11話 リベンジマッチ
建物の中に入ると外観通りに薄暗くなっており、まだ昼だというのにもう夕方のように感じられた。
魔力が感じられる階に上がり、アリサが先に進み、ユリアがそれに続く。
ユリアは自分が先に入ると主張していたが、アリサが頑なにそれを拒んだ。
アリサの方がユリアより攻撃力の高い魔法を使うので、咄嗟の時のために、アリサの視界をふさぐ物がない方がいいのだ。そのことをユリアもわかっているため、アリサが言えば、そうせざるを得なかった。その一方で、アリサはちゃんと後ろのことはユリアに任せている。
恐る恐ると進む二人は、いつどこから敵が現れるかわからない緊張感の中にいたが、その緊張は杞憂に終わった。
「連盟の奴らが来ると思ってたんだがなぁ、まさかお前らが先とは思ってなかったなぁ」
忌々しい声に、二人は揃って顔をしかめる。
「やはり、お前がいたのね。まさか、連盟を待ち構えるのに、たった一人でいるとは思ってなかったけど」
魔力の気配から、この建物から感じる気配はこの男だけであることを確認すると、アリサは容赦なく敵意を向けた。
「連盟の人が来る前に、さっさと終わらせてしまうとするわ」
アリサは右手に<炎帝の神剣>を出現させ、それと同時にユリアも<ファングソード>を出現させる。
「大した自信じゃねぇか。二日前に負けたばっかだってのに、よくもまぁ、そこまで言えたもんだ。俺の能力が何かもわかってないくせによぉ」
「あなたの能力はわかっていますよ」
余裕な様子を見せる男に、ユリアは即答して返した。
「ほう?面白れぇじゃねぇか。てことは、ちゃんと対策を立ててきたってことか?」
「当然じゃない」
「あんなに怯えていた姫さんも言うようになったじゃねぇか。じゃあ、お前らの準備してきたことをやってみろ。この俺が採点してやるよ」
男は前回とは違い、最初からデバイスを使ってきた。
その手元に光るは、漆黒の剣。
その得体の知れなさは男の空気と同様で、二人にひしひしと伝わってきた。
薄暗い空気の中、両者はすぐに動くことはなかった。
男の方は余裕の表れか、ただ剣をだらんと下げているだけだったが、アリサとユリアは警戒を高めていた。一度は負けた相手なのだということを自覚し、剣の切っ先を男に向ける。
沈黙が空間に漂っていた一瞬、アリサとユリアが先に動いた。
アリサはその大剣を地面に突き立て、ユリアは標的である男に切っ先を向けたまま、魔力を高める。
「<炎の天雨>」
「<風霊の舞>」
アリサは炎の矢を生成し、ユリアはその火力を上昇させる。
ただ、いつものように背後に出したわけではない。
男を中心にして、全方位を囲むように矢が生成されている。
「前と同じようなやり方だな。一直線か全方位かの違いだけで、数で押すやり方に変わりはないか」
「数じゃないわよ。数と威力で押すのよ!」
アリサはその言葉と同時に、炎の矢を射出する。
しかし、全てではない。
数段に分かれているうちの、一段目を男に向けて発射した。
「<変換・空気>」
男は特に苦労する様子もなく、以前と同じように、空気を窒素に変換することで防いだ。
炎の矢は男に届くことなく消え失せ、破壊が起こることもなかった。
「前と同じじゃ拍子抜けだぞ」
男が苛立ちを込めて言うが、アリサは気にすることなく次の段の矢をすかさず射出する。
再び来る矢を前にしても、男は冷静に同じように防ぐ。
「<変換・空気>」
周囲の空気を再び窒素へと変換し、炎の矢を完全に消しきる。
そのはずだった。
「っ!?」
男は本能が鳴らす警報に従い、すぐさまその場から退避した。
すると、今まで男が立っていた場所に、窒素の壁をすり抜けて、無数の矢が突き刺さり、今度こそ破壊をもたらした。
一本一本は細い矢ではあっても、Aランクの魔力は伊達ではなく、その場所に大きな穴を開けた。その場に留まっていたら、重傷は免れなかっただろう。
そのことにひとまず安堵した男は、アリサから離れた場所に着地した。
遠距離から攻められるアリサに意味がある行為とは言えないが、久々の感覚に、男は仕切り直しと気持ちの整理を含めて、足を止めた。
しかし、そんな暇はなかった。
背後から切り付けられるような感覚が襲い、宙に鮮血が舞った。
男の背後の空間には、うっすらと数本の線が血に縁取られて見える。全部で三本。振り返ると、男にはそれが見えた。
そして、自分からは見えないが、痛みの感じからすると、自分の背中にも三つの傷跡ができていることが分かった。
理解ができなかった。
誰がやったのかはわかっていた。ユリアに間違いない。
だが、その前の防げなかった炎の矢と合わせても、理解が進まない。頭が働かない。ただ、自分が相手の思惑通りに動いていることがわかってしまう。
男は頭で考えるのを止め、悔しそうな顔で自分にこんな傷を負わせた少女たちに問いかけた。
「お前ら、一体何をした?」
アリサとユリアは驚いたような顔をしていた。男の質問にではなく、この状況にではあるが。
「彼の言う通りだったね」
「はい。でもまさか、ここまでになるとは予想以上です。見直しましたよ」
「えぇ、評価を改めなくてはね」
二人して納得したように話す様子に、男は苛立ちを募らせた。
「だから、お前らは何をしたんだよ!!」
「あなたの弱点を突かせてもらっただけよ。まぁ、人に教わったんだけどね」
アリサが肩を竦めて話した。
そして、ユリアは礼仁が言っていたことを思い出す。
☆
「あの男の能力についてはわかりました。ですが、それについての対処法は?」
首を傾げるユリアの前で、礼仁はオムライスを食べていた。
「残念ながら、私には特に思いつきません。どんなことを考えても、物質を変換する力の前では勝てるイメージが出てきません」
「君は、あいつの能力を過大評価しすぎ」
「そうでしょうか?」
「そう。こう言っちゃ悪いけど、実際に戦った君たちより、魔法を使って調べた僕の方が詳しいよ」
「反論のしようがありません」
がくりと項垂れるユリアに、礼仁は話を続ける。
「あいつの能力は、たしかに物質を別の物質へ変換する力だけど、万能というわけじゃない。
まず一つは、あの力はそれほど遠距離の物質を変換することができないということ。よくて半径十五メートルってところ。それよりも離れた場所に対しては、何もできない。
そして、二つ目、これは常識的なことではあるから意識しづらいんだけど、この世界には強力な修正力が働いているということ。昨日、雪野が使った空間の一部を切り取って剣にする魔法、あれは雪野が制御を手放せば、すぐに元のように空間が戻る。あの魔法で切り取る空間はごく微量で、世界に対する影響は少ないのだけれど、それでも魔法で強制的に変換されたものは、どれだけ小さな事であっても修正される。君やお姫さんみたいな自然干渉系はそれが少ないと言われているけど、あの男は違う。こう言っては気の毒だけど、あの男の使う魔法は特に修正されやすい。だからこそ、そこが狙い目なんだけど」
「狙い目、とは?」
「うーん、例えば、全力で走っているとするでしょ?」
「?は、はい」
突然出てきたよくわからない例えに、疑問を持ちながらも頷くユリア。
「その全力疾走の状態から、正面にあるゴムみたいなのに突っ込むとするでしょ。その状態が、あの男で言うと物質を変換した状態」
頭の中でイメージしたはいいが、ユリアはその例えを出した意図がまだわからなかった。
そんな様子のユリアを気にすることなく、礼仁は続ける。
「そして、その後逆側に跳ね返されるよね?それで、そのまま行きとは逆の方向に全力疾走」
「それが、世界の修正力が働いている状態、ですか?」
話の流れからそれくらいはわかったユリアだが、いまだに話の終着点が見えない。
「その通り。じゃあ、その状態から急に真逆に方向転換したら?」
「そんなの大変に決まってるじゃないですか」
「そう。つまり、あの男の魔法も一緒で、同じ物を連続で変換するのは難しいってこと。次の変換にタイムラグが生じるくらいに」
「ですが、昨日、姫の<炎の天雨>を防いだ後、すぐに私の<ウィンドカッター>を防ぎましたよ」
「あれは何に変換するかが違ったからだ。急に真逆の方向に行くよりは、九十度方向転換する方がよっぽど楽ってことだね」
「なるほど、そういうことですか」
ユリアは礼仁の言いたいことが何かを理解した。
「つまり、連続攻撃に弱い、ということですね?」
「うん」
「ですが、一つ疑問があります。姫の炎を防ぐ場合、空気を窒素に変換するのではなく、また別の気体に変換すればいいのではないでしょうか?例えば、二酸化炭素とか」
ユリアの質問に、礼仁は首を横に振った。
「そういうことじゃないんだよ、世界が見てるのは。同じ物質が、さっきと同じ物質に変換されるのが遅れるんじゃなくて、同じ目的に使われる物質に変換されるのが遅れるんだ」
「というと?」
「窒素でもそうでなくても、火を消す、または火を防ぐという目的のために変換される物は全て、その変換が遅れる。まぁ、さっきも言ったけど、同じ物質から変換する場合はね」
「それでは、空気の後に、地面などを変換対象に選ばれたら……」
「まぁ、普通に変換できるだろうね。ただ、あの男は自分の能力も世界の修正力も、よくはわかっていない。気付くかどうかは微妙なところだけど、たしかにそこに期待することはできないね」
「ですよね」
礼仁が消極的な意見を言ったため、ユリアも気持ち的に少し沈んでしまう。
しかし。
「だけど、勝てないわけじゃい」
「え?」
「結局のところ、相手の弱点だけを突いて戦うのも無理があるんだよね。ちゃんと、他の手段も使わないと」
「そう、ですね」
「それについても、僕にアイデアがあるけど、聞く?」
礼仁はそう尋ねるが、今度はユリアが首を横に振った。
「いえ、ずっと頼りっぱなしというのもよくないので、これ以上は聞きません」
「そう……」
礼仁は少しだけ残念そうな顔をしながら、ただそれだけ言った。
☆
ユリアは、男に対して強気に答える。
「その弱点を、あなたに教えて差し上げる義理はありませんがね」
その態度に男は、あらわにしていた苛立ちをさらに高めた。
礼仁のアイデアを聞かずに自分で考えた、弱点を突くだけでないやり方。
男に傷を負わせたそれは、風の刃を飛ばすのではない。相手に悟られないように一瞬でゼロ距離に風の刃を置く魔法、<風獣の鉤爪>だ。
礼仁のアイデアに頼らなかったのは、あくまで意地ではあったが、これである程度の面目は建てられたとユリアは思った。
実際、礼仁がユリアのことを普通でないと思っているのと同じように、ユリの方も礼仁のことをただの人間離れとも思っていない。そんな彼に頼るのは、ユリアには危険な臭いしかしなかったのだ。
しかし、今のこの状況は半分以上が礼仁の功績のようなもので、そこが悔しく思えるユリアだった。
「さて、このまま続けるつもり?続けるというのなら、容赦はしないわ!」
優位な立場に立ったことを利用し、アリサは男に投降を求める。
ユリアとしては甘すぎる判断だと思えるが、そんなアリサをカバーするのが自分の役目だと再確認した。
「このっ、小娘どもが!」
そう悪態をつき、背中に傷に少しばかり呻いたが、目は変わらず、いや、先ほどよりもはるかに強い怒りが感じられる。
その姿に一瞬の躊躇いが生じたアリサだったが、唇を噛みしめて己を奮い立たせる。
魔力を込め、先ほどの攻撃で使った分の矢を補充し、目の前の敵をしっかりと視界に収める。
男は痛みに慣れてきたのか、表情に辛い色を見せながらも、強い意志が見て取れた。
「行くわよ」
ユリアへの確認と男への覚悟を込めてそう呟くと、アリサは矢を放った。
その矢は先ほどと同じように男へ迫り、全方向から熱が飛来する。
「ちぃっ」
男は舌打ちをし、その攻撃を回避した。
最初に能力を使わなかったのは、結果が見えていたからだが、使わなかったとしても同じことだ。炎の矢がまだ尽きる気配がない以上、男の方が分が悪いのはわかりきっていた。
だが、避けたところで手順が一つ減るだけで、変わらず男に爪は迫る。
「がぁっ!」
背後に避けた先ほどと違い、横へのステップで矢から逃れた男だったが、避けた先には見えぬ爪が潜み、容赦なく男の体に傷を付ける。
腕に刻まれた傷は三本。そのどれもが軽傷とは言い難く、このままではいずれ負けになることを男に予感させた。
「次、どんどん行くわよ」
男が考えを巡らせている最中にも、アリサとユリアの手は止まらない。
だが、ただ攻め続けるというわけでもなく、男の動きをうかがいながら戦っている。
自分たちの作戦に驕ることなく、常に警戒を続ける姿勢は、先日男に手ひどくやられた教訓でもあったが、それ以外にももう一つあった。
この戦いが始まってから、いや、先日戦った時から感じていた違和感。
男の持つ剣の黒さが、アリサたちにもう一歩手を出すことを躊躇させていた。
これは見た目が悪いという問題ではない。
ただのデバイス。そう割り切ってしまえばそれまでだが、胸の中を騒がせる先覚者としての警報を完全に無視することもできなかった。
しかし、攻撃の手を緩めることも、また論外。
二人は言葉にできない脅威に足を踏み込みながらも、そのまま進み続けるしかなかった。
それゆえに、早急にもこの勝負の決着を付けねばとも思った。
アリサとユリアはお互いに頷くと、魔法に込める魔力量を増大させた。
「そろそろ終わりにするわよ!」
「はい!」
アリサは威力の上昇した炎の矢を、満身創痍と言っていいほどの男に放った。
それは傍から見ると過剰だったかもしれない。
しかし、アリサたちはそれでいいと思っていた。
相対しているものにしかわからない異様な空気が、周囲には立ち込めていて、二人はそれを息苦しく感じた。
そんな空気を振り払うかのように炎は激しく燃え、その熱量は一点へと集中する。中央に立つ男の元へ。
全身全霊、決めに行った攻撃。
先にも罠を張ってある最適な手段、今の二人にこれ以上はなかった。
先ほどまでとは違い、炎の矢の中心地から動こうともせずに、男は右手を前にかざし、ゆっくりと言った。
「<変換・空気>」
すると、一瞬で矢は消える。
だが、そんなことはわかりきったこと。本命はここからだった。
次に控える矢を投擲し、魔法発動のタイムラグの隙間に入る。
これで相手は避けるしかなくなり、その次にユリアの<風獣の鉤爪>で確実に仕留める。
しかし、先ほど辺りを漂っていた異様な空気、嫌な予感というのは、当たってほしくないときほど当たるもので、人間の高い危機感知能力が嫌になる瞬間だった。
「<変換・塵>」
「なっ!」
「そんなっ!」
二人は予想していなかった言葉を聞き、動揺した。
いや、想定はしていたが、やってこないと期待していたのだ。
その期待こそがいけなかった。
礼仁も、そこには期待できないと言っていて、そのための策もあると言っていた。ユリアが聞かなかっただけで、礼仁なりの作戦があり、それに対抗するためにユリアも新しい魔法を編み出した。
しかし、実際は根本から違っていたのだ。
礼仁とユリアの中で、男が手段を変えてくる確率は、礼仁の方が圧倒的に高かったのだ。
ユリアは、あくまで可能性の一つとしてしか考えていなかった。アリサと話し合った時も、もしそうなったとしてもその前に決めるつもりでいた。
だが、結果としては決められず、予想外のことが起きてしまった。
二人が固まっている間に、男は自分の足元にある塵を周囲に放り、魔法を発動させた。
炎の矢と塵が激突する直前、周囲に散った塵が爆発し、炎の矢を吹き飛ばした。
さらに、爆発によって再び舞い上がる塵で、ユリアが空間に作った爪痕が目視できるようになってしまった。
「<変換・塵>」
舞う塵がアリサたちの所にまで来ると、男は魔法を発動させ、自分に被害が出ないようにアリサたちのいる周囲の一部の塵のみを変換し、直後、爆発した。
「きゃあぁ!」
「あぁぁあ!」
二人は悲鳴を上げて爆発に飛ばされ、それぞれ後方の柱に叩きつけられる。
「けほっ、けほっ……姫、大丈夫ですか?」
叩きつけられた衝撃はそこまでではなかったが、巻き上げられる塵が口に入る。若干せき込んで、すぐにアリサの無事を確認する。
「えぇ、大したことないわ。ダメージはない。けど……」
自身の無事を知らせるとともに、残念そうに視線を下に向けるアリサにつられて、ユリアも下を向く。
すると、新品の制服に汚れがあるのはもちろん、所々破けたり切れたりしていた。
軽傷と言えば軽傷だが、新品の物がそうなったとあっては落胆もある。
しかし、そんなものを感じている余裕がないとわかっている二人は、制服のことはひとまず置いておいて、目の前の敵に相対して、立ち上がる。
アリサたちを飛ばした爆発は、塵を爆発物に変換し、それが空気に触れたことで爆発したと考えられる。爆発した量が少なかったためか、二人に怪我と言えるものはなかった。
その少なかったわけが、自分が巻き込まれないためということであるのが、腹立たしいことではあったが。
「予定では、もう決着がついていてもおかしくはないんだけど、少し甘かったようね」
「申し訳ありません、姫。私がもっと注意していれば」
このようなことになったのは私のせい、というユリアの意見に、アリサはゆっくりと首を振った。
「そんなことはないわ。別にあなたのせいじゃない。私の方こそ考えが足らなかった。お互い様よ」
「姫……」
アリサの気遣いに涙ぐむユリア。
それを見て、アリサは柔らかく微笑んだ。
「私もあなたもまだまだ未熟ってことね。そういうのも含めて、これから学んでいきましょ。とりあえず、こいつを倒してから、詳しいことは決めるとしましょ」
「はい!」
二人の少女が決意を新たにする場面。
そんな場面を、男はつまらないものでも見るような目で見ていた。
いや、実際につまらないのだろう。
「なぁ、友情の確認みたいなことは終わったか?いちいち、そんなことをすんのは面倒じゃねぇのかよ。今どきの若い奴ってわかんねぇな」
右手の剣をだらりと下げ、ダルそうな声で言う。
「お前らがどうしようと勝手だが、そんなんでどうにかなるほど状況はよろしくねぇだろ?」
男の言う通りである。
予想外のことが起きたため、現状、アリサたちは劣勢に立たされている。しかも、それは相手の弱さに期待した自分たちのミスで、だ。
だが、それでも。
「まだ、負けが決まったわけじゃない。少しばかり優勢になったからって、いい気になるのはまだ早いよ」
アリサとユリアの目はまだ諦めておらず、その闘志は一層増していた。
「はっ!そんなこと言っても、不利は不利。口で何言っても、現実は変わりはしねぇ!」
「そうね。口で言うだけなら何でもできる。だからこそ、私たちは成し遂げる。たしか、日本では有言実
行と言うんだったかしら、こういうの?」
「言ったことは成し遂げる、ね。そこまで都合の良いようになると思ってんなら、めでたい頭してんじゃねぇか」
「そっちこそ、大事なことを忘れるんじゃないわよ!能力は万能じゃない!必ず、どこかしらに欠点があり、そこをつけば、どんなに強力でも攻略は難しくない」
「言ってくれんじゃねぇか。だったら、この俺に届かせてみろよ」
「初めからそのつもり。行くよ、ユリア!」
「はい!」
二人はそれぞれのデバイスを構え、魔力を高める。
その圧力は男の肌を打つようで、男はその感覚に不快感を覚えた。
アリサたちに対抗するように、男の方も魔法発動の準備をする。
アリサとユリアは、やはり男の放つ気配に違和感を覚えるが、それでも集中力を途切れさせるようなことはしない。
両者、しばらく動かず、辺りはしん、とした。
それは長く続くことはなく、一つのきっかけとともに、動いた。
「<変換・空気>!」
男はアリサたちの空気に照準を合わせて、魔法を発動する。空気を元にして、二人を粉々にするための爆発物に変換する。
起こったのは、一瞬。
男が魔法を発動してから一秒と経たずに、アリサとユリアの周囲が爆発した。
今度はさっきとは違い、十分に爆発物はあるし、たとえ爆発に耐えても、その爆発で酸素を消費しているため、爆心地では酸欠になる。
幸いなことに、男にはその影響が少なく、十分に息ができていた。
そして、男の視線の先で、土煙が晴れる。
そこには、何もなかった。
そのことに驚愕し、動揺したのが致命的となり、背後の気配に気づくのが遅れた。
振り向いた男の目の前に、二本の剣が迫る。