表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の終わりの物語  作者: じんべい
3/7

夕日

  第三章〔夕日〕



少し時間は、さかのぼる


俺が、オートバイで家を出たちょうどその頃、



とあるアパートで… 


「パシィ!」


渇いた音が部屋中に響く…


部屋の中には、泣きながら顔を真っ赤にしてる女の子がいた…


そしてベッドの中から男を睨みつける違う女の子…



二人の間には、上半身裸の男が呆然と立ちすくしていた。



そう、俗にいう修羅場である。


遠距離恋愛には、もはや定番のイベントになりつつある、彼氏を驚かそうと連絡をせずにいきなりやって来て、彼氏の浮気現場に遭遇。


遠距離恋愛にはよくある話だ。


でも、まさか彼女自身が、そんな目にあうとは思ってもみなかった。…




「このバカ! 浮気者!!」


彼女はさっきと逆の頬を叩き、外に飛び出した。


外に出ると、立ち止まりアパートの方を振り向いた。


「もしかしたら、追いかけてくるかも…」



アパートの中からは、女性の怒鳴るような声、彼の声は聞こえない。


でも… 彼女の前にも、彼の姿はなかった。



彼に裏切られた悲しみ、そんな彼を好きになった自分の愚かさ、

会いなんて来なければよかったという後悔、

自分でもどうしたらいいのかわからないような気持ちが、頭の中をグルグルと回っていた。



ただ一つだけ、ハッキリとしていることがあった。


とにかくここには居たくない。彼の側から離れたい、彼の住んでるこの街には居たくない。


一時でも早く、この場所から立ち去りたかった。


多分、無意識だったと思う、ちょうど来たバスに乗り込み、ただうつむいていた。



バスが走り始めても、顔を上げられなかった。涙をこらえるのが精一杯だった。


しばらく走ると、窓の外が急に明るくなるように感じた。


ゆっくり顔を上げて、窓の外を見てみる。


「うわ~っ!」


思わず声がもれる。


窓の外には、青く輝く、海が広がっていた。


「すご~い!綺麗~!」


彼女は海を見たことがなかった。

正確には画像でしか、海を見たことがなかったのである。


もっと近くで見たい、そんな衝動にかられ、次の停留所でバスを降りた。



「うわ~、海の匂いだ~。これが潮の香りなんだ~」


見たこともない景色に、さっきまでの出来事を一瞬忘れていたが、すぐさま現実に引き戻された。



夏休みの海岸、あちこちに家族連れやアベックがいたからである。



「真哉のバカ……」


彼女は人混みから離れるように、海岸沿いの道路を歩いた。



うつむきながら歩いたせいか、周りの景色が少しずつ変わっていったのに気づいていなかった。



ちょうどカーブの真ん中に差し掛かった時、海の色が今までと全く違う事に気が付いた。



「え~!なにこれ!すごい!すごい!」



彼女の気持ちは、一気に高まった。


彼女の目の前には、真っ赤な夕日、

その夕日に照らされた一面オレンジ色の海、

光を反射しながら輝く金色の波、

所々に浮かぶ島々は影となり、オレンジ色の海を引き立てる。



「すごい、すごい、すごい!こんな景色見たことない」



彼女の目に涙が溢れた、自分でも何の涙なのかわからない。


感動したのか、彼の事を思い出したのか、ただただ涙が溢れ出て来た。



真っ赤な夕日は、流れ落ちる彼女の涙を、波と同じ金色に輝かせた。


まるで波が彼女を包み込んでるように…







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ