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魔法学園の特異学生  作者: 二一京日
第1部 千変万化編
15/29

14話 面倒の再開

今回は少し短めです。

 礼仁としては元々、今日という日は何でもない高校生活の一日のつもりだった。しかし、想定外のことが起こり、自分が予想外の動きを取り、また、周りも予想外に動いたことで、礼仁の頭はまだ収拾を付けている最中だった。


 そんな様子の礼仁の後ろからついて来ている雪野は、先ほどの医務室とは違ってかなり上機嫌に見えた。

 収拾を付けている最中でも、さすがに気になった礼仁が問いかけた。


「なんか嬉しそうに見えるのは、僕の見間違いかな?」


 なんともまぁ、独特な聞き方ではあるが、雪野はその変則投球にもきちんと返して見せた。


「いえ、間違いではないと思います」


「思いますって、お前にしては珍しく、自分のことに確信がないのか?」


「そうですね、レイさんの言う通り、確信はないかもしれないです。ですが、直観のようなものがあるんですよ。こう、ビビっと来るような」


 手でジェスチャーを交えて言う様子で、言葉の意味自体はわかるのだが、その内容が見えてこなかった。


「それで、そのビビっと来る直観はどういうもの?」


「そうですね……」


 雪野は少し嫌そうな顔をして一呼吸置くと、意を決したように言った。


「あのアリサ・コルフォルンというお姫様、なかなかにいい感じです」


「…………そう」


 雪野の言い方で、礼仁は全てを察した。

 あれだけ嫌悪感をあらわにしながらも言ったということは、つまりはある程度は認めるということなのだろう。


              ☆


 医務室の先生から説明を受け、寮に帰ってすぐに休むように言われて帰路についたのは、礼仁たちが出て行ってから三十分ほど経った後だった。


「明日には連盟の取り調べかぁ。面倒ねぇ」


「それを姫が言いますか?完全に私たちの自業自得ですよ」


「それはそうだけど。ていうか、神部くんは取り調べはいいのかしら?状況は違えど、私たちと似たようなものでしょ?」


「ふふっ」


 アリサは突然笑ったユリアに視線を向けた。


「何かおかしなこと言った?」


「いえ。ただ、ちゃんと名前を呼びましたね、名字ですけど」


 それで何を言っているか理解し、急に指摘されたことでアリサは恥ずかしくなって、頬を少し赤らめた。


「別にいいじゃない、呼んでも。これだけ接点持てば、いくらか繋がりみたいなものを感じてもいいでしょ」


 口を尖らせて言うアリサに、ユリアは意地の悪い笑みを浮かべて言った。


「ちゃんと素直に、友情って言葉を使ってもいいんですよ」


「なっ!?そこまで言ってないじゃない!」


「そうですか?礼仁さんにそれなりの興味はあるんでしょう?」


「うぅ~、そういう言い方は……別に、友情とかいう興味はないわよ」


「では、他の部分で興味がおありなんですか?」


 すると、若干赤らめていた顔が真剣な表情に変わり、ユリアもおちょくるような雰囲気ではないことを察した。


「彼、よくわからないわ。私もいろんな人に会ってきたけど、彼のようなタイプは初めてよ」


「そうですね。世界中にはいろんな人がいますから、会ったことのないタイプがいてもおかしくはないで

すが…………姫の言いたいこともわかりますよ」


「でしょ?」


 同意したユリアに礼仁に対する疑問の表情を向けるが、ユリアは何となく気にしていないような顔だった。


「ですが、そういう人がいてもいいではありませんか。結局は人なので、様々な種類の人がいてもいいわけですよ」


「それはそうかもだけど…………何か納得できない」


「では、これから知っていけばいいではありませんか。姫の言うように繋がりのようなものがあるのなら、これから先も、何度か機会はあるでしょうから」


「そう、ね。今考えても仕方のないことね」


 ユリアの言ったことで納得したアリサは、些かの疑問を残しながらもすっきりとした気分になった。

 が、不意に気づいた。


「ねぇ、ユリア、さっき『礼仁さん』って言ってなかった?」


「言いましたが、何か?」


「一体いつから名前を呼ぶようになってたのよ?」


「あちらも私のことを名前で呼びますよ?」


「一体いつから名前を呼び合うようになったのよ!」


 怒気を孕んだ言い様に、ユリアの中の意地悪センサーが反応し、笑みを作りながら答えた。


「さて、いつからでしょうねぇ~」


 明らかにはぐらかす言い方に、アリサは何としても問い詰めようと必死になった。

 その質問攻めは寮に帰ってからも続いたらしく、寮の同室であるアリサに言われ続けるのに耐えかねて、先にギブアップしたのは珍しいことにユリアの方だった。

 どうでもいいことをそこまで隠して意地悪するユリアもそうだが、いつまでもいつまでも問い質す執念はなかなか辟易とするもので、ある意味すごかった。


              ☆


 学校への登校。

 先日の襲撃が嘘のような穏やかさを持った今日、高校生活真っただ中の生徒たちが登校して行く。

 礼仁と雪野も、変わらずの様子だった。


「それにしても、着ていただいて感謝です」


 雪野が満面の笑みで喜んでいるのは、今日の礼仁の服装だった。

 制服を着てはいるのだが、一つだけ決定的に違うところがある。それはブレザーではなく雪野に買ってもらったパーカーを着ているということだった。


「まぁ、事故でこうして着ることになったけどね」


 礼仁が肩を落として言う事故とは、今朝のことである。


 ブレザーをクローゼットから取り出そうとした時に、何の偶然か何かに引っ掛かり、それを強引に引っ張ったがゆえにブレザーが破れてしまったのだ。

 中を覗いて見たら見えにくいところに釘が飛び出ていて、がっくりときてしまった。

 ブレザーは着れなくもなかったのだが、さすがに破けたブレザーを着るほど鈍感でもない礼仁は、視界に入ったパーカーをちょうどいいと思い、それを着ることにしたのだ。


「事故でもこうして着ているところを見れたのは、私にとっては…………どう言えばいいんでしょう?」


 さすがに礼仁に面と向かって、良いことだなどと言えるわけもない雪野は礼仁に聞くが、礼仁は特に気にした様子もなく返事をする。


「お前にとっては良いことなんでしょ?だったらそれでいいよ」


「そうですか」


 服の話はそこで終わったようで、しばらくの沈黙の中歩いていると、いつものように雪野が再び話題を出した。


「そういえば、始まって間もないですが、学校生活はどうですか?」


「……まぁ、今のところは退屈してない。特別面白いということもないけど」


「先日のは面白い部類に入らないんですか?」


「逆に聞くけど、あれを学校生活の一部に組み込んでもいの?」


「それは……そうかもしれないですね」


「そうだよ。あれは完全なイレギュラーなんだから、あれを含めるのは違うよね」


「ですが、それを抜きにしても退屈はしていないんですよね?」


「まぁね」


 入ったばかりで退屈しようにもできないというのが正しい答えなのだが、ここでそれを言うのは野暮のような気がしたので言わなかった。


「それはいいスタートってことですかね」


 今度は疑問というより確認に近い言い方だった。


「どうだろうね。スタートにそこまでの違いは……まぁ、出てる人はいるけど」


 礼仁の頭の中には、入学式で新入生全員に宣戦布告した人の顔が浮かんでいた。


(あれは衝撃のスタートだな)


 アリーナで自分がやったことも衝撃のスタートであることを棚に上げる礼仁だった。


「でも、これからの長い長い三年間、どうにかして過ごしてくわけだね」


「長い長いという表現は、正しいんですかねぇ?」


 ユリアと似た意地悪そうな笑みを浮かべる雪野に対して、礼仁は少し視線を向けるだけで何も言わずに歩いていく。

 客観的に見れば雪野が無視された形になるが、礼仁はただ答えに困っただけで、雪野もそれを理解しているため、二人にとっては別にこれでもよかった。


「表現はさておき、事情聴取が面倒だな」


「いきなりの話題転換ですけど、それには同意で同情です」


「あぁ、それを言われると現実が見えてきちゃうから、同情するなら心の中だけにしてくれると助かる」


「わかりました。心の中でしっかりと同情しておきますね」


「………………まぁ、いいか」


「いいんですか!?」


 礼仁は心の中でどう思われようが、わからなければどうしようもないと割り切っているので、雪野が同情しようがどうでもよかった。

 雪野も礼仁のスタンスは理解していたが、さすがに心構えをしていなかったのか目一杯驚いた。


「とりあえず、事情聴取のことは頭の片隅にでも置いておけばいいことかな。今は高校生活に馴染まないとだし」


「そうですね。私も支えますんで、頑張ってください」


「わかってる」


 二人はこれから数えきれないほど通るであろう校門を、他の生徒たちと一緒に通る。


「さて、面倒な一日の始まりだ」


 明らかに景気の悪そうな声で言う礼仁は、雪野と一緒にゆっくりと校舎へと進んでいった。

書き溜めは一応ここまでで、これからは不定期になりそうです。

ご了承ください。

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