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魔法学園の特異学生  作者: 二一京日
第1部 千変万化編
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5話 一方的な戦い

 生徒や先生たちはアリーナの観客席へと移動し、リングに残ったのは、礼仁と七宮だけだった。


「よくもまぁ、逃げずに出てこれたなぁ。それだけは褒めてやる」


 七宮の偉そうな言い方に、礼仁はため息をついて言い返した。


「大物ぶるのも大概にしといたら?」


「なんだと、お前?」


 当然のように怒り出す七宮だったが、涼しい顔をしたまま、礼仁はただ決闘が始まるのを待っていた。


「二人とも、準備はいいな?」


 客席の最前列から翠が、リングの中央にいる二人に声をかける。


「問題ありません!」


 七宮は大声で答え、礼仁はうなずいて返答した。


「よし、ひとまずの参考にするため、それぞれ名前とランクを言ってくれ」


 翠の要求に真っ先に答えたのは七宮だった。


「俺は七宮修次、Bランク、電気使い、世界ランキングは百八十三位!そして、Sランク、七宮妃奈子の弟です!」


 その自己紹介に、昨日のクラスと同じようにアリーナの中が沸く。

 一方、翠はそのことに頭を抱えた。


「名前とランクだけでいいと言っただろうが……」


 そうつぶやいて頭を切り替えると、今度は礼仁の方に目線で促した。


「神部礼仁、Dランク」


 礼仁の自己紹介は、七宮の時とは別の意味で生徒たちを沸かせた。


 先覚者にはそれぞれ魔力の高さからランクが決まっており、自分を鍛えて魔力を上げれば、ランクも上がっていくというものだ。

 そのランクはSからEまであり、Eランクの人はほとんど一般人と変わらず、魔法学園の入学試験で落とされてしまう。その一つ上のDランクも、九割以上の人が落とされ、入れるとしてもせいぜい数人。


 つまり、Dランクとは学園内最弱とも言えるのだ。

 それゆえに、Dランクというだけで、笑いものになるのである。


「なんだよ、こんなの瞬殺じゃねぇか」


「初戦がこんなにあっさり決まっちゃうんだ」


「うわ、かわいそう。雑魚の相手をしなくちゃいけない七宮が」


「Sランクの弟と、薄汚れた犬の試合」


「BランクにDランクが勝てるわけないじゃん」


 礼仁に対していろいろと悪口を言う生徒たちに、雪野は我慢がならず、立ち上がって叫ぼうとした。

 が、瞬間的に発せられた殺気で、それができなかった。

 雪野が恐る恐るリング上の礼仁に視線を向けると、礼仁はこちらを向いていて、その目は雪野にあることを言っていた。


 黙っていろ、と。


 雪野は怒りが収まらないままだが、礼仁にそこまでされれば何もできないので、仕方なく浮かせようとしていた腰を、再び席に戻した。


「お前ら、少し黙っていろ」


 さすがにうるさいのか、翠が生徒たちの悪口を止め、リング上にいる二人に再度確認をとった。


「もう一度確認するぞ。この試合は両者が承認したものであり、強制されたものではない」


 この言葉に、礼仁も七宮も頷く。


「よし、私が審判を務め、試合の勝ち負けは私が決める。いいな?」


 この言葉にも、礼仁と七宮は頷く。

 七宮は早く始まってほしいのか、表情がワクワクとしたものだが、礼仁の方は特に表情からは読み取れるものがなく、興味がなさそうとしかわからなかった。

 そんな礼仁の様子を見たアリサは、成り行きで隣に座ることになった雪野に尋ねた。


「彼、いったい何なの?」


 突然の問いかけに、雪野は驚いた。


「何って?」


「そのままの意味よ。何者なのってこと」


 アリサの質問に、雪野はすぐには答えられなかった。

 答えようにもどう答えたらいいのかわからなかった。


「さっき、あなたが動きを止めたのは、彼があなたのことを睨んだからよね?あれほどの殺気を向けるなんて、普通の人じゃできないわよ」


「そうね。レイさんは普通の人とは違うわね」


「あなた、常に敬語を使うわけじゃないのね」


「そうよ。私はレイさんのことを尊敬しているけど、あなたのことはまったく尊敬してはいないからね」


 少し棘のある言い方だが、アリサはこの礼仁を尊敬していると言う少女のことが少しだけわかった。


「レイさんが何者なのかは、戦うところを見ればわかるんじゃないかしら。まぁ、戦わない可能性の方が高いけど」


「それはどういう」


 アリサが最後まで言い終わる前に、翠が試合開始の合図をした。


「試合開始!」


              ☆


 試合開始の合図と同時に、七宮は右手を前に出した。


「<ファングソード>!」


 その言葉とともに、七宮の手に魔力が集まり、それが一つの形を成した。

 それは量産型片手剣デバイスの一種だった。

 先覚者は各々のデバイスを媒介とすれば、より効率的に強力な魔法が使えるのだ。つまり、デバイスとは武器兼補助具なのだ。

 七宮が出した<ファングソード>とは、量産型の中では最高性能と言われているデバイスだ。

 そんなものが使われるとあっては、生徒も盛り上がる。


 その一方で、礼仁の方は特に何もせずに突っ立ているだけだった。


「おいおい、やる気あんのか?」


「あるわけないよ。ただ仕方なくこんなことをやってるだけだし」


 礼仁の投げやりとも思える態度に、七宮だけでなく、観ている生徒も頭にきた。


「やる気あんのか、てめー!」


「勝敗の決まっている勝負と言っても、あっさりと負けたらさらにつまんねぇだろ!」


「ちゃんと真面目にやれー」


「七宮、そんな奴、ぼこぼこにしてやれ!」


 リング上に罵声が響くも、礼仁はやはり気にしないという風な態度で立っていた。

 その姿を見て、七宮は殺意すら覚えた。


「お前、調子に乗るのもいい加減にしろよ。何様のつもりだ?あ?」


 ゆっくりと礼仁に近づく七宮は、怒鳴るでもなく、ただ淡々と言っていた。


「この俺と決闘するっていうのに、何もしないとはどういう了見だ?」


 そして、二人の間の距離が数メートルというところになり、それでも何もしない礼仁に対して、七宮は本気で切れた。


「馬鹿にすんじゃねぇーよ!」


 そう怒鳴りながら、目の前の礼仁に斬りかかる。

 しかし、その手には何も感触がなかった。

 そして、七宮の目には、剣の切っ先の数メートル先にいる礼仁が映っていた。

 かわされたと気づくのに、大して時間はかからなかった。


 七宮は今度は、デバイスに魔力を込めて集中する。

 すると、手に持つ剣が電気をまとい、激しい閃光を放ち始めた。

 その電気は空気を帯電させ、雷特有のにおいが、アリーナを満たす。

 そして、電気の激しさが頂点へと達した瞬間、集めた魔力を礼仁に向かって放出した。


「<荷電粒子砲>!」


 七宮の手から放たれた電気の塊が、礼仁に向かって放たれる。

 直撃すれば、魔力の少ないDランクはただでは済まない。

 たとえ、ディバイン・フィールドが展開されているとはいえ、相当量のダメージは必須。一発でアウトだ。

 礼仁の目前にまで迫る電気の奔流。

 そして、そのまま、礼仁を飲み込んだ。

 礼仁の体は、電気の衝撃によって巻き上がった土煙に隠される。


 その事態に生徒は沸き、目障りなDランクの負けを確信した。

 どれだけ余裕ぶってはいても、所詮はDランク、学園最弱。

 これで終わりだと思い、次の模擬戦に期待し、我こそはという人はもう席を立っていた。


 礼仁の在り方に違和感を覚えていたアリサやユリアも、さすがに負けを確信していた。

 七宮は愉悦の笑みを浮かべ、生徒たちの声援を受けながら、リングを去ろうとしていた。

 しかし。


「まだまだって感じかな、これは」


 土煙の向こうから、倒されたはずの礼仁の声が聞こえた。

 七宮や他の生徒たちは驚き、土煙が晴れるのを待つ。

 土煙は徐々に薄れ、次第に人影が見えてきた。

 その人影がはっきりして、誰の目にも映った時、そこには疲れた様子や痛がる様子を見せない、明らかに無傷の礼仁が立っていた。


「魔法の構成が甘すぎ。まさか、たったこれだけの魔力で無傷になるとは、さすがに予想してなかったな」


 軽い調子で話す礼仁に、七宮は信じられないといった様子で尋ねる。


「お前……なんで……無傷?」


 礼仁は肩にかかった土ぼこりを払いながら、言った。


「別に、防御したわけじゃない。いくらあの程度の魔法でも、Dランクの魔力じゃ、受け止めるのは無理だからね」


「あの程度、だと?」


 怒りをあらわにする七宮だったが、それほどの怒気をぶつけられても、礼仁は特に気にする様子もなく話す。


「そう。さっき言ったでしょ、魔法の構成が甘いって。僕は、そこに付け入っただけなんだ」


「付け入る?どういうことだ?」


「魔力っていうのはそれぞれに固有の波長があるのは知っていると思うけど、似た波長の持ち主同士の魔力は、調和しやすいんだ」


 七宮には、礼仁が何を言っているのかわからなかった。

 そんな様子を察したのか、礼仁は簡潔に答えた。


「つまり、僕はお前の魔力と調和して、お前の魔法に入り込み、制御権を奪ったんだ」


『は!?』


 会場全体が、礼仁の言葉を信じられなかった。


「おい、他人の魔力を乗っ取るなんて、聞いたことないぞ!」


 七宮がさらに説明を求めると、礼仁は特に嫌がる様子を見せずに、すぐに答えた。


「奪ったっていうのが、言い方が悪かったね。わかりやすく言うには、その言葉が一番だったんだ。正確には、お前が使った魔法を共有したんだ」


 やはり、礼仁の言っていることがわからなかった。


「たとえ、共有できたからって、それが何なんだよ」


「共有したってことは、実質的にはお前と僕の二人で魔法を使ったことになるんだ。お前は細かい制御をしていなかったから、その部分を僕が受け持ったんだ」


 七宮は、ようやく礼仁の言ったことがわかった。

 納得はできないが、理解はしたのだ。


「だから、僕は自分に攻撃が当たらないように制御したんだ。そういう意味で、さっき言った通り、魔法を乗っ取ったんだ」


 礼仁の説明を受けて、七宮は思ったことを、思わず口に出した。


「ありえねぇ……」


 それは誰もが思ったことだろう。

 アリサやユリアも例外ではなく、驚きを隠せない様子だった。


「そんなことが可能なの?」


「聞いたことがありません」


 二人に様子を見て、雪野は自分のことのように、得意気に話した。


「二人は聞いたことないの?<魔力共鳴>って言葉を」


 ユリアは首をかしげたが、アリサは先ほどよりも驚いた表情をしていた。


「あなた、なんでそんなことを知っているのよ?」


「前にレイさんに教えてもらった」


「じゃあ、なんで彼はそんなことを知っているの?」


「それは、レイさんだからよ」


 全く答えになっていない返答だったが、これは仕方がないと思えるほどに、アリサはこの短い時間で揚羽雪野という人間をわかっていた。


「姫、<魔力共鳴>って何ですか?」


「あなたは、知らないのも無理ないわね」


 アリサは、<魔力共鳴>について自分が知っていることを話す。


「<魔力共鳴>というのは簡単に言うと、二人の先覚者が魔力を融合させて、本来出せないような力を引き出すことができるようにする技術なの。それによって引き出される力は、単なる一足す一が二になる程度ではなくて、十になったりするのよ」


「それは、すごいですね」


 感嘆の声を上げるユリアに、アリサは頷く。


「そう。たしかにすごいんだけど……いや、すご過ぎるからこそ情報が流れていない」


「どういうことですか?」


「私も詳しくは知らないんだけど、<魔力共鳴>という技術は本来、使っちゃいけないものらしいのよ。いろいろと条件があるみたいで」


「条件とは、一体何のことですか?」


「そこまでは知らないわ。あなたは知っているの?」


 アリサは、同じように<魔力共鳴>を知っている雪野に尋ねた。


「えぇ、知っているわ。その条件も、使ってはいけない理由も」


「なら、教えてくれないかしら?」


「無理よ」


 雪野は即答した。


「レイさんが言わないことは、私も言う気はないし、言う権利もない」


「権利って……彼が何か関係しているの?」


「関係しているかどうかで言えば、関係しているに決まっているでしょ。実際、七宮の攻撃に対処したのは、<魔力共鳴>で間違いないんだから」


 まだ聞きたいことがあったアリサとユリアだったが、雪野がこの調子ではいつまで待っても言わないだろうと思い、二人で顔を見合わせて、ひとまずリング上の試合を最後まで見守ることにした。


              ☆


 礼仁の予想外の対処に、会場は混乱していた。

 混乱していないのは、せいぜい雪野と翠くらいのものだった。


「さて、それでどうする?魔法が通じないとわかっても、まだ続けるつもり?」


「うるせぇ!そんなの俺には関係ねぇ!」


 七宮は怒鳴り散らし、無理やり自分を奮い立たせた。


「そう?じゃあ、続けようか?まぁ、僕は今のところ攻める気はないから、そちらの自由にしてくれて構わないよ」


「人をなめた態度は、変える気はないんだな」


「別になめてるわけじゃない。ただ単に、面倒なだけ」


「それを、なめてるっつうんだよ!」


 そう怒鳴ると、先ほどよりも鋭く、礼仁に斬りかかってきた。

 しかし、それでも礼仁は難なくかわし、七宮から再び距離をとる。


「さっきもそうやってかわしてたが、実は攻めの手段がないだけじゃねぇの?」


 今度は魔法を使うことなく、もう一度礼仁に斬りかかる。

 魔力が立ち上がる気配も、練り上げる様子も見えず、七宮が魔法という手段を捨てていると礼仁は感じた。


「そんな挑発に乗るわけないでしょ」


 七宮がどんなスタイルを用いるかなど、礼仁には関係のないことで、ただかわし続けることに変わりはなかった。

 ゆえに、七宮の剣は掠ることもなく、またしても空を斬った。


「何度やっても変わんないよ」


 礼仁は七宮の攻撃が当たる気が全くせず、そんなことを言った。

 しかし、本来なら怒るはずのところで、七宮は笑っていた。

 その笑いは、不気味なものではあったが。


 七宮はその笑みのまま、礼仁にまた剣を振り下ろした。

 ただ、こう言いながら。


「じゃあ、俺がお前に勝ったら、お前の女をもらうぞ」


「は?」


 七宮の予想外の発言に、礼仁は一瞬回避するのが遅れ、前髪の一部がひらりと流れていった。

 礼仁は表情に特に変化は見せなかったが、七宮は礼仁が動揺していると確信した。


「だから、お前の女をもらうって言ってんだろ?」


「女って、誰のことかな?」


 形勢が逆転しかかっていると思った七宮は、礼仁に対して、もうひと押し揺さぶった。


「おいおい、とぼけるなよ。揚羽のことに決まってるだろ」


「……あいつは、僕の女というわけじゃないんだけどね」


「そんなことはどうでもいい。お前に勝ったら、俺がもらう。それだけだ」


 攻めの手がない礼仁の心を揺さぶり、動きを単調にすれば、いくらなんでもかわしきることはできないだろう。

 そう考えて実行した七宮は、勝負を決めるべく、魔力を高めた。

 先ほどいろいろと言っていたが、集中力を乱してしまえば、どうすることもできないと思い、勝利への確信とともに全身に電気を這わせた。


 礼仁を見ると、攻撃をかわす動作には入っておらず、少しうつむいていた。

 七宮はにたりと笑い、剣を振り上げた。


「人を散々馬鹿にした報いを受けろ!」


 体に這わせた電気を使い、磁力を発生させて、体を急激に加速させる。

 何度もは使えないが、礼仁にかわす気が見られない以上、これで終わりだろう。

 七宮は超加速の中、礼仁に向かって剣を振り下ろした。

 魔法を使って加速している七宮本人でさえぶれる視界で、おぼろげに捉えた礼仁に間違いはなかった。


 が、今度も不自然なことが起こった。

 七宮の加速はちゃんと発動したし、礼仁はかわす動作をしなかった。

 それなのに、七宮の剣は礼仁には当たらなかった。


「……あいつは、僕の女というわけじゃないんだけど」


 礼仁は自分に斬りかかる七宮の剣をかわすことなく、剣を持つ手首を掴んで止めていた。

 そのことに、魔法を乗っ取られた時とは別の意味で、七宮は衝撃を受けた。

 自分ですら視界がぼやけるというのに、礼仁は正確に捉え、完璧に止めた。

 Dランクとは思えない高スペックに、信じられないという雰囲気に会場が満たされる中、礼仁は言った。


「あいつをもらうとか言うやつは、ちょっとムカつくな」


 そして、左手でつかんだ手首を引き寄せ、それに付いてくるように礼仁の真正面に来た七宮の体の中央に、思い切りボディーブローを入れた。


「かはっ!」


 思いもやらない衝撃が七宮の体を突き、肺の空気がごっそり吐き出されてしまった。

 それを意識したのもつかの間、今度は体が宙を舞い、落下し、何度かバウンドしてようやく止まった。


「……くっそ……!」


 ディバインフィールドにより外傷はないとはいえ、痛みは抜けない。それに体力も削られてしまっている。

 そんな状態の体を震える足で起こし、剣を支えにして立ち上がる。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 たった一撃で体力のほとんどが奪われ、礼仁のパンチとその後地面で打った体の痛みで、意識が朦朧としていた。

 七宮のそんな様子は、生徒たちに大きなショックを与え、先ほどまで静観していた先生たちも驚いていた。


「まだ立つってことは、まだやるってことでいいんだね?理事長もまだ止めないみたいだし、試合は続行か。まぁ、一撃で終わらせるつもりはなかったから、そうでなくてはこちらの気が収まらない」


 礼仁はのんびりと言っているが、七宮にはそれを聞いている余裕はなく、勝つための手段を探り始めた。朦朧とする意識の中では、それが今できる精一杯だった。

 しかし、それは無駄なことだった。


「君にできるのは、負けを認めるか、長引かせるか、その二つだ。今のうちに選んでおいて」


 そう言うと、礼仁は打って変わって七宮に接近して攻めてきた。

 礼仁は立っているのもやっとな七宮に、連続で攻撃した。


 うつむき気味な顔をアッパーして体を浮かせ、ちょうど目の前にきた腹にもう一発パンチを入れ、吹き飛ぶ七宮の後ろに回り込んで脇腹に回し蹴り、また吹き飛ぶ七宮の襟首をつかみ、勢いを利用して自身の体を回して地面に叩きつける。

 さらに、地面からバウンドした体を蹴り上げ、再び空中でのリンチが始まる。


 それぞれの攻撃は、最初の一撃ほどの威力はなく、倒すことが目的なのではなく、いたぶることが目的のように思える。

 あまりにも一方的な展開に、会場にどよめきが広がっている。


 もはやどれだけ殴られたのかがわからなくなった頃、さすがにこれ以上は問題なのか、翠が立ち上がって、試合終了の合図をしようとした時。


「レイさん、そこまで!」


 観客席からリング上に向けられた声。その声に礼仁は動きを止め、リンチから解放された七宮は、リング上に転がった。


 礼仁は、自分を止めた雪野の方へ顔を向けた。

 雪野も、自分の方を向く礼仁の顔を見返す。

 しばらくの間、二人の間で無言のやり取りがあり、礼仁の方が先に顔をそむけ、リング上から去っていく。

 それを見てほっとした翠は、先生たちに七宮を医務室へ運ぶように指示を出した。

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