プロローグ
大賞に応募して、一次選考落選の作品です。
読んでみてください、としか言えませんね。
雲ひとつない青空の下、白い建物の敷地にある庭では、十数人の子どもたちが遊んでいた。
ある子は庭に生える草を踏みならして走り回り、ある子は庭の中央にある遊具で遊び、またある子は庭の隅で本を読んでじっとしていた。
子どもたちはみんな十歳ぐらいだろうか。顔や体格はまだまだその年齢相応で、その様子は各々の個性に従って、やりたいように過ごしているようだった。
そんな子どもたちの中にいる、ひとりの少年とひとりの少女が、二人で話していた。それは他愛のない平凡な会話だったが、二人にとっては特別なことだった。 とは言え、それはもう少し後になってから、特別になるものだった。
「ねえ、この後はどうするの?」
「この後?」
「うん。でも、この後って言っても、すぐ後のことじゃない。将来という意味よ」
少女の思いがけない問いかけに、少年はすぐに答えることができなかった。
将来のことなど、今まで考えたことはなかったからだ。考えようと思うことすらなかった。
少年は、何も浮かばないがために、その場で唸った。大人たちがそうやって考えるところを見たことがあったため、真似でもすれば、何かが出てくるのではないかと思った。
しかし、結果は変わらず、何も浮かんでこなかった。
「私はね、将来はすごい人になるの。誰よりもすごくて、強い人になるの」
少女が満面の笑みで言ったことがおかしくて、少年はクスリと笑った。
「何それ?意味わかんない」
「えー、そうかな?私ならできると思うんだけど」
「そう簡単にいかないよ。強い人なんて、数え切れないくらいいるでしょ」
少年がそのように言っても、少女は笑みを浮かべたままだった。
「だからね、私がその人たちを全員倒して、最強になるの」
少女は一片の迷いもなく言い切った。
これには、さすがに少年も言葉がなかった。今の少女に何を言っても、その単純でめちゃくちゃな言い分に、理不尽にもすぐに言い返されてしまうと思ったのだ。
しかし、それは何となく嫌な感じはしなかった。むしろ、少女につられて笑みさえ浮かべてしまっていた。
「なるほどね。めちゃくちゃだけど、わかった。でもね、僕だって負けるつもりはないよ」
「負けず嫌いだもんね。そう言うと思ったよ」
「僕は君よりも強くなる。たとえ、君が他の強い人たちを倒してしまっても、その君を僕が倒す。それでいい?」
「良くはないけど、わかった。つまり、お互い将来は最強を目指すってことだね」
「そうなるね」
少年と少女はお互いを見合って、もう一度笑った。
こうやって将来のことを言い合えるなんて思ってもいなかったし、それに、気兼ねなく言い合える親友というのはどうしようもなく大切なものだとわかってしまったからだ。
今のこの瞬間だけは、二人にとっては悪くない時間だった。