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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第三章 迷宮都市前編

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第81話 新種の魔物は高値で売れる

あけましておめでとうございます!

2021年も張り切って、頑張っていきます!


『「「――カンパーイ!」」』


 三人の陽気な声が合わさって、掛け声と同時に杯をぶつけ合う。

 葡萄酒を一気にあおり、喉を潤す。

 さわやかですっきりとした飲み口は十でも二十でも飲めてしまう。

 杯を置き、周囲を観察する。

 目の前には金の髪を撫でつけた優男と、竜を人型に為したような武人の男。

 全くと言っていいほど性格も好みも合いそうにない二人と卓を囲み、食事を取る。

 不思議な感覚だが、悪くはないとも思った。

 窓から外を見やれば夜も更け、街灯が街を照らす様は現代に比べると仄暗く感じるが、俺にとってはこちらの方が言葉にできない温かみがあり、気に入っている。




 巨大ミミズを倒した後、俺達はそのまま進むことなく、30階層の広い平原で狩りをし続けた。

 三人でトロールを狩ったりしたがそれ以上は特筆すべきことはなく、フォレストウルフやオークなどを合わせて百に満たないくらい狩った後に地上に帰還した。

 結構狩ったわけだし、それに未発見らしきミミズの魔物も倒したのだ。

 相当の金額になるだろうと思ったのだが、これがまさか大金貨三枚だった。

 日本円でおよそ300万円なので、一回の戦闘と考えれば恐ろしい値段だという事がよく分かる。

 とはいえ、それはあのミミズの皮というか硬い表皮の価値が大部分を占めるらしく、肉を焼かなければもう少し割増しになったらしい。


 くっ! 内臓はもっと高く売れたのにっ! なんてことをしたんだ、俺の馬鹿野郎ッ!


 ……もう少し、倒し方にも気を遣おうと思いました。


 まあ、それ以外は然したる金額にならなかったので、後日、金貨を三等分するとして、余りは魔物を運んだ俺が貰ったので、この際パーッと食事で使う事になったという訳だ。

 アイゼンが言うには、30階層でこの金額は破格すぎるくらいだそうだが、前提知識が無いのでなんとも反応に困った。


 さらに、ミミズが新種に近い亜種と判定される可能性があるとのことで、名前を付ける権利を得た。

 何でもこれは数十年に一度あるかないかと言われるくらい珍しい事なので、すぐに名前が決まらない様であれば、次回報酬を受け取りに来る時にでも決めてくれ、とのことだ。

 そう、ミミズの代金は装甲のような表皮とミミズ肉の査定額だけで大金貨三枚だ。解体後に売れる部位があったら、さらに別途上乗せしてくれるようなので、明日もう一回行った時の楽しみにしよう。

 それはそうと、魔物の名付けの権利をどうすればいいのか二人に相談したのだが、アギトはいつも通り「好きにしてくれ」と言い、アイゼンは、


「もし決まらないのなら、この際オークションで売ればいいんじゃない?」


 と簡単に言ってのけた。

 たかが魔物の名前を付けるくらいでそんな大げさな……と笑いながら否定したら、ギルド員が、


「あっ、それでも構いませんよ。むしろ、こちらとしても大助かりです!」


 と興奮するように前のめりで言った。

 どういう訳かと聞いてみると、この権利を俺達からギルドが買い上げて、ギルドの名でオークションに出品する。

 そして売れた金額から3割ほどを仲介料として差し引き、1割をオークション税として払い、残りの6割を俺達が懐に入れるとのことだ。


 「そんな制度があるのか……」と頭の中お花畑のうわの空で考えたが、よくよく考えたらなんか損してね? と思い至る。

 俺よりも早くアイゼンが気付いていたようで、俺が指摘する前に目の前で交渉し始めた。

 なんか妙に生き生きしてるな……とその時俺は思ったが、まさかあそこまで話が大きくなるとはな――――。




「――ねえ、君。その値段設定はちょっとおかしくないかい?」


「これはギルドで決めた値段ですので、そのような事を言われても……」


 優しい口調で、けれど切れ味鋭く斬りかかったアイゼンの言葉に、ギルド員の男性は困惑気味しながらもしっかりと意思をもって言い返す。


 現在、アイゼンとギルド員でこのミミズの名付けの権利について金額交渉をしていた。

 主にアイゼンが精力的に取り組み、俺とアギトは半ば飾りのように、部屋の隅にいる。

 暇になった俺は、テーブルに出された茶菓子のごと掴み、一つ摘んで口に放り込むと、そのまま皿をソファの後ろに立っているアギトに渡した。


「オークションとしての税は理解できる。しかし、三割は流石にぼったくりすぎじゃないかな」


「ギルドを介しての値段はこれまで変わることなく売上高の三割と決まっております。例外はあれど、これは何もおかしなことは無く、至極一般的な対応です」


「そんな事言って。もしかして僕たちのパーティーランクが弱いと思って、こっそり値段釣りあげてるんじゃないの?」


「言葉には気を付けてください! ギルドは人によって態度を変えることはありません」


 挑発するアイゼンに対して、ギルド員も少しずつ苛立ちを表に出す。


「信じられないね。一割二割なら分かるけど、三割だよ? どこが普通なのか全く理解できない。そもそも我々の利益がまだ提示されてないよ?」


「利益なら売上高の六割があるじゃないですか!」


「何を言ってるんだ、それは当然の利益だろう? 僕が言いたいのは君たちに売るメリットさ」


 ギルド員は額に汗をかきながらも、表面上は冷静そうに言葉を紡ぎ始めた。


「――オークションは審査さえ通れば誰でも出品できるのはご存じでしょう。しかし、一つだけ不文律があります。

 それは個人よりも組織として売った方が信用度が高く、商品の最低価格が高くなる傾向があるのです。

 反対にあなた方のような個人では、たとえ出品出来たとしても信用が少ないため、安く買い叩かれるのがオチでしょう。

 その点、ギルドは世界中に存在するありとあらゆる組織よりも巨大で信用度がありますから、その心配は全くの無用です!

 我々に譲っていただければ、売上額が大きくなるのです。理解出来ましたか?

 それに、オークションへの煩雑な手続きを一から全て我々が執り行うので、その分の代金を金額から差し引くという意味では、正当な値段だと断言出来ます!」


「別にそんなこと、僕たちは頼んだ覚えはないけどね」


「ちょっと、さっきから何なんですか。いい加減にしてくださいよ! あなたからも黙ってないで、なんとか言って彼を止めてください!」


 二人の会話を横で聞きながら、茶菓子を手にボーっと天井を見上げていると、いきなりキラーパスを投げられた。

 視線を前に戻して確認すると二人とも俺の方を向いている。

 アギトの方を見ても「ん、どうした?」とそっけない反応をするだけだ。


 えっ、これ俺に向いてるの? やっば! アギト言葉分かんないから絶対俺に向けてじゃん! 俺、話聞いてなかったよ!?


 横で話を聞いていると言っても、それは聞き流すとか「右から左に」的な意味合いであって、話の内容を理解していた訳じゃない。

 いやもしかしたら、この案内された個室には、俺とアギト、アイゼン、そして交渉の男性以外にも見落としていただけで誰かいたのかもしれない。


「そうですね……」


 一縷いちるの望みをかけて時間をたっぷり使い、考えてるフリをしながら目線を動かし、周囲を確認する。

 しかし、それらしき人物は誰もいない。あるのは棚に飾られた妙に気になるフクロウの人形だけだ。


 ――それにしても、なんだあの人形。よくよく見れば目が光っているように見えるけど、なんかすっごい鬱陶しいな!


 とりあえず、頭を切り替えて話に戻らなければ。

 長い息を吐いて深呼吸してから、言葉を切り出す。


「――そもそもギルド員さんは、我々に対し、何が出来るのでしょうか?」


 ゆっくりと口を開き、相手を諭すように、けれど馬鹿にされたとは感じない様に、寄り添う様な言葉を選ぶ。


「何がって……いや、だから値段交渉には応じられませんと言ってますよね?」


「それに対して、ここにいるアイゼンは『その比率の設定がおかしいから低くしてくれ』と申していたと思うのですが、それに対する対応は?」


 まずは相手に既知の事実を述べさせる。


「それは理解してますけど……値段を設定しているのは私ではなくギルドなので、先程も言った様にそのような事を言われても難しいです」


 冷静な対応が功を奏したのか、相手も俺に引きずられて昂った感情を静めながら発言する。

 落ち着いて会話に入ることが出来そうなので、ここからが本番だ。

 あとは論点がはっきり分かればなんとかなるだろう。


「ふむ……難しいとおっしゃいましたが、無理では無いのですか?」


「それは……言葉の綾で私ではどうすることも出来ません」


 値段交渉には応じられず、しかも、目の前のギルド員にはその値段を変える権限すらない、と。

 ならば――


「なるほど。話は変わりますが、我々が売るメリットはなんでしたっけ?」


「それは先ほども言った様に、我々が代わりに行う事によって、面倒な手続きを省くことで売上高の上昇をお手伝いし、あなた方はただお金を受け取るだけで済むような仕組みになっております」


「そうでしたね。わざわざありがとうございます」


「いえ、大丈夫ですよ」


 面倒な復唱をさせて申し訳ない。

 そういう思いを込めて言ったセリフに、ギルド員も笑みを浮かべながら謙遜した。

 相手も話しが通じる相手だと思って、アイゼンと比べると心持ち優しい対応をしてくれた。


(ここだな)


「なら、値段を下げることは可能、ですよね?」


「はい……はいッ!? いやいや、話聞いてましたか!? これ以上値段を下げることは出来ないですし、それにこれはルールで決まってるんですよ!」


 俺の口から出た言葉がそんなに予想外だったのか、慌てて言葉を紡ぐ。

 横にいるアイゼンが面白いものを見る目で、こちらを見ている。


「ええ、だからですよ」


 ニッコリと微笑みながら言った言葉に、ギルド員は唖然として二の句を告げなくなった。

 動揺した内にここで追撃を掛ける。


「先程あなたは、我々が売るメリットは『面倒な手続きをせずに金額が上昇し、お金がもらえる』ことだと言いましたけど、その中にはあなた方の利益は入ってませんよね?」


「い、いや、だからその三割が仲介料の代金だと何度も言ってるじゃないですか!」


 ギルド員が動揺したように早口で否定する。


「違うでしょ? オークションの手続きがどれくらい手間なのかは知りませんけど、名付けをする権利が数十年に一度なら、オークションで出品されることもそう多くはないはず。

 それなのにあなたは、過去に事例が無いとも、逆に幾つも実例があったとも言いませんでした。

 なら、そういう実例(・・・・・・)はあるけれど、このギルドでは無いのではないかと考えたんですが、いかがですか?

 ――いや、ここは迷宮都市ですから、実例があっても古い資料という可能性もあり得ますね。

 もしくは個人で出品することはあっても、迷宮都市のギルドとしては出品経験が少ないから、実績を積むために欲しい、とかね」


 「勿論、ただの妄想ですよ」と付け加えておく。


「うっ……」


 ギルド員は図星を突かれたのか言葉に詰まる。


「そして、あなた方が権利を欲する理由は、そうですね――オークションという場で目玉商品として出品したい、という可能性はどうでしょうか? それなら現実的にあり得ると思うんですけど」


 なんせ数十年に一度というレベルなのだ。

 希少価値の高い商品はそれだけオークションでも話題に上る可能性がある。

 まあ、魔物の名付けにどれだけ価値があるのかは知らないが、我ながら悪くない推察じゃないかと思っていると、応接室の扉がノックされた。

 俺が立ち上がって開けに行こうとしたら、肩に手を置かれ、代わりにアギトが扉を開けた。


「失礼するよ」


「ッ! ギ、ギルド長!」


 そう呼ばれた美麗な顔立ちの男は優雅な所作で自分の部屋のように入ってきた。


「初めまして、諸君。私の名はフェルドゥーラ・エクエハルト。フィルギルドマスター、略してフィル様と呼んでくれたまえ! フィルマス、エクエハルト様でもよいぞ!」


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