分からないんだ?」


 「全部です」


 「......流石に全部苦手って訳じゃないだろ?どれか選べないのか?」


 「確かに古文や現代文、英語は得意な方ですが、先輩とっても頭良いから、出来れば全部教えて欲しいです。まずは数学とか理系の科目が苦手なので、そっちをお願いします」


 「仕方ないな、まずは数学からだ。効率よく行くぞ」


 

 陽による臨時補修が始まった。普段は落ち着きが見えないような印象の瑞樹もこの時はよく陽の説明を聞き、問題を解いていった。



 「先輩、何回も言いますけど本当に頭良いんですね......この問題ずっと分からなかったのに」


 「勉強好きだからな」


 「その言葉、学校で言ったらどうなるか分かりませんよ......」


 「本当のことなんだから仕方ない。さあどんどん行くぞ」


 瑞樹は陽の手助けを借りて問題を解いていく。時々2人は会話を交わすが、瑞樹によると普段1人でしている時より最低でも4倍以上のペースで問題を解いているらしい。だがそんなことには構わず陽はどんどんと瑞樹に問題の解き方を詰め込んでいく。


 そうこうしているうちに数学のテスト範囲を瞬く間に最後まで解き終わった。


 「他に分からないところはないか?」


 「今は大丈夫なんですが、忘れてしまわないか、そっちの方が心配です......」


 「じゃあ簡単にメモにしておくから、それ見て復習してくれ」


 「......先輩、授業料取らないですよね? 」


 「さすがに後輩に対してそんなことするか」



 そして次の科目の勉強に移ろうとした時、ふと瑞樹が陽に尋ねた。今までとは違った雰囲気で。



 「先輩、聞いてもいいですか? 」


 「どの問題だ? 」


 「いえ、そっちじゃなくて、先輩の頭の......」



 それを聞いた時、陽の動きが一瞬止まった。だが動揺を何とか心の内に押し込め、冷静に尋ね返す。


 

 「俺の頭のハゲてる部分がどうかしたのか? 」


 「こうなってる原因とかは分かってるんですか? 」


 「俺には分からない」



 陽の投げやりな答えに対し瑞樹は機嫌を悪くする様子はなく、真剣な眼差しで彼を見ていた。


 

 「部活で先輩以外、全員女子だけだからとか......」


 「確かにそれが理由で気疲れすることはある、だけどどうしようもない」


 「そうかもしれませんけど......病院は、精神科には行ったんですか? 」


 「親に隠れて行って見たけど、ありきたりなことしか言われなかった。ストレスが減れば自然と良くなるとか勝手なことばかり言ってたよ」


 

 ここまで聞いていて、瑞樹の心にどうしてもある気持ちが生まれた。それは彼の為ではなく、自分の想いを確かめる為のもの。どうしようもなく、自然と口から質問が出ていた。


 

 「私はどうですか?私と一緒にいると嫌ですか? 」


 「え?」


 「先輩は、私のことをどう想っていますか?裁縫や勉強を教えるだけの、ただそれだけの関係の後輩ですか?」


 「それは、どうい」



 陽が最後まで言おうとした時、体に小さな衝撃を感じた。一瞬意識が飛んで戻ると、視界のすぐ右側に瑞樹の頭が見える。彼女の、優しい髪の匂いがした。

 










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