第8話 登録と説明
*2017/3/22 一部改稿と修正をいれました。
「あら、どのようなご用件ですか?」
部屋を出て少しギルド内を探索した後、受付へと戻った俺は受付嬢さんに尋ねた。
「あの、すいません。マリーさんから、他の方に冒険者ギルドの登録をしてくれって言われたんですけど」
「ああ、あなたがあのユート君ね。聞いてるわ。登録がしたいんでしょ」
「はい、お願いします」
あのって何だよと不思議に思ったが、優人は黙って頷いた。
「じゃあまず、この紙に出身地、名前、性別、得意なこと、この4つを書いてね。文字は書ける?」
「……はい、多分大丈夫です」
少し謎の文字を見ていると言語術が作用したのか、日本語がその謎の文字の上に重なる様に浮かび上がってきた。
なんという便利な力!と思ったが、同時にスキルの効果が気持ち悪いとも思った。まあ、得をしているのは俺なので文句を言えるはずはないが。
そして渡された紙を見ると今まで触ったことのない不思議な感触がした。何か特殊な紙なんだろうか。
「あの、出身地ってどうすればいいですか……?」
「ああ、何でも記憶喪失らしいのよね?」
「え? はい、そうですけど……何で知ってるんですか?」
どういう訳か俺の事が知られている。
俺が探索してたこの短い間に何があったのだろう?
「マリーから、聞いたからよ。
それと、出身地は別に書かなくても良いわよ。ここだけの話し、書かない人は以外に多いからね」
「何故ですか?」
「色々と事情がある人もいれば、単純に面倒くさがったり、そもそも出身地の名前を知らない人もいるからね」
(そんな適当でいいのか……)
「そうなんですか。分かりました」
「あと、何で性別を書かせるんですか?見た目で大体分かるじゃないですか」
「それはね、確かに大体の人は分かるんだけど、極少数の人が中性的な顔だったり、女性が男性に、男性が女性に、変装してたりすることがあったのよね」
それはつまり、過去にそんな奴がいたということなのか。なんという猛者たちなのだ。何となく、会わないことを祈るばかりだ……。
などと優人は考えているが、実際は貴族等の複雑な事情だったり、色々と闇を抱えている者の特殊な事例なので、当たらずとも遠からずというとこである。
「なんか、色んな人がいるんですね」
「そうね、6年程受付嬢をやっているけれど、本当に色々な人たちを見てきたわ。
強く気高い人もいれば、粗野で自分の思い通りにならなければ気がすまないような人から、プライドばかりで実力のない貴族の人まで、それこそ様々な事があった6年間ね。もちろん楽しいこともいっぱいあったわ」
「そうなんですか、お疲れ様です。それと、紙を書き終わりました」
「あら、ごめんなさいね。ちょっと恥ずかしいわ」
「いえいえ、そんなことは無いですよ。
貴女がこの6年間受付嬢を一生懸命やっていたことは他の誰よりも貴女が一番知っているはずです。無論、周りの皆さんも貴女の頑張りは目にしていたでしょう。だから貴女はそんな自分を恥ずかしいと思うのではなく、もっと誇るべきだと思いますよ。そういう人は尊敬します」
優人は普通に思ったことを返した。
「そ、そう? ありがとう…。おかげでお姉さん元気出たわ」
受付嬢さんは少し顔を赤くしてニコリと微笑みながら答えた。
「それは良かったです」
「あっ、私の名前はジャネット・ビオラ。ジャネットって呼んでね! あと敬語は使わなくていいわ。本当はそっちの方が楽なんじゃない?」
ピクリと眉が反応した。
この世界の人間はよく人を見ているんだな、と妙なところで感心した。
「はぁ、分かった。よろしくジャネットさん」
「さんもいらないわよ? あ、カードを作るから血を少しちょうだい。その間に冒険者ギルドについて説明するから。……説明は必要かしら?」
登録するのに血が必要なのか?と思ったが、当然の事のように話が進んでいるので聞くのは今度にしようと思った。
「一応、様式美ってことでお願いしようかな」
するとジャネットは一度声を整える様に咳をした後、ゆっくりと話し始めた。
「ゴホン。では最初に、冒険者ギルドはこの世界の様々なところにありながら、どこの国にも属さず独立した機関であります。主な仕事内容は、採取、討伐、護衛、お使いから果ては秘境、遺跡探索まで、何でもござれ!
そういった依頼人からのモノを我々ギルドは『依頼』と呼んでいるわ」
「依頼には難易度があって、下からG.F.E.D.C.B.A.S.SS.SSSと順に上がっていくわ。冒険者ランクもこれと同じね」
「そして依頼には他にも10年クエストや100年クエストなんていうのもあるわ。その名の通り10年間もしくは100年間、誰も達成できなかったからつけられた名前よ。別名、塩漬け依頼。Sランクでも厳しい、危険なモノで大変なモノばかりね。
巷では1000年クエストなんてのもあるとか。嘘か真か誰も分からないけれどね」
「それから、ランクはD以上の時に毎回昇格試験があるから覚えておいてね。
あとちゃんとギルドでは守るべき六ヶ条があって、ほら! 右側の壁の上に、
『一、ギルドメンバーの争いは節度あるべし。
一、ギルドメンバーの自覚を持つべし。
一、ギルドメンバーの仁義なき死闘を禁ずる。
一、ギルドメンバーの犯罪を禁ずる。
一、ギルドメンバーの汚職や私利私欲の政治介入を禁ずる。
一、みんな助け合って、依頼をこなしましょう』
ってあるでしょ?
あれを守らないと大量の罰金とギルドの除名処分、刑に応じた懲役刑なんかを強いられてしまうわよ。
今のところギルドでアレを破って除名された人は数人だって聞いてるかな~。もう何百年も前の話らしいけど」
「他にも規則として冒険者同士のいざこざやギルドを通さない非正規な依頼は基本的に関与しないし、依頼は基本的に自分のランクより一つ上までしか受けられないようになっているわ。これは自分の力量より上の依頼を受けてしまわないようになの。特殊な依頼はまた別だけどね」
「それと一年間一度も依頼、または魔物や素材などを売買していない場合は『やる気無し』と見なされ、ランクの降格または罰金、冒険者としての資格停止ね。もうこれくらいかな?」
と、長々とだがとても分かりやすく、そして流れるようだけれども丁寧にジャネットは教えてくれた。
それと「基本的に」とあえて強調するのはあくまで、通常の場合というのを伝えるためだろう。
でも、そんなことより俺は六ヶ条を作った奴はどんな奴なんだろうと少し無駄なことを考えてしまった。
「冒険者のランクはどうやって決まっているんだ?」
「ああ、それもあったわね。
それはね、依頼の量や難易度、ギルドにどれだけ貢献したかや普段の態度、素行等、様々なところで精査しているのよ。ギルド職員になるにはそれよりもっと難しいんだけどね!」
「へぇ~、そういう風になっているのか。意外としっかりしているんだな」
「そりゃあね、中から腐敗していったら大変だからね。厳しめに調査とかして、その人にそのランクは相応しいのか~とか、それはやめた方がいいんじゃないか~とか色々あるのよ」
「分かりやすくて助かったよ」
「それは良かったわ! 受付嬢としてとても嬉しいことだからね。ああそれと、カードが出来てるわよ!」
「おー! これがギルドカードか……」
「ふふっ、それは一種のマジックアイテムでね、魔力を込めるとさっき紙に書いたものが浮かび上がってくるのよ。しかも血で個人仕様に変えられているし、途中から書き加えられたりできる凄いものなのよ!!
それに裏には自分の現在のランクと、どのランクの、どれだけの依頼数を受けて完了したか分かるから結構便利よ!
さらに、ランクが上がっていくにつれてギルドカードの色が変わるのよ」
「下から白、赤、橙、黄、黄緑、水色、青、藍、という風にね。SS以上は知らないわ。
でも噂では、紫、黒と変わっていくとか。
本当になるのかどうかは、自分の目で確かめればいいんじゃないかしら」
ジャネットはそう言ってにこやかに笑った。
カードは何故か虹色のグラデーションに変わっていくようだ。
なら、SS以上が紫や黒に変わっていくのもあながち間違いではないかもしれない。
「それは、凄いな。こんな凄いものどうやって作るんだ?」
「それはちょっと特殊な機械なんだけど、それはまだ解明すらされてないのよね。色んな学者さんや研究者の人たちが頑張っているんだけどね……」
「成果は今のところなし、か」
「あはは……あと、それを無くしたら大金貨1枚も掛かるから気を付けてね!」
ジャネットはいきなり爆弾を落としてきた。
「えっ、大金貨1枚もかかるのか?」
「うん。色々な犯罪とか起こさせないためにね。それに無くさなければ良いだけだから。正確に言うと、もし万が一無くしたら大金貨1枚払うか、借金するか、ギルドを脱退するしかないわ」
「じゃあもし、誰かから奪われたら?奪われて、金と交換とか言い出す奴がいないとは限らないだろ?」
「それはほら、六ヶ条があるからね。
もしそんな人が現れたらギルド組織に喧嘩を売るようなものだから」
「なるほど、もし何かあれば、ギルドを頼ればいいと。本当に良くできているようだな。親切にありがとう。それじゃあ俺はもう行くよ」
「ええ、分かったわ。それじゃあ頑張ってね!」
「ああ」
そう言って俺はジャックのところに行くのだった。
(そういえばさっき話しに聞いていると、何となーくギルドを作った奴も同じ世界の匂いがするんだよなあ。まあ、ただの勘だから特に意味はないけどな。それより、100年クエストって……誰だよそんな達成率限りなく低いの頼んだ奴……)
と、歩きながらそんなことを優人は考えているのだった。




