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魔法学園の特異学生  作者: 二一京日
第1部 千変万化編
2/29

1話 桜の下の二人

主人公の名前は、神部礼二です

この読みは、カミトモ レイジ です。

名前の方は大丈夫かと思いますが、名字の方が間違いやすいかもしれないので、お気を付けください。

 つい最近まで雨続きだったのがウソのように晴れた空とともに、今日満開を迎えた桜の花びらが舞い散る道を、神部(かみとも)礼仁と揚羽雪野は二人で歩いていた。

 周囲には他にも新入生と思われる人たちが、皆それぞれ歩いていた。

 ほとんどの人が期待に胸を躍らせているであろうが、その一方で、今日の入学式を面倒くさいと思っている生徒もいた。

 その生徒の一人が礼仁だった。


「レイさん、学校にまだ着いていないのに、もうそんなに興味なさそうな顔をしてるんですか?」


 ただ学校に向かって歩いていただけの礼仁を見かねて、隣で歩いていた雪野が、礼仁の顔を覗き込みながら言った。


「興味なさそうじゃなくて、実際に興味がないんだけどね」


 淡々とした返答をする礼仁に、雪野はできるだけ明るい声で返す。


「そんなこと言わないでくださいよ。せっかくの高校生活なんですよ。一生に一度しかないこの三年、少しは学生らしいことを楽しみましょうよ」


「それをお前が言うのは、なんか変な感じがするな」


「それはそうかもですけど……。私としては、レイさんが青春を謳歌してくれれば、私も学生らしいことができるんじゃないかと思うんですよね」


「僕にそれを求めるのは少し間違ってるんじゃないかな」


 礼仁が少し自虐的な意味を込めながら笑うと、雪野は不満そうにする。。


「そんなことでどうするんですか?私は言いましたよね?一生に一度の三年間だって。レイさんがどう思っているのかはわかりませんが、一生に一度というのは、やり直すことができないんですよ」


「さすがに、それがわからないわけじゃないんだけどね」


 雪野の馬鹿にしているような言い方に、礼仁は特に腹を立てるでもなく、困ったような表情で言った。


「わかっているのなら、そんな顔をしないでくださいよ。華やかな気分が盛り下がってしまいます」


「そう言われてもね、僕のこの空気はそうそう変わんないと思うけど」


「変わるかどうかではなく、変えようと思うことが重要なんです」


「なんかどこかで聞きそうなフレーズだね」


 雪野の懸命な明るい調子でも、礼仁の気分は上がらないままだった。

 雪野も本気で礼仁の気分をあげられるとは思っていなかったので、少し残念そうな表情をしただけで、これ以上は何か文句をつける気にもならなかった。

 ただ、やはり少し気になって、隣で歩く礼仁の顔をちらりと見た。

 その様子は先ほどと変わっておらず、新しい学校にワクワクするといった明るい気分とは全然違うものだった。

 学校に行くのが嫌というわけではないだろうが、気乗りしないのは間違いない。

 礼仁の灰色の髪も、今の彼の雰囲気と合わせると、薄汚れた色に見えてしまう。

 雪野はその髪の訳を知っているだけに、どうにも複雑な気持ちだった。


(それなのに、なんであの人は……)


 雪野の頭の中に、礼仁を学校に行かせた人に対する恨み言が、次々と浮かんできた。

 しかし、その一方で、雪野はこれを好機ともとらえていた。

 礼仁は基本的に人と積極的に関わるようなことはしないが、それに反して、立場上の理由で様々な人と交流がある。

 それらはどれも重要な関係ではあるのだが、友人関係と呼べるものは何一つなかった。

 あえて言うなら、雪野とは友人関係ではあるが、他の関係でもあるため完全に対等であるとは言い難い。

 そもそも、雪野が礼仁に対して明らかな尊敬の意を示しているがゆえに、こういうことになっているのだが。

 結局、礼仁と完全に対等な友人関係を築ける人間はあまりいない、と雪野は思っている。

 それでも、高校という未成熟な人間同士が集まるところでは、もしかしたら雪野が望んでいる存在がいるかもしれない。そんな淡い期待を込めて、雪野は今、礼仁と一緒に歩いている。


「あ、そういえば、今年の新入生には王女がいるんですよね」


 思い出したように言った雪野は、今までの暗い考え事を払うかのように、明るい表情をしていた。


「確かそんなことを言っていたね。どこの国だったっけ?」


 雪野は礼仁の反応から、礼仁がある程度興味を持っていることを察し、そのまま話を続けた。


「サルイ王国です。数十年前に独立した小国ですけど、その王族はとても強い能力を持っているらしいですよ」


「あぁ、そんな話だったね。よく覚えてるもんだね。僕なんかそんな国があったことすら忘れてた」


「まぁ、レイさんは興味がないことに関しては、何もしようとはしませんからね」


「そうでもないと思うけどね、自分では」


「人から見た評価というものもあります。レイさんは人間性に関しては、その評価が低いですよね」


 雪野のたまに出る容赦のない言い様に礼仁は少しがっくりとくるが、それはやはり間違ってはいないので、特に反論することはしなかった。


「それは、まぁ、ひとまず置いておくとして、雪野はその王女に興味があるの?」


 雪野は礼仁が珍しく問いかけてくれたことに、一瞬感激しそうだったが、礼仁の言うことにはすぐに答えたい雪野だ。


「そうですね、興味はあります。王女だからというのも、無きにしも非ずというところですが、どちらかというと、私と同程度の実力を持っているからでしょうか」


「なるほど。同じAランクなんだ」


「そうです。Aランクなんて、日本にはせいぜい五人ほどしかいないでしょう?」


「正確には七人」


「その七人しかいないんですから、他のAランクと会うことなんてそうそうないです」


「一応、会ってはいると思うけど」


雪野は、礼仁の言うことに苦笑いして答えた。


「それはそうですけど、私が言いたいのは、そういうことじゃないんです」


「わかってるよ。要は、自分の知らないAランクに会うことが楽しみなんでしょ」


「その通りです。この気持ちは、他の人にはそうそうわかりませんよ」


 雪野が楽しそうに話すのを見て、礼仁は思わず笑みを浮かべていた。

 それは些細な変化だったが、雪野はそれに気付き、心の中でガッツポーズをしていた。

 別に勝ち負けというわけではないが、それでも何となく、達成感とは違う一種の高揚感があった。


「レイさんもこの気持ち、わかりますか?」


「いや、僕は強い人とか、そこまで興味がないからね。他の人がどうとかはどうでもいいし、ましてや、自分と同じくらいの力といって興奮するわけでもないから」


「興奮って、他に何か言い方ありませんかね。なんか、やらしい感じがするんですけど」


「そう?まぁ、そんなのどうでもいいでしょ。何か損するわけでもあるまいし」


「そういう問題じゃないと思うんですけどね」


「僕はそういう問題だと思うけどね」


 雪野は礼仁のこういう楽観的なところにかなり振り回されているが、さすがに慣れているので、そのことに何かを思うこともなく、そういうものだと受け入れている。

 そして、受け入れているからこそ、毎回毎回へこたれることも、起き上がるのに時間がかかることもない。


「話を戻しますけど、レイさんとは違って、私はその王女のことが楽しみなんです」


「へぇ、お前がそう言うなら何も言わないけど、楽しみだからって、それでどうするの?」


 雪野は少しも考える素振りを見せることなく、即答した。


「もちろん、戦います」


「やっぱそうなるか」


「当然ですよ。それが一番手っ取り早いですし、優劣もはっきりします」


「優劣があることが前提なのか」


 雪野のあふれんばかりの自信に、礼仁は何か乗り物酔いのような感覚に陥り、一瞬だけ視界が揺らいだ。


「大丈夫ですか?」


「問題ない。もう大丈夫」


「そうですか」


 心配そうにのぞき込む雪野を見ると、礼仁はこちらが悪いように思えてしまう。

 いや、そもそも雪野は悪くないのだが、どうにも自分に非があると認めることもできない。こうもやもやするのも、今日から始まる、礼仁にとっては面倒くさいことでしかない高校生活のせいに思えてくる。


「お前がどうするかは勝手だけど、あまり僕に火の粉がかからないようにしてね。あまり多くの人とは関わりたくないし」


「そうですね。友達は選べって、よく言いますもんね」


「いや、別に友だちが欲しいとかは思ってないんだけど」


「そう言うとは思っていましたけど、あまりそんなこと言っちゃだめですよ。他の人からしたら、今の発言はイラつくだけの発言ですから」


「わかってるよ。こんなのお前にしか言わないし」


「えっと、気を許してくれているのはうれしいですけど、友達が欲しくないって、私が言われるのは少し複雑な気持ちなんですが」


 雪野は困ったような表情をするが、その中には礼仁に対する信頼のようなものがあり、意外と悪い気はしていないようだ。


 そんなこんなで話をしていたら、急に一陣の風が吹いた。

 礼仁は突然の風に目を細め、雪野は風に揺れる長い黒髪を手で押さえる。

 その風はすぐに止み、二人とも正面に視線を戻すと、目的地は目の前にあった。二人で話しながら歩いていたら、いつの間にか着いていたようだ。


「なかなかに面倒くさいけど、行くしかないのか」


 やはり嫌なのか、ローテンションのまま礼仁は言った。

 それに対して、雪野は礼仁を励ますかのように、または慰めるかのように言った。


「そうです。もうあきらめてください。あの人の敷いたレールの上を歩いてしまっているんですから、そうそう出し抜けるものでもないですよ。今回は相手が悪かったってことで、三年間頑張りましょう。それに私はレイさんと同じ学校に行けることを、結構楽しみにしてたんですよ。ですからここは私のためと思って、もう一度言いますが、あきらめてください」


 にっこりと笑みを浮かべたままそんなことを言うものだから、礼仁もあきらめるしかなかった。それに雪野のためと思えば、特に腹が立つこともなかった。


「そうだね。それじゃ、適当にやってみますか。高校生活ってやつを」


 礼仁と雪野は二人一緒に、今日から通う高校、私立神坂学園の門をくぐった。

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