第91話 パーティー結成!
「では別の質問に変えよう。君がパーティに入る事によるメリットは?」
「そ、それはっ……」
(メリット、メリットですって!? 言わせておけば……!)
アイゼンがノーナという人間を試すかのような質問をする。
ノーナは心の中で毒づいた。
「メリットを提示できないのであれば、結果は決まってしまうけどいいのかな?」
「そういうアンタにはこのパーティーにいてどんなメリットがあるっていうのよ!」
「俺かい? 俺はさっきも言ったけど、迷宮都市で培ってきた知識は役に立つし、前衛や本職の斥候には劣るけど代わりも出来る。大迷宮でも六十階層まで行ったことがあるから問題はないさ。しかし君は別だ。ダンジョンに入ったことも無く、技能もそれほど秀でている訳でもない。寄生をしたいんだったら他所のパーティに行きな」
「寄生って、失礼な事言わないでよ! 私がそんなことする訳ないでしょ!?」
寄生……パーティーにおいて強い者の後について行き、報酬だけせしめる行為または人間、か。
「ふーん、一応プライドはあるんだね」
「当たり前でしょ! これでもトレジャーハンターとして色々な遺跡を渡り歩いてきたんだから、そんなのと一緒にしないで!」
ノーナは寄生呼ばわりされたことに抗議する。
しかし、アイゼンは取り合わなかった。
「それはトレジャーハンターとしてでしょ? 君がトレジャーハンターとしてどれだけ優れていようと、冒険者としての君は駆け出しと同程度に見えるね。それに魔物から逃げ続けて来た者特有のニオイを感じるよ」
――まあ、冒険者の中にも魔物を倒さない変わり者もいるけどね。
と心の中でアイゼンは付け加えた。
ノーナは自らの能力を少し言葉を交わしたくらいで低いと評価されたことに怒りを抱いた。
同時に、最も触れられたくない事を突かれたことで、堪忍袋の緒が切れた。
「――アンタ言ったわね! ならさっきの賭けだって本当はアンタが負けてたくせに!」
「……何のことかな?」
「ハッ、しらを切るつもり? さっきの会話聞いてたけど、こいつがそこの鎧を売り忘れてなければ金額でアンタ負けてたじゃない! あんなに自信満々に喋ってたけど、まさか負けるなんてつゆほども思ってなかったんでしょ?」
ノーナがアイゼンのことを鼻で笑い、皮肉を交じりに嘲笑った。
「何を言うのかと思ったら、そもそもその鎧を売っただけで金額を超えるとは限らないし――」
「ハッ、それこそまさか冗談でしょう? この鎧がたかが金貨一枚未満で買い取られるわけが無いわ。効果付きの鎧でそれが二つもあるのなら、最低でも金貨四枚は難くない」
「……どちらにしても、既に制限時間は過ぎている。いまさら終わった勝負を掘り返されてもね」
「まあそうね。でもこの鎧だけじゃないわ。三人とも宝箱から得たアイテムを一つ貰ったの。その中で売らなかった魔道具の武器、指輪、それに普通の宝石。それも含めれば、アンタの金額なんて容易に上回ってるのよ! どんだけ勝ち誇っていても、結局アンタはこいつに勝利を譲られたことに変わりないのよ!」
ふふん、とノーナは言い負かしたことで優越感に浸る。
それをアイゼンは冷めた目で見ていた。
そんなことよりもユートは「こっちまで巻き込むんじゃねーよ」と内心思っていた。
「……言いたいことはそれだけかな。君がどれだけの言葉を尽くそうが、メリットがないのなら価値を感じないな。この時間も無駄なようだ」
「メリット、メリットってうるさいわね! そんなの――」
「――勘違いしているようだけど、そもそも君を入れる事よりも元々デメリットの方が多いんだ」
「……デメリット? 何よそれ、そんなのある訳ないでしょ!」
「簡単だよ。一つ、戦闘能力がない事、二つ、ダンジョンアタックへの意欲がない事、三つ、能力がかぶっている事、そして四つ、君が女だからだ」
アイゼンが淡々と指を折りながらデメリットを数えていった。
そして四つ目の言葉にノーナとユートは驚愕した。
「はぁっ!? アンタふざけてんの! 女だからって馬鹿にするつもり!?」
「そんな事が言いたいわけじゃないが、そういう感情的なところも個人的に嫌いな要因だよ。それより、君がパーティーに入る事によってパーティー内のバランスが崩される事さ」
「バランス……?」
「パーティーを組んで一緒にダンジョンに潜るためには、理由が必要だ。強くなる、金を稼ぎたい、誰よりも下に潜りたい。
理由は様々だろうが、利害が一致しなければパーティーは組めない。
その点、僕たちは奇跡的にも利害が一致している。
その中で君のように意思が希薄な人間が入ってしまえば、容易に壊れることが目に見えている」
アイゼンの言葉に少なからず納得できる部分はあった。
「……それと私が女な事にどんな意味があるのよ!」
「性別が違えばそれだけ価値観や考え方に差が生まれる。それに男のパーティーに女が入る事によって離散したなんていうのは珍しくない。悲劇の小説でよくあるだろう? 女を取り合ってダンジョンで殺し合いになるなんてさ」
「誰とは言わないけどね」と一瞬こちらを垣間見た。
俺がそんな下らないことするかよ。
そう思い、一言文句を言ってやろうとしたら、再びアイゼンの言葉に阻まれる。
「君はどうなのかな? 今のを聞いて、まさかパーティー加入に賛成なんてしないよね?」
形式上、俺に問うてきた形だがその言い方じゃ、まるで脅しだな。
こいつを入れるつもりはないよな、というね。
こいつの意見にのっかるのも癪だし、さてどうしたものか。
「――俺としてはどっちでもいいけど。だから別に入れてもいいんじゃないか?」
「……君、本気か? まさか女だから入れようと思っているのかい? だとしたら君には幻滅したよ」
これまでは観察するような視線を受けたことがあったが、今はまるで路傍の石を見下ろすかのような視線に変わった。
俺の言葉次第で今すぐここから消え去るかもしれないが、勘違いされたままだとそれはそれで気に食わないのでしっかりと訂正してやることにする、
「おいおい、勝手に勘違いすんなよ。一見ノーナは確かに普通だ。いや、むしろ普通以下だ。だけど、こいつ――ノーナにはある特技がある」
途中で、「ちょっと、普通以下ってどういう意味よ!」とノーナが突っ込んできたが無視した。
「特技?」
「そう、ノーナがいると幸運が上がる。現にダンジョンにいた時もそう感じることがあった」
「……はぁ、君も何を言い出すのかと思ったら、そんなでまかせを信じられるとでも?
数時間一緒に居ただけで情が移ったのかもしれないけど、それだけが理由では証拠にならないし、そもそも彼女がそんな希少な能力を持っているとは到底思えないね」
「まあ、そう言うだろうとは思っていたが、なら本人の口から聞けばいい。それで本当のところどうなんだ?」
ノーナに視線を向ける。
当のノーナは表情が硬く、口元が引きつりかけている。
「……ホント、いきなり何言ってんのよ。はは、そんなスキルあるわけ――」
「――いいのか。これ以上は俺も救いの手はやらないぞ」
最終通告をするようにノーナに言葉を放つ。
ノーナは俺の言葉に押し黙るが、その姿をアイゼンが見つめている。
静かな時間が流れる。
すると突然、ノーナは横から椅子を持ってくるとドサッと腰を下ろした。
それから数拍の後、覚悟を決めたような表情で話し始めた。
「……はぁ、分かったわよ。言えばいいんでしょ、言えば! 確かに私のユニークスキル【禍福糾縄】は幸運を呼ぶことが出来るわ」
「へえ……そんな便利なユニークを持っているのか」
アイゼンの反応がすぐに変わった。
「ただ幸運を呼ぶだけなら便利なんだろうけど、幸運が訪れたら不幸も訪れてくるのよ」
「不幸? 不幸ってどのくらい?」
「それは分からないわ。スキルがいつ発動するかは私も分からないし、不幸が幸福と同時に来ることもあれば、一か月後に来ることもある」
「なんか、変なスキルだな……」
それにどういう条件で発動するのかも気になるところだ。
「不幸の程度は?」
「いつ発動したか分からないから定かじゃないけど、一番小さいモノで、転んで罠に引っかかる程度ね。大きなものは……分からないわ」
「なるほど。そんな能力なら言わなかった――いや、言えなかった事も頷ける」
「どうして言わなかったんだ?」
「あんた、馬鹿ね。ユニークスキルを持っている事をペラペラ喋る馬鹿がどこにいるのよ。あっ、ここにいたわね」
ノーナが冷笑を浮かべながら見下してくる。
いや、確かに俺も気遣いが足りなかったけども、元はと言えばお前のせいだろ。
「それに自分の意志で発動できない能力を、『こんな能力があります』って言っても無駄でしょ? それこそ証明できないんだもの。逆に“不幸を呼ぶ女”って言われて追い出されるのがオチよ」
ノーナは溜息を吐きながら、過去を思い出すように遠くに目を向ける。
それは過去に何かがあったことを如実に感じさせた。
「それでここまで言ったんだから、入れてくれるんでしょうね」
「ふーん。ま、戦闘には参加してもらうけど、その意思があるのなら、それ以上俺からは何も言わないよ」
どうやらアイゼンは認めることにした様だ。
確かに使い勝手は悪そうに思えるが、同時にチャンスを引き寄せるスキルでもあるから、天秤にかけて許容する事にしたんだろう。
「まあ、俺はさっきも言った様にどっちでもいいからな」
こうして、正式にノーナがパーティーに入ることになり、凸凹とした四人パーティーが完成したわけだ。
――これにて一件落着。
そう思っていたのだが、話はまだ終わらなかった。
ノーナのパーティー加入記念と賭けの清算のために夕食を取っている時の事だった。
「――そういえば、このパーティーのリーダーは誰なのよ」
「少なくとも俺じゃないね。三人目として入ったし」
アイゼンは頭の後ろで腕を組みながら、飄々とした態度で責任から逃げる。
対応が早かったな。
一瞬の内に話の流れを理解すると、誰かが言葉を発するより前に会話から抜けたのだ。
よほど面倒くさい事がごめんなのか、まるで有無を言わせない速度だった。
とはいえ一つ言いたいことがある。
(お前はいきなりパーティーに踏み入って来た側なんだから威張んな!)
「アンタじゃないとしたら……」
ノーナ視線がこちらを向く。
その前に俺は予防線を張ることにした。
「……そもそもこのパーティーにリーダーなんていなくね?」
そう小さな声で呟くと一斉に三人がこちらを向く。
「な、なんだよ」
「このパーティーの中心にいるの君だよね?」
「我はお主のおかげでここにいられると思っていたのだが」
「みんな、アンタを見てるじゃない。アンタがやりなさいよ」
まるで打ち合わせた様に俺へと面倒ごと――パーティーリーダーという職を押し付けてくる。
反論する前に先に言われてしまったため逃げることは出来ない。
――だが俺は最後まで足掻く!
「いや、ちょっと待て! 落ち着けお前たち」
「君よりは落ち着いていると思うけど」
「まあまあ、何か言いたいみたいじゃない。言わせてあげましょう?」
「それもそうか。言葉を遮るのは良くないからね」
「はい、言いたいことがあるんでしょ? さっ、どうぞ」
アイゼンとノーナが今日あったとは思えないコンビネーションで逃げ道さえ塞ぐ。
お前らついさっき仲悪かっただろ! いつの間に仲良くなったんだ。
「常識を知らない俺がリーダーになるのは危ないと思うんだ。ここは年長者に……」
そういって肉を食い続けるアギトに視線を向ける。
「もしかして、アギトのことを言ってるのかな? でもそれが無理な事くらい君が一番理解していると思っていたけど」
「ぐっ……」
「どういうこと?」
「アギトは共通語を話せないからね。だから龍人族の言葉が分かる彼がお守りをしているのさ」
「へえ、そういう関係だったんだ。なによ、アンタの方がお人好しじゃない」
「ふふっ、それは言えてるね」
「うるせぇ! そんなことより、リーダーになるだけならアギトでも出来るだろ!」
「名目上、アギトがリーダーになった所で君がそばにいるならやはり君がなった方が効率が良いのは一目瞭然だろう。
それとも俺に言わせたいのかい? このパーティーは君を中心に出来たものだ。
例えそれが、言葉が分からない異種族との偶然との関係で、さらにそこに偶然二人の人族が入って来たとしても、君がいなければありえなかったパーティーなんだ。
後から参加した俺達二人がリーダーになるのは関係にひびが入りかねない」
「……くっ、悔しいが確かに正論だ」
「じゃあ、そういうことでもう一度乾杯しようか。早速頼むよ、リーダー」
「うむ」
「よろしく、リーダー」
「はぁ、なんでこうなるんだか。……まあいい。それじゃ、偶然出会った俺達の出会いに――」
「「「――乾杯!」」」
酒杯がぶつかり合い、今日も賑やかな声が夜の帳が下りた空に溶けていく。
冒険者としての道はまだ始まったばかり――
これにて第三章完!って感じでいったん終わることにします。
予定ではこのまま王都編に移行するつもりだったのですが、迷宮都市、まだ3割も終わってない……。
という訳で、このまま中編と題して続行する事にしました。
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