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魔法学園の特異学生  作者: 二一京日
第1部 千変万化編
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2話 入学式と王女

 先覚者。

 それは常人とは違い、体内に魔力を持ち、その魔力で様々なことができる特別な存在。それぞれの先覚者が違った魔力を持ち、千差万別な能力を持つ。その能力の種類は無数にあると言われ、全てを把握することはできないとされている。

 そんな様々な能力を持った子どもたちが、知識を得て、自らの能力を鍛える学校があり、それらは日本に五か所ある。

 東京、大阪、福岡、秋田、新潟の五か所だ。

 礼仁や雪野が通う神坂学園は東京にある。

 その神坂学園では、今日新入生の入学式が執り行われている。

 皆白い制服に身を包み、高校生でもまだ一年という初々しい姿を見せている。

 新入生たちの視線の先にある体育館の前のステージで、神坂学園の理事長、空峰(そらみね)翠のあいさつが行われている。


「新入生の諸君、入学おめでとう。諸君が今、ここにいることに祝福の意を示す。

 そして、それと同時にうれしく思う。皆がこれから先覚者として、新たな道を進むためにこの学園に来てくれたことは何かの縁だろう。

 この学園に入学し、今までとは違った環境で過ごし、新たな友人や仲間ができれば、諸君がここにある意味も見えてくるだろう。他の誰でもない、諸君が見つけるのだ。この学園で学び、考え、笑い、泣き、喜び、苦しみ、生きるのは諸君なのだから。

 そして、この学園で見えてくるものがあれば幸いだ」


 翠が新入生に向けてあいさつをしている最中、もちろん礼仁も雪野も入学式でそれを聞いている。

 いや、雪野はしっかりと聞いているのだが、礼仁の方はあまり耳を傾けず、ただそこに座っているだけという姿勢でいた。ここで言う姿勢とは、あくまで心持ちの方なのだが、基本的に緊張した趣でいる新入生の中では、雰囲気が浮いているように見える。

 高校というものに興味が薄い礼仁にとって、この入学式というものはつまらず、必要でないと思えてしまうのだが、それでもあからさまな態度をとらないのは、それはいくらなんでも失礼だと思える思考力を残していたからだ。


「諸君には何か夢があるだろうか。叶えたい望みはあるだろうか。将来の道は見えているだろうか。おそらく、多くの者がその答えに行き着いていないだろう。

 しかし、皆何か見つけなければ、とは思っていることだろう。そのことに焦り、また、苦しむのも学生生活の醍醐味と言える。

 諸君、悩むことは決して恥ではないことを覚えていてもらいたい。誰であろうと、その時が来れば悩むものだ。それが何に関してかは人それぞれであろうが、それでも共通していることがある。

 それは、悩みとは決して乗り越えられないものではないということだ。そして、乗り越えたからといって、その先に何かがあるわけではないということだ」


 理事長の言葉に新入生たちは、若干の戸惑いを見せる。

 言葉の真意がわからないのだ。ただ脅しているように聞こえるが、入学式でそんな行為だけをするのも考えにくい。

 礼仁はそんなことを考えてはいなかったが、皆とは別の意味で理事長の言葉に考えさせられていた。


(将来……ね。あの頃は、僕も結構無邪気だったなぁ)


 将来について、礼仁には一種の悩みがある。そして、それは理事長が言ったように、解決したからといって何かがあるものでもない。

 なんとも面倒な悩みだ、と礼仁は思っていた。


「諸君には理解してもらいたい。

 私が今言った二つのことは、意識すれば難しいことだが、無意識では諸君はわかっているはずだ。そして、そのことを意識せずに体験してきたはずだ。

 今まではそれでよかった。

 しかし、これから生きていくうえで、通らなければならない道もある。その道は、険しいものもあれば、緩やかなものもあるだろう。私が諸君に伝えたいのは、その道をずっと歩き続けろ、ということだ。

 たとえ苦しくとも、たとえツラくとも、歩き続けてほしい。歩かなければどうにもならない。歩き続けることこそが、道の先を見つける唯一の方法なのだから。

 これで以上だ。改めて、新入生の諸君、入学おめでとう」


 そう言って翠が壇上で礼をすると、新入生たちから拍手が沸き起こった。

 今の翠の言葉を完全に理解しきるのは、なかなかに難しいことではあったが、感覚でわかるものもあった。

 今はそれが一番大事なように思えたからこそ、形式だけではない拍手が起きているのだ。


「次に、新入生あいさつ。新入生代表、アリサ・コルフォルン」


「はい」


 返事と同時に立ち上がったのは、長い銀髪を持つ少女だった。

 その少女が壇上に向かっていく様は、気品のようなものにあふれ、新入生たちの間に翠の時とは別のどよめきが起きていた。

 礼仁も実際に見るのは初めてだったが、雰囲気で何となくわかった。

 この少女が、サルイ王国の第一王女なのだと。


 ざわめきの中、壇上に上った少女はマイクの前に立ち、その目に光る紫色の瞳を向け、そして、言った。


「この学園に入学し、首席としてここに立っていることに、私は誇りを持っています。一国の王女である私は、誰よりも強くあらねばならないと思っていますから。

 私はこの学園で三年間過ごすことになるわけですが、学生生活を始める前に、ここで一つだけ、宣言したいことがあります。

 それは、私はこの学園で一番強くなり、いつか帰国の際に、胸を張って祖国の地を踏みたいのです。そのためであるならば、ここにいる全ての人を敵に回しても構いません」


 その発言は、またしてもどよめきを生んだ。

 普段は冷静にふるまっている雪野ですら、頭の中に怒りが込み上げてきた。

 今の発言に対して、多くの人が思っただろう。

 馬鹿にするな、と。

 いくら一国の王女だからといって、言っていいことと悪いことがあると雪野は思った。

 それに入学式の前に、あれだけ戦いたいと思っていた相手がここまで言うとは思っていなかったので、怒りと同時に、先を越されたというような残念な気持ちもあった。


 そんな風に雪野が気持ちを揺らしている一方で、礼仁の方は込み上げてくる笑いを抑えるので精一杯だった。

 礼仁がおかしいのは発言ではなく、この状況だった。

 日本の学校であるのに、首席が日本人ではなく外国人。さらに、日本人はその首席に言われたい放題。客観的にみると、馬鹿々々しく思えてくる。

 礼仁がこの状況を客観的に見ている訳は、ただ単に、この中でだれが一番強いとかいうことには一切興味がないからである。


 そんな礼仁の様子に気づいたのか、隣に座る雪野が礼仁の方に顔を向けた。


「何がおかしいんですか?」


「別に、お前も大変だなって思っただけ」


「どういう意味ですか?」


「さてね」


 礼仁は雪野の質問に肩を竦めて誤魔化した。

 そして、ざわめきが収まらない中、少女はさらに言葉を重ねた。


「私はそれだけの覚悟を持ってここに来ています。そう簡単に勝てると思わないでください。

 以上です。新入生代表、アリサ・コルフォルン」


 壇上で一礼してから席に戻る様は、さすがに王族ということで見事なものだったが、周りの新入生は明らかに彼女を避けていた。

 礼仁にとっては、その状況はどうでもよかったのだが、最後の発言に関しては思うところがあり、ぼそりと言っていた。


「大きな覚悟がある人が勝つなんて、頭の中はお花畑なのかね」


 その言葉は新入生たちのざわめきにかき消され、誰も聞くことがなかった。

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