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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第四章 迷宮都市中編

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第94話 オークション 1


 豪華なオペラハウスのような場所は多くの人々で埋め尽くされている。

 頭上には豪奢なシャンデリアがいくつも輝き、空間の雰囲気を非日常へと変えており、高級な質感の腰掛けは座る者を自らが偉くなったように錯覚させる。

 高級なソファに座りつつも、多くの人間が今にも立ち上がりそうになりながら興奮している。

 その者達はみな一様に清潔感を感じられる装いをしているが、服を纏っていても武力を生業とする者の振る舞いは隠しきれていない。

 そんな冒険者達は熱狂的に舞台を見つめ、固唾をのみながら今か今かと神経を尖らせている。

 そして人々は舞台を見下ろし、各々の欲望がままに芸術品や見栄えを重視した武具、珍品を競り落としていく。




 ──☆──★──☆──




 時刻は午前八時を過ぎた頃。

 目の前には他の建物とは一線を画す巨大な建物の前に立つ。

 外観にはパルテノン神殿のような柱が並び、一目で理解できる豪華絢爛な彫刻が無数に施されている。


「おー……すごいな」


「本当にな。我もこの町に住んでいたが、このような建物があったとは知らなかった」


「まあ、こっちは貴族街の方だしな。用事がなければ来ることは無かっただろうし」


 横に並んだアギトに返事をしながら、建物に向かう。

 ダラムの町だけでなく、多くの都市や町が貴族と平民で別々に分けられている。

 そのため、用もないのに貴族街に入ろうものなら兵士に止められるし、なんなら身分証が低ければ入れてさえくれない。

 そういう訳で、今まで関わることも無く過ごしていた。

 しかし、今日はオークション開催の日。

 色々な国ごとの催しはあるものの、ここまでデカいものは年に一回しかないらしく、オークションに参加する者は特別に入ることが許される。


(ま、他国の王族や貴族が来るらしいから、こんなに厳戒態勢なんだろうけどな)


 周囲を見渡せば槍を持った兵士が道沿いに並んでいる。

 そうして建物の中に入ると様々な人間がすでにおり、カウンターでオークションに参加するための手続きをしていた。


「ほらアギト、参加するんだろ?」


「う、うむ。無理矢理連れてきてすまぬな」


「いや、俺も興味はあったから気にすんなよ。それじゃカウンターに行こうぜ」


「そ、そうであるな!」


「そんな緊張すんなよ。――すいません、オークションに参加したいんですけど」


「かしこまりました。身分証をお見せください。それとオークションについての説明はいたしますか?」


 女性のスタッフが丁寧に訊ねてくる。

 貴族に失礼が無い様にしっかりマナーを叩きこまれたのだろう。

 アギトにギルドカード見せながら、カウンターに置く。


「お願いします」


「では説明させていただきますね。これから一時間後の九時にオークションが開始いたします。オークションに参加するためには参加料金として大銀貨一枚をいただき、一度も商品を購入されなかった場合には再び大銀貨一枚を支払っていただきます。ここまではよろしいでしょうか?」


 スタッフの女性に首肯しながら、二人分の大銀貨二枚をカウンターに乗せる。

 残念ながらカルトンは無いようだ。


「ええ、大丈夫です。あっ、今のところ予定は無いんですけど、購入したかどうかってのはどうやって区別するんですか?」


「お客様が購入された場合、スタッフの方より商品番号の書かれた証明書をお渡しいたしますので、お帰りになられるときにお申し付けください」


「分かりました。ありがとうございます」


「では引き続き、説明させていただきます――」


 それから幾つかの注意事項を教えてもらい、カウンターを離れる。

 内容は大したことなく、オークション開催中は何度も出入り出来ない事、武器の持ち込みが禁止な事、ゴミは持ち帰る事、飲食は控える事、暴力や他者に害を及ぼす魔法行為等を行った場合、強制的に排除し以降オークションへの参加が認められない事、オークションは基本的に一括払いのため、所持金額以上の物を落札した場合もオークション参加禁止など、色々な事項があった。

 特に気になったのはオークションが朝昼晩の三部構成になっていることで、一部に宝飾や芸術品などの貴族向け。二部に魔道具や武具などの冒険者向け。三部に食材や魔物素材などの職人、商人向けであった。

 つまり、俺達は一部に参加するメリットは少ない訳で……。


「これからどうする?」


「ううむ、そうだな……」


 二人で悩んでいると、横から話し掛けられる。


「そこの人、ちょっといいかな」


「ん? 俺になんか用?」


 話しかけて来たのは、20代後半らしき一人の男。

 カジュアルな服装をしており、冒険者のようには見えない。


「ああ、君もオークションに参加するのか?」


「一応そのつもりだけど、それが?」


「俺も参加するんだけどさ。その中に目当ての商品があってね。君がそのライバルかどうかの情報収集をしているんだ。ちなみに何かお目当ての商品はあるのか?」


 自分から話し掛けて来たくせにこちらの内情を探ろうとしているらしい。

 いっちょまえに図々しい奴だ。


「さあ、それをアンタに言う義理があるのか?」


「……降参だ。気を悪くしないでくれ。実を言うと、俺の狙いは【ドラゴンアイ】っていう宝石でね。君が買う気なら諦めてもらい、もし購入出来たら交渉して譲ってもらおうと思ってるんだ。だから、もしもその気があるなら高値で買い取るよ」


「ふーん。まあそんなのでいいなら別にいいけど」


「ありがとう! じゃあ、俺は忙しいからもう行くよ」


 そう言うと男は別の人間に近付いてまた話をする。


「なんなんだ、あいつ……?」


 いまいち何がしたいのか分からない男だった。

 本当に欲しい商品があるなら、その情報を果たして他の人間に言うだろうか。いや、普通は言わないだろう。

 なら、あの情報は他人をだますためのフェイクか……?


「何を話していたんだ?」


「いや、くだらない話だ。アギトは気にしなくていいよ」


「そうか。むっ、この匂いは……」


 アギトが首を動かした先にいたのは、アイゼンだった。

 どうやってか、アイゼンもこちらに気付くと近づいてくる。


「やあ、奇遇だね。こんなところで会うなんて」


「どこが奇遇なんだよ。俺はオークションに行けば絶対会うと思ったけどな」


 アイゼンの嘘くさい挨拶にツッコミを入れる。

 それに対してアイゼンは肯定も否定もせずに、悠然と受け入れる。


「そういえば、【ドラゴンアイ】って宝石知ってるか?」


「また随分とマイナーな宝石の名前だね。それがどうしたんだい?」


「さっき変な奴にその宝石が欲しいから、買わないでくれとか、もし買ったら高値で買い取るなんて言われたからな。どんな宝石かと気になったんだよ」


「……ああ、まだそんなことする奴がいるんだ。それは疑似餌だね」


「疑似餌?」


「そういう通称さ。オークションに参加するライバルに『こういうのを探し求めてる。だからもし購入したら高値で買い取るから譲って欲しい』って言って誘導するんだよ。言葉通り買った奴はそれを高値で買い取ってもらうために売人に売りつけようとするが、そいつはどこにもいないって寸法さ」


「……そんな嫌がらせして意味あるか?」


「話を聞いた奴同士で競り合わせるんだ。そうして無駄に金を消費させて、本命に手が届かなくさせてね。まあ、今時そんな化石みたいなことする奴がいたなんてね。ちなみに、なんて答えたんだい?」


「適当に返事しただけさ」


「それが一番いいだろうね。ついでにその宝石は別に特別なモノでも何でもなくただの宝石さ。もしかしたら、その話しかけてきた奴が出品した物かもね」


「ああ……そういうのもあり得るのか」


 本命以外に誘導して、さらに金を稼ぐか。

 あくどい事をする奴もいるもんだ。


「それより、そろそろ開始時刻だ。君たちも一緒にどうだい? どうせ君たち暇なんだろう?」


「暇って決めつけんなよ」


 失礼な奴だな。


「だって参加するつもりなら席に座ってるだろう? おおよそ、スケジュールを知らずに早く来たものの目当ての商品が二部だったとか、そんなところだろう」


「……よくご存じで」


「はは、伊達にパーティーを組んでないさ。君って意外と場当たり的だよね」


「俺だけじゃねーよ!」


 しいて言うなら、アギトのせいだ。

 ……今回は。


「――あ、もしお金なかったら貸してね」


「お前だけには絶対貸さないわ」


「えー、それは酷くないー?」


 アイゼンは笑みを浮かべながら、奥へと向かう。

 俺とアギトは顔を見合わせ、諦めながら後ろについていくのだった。


この小説、全然進まないな……。

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