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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第四章 迷宮都市中編

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第92話 50階層突破

投稿遅れました!

【第4章 迷宮都市中編】開幕です!


 ――迷宮都市ウェルダム。

 ノルヴェスティ王国の東端に位置するこの街には大小さまざまな七つの迷宮が存在した。

 駆け出し冒険者が狩りをする、胞子渦巻くキノコの迷宮と独自の生態系を築く虫の迷宮の二つの初級ダンジョン。

 街の外側、四方を囲むようにそれぞれ人型、屋敷型、森型、アンデッド型の四つが存在する中級ダンジョン。

 そして、街の中央に異様な存在感を放つ【白磁の塔】と呼ばれる白き巨塔の迷宮。

 未だ謎に包まれたその【白磁の塔】で、数多の冒険者たちが日夜戦いを繰り広げていた――。




 ──☆──★──☆──




 ――【白磁の塔】第50階層 守護者の間。


 真四角の広い部屋で一体の魔物と四人の人間が戦っていた。

 眼前にいるのはハイオーガウォーリアーという魔物で、赤い皮膚と額にある二本の角、それに身の丈ほどもある特大のグレートソードが特徴的な魔物だ。


 対するのは、サーベル一本で突撃する人族の軽戦士と長剣を携えた龍人族ドラゴニュートの剣士。

 二人は拙いながらも連携を図り、互いに注意を誘いつつ攻撃を重ねている。

 徐々に徐々にハイオーガの体力を削っていく中、突如、軽戦士が一人突出して攻撃を仕掛けた。

 魔力を纏い、サーベルを振り下ろす。

 ハイオーガの硬質な皮膚を斬り裂くもガードされて傷は浅い。

 赤き鬼は自身の体を裂いた敵へ腕を薙いだ。

 軽戦士は紙一重で躱すと、ハイオーガの体を蹴って余裕の表情で離脱する。


 挑発されたと感じたハイオーガはそのまま追いかけようとするが、すかさず、龍人族ドラゴニュートが後ろから攻撃した。

 アキレス腱や腕、肩、背中、様々な場所を斬りつけた。

 死角からの攻撃にハイオーガは体勢を崩し、前のめりになる。


「離れろ! アギト!」


 アギトと呼ばれた龍人族ドラゴニュートは即座にハイオーガから離れる。

 後方から黒いコートを纏った青年が頭上にいくつもの氷の槍を生み出し、射出した。

 風を裂きながら放たれた氷槍はハイオーガに衝突し、砕けた氷槍によって肉体が氷漬けになった。


 ハイオーガは痛みにもがきつつ、怒り狂いながら黒いコートの青年を睨みつける。

 数秒程動きを抑えられたものの、ハイオーガは暴れながら氷を壊すと怒りの形相で一直線に走り出す。

 魔法使いの青年は逃げるでもなく、魔法を発動しようと集中している。

 青年を守ろうと横から身軽な軽鎧を装着した女性が投げナイフを投げる。

 ナイフは顔や体に突き刺さり、傷を負わせる。

 不快な表情をしたハイオーガは魔法使いの青年と女性を二人まとめて始末しようと剣を全力で薙ぎ払った。

 ブウンッ!という轟音と共に上方から迫りくる。

 軽戦士も龍人族ドラゴニュートの剣士も遠くの位置におり、間に合わない。

 軽鎧の女性はどうにか防ごうと短剣を体験の軌道にかざす。

 すると突然、地面から氷が生み出されると迫りくるハイオーガの腹を貫いた。


「GUAAA!?」


 ハイオーガは痛みに叫び声を上げる。

 振り被っていた剣は明後日の方向に飛んでいった。

 ハイオーガはなんとか腹に突き刺さった氷を壊そうと掴むが、手に力が入らない。

 最後には目の前の人間の男を睨みつけたまま、ゆっくりと命が尽きると動きを停止した。

 部屋の奥に宝箱が出現する。

 魔法使いの青年は警戒を解くと、ゆっくりと息を吐いた。


「はぁ……」


「怖かったー! 本気で死ぬかと思ったわ……!」


 静寂を破るように、真横でわざとらしく女が騒ぎ出した。

 それを青年は冷めた目で見ながら鼻で笑った。


「大袈裟だな」


 その言葉に愚痴を言っていた女は過敏に反応した。


「ちょっとユート! 聞き捨てならないわね今の言葉! そもそも、あんたがもっと早く魔法を使ってれば、危険な目に遭わずに済んだでしょ! それに私が身を挺して守ろうとしてあげたのにどの口が言ってんのよ!」


 ユートと呼んだ青年に、女は指をさしながら恩着せがましく言った。

 当の青年は、カチンときたのか皮肉な笑みを顔に浮かべて言い返した。


「どの口って、この口だよ。大体魔法を使えなかったのは、そこの二人が近くに居たからだろ。あんなに近けりゃ魔法撃ったら確実に巻き込むし、お前がやったのは形だけの防御だっただろうが」


「なによ! こんな美人が守ろうとしてあげただけ感謝しなさいよね」


「なにアホな事言ってんだ。守るんならしっかり守れって言ってんだよ! それにどちらかというと、変に前でて邪魔するから魔法使うのに躊躇したわ!」


「邪魔って何よ! ならもうアンタ守ってあげないからね!」


「別にいいけど、お前の取り分が減っても知らんぞ」


 後ろを振り返るように首で指図する。

 この女に反論すると倍になって返ってくるので、女の後ろで暇そうに眺めている二人の男に押し付けた。

 雑事を押し付けられそうになった男たちの内、金の髪をなびかせたサーベル使いの軽戦士が頭の後ろに手をやりながら呆れた様な表情で言った。


「魔法だけに頼った戦いは自力の底上げにならないし、パーティーの連携も積めない。それにレベルを上げるには全員が戦闘において貢献しなければ意味が無いからね。途中まで魔法を使わなかったのは何も間違ったことじゃないよ」


「そうは言っても死んだら元も子もないじゃない! あんたはこいつの肩を持つ気、アイゼン?」


 アイゼンと呼ばれた優男は淡々と事実を述べるように言葉を紡いだ。


「彼はいつでも魔法を放てることが出来たよ。それを分かっていながら、彼は君に任せたんだ。君が自主的に動いたからね」


 「最も、あまりうまくはいかなかったみたいだけれど」と付け加えた。


「ぐぐぐ……分かったわよ。私が悪かったわ。それでいいでしょ」


「ああ。それじゃノーナ、宝箱がもう出現してるよ。罠がないかどうか確かめてきてくれ」


「――ふふっ、まっかせなさーい!」


 ノーナと呼ばれた女は先程と打って変わって揚々と宝箱へと歩き出す。

 その様はステップでもしそうなくらい機嫌がよさそうだ。

 その後ろ姿を三人の男たちが眺める。


「それにしても、アイゼンは随分とノーナの扱いが上手くなったな」


 話し掛けながらゆっくりと歩き出す。

 アイゼンと龍人族ドラゴニュートの剣士も横に並び歩く。


「ふっ、君の方こそ彼女を信じずにさっさと魔法を撃てばよかったのに」


「それはお前が言ったんだろ。戦闘経験を積むために出来るだけ魔法は撃たなくていいって。ついでに、ノーナの自主性を促すってな」


「そうだったね」


「それよりさっき、連携がどうとか言ってたけど、お前も人の事言えなくね? なんでいきなり連携崩して攻撃したんだよ」


 ハイオーガに近付くと【無窮の亜空間】へと一体丸々収納する。

 突然目の前から消える光景に三人は驚きもせず、会話を続ける。


「しょうがないだろう? 悪いとは思ったけど、隙が空いてたからね。攻撃したくなるのは戦士の性さ」


「言い訳しやがって。アギトはどうなんだ。何かこいつに言いたいことはないのか?」


 アギトと呼ばれた龍人族ドラゴニュートは閉じていた口をゆっくりと開く。


「確かに、いきなり突出したのには驚いたが、あれだけ隙があったら攻撃したくなるのも戦士として理解できる。むしろあそこで同時に攻撃するのが良かったのだろうなと今になって思ってるところだ」


「おいおい、こいつを擁護しちゃダメだろ。連携云々はアイゼンが最初に言ったんだぞ……」


「ははっ、まあ俺が悪かったさ。帰る時にもう一度連携を見直すとしよう」


「そうしてくれ」


「――アンタたちー! そこで何してんのよ! 勝手に宝箱あけちゃうからねー!」


 表面的には反省するそぶりを見せるアイゼンに、ユートは半ば諦めながら一応一言述べておく。

 そこへ被せるようにノーナが俺達を呼ぶ声がした。

 俺達はノーナの方を見てから顔を合わせると、笑いながらゆっくり向かった。




 ──☆──★──☆──




 パーティーを結成してから三週間近くが経った。

 俺達は主に【白磁の塔】を狩場として戦闘をしてきた。

 最初の内は連携など無く、各々が好き勝手に戦闘をし始めたり、もしくは気遣って誰も攻撃しないなど、それはそれは酷い有様であったが、どうにか指示を出しつつパーティーの形を整えていった。


 パーティーの中で最も知識があるアイゼンに色々教えてもらいながら、それを経験が浅いノーナやアギトと共に共有し、指示を出し、改善する。

 それを繰り返すことで目も当てられないパーティーは粗削りだが、みるみるうちに成長していったと思う。


 ノーナは戦闘ではあまり目立つことは無かったが、ムードメーカーとしては優秀だったのだろう。

 なんせ、パーティーが四人になった途端、安定して戦えるようになったのだから侮れない。

 また、ノーナの提案で三日に一回の休みを作った。

 その間は書庫に籠ったり、一人で他のダンジョンを巡る、屋台で食べ歩きをするなど好きなことが出来たので、それなりに知識や戦闘経験など色々積めたと思う。


 そんなオークションが前日に迫ったある日、アイゼンがみんなに相談を持ち掛けてきた。

 なんだろうと興味本位で聞いていると、突然、50階層を突破しようと言ってきたのだ。

 俺は戦闘能力の低いノーナがいるので危険だと言ったのだが、アイゼンはボスを倒すだけならそう難しくないと否定した。


 残念ながら、知識量で差がある俺がどれだけ危険性を唱えてもアイゼンに勝てるはずも無かった。

 俺の心配をよそに当のノーナが行きたがり、多数決の結果、50階層に行く事が決まった。

 説得する事を諦めた俺は、50階層に行くための準備を入念にした。

 書庫に籠ったり、日用品や食料、回復薬など様々なモノを買い、準備に備えた。

 結果は御覧の通り、拍子抜けするほど簡単に勝利した。


 大きな宝箱を開けると、菌界の胞子森ファンガス・プランテーションを超える財宝が広がっていた。

 コレクター的な意味では、色々な魔道具に興味を惹かれたものの、実用性という観点ではほとんどなかった。

 ほとんどというのはここでも収納袋があり、それはアギトが貰う事になったのだ。

 とはいえ、あちらは初級ダンジョンのボス攻略なのに対し、こちらは50階層にある最初の中ボスみたいなもの。

 それなのにこちらのダンジョンの方が宝が多いとは、なんだかおかしな感じだった。


 手に入れた宝は全て売却し、合計して金貨50枚近くの大金になった。

 それを四等分にして、やはりというか余りは俺が貰った。

 亜空間があるおかげで売り上げが数割上がっていると聞いたが、それでも毎回一人だけ特別扱いは好ましい事ではない。

 今は全員が納得していても、いつかはそれが問題となるかもしれないのだから。

 そんな不安を感じながら、オークション当日になった。

 迷宮都市で一番のお祭りが幕を開ける――――


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