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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第三章 迷宮都市前編

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第75話 龍人族アギト


 言葉が分からず途方に暮れた龍人族ドラゴニュートを見物している、悪趣味な冒険者の群れをかき分けながら前に出る。

 元々、こういう時に前に出る性格じゃないのだが、まあ大義名分・・・・も出来た事だし、しょうがないと言えばしょうがない。

 それに最初から手助けするつもりだったから、遅いか早いかの違いでしかないとも言えた。


「悪いけど、ちょっと道を開けてくれ」


 すまん、すまんとその都度断りを入れながら前に進むと、大半は迷惑そうな顔をしながらも道を開けてくれる。

 中には面白そうな顔をしてむしろ前に出ろと言わんばかりに押してくる奴もいる。


 ――おまえっ、押すんじゃねーよ! 顔を覚えとくからな!


 勿論、その真逆の人間もいる訳で――


「チッ、割り込んでくんなよ」


「押すんじゃねえよ」


 前に出る度に色々言われると普段気にしない俺でも流石に不愉快だし、それにあの龍人族ドラゴニュートを見捨てたくなってくるから止めろや。

 数十秒の間の出来事で気力を半分くらい消耗した気もするが、どうにか前に出れた。

 周りの人間が龍人族ドラゴニュートの方へと向かう俺を不躾に眺める。

 やりにくいことこの上ない。


「……困ってるようだから、力を貸そうと思ったんだけど――」


『おお!! 言葉が分かる! おぬし、その年で我ら龍人族ドラゴニュートの言葉を扱えるというのか!?』


 くわっ! と目を開くと俺の方を爬虫類のような瞳孔が裂けた目で見つめてくる。

 腰に剣を差し、着流しのようなものを身に着けてはいるが、まさしくそれは人の形をした龍だった。


「いや、別に言葉を理解しているって訳じゃないんだけどな……」


 目力とその威容に圧されながらも答えた。

 俺個人のスペックではなく、【言語術】っていうスキルのおかげなのだから。


『よく分からぬが、頼む! この者達に我がダンジョンに潜りたいということを伝えてくれぬか!』


「分かってる。それを伝えるためにわざわざここに来たんだからな。という訳で、この龍人族ドラゴニュートさんはダンジョンに潜りたいらしいんだが……」


 意識を龍人族ドラゴニュートから受付嬢たちへと向ける。

 受付嬢とギルド員は突然の出来事に呆然としている。


「え、あの……言葉が分かるん、ですか?」


「ん? ああ、そこにいる龍人族ドラゴニュートさんの言葉ならしっかりと理解できてるよ。ちなみに名前は――」


 もう一度視線を龍人族ドラゴニュートに向ける。


『おっと、これは失礼した。我が名はアギャルフギルプァーギャルト! 赤竜一族に名を連ねる者である!』


 思ってたよりも強烈な名前で、一瞬脳が思考停止してしまう。

 やはり、慣れない事をしているせいか、いつもなら赤竜一族とやらについて疑問を持つところだが今回はスルーしてしまった。


「……えーっと、人間には呼びにくいんで、略称名で“アギト”さん、とでも呼んでいいですか?」


『む……ヒトには馴染まぬ名であったか。しかし、それで話が進むのであれば、名などなんと呼ばれようとも構わぬ』


 一瞬、詰まったような顔をしてみせたものの、すぐに元に戻ると略称で呼ぶことに同意してくれた。

 見た目に反して柔軟な対応力だった。


「この人の名前はアギャルフギルプァーギャルトというらしい。アギトさんと呼べば理解してくれるそうだ」


「も、もしかして、ほ、本当に会話してる……!?」


龍人族ドラゴニュートと会話できる人間がこの世に存在したというのか……」


「すごいっす……! まさしく救世主っすよ……!」


 三人は言葉の上では褒めているが、その実、珍獣を見るかのような目でまじまじと見てくる。

 目の前で喋っているはずなのに、どうやら俺の言葉(・・・・)も理解できていない様だ。

 それを受けてか、野次馬をしていた冒険者達も俺が会話している事を信じたのか、少しずつ波紋が広がっていく。


「それで、あと俺はどうすればいいんだ? それとももう終わりでいいのか?」


「はっ! ま、待ってください!? まだ用紙に書いてもらわないといけないことがあるので、その通訳もお願いします!」


 それから十分ほど、受付嬢とアギトさんの会話を仲介し、本人に代わって用紙に記入をしていった。

 ギルドカードを受け取った時のアギトさんはそれはもう嬉しそうに破顔していた。


『――これがあれば、ダンジョンで修行することが出来る!!』


 ついでに、ギルドの役割や注意点の説明も頼まれ、最後まで協力した。




「――じゃあ、これでもう終わりってことでいいの?」


「はい! 最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます」


「我々ギルド所属の警備部隊からもお礼申し上げる」


「何か困ったことがあったら、何でも相談しに来てくださいね!」


 受付嬢と警備部隊の二人から感謝の言葉を貰った。

 【言語術】のスキルがこんなところで役に立ってよかったと強く感じた。


「では我々はこれで。そういえば、君の名前を聞いてなかったな。何と言うんだい?」


「ユートです」


 簡潔に答えた。


「そうか、ユート君というのか。心ばかりだが、ダンジョンで稼げることを祈っているよ」


「もちろん、僕も祈ってますよ! 頑張って下さいね!」


 そう言うと、警備部隊の二人はギルド内部へと帰っていった。

 冒険者達もそれで満足したのか三々五々に散っていった。

 中には俺に向かって、冗談や笑い交じりの野次を飛ばして来る者がいたり、近づいてきてパーティに誘われたりもしたが、機会があったら頼むとだけ断った。


『おぬしには本当に感謝してもしきれぬ。誠にありがとう』


 アギトさんに深々と頭を下げられる。

 その姿からは俺に向けられた感謝の念が籠っていた。

 感謝を受け取った俺は、すぐに頭を上げてもらうよう言った。


「頭を上げてください。むしろ、助けるのが遅くなってすみませんでした」


『何を言うか! 言葉を知らぬ我の責任なのだ。面倒を掛けた我が謝っても、おぬしが謝る義理は無い。それに我にはおぬしに恩返しできるものなど無いというのに……』


 「里に帰れば、家宝でも渡してやれたものを……」と真剣に悔しそうな顔をする。


「いや、家宝とかもらっても仰々しくて困るんでいいですよ」


 それに使い道ないし、と壺や綺麗な石ころを思い浮かべる。

 そもそもそこまで大げさな事をしたつもりはない。


『何と! ヒトと言うのはそこまで人間性ひとが出来ておるのだな……。敵わぬな』


「そう、ですかね?」


『む、人族には難しかったか?』


「何がですか?」


『いや、人族と人間性という意味のヒトを掛けたのだが、難しかったようだな。むむ、我が里では定番のネタなのだが……』


 えっ、今のが……?




 ──☆──★──☆──




 アギトさんを助け、そのまま自然解散になると思ったのだが、最初にアギトさんと話していた受付嬢に呼び止められると、


「数日だけでいいので、龍人族ドラゴニュートさんと一緒にパーティーを組んでもらえませんか?」


 と依頼された。

 理由を聞くと、龍人族ドラゴニュートのパーティーが帰ってくるのがおよそ一週間程度の予想だそうで、その間、言葉が通じないアギトさんを一人にしておくわけにもいかない、といった事情の様だ。

 それは見方を変えれば、ギルドが面倒ごとを俺に押し付けたいという意図が感じられた。


 アギトさん本人に聞くと「迷惑ならば断わってくれて構わない」と俺の判断に任せた。

 それに対し俺は、数拍の間をおいて依頼の件を了承すると、一週間だけ仮パーティーを組む事になった。


「でも、もしかしたら早く問題が解決するかもしれませんよ」


 藪から棒に受付嬢が早期解決法を教えてくれる。


「と言うと?」


「【翻訳の魔道具】と言う物が存在するのですが、それがあれば知らない言葉でも分かるようになるんです」


「へぇー、そんな便利なものがあるんですか」


「はい。しかし、現在のギルドには一つも置いて無い様で、早急にオークションへ売りに来た商人や魔道具店に問い合わせています。なので、もし見つかったらすぐに連絡いたしますね」


 アギトさんに伝えられた言葉を翻訳する。


「『迷惑を掛けて申し訳ない、心苦しいがよろしく頼む』と言ってます」


「はい、任せてください」


 受付嬢は笑顔で微笑む。

 しかし、アギトさんは自分に良くしてくれるギルドに対し、疑問を持ったようだ。


「あっ、『どうして我のために、ここまでしてくれるのだ?』って聞いてます」


「それはですね、龍人族ドラゴニュートの方は総じて優秀な方が多くいらっしゃいます。特にこの街は迷宮から産出される様々なアイテムによって成り立ち、運営していると言っても過言ではありません。

 優秀な冒険者が一人増えれば、それだけダンジョンから持ち帰れるアイテムが増え、魔物にやられる冒険者の数が減り、安定して素材を供給できるようになります。

 それは回りまわってギルドのためになり、ひいては世界が豊かで安全になることを意味します。

 つまり、我々ギルドは龍人族ドラゴニュートであるあなたに期待しているということです」


 「あなたからの恩返しを我々は楽しみにしています」とニッコリと微笑みながら言った。


 アギトさんに伝えると、それはもう楽しそうな笑みを浮かべながら白い牙をのぞかせた。


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