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魔法学園の特異学生  作者: 二一京日
第1部 千変万化編
20/29

19話 支部長からの仕事

日間ローファンタジーランキングで二位に入れました。ありがとうございます。

 朝食も終わり、そのまま学園へと向かおうとしたところで、礼仁の携帯にメールが届いた。


「……妃奈子さんか。あんまりいい予感はしないかな」


「その発想は……まぁ、仕方ないですけど……」


 以前のアリサとユリアが連盟の情報を仕入れた時の連絡があるために、些か怖い部分がある。

 それに、もう一つ礼仁が妃奈子に対して緊張するところがあった。


「さて、今回は私用か、それとも支部長補佐としての連絡か……」


「妃奈子さんが私用で連絡というのも、それはまた恐ろしいですね」


「言われてみれば……」


 世界ランキング五位の先覚者が私用があると言ったら、それだけで十分に緊張の要素に入る。そんな人と会うのは、やはり公的な場の方がむしろ気が休まるというものだ。


「あぁ、これは後者かな?それもよくわからないやつ」


「よくわからない?」


 首を傾げる雪野に、礼仁は妃奈子から受け取ったメールの文面を見せる。


『今から登校だろうけど、このメールを確認したら、すぐに日本支部に来てほしいの。ちなみに、これはお願いではなく、ほとんど命令。翠ちゃんにはこっちから連絡しておくから、遅刻しても心配しなくてもいいよ。それでは、大至急よろしく』


「……理事長のことを翠ちゃんって……それに大至急って、いろいろありますね」


「妃奈子さんは理事長とは学生時代、同級生だったみたいだからね、その関係でしょ。大至急の方は、もう諦めるしかないかな?」


「それでは、行きますか?」


「仕方ないけど……」


 礼仁はどっと疲れを感じながらも手を差し出し、雪野がその手を握り、転移する。


 一瞬で日本支部まで着いた。とはいえ、支部の人間であっても礼仁のことを知らない人は当然いるので、そのままロビーに転移するわけにもいかなかった。

 幸い、こういう時のために裏口を用意してあるそうだから、礼仁たちはそこに到着したわけなのだが。


(絶対、この時のためじゃないだろうに……)


 着いた直後、裏口の戸が開き、そこから妃奈子と琴音が現れた。


「ちゃんと来たみたいね。あなたのことだから、色々と理由を付けて逃げることも考えていたんだけど」


「命令とか大至急とかあったんですけど、それですっぽかすほど僕は神経太くないです。特にあなたに言われたらね」


「支部長補佐の肩書がなかなか効いてるわけね。実際、この役職って礼仁君のために作られたとも言われてるんだけど」


「それ本当ですか?」


「さぁ、どうだろうね。ただ、そんな地位に私がいることで、礼仁君に対して日本支部が優位に立っているということはあるからね」


「それ、なかなかに悪質ですね」


 礼仁は妃奈子に対しては、役職以前に、彼女個人に対しても頭が上がらない。

 だからこそ、支部長補佐という肩書は妃奈子が持てば鬼に金棒ということだ。特に礼仁に対して。


「じゃあ、ひとまず、支部長の執務室まで移動しようか。雪野ちゃん、許可は出てるからそこまで転移して。もちろん、私と琴音ちゃんを含めて」


「わかりました」


 雪野はいつもは個人に対して発動する転移を、今度は領域に作用させて、礼仁、妃奈子、琴音を含めて四人全員を一気に転移させた。


「おっと……大丈夫、琴音ちゃん?」


「……んっ」


 礼仁はもう慣れてしまっているが、なかなか体験する機会がない妃奈子と琴音は転移直後に少しバランスを崩したようだ。


「おぉ、来たか。直接顔を合わせるのはいつ振りか。二カ月くらいは経ったか?」


 執務室のイスに深く腰掛ける一人の男性。年齢は七十ほどで、名前は天童厳太郎。世界先覚者連盟日本支部の現支部長だ。


「そうですね。入学前に顔を合わせたのが最後です。そちらとしては、一週間前の尋問の時モニターで見ていたでしょうから、そちらが僕の顔を見るのは一週間ぶりということになりますね、厳さん」


「そう責められても困るぞ。あれも仕事だ」


「別に責めてません。言葉の裏を取らずに、言葉通りに表だけを見れば、そんなことを僕が言っていないのは明らかなはずです」


「はははっ、それは無理だ。支部長という役職についているから、そうした言葉の裏を読む方が圧倒的に多くてね。特に、君の場合は裏を読むことが多い。いまさら表だけ見ろと言うのも、私には無理なことだ」


 礼仁は無駄話はこれくらいにして、そろそろ本題に入るくらいが良いと思った。


「それで、どうして呼び出されたんですか?テロリストの件なら、もう必要ないはずでしょう?」


「まぁ、そうだな。だが、事は別件だ。とは言っても、君にとっては些事かもしれないがな」


「些事ならもう帰っていいですかね?」


「待った待った!言葉の綾だ。少しだけ面倒なことだ」


「少しだけなら大至急ではないと思うのですが……いいですよ。それで、一体どんな『些事』ですか?」


「そこを強調するのか?相変わらずだな。それで、君はアイドルとか興味あるか?」


「は?」


 礼仁は厳太郎の言うことがよくわからなかった。


「あの、もう一回言ってもらっていいですか?」


「アイドルに興味はないか?」


「…………ふざけてるわけじゃないんですよね?」


「それはもちろん」


 厳太郎がきっぱりとそういうものだから、礼仁としてもその話を聞く必要が出てきた。


「一応聞きますけど、僕を指名するんだったら、妃奈子さんでも問題ないはずですよね?それはどうして?」


「簡単な話だ。彼女には別の仕事がある。危険度で言えば君よりも上だから、これでも考えたのだがね」


 危険度が上、とそう言われてしまうと、礼仁はそれに反対することができなくなった。むしろ、そこを考えてくれていることに感謝して、わざわざ礼仁に充てなくてはならないという状況が、事の重要性を物語っていた。


「……そのアイドルに関しての仕事は、僕の体がもつ範囲のことですか?」


「その辺のことは考えている。おそらく大丈夫だろう」


「……なら、了解です。内容について教えてください」


「ありがとう、受けてくれて。今回の仕事は、敵の撃退ということになるね」


「撃退、ですか。てっきり護衛かと思ったんですが、そうではないんですね」


「あぁ。護衛に関してはこちらで人員を確保しているから、君と雪野は、襲ってくる奴らを撃退、可能なら捉えてくれ。それも無理なら、せめて何らかの情報を、ということだ」


「なるほど。そういう趣旨ですか」


 礼仁は自分の役割を理解した。それに雪野もいるのだから、追跡の面ではかなりのアドバンテージになる。そう考えると、護衛よりも合っているというのは確かだ。

 礼仁も一応は、どんな状況でも対応はできるため、了承はしやすい。


「その狙われる相手というのは、一体?」


「アイドルグループ『フラワーシスターズ』のメンバー、波城桃花だ。資料がこれだ」


 厳太郎が差し出してきた資料を手に取り、礼仁は雪野とともにそれに目を通す。

 そこには長い茶髪に大きな瞳を持つ少女の写真があった。

 ただ、それを美少女と呼ぶのかは礼仁の鈍感な感性では判断できないところだ。


「彼女が今回狙われる対象だ。その目的はまだわからないが、犯行声明が送られてきたんだ。下の方にその写真も載せているだろう?」


「あぁ、これですか。確かに誘拐の犯行声明に見えますけど、でも、少しおかしくないですか?」


「あぁ、おかしいな。私もそこには気付いた。誘拐なんてことをするのに、犯行予告だ。これはいかにも変だ。確実に行動を起こすなら、何も言わずに警備が厳重になっていないときにするものだ。警察はこれを熱狂的なファンの仕業と見ているが、私にはそうは思えない」


「この文面が、あまりにも冷静だから、ですか?」


「そうだ」


『今週の土曜日のコンサート日、アイドルグループ・フラワーシスターズの波城桃花を誘拐させていただく』


 このように、必要な情報だけしか書いておらず、どこにも感情的なものが見えない。


「熱狂的でないということなら、誇示、という意味合いも出てきますよね。これで成功したら自分を誇れる、みたいに」


「そちらの方が可能性は高いな。私の方からそういうことは言っておく。ただのファンと思って当たっていては、本当に敵だった場合に対処できないからな」


「それもそうですね。この波城桃花、は何か誘拐されるような理由でも?」


「それは全くわからん。何しろ情報がない。その犯行予告にも、犯人に繋がるような証拠はなかったようだしな」


「そうですか。それならそれでいいです。その手のことは、専門分野じゃありませんからね」


「専門分野でなくてもできるだろうね、君なら」


「やりませんよ、絶対。これ以上は面倒です」


「そう言うと思ったよ」


 厳太郎は一つ息を吐くと、表情を引き締めた。

 それと同時に、場の空気が締まる。


「礼仁、今回のことで君が無理をする必要はない。ただ、必要最低限だけでいい。それ以上は望まないさ。君に死なれては、私も困る」


「わかりました。やりすぎないようにします。無理もしないようにしましょう。最低限のことはやりますけどね」


「それでいい。雪野、君がしっかりとストッパーをやれ。礼仁が興味に走らないようにな」


「わかりました。注意します」


 こうして、礼仁と雪野は連盟から直々に仕事を受けることになった。

 わざわざ支部長からの命令ということで、礼仁は少しばかり緊張しているところはあった。

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