第55話 大氾濫――スタンピード―― 6
「――撃て撃て撃てーッ!」
クフェウスの切羽詰まった怒声が響き渡る。
「手を休めるなッ! 門を通り抜けられたら町に被害が出るぞ! それでいいのか、お前たち!」
命じられるままに誰も声を発さず、機械の様にただただ矢を射っていく時間が流れる。
――腕が痛い。疲れて来た。そろそろ限界に近付いているようだ。
他の人間も俺ほどではないが疲労で声をくぐもらせているのが分かった。
戦闘開始からおよそ一時間、千体以上ものゴブリンを倒し、その勢いに乗れるかと思いきや、突如ゴブリン達の後方から現れたのは、遠目から見ると鎧をまとった人間と勘違いしてしまう外見のゴブリンジェネラルだった。
その隣にゴブリンハイウィザードとゴブリンハイプリーストが数体、さらに魔法師や神官などの同系統下位のゴブリンが力を振るい出してから戦場の主導権が一変した。
こいつらが来て最初にしたのは魔法による広範囲攻撃だった。
範囲攻撃の爆炎によって近くに居た冒険者達が大小のやけどを負い、衝撃の余波で吹き飛ばされたのだ。
幸い背中側からくらったお蔭で、酷い火傷を負った者がいるものの死んだ人間はいない。
けれど、火力の強い魔法のせいで地面は焼け焦げ、火が燃え移ってぼうぼうと草が燃えている。
それに、爆炎の衝撃と音は一瞬の間だが攻撃の手を止めてしまうほどの大きさだった。
しかも、その一瞬の隙を縫うようにファイアーアローやアースランスなどの系統魔法で一斉攻撃してきた時などは、戦場にいる冒険者達が全員死んだのではと覚悟したほどだ。
攻撃された周囲には、砕けた魔法の破片や当たらなかった魔法の矢などが地面に突き刺さっており、冒険者達もところどころ怪我を負っていて身動きできずに倒れ伏していた。
「大丈夫か!? 今助けるぞ!」
範囲外にいたお蔭で無事だった冒険者達が倒れている仲間を助け出そうとしていると、ゴブリン側の方で何やら淡い光が放たれた。
「あれは……!?」
誰が発したのか分からないが、小さくどよめきの声が上がった。
自分もそちらに目を向けると、どこか見覚えのある光がゴブリン達を包み込んでいた。
「……マジ、かよ」
驚愕と絶望の入り混じった声が耳に入る。
そうだ、思い出した。あの光は神聖魔法を使った時に出るエフェクトだ……!
ということは、あの光はゴブリンたちを回復させているのだろう。
それを裏付ける様に、先程の火の攻撃魔法で巻き添えにしたゴブリンたちが傷から立ち直って動き出している。
けれど、それと同時に回復しても起き上がってこないゴブリンがいる。
どうやら自分たちの攻撃で仲間を殺したようだ。いわゆる、“フレンドリーファイア”という奴だろう。
これは最悪な手段だ。相手は仲間を道連れにして攻撃できるが、こちら側は真似など出来ない手法だ。
そのせいで、これからは後方の魔道士にも気を付けなければいけない。
しかも、相手はすぐに殺さなければ回復してしまう。
目の前の敵と後ろの敵を同時に警戒するなど不可能ではないが、神経が休むことなく働き続ける必要がある。
そうなれば、ただでさえ膠着しているこの状況が一瞬にして、ゴブリン側へと傾いてしまう。
ならば俺達後衛が出来ることは一刻も早く、あの魔道士たちをどうにかして倒すしかない。
「でも、どうすればいいのか……」
城壁から百メートル以上離れた敵を狙い撃つことは素人は勿論、達人でも難しい。
仮に届かせられたとしても威力が足りず、打ち払われるのが関の山。
現に他の弓士が狙い撃つも、その直前で火魔法によって矢を消し炭に変えられている。
他の場合でも、あの上位神官が結界で防いでいるため、傷一つ与えられていない。
そんな風に考えながらちまちまと近くの敵に矢を射っていると、今までじっとしていた将軍が前触れもなく歩き出した。
「お、おい、あいつ動き出したぞ!? 誰か止めて来いよ!」
「そんなの無理に決まってんだろ!? まだ全員助け終わってもいないんだぞ! たった数人行ったって、無駄死にするだけだ!」
「じゃあ、どうすんだよ!?」
何やら地上で冒険者達が言い争っているのが聞こえる。
つまり、ゴブリンジェネラルを止められないから他の人間に押し付け合っているのだ。
この状況で自分の身を優先とはくだらない。
そう思いながらも実際のところ、あいつらと同じ様に役に立っていない以上、俺達も同じ穴の狢であることに変わりはない。
「このクソ忙しい時に……! 何やってんだあいつら!?」
けれど、クフェウスだけは違ったようだ。
生来の気質かリーダーとしての責任感か、クフェウスだけは顔に怒気を浮かべている。
「お、落ち着けよ、クフェウス!」
「くっ、あの防御さえ何とかなれば……!」
クフェウスの近くに居た冒険者が宥めている。
防御か……遠い上に暗くて見づらいが、確かにあの鉄鎧は頑丈そうだ。
傍目にはただの鎧にしか見えないが、分厚くて硬いのだろう。
けどこの距離じゃ、矢などいくら当たっても良くてへこませるのがせいぜいだ。
魔法も多分似たようなものだ。
手傷を負わせられても俺じゃ殺せないだろうし、逆に敵意がこちらへ向きかねないので危険なだけだ。
ぐるぐると思考が空回りする。
自分の持っている手札は切り札にはなり得ない。
魔法という力を得ても何も変わらない。俺の魔法では倒せない。
そう思って何度も何度も諦めがちらつきながら、知恵を絞っていく。
――いや、違うだろ! 魔法だけが全てじゃないはずだ!
そうだ、魔法だけが全てではない。持っているもの全てが武器になる。
敵は大なり小なりダメージはくらっている。なら殺せないはずがない。
他に……何か他に使えるものは無いのか。
そんな時、クフェウスたちの会話が耳に入った。
「くそ……あんなに遠くちゃ、当たるモノも当たらない」
「せめてもっと近くに来れば、鎧の隙間をぶち抜いてやるのに……!」
その言葉を聞いて、これならという案が浮かんできた。
そしてすぐに行動に移した。
「おい、クフェウス! 近くにおびき寄せられればいいんだな!?」
怒号や叫びで声がかき消されない様に大声で話しかける。
「あん!? その声ユートか! わりぃがお前の相手をしている暇がねえ! それとも、この状況で何かいい案でも思い付いたか!?」
「そうだ! おびき寄せるだけでいいんだよな!?」
「お前話を……いや、今はいい。それでどんな方法であいつを誘うんだ!? お前が特攻でもするってんならお断りだぞ!」
「おい、クフェウス!? 頭がおかしくなったのか! 新人の作戦なんて無駄なだけだろ! おい、新人! このクソ忙しい時に邪魔すんじゃねえ!!」
男の冒険者が焦りで苛立ちながら俺に八つ当たりしてくる。
「魔法を使う! それと弩砲もだ!」
「おい、邪魔すんなっつってんだろクソガキ!! てめぇは引っ込んで、矢でも撃ってろ!」
「――うるせえ!! 俺が話してんだ! てめぇの方が引っ込んでろ!」
この時間が無い時に冒険者が言葉を遮ってきて、ついに俺も言い返そうとしたが、先にクフェウスがブチ切れた。
その言葉に俺も邪魔をしてきた冒険者も黙って矢を撃っていた冒険者達もみんな呆気にとられて攻撃の手が止まった。
「おい、ユート。どんな方法を使うのか想像できねえが、俺たちゃもう策がねえ。だから俺は、お前を信じることにする。本当に出来るのか?」
「――ああ、ちゃんと成功させてやる」
「じゃあ、やってこい! お前のタイミングに俺達が合わせる!」
「わかった! 後は頼む!」
俺は持ち場を離れると急いで弩砲の所へと向かう。
ずっと立ち姿勢を続けていたせいで足が痺れているが、少しでも早く到着するために構わず走り続ける。
数十メートルの距離を全力疾走しただけだが、妙に息が上がっている。
もしかしたら思っていたよりも緊張しているのかもしれない。
そんなことを実感していると暗い視界の中、うっすらと弩砲が見えて来た。
先程から弩砲が矢を放っていないと思ったら、どうやら東門側のゴブリンの対応をしていた様だ。
すぐに、矢を放つ準備をしている二人の衛兵たちに話しかける。
「すみません! 一発でいいんであいつに向かって矢を撃ってください!」
ゴブリンジェネラルを指差しながら、懇願する。
「いきなりなんだお前は!? こっちは忙しいんだ! お前なんかの相手をしている暇なんてない! それよりさっさと戦いに行け!」
衛兵は一瞬驚いた顔をしながらも俺が冒険者だと分かると、露骨に態度を変えて突っぱねてくる。
(くそっ、想像していたよりも融通が利かない! でもこれしか方法は無い!)
「本当に一発でいいんです! あなた達にしかできない事なんです! お願いします!」
「邪魔だ邪魔だ! もしやお前、この状況で逃げるつもりか!? 切られたくなかったら早く元の場所に戻れ! 隊長からも何か言ってやってください!」
「――やかましいぞ、ケイン。そこの君、理由を説明してくれ」
今まで弩砲を整備していた上司らしき人が話を聞いてくれた。
「はい。こちら側でゴブリンジェネラルが現れたんですが、決め手に欠けているため弩砲を貸していただきに来ました」
「先程の一発でいいというのは?」
「倒す方法は考え付いたのですが、ハイウィザードやハイプリーストたちと固まっていて倒せないので、おびき寄せるために使いたいんです」
「……わかった。しかしこちらの矢も残り少ない。さらに弩砲が壊れかけている。そのため本当に一発しか撃たせてやれないが、それでいいのかね」
「はい、一発だけで構いません」
「た、隊長! こいつの言う事なんか聞くんですか!? 一発だけ撃ったところで矢が無駄になるだけじゃないですか! それに弩砲が壊れたらどうするんですか!?」
「私が決めた事だ。お前が口出しするな。どの道、北門を抜けられたら被害が出てしまうんだ。たったの一発で戦場の風向きが変わるというのなら収支はプラスだ」
「ぐっ……俺は知りませんからね!」
口出ししてきた衛兵がこちらを向かず、無視を決め込んでくる。
上司一人に責任やら準備やらを押し付けて「こいつ大丈夫か?」と思いながらすぐに打ち消す。
それよりも俺自身の準備もしなければならない。
幸い話を聞いてくれた衛兵さんは良い人っぽいので信じて大丈夫だろう。
「さて、流石に私一人で動かすのは辛い。弩砲の向きを変えるのを手伝ってくれ」
「はい」
周囲に戦闘音が鳴り響く中、いそいそと二人で動かしていく。
時間も無いので身体強化を使いながら魔力を練っていく。
無視を決め込んだ衛兵を手伝わせなくていいのかと思ったが、何も言わないので俺も聞かなかった。
けれど衛兵さんも何やら思う所があったのか、自分から話して来た。
「その馬鹿のことは気にしなくていい。どうせ冷静になったら自分から謝ってくる」
「そ、そうですか」
何と言っていいのか分からず、少し微妙な空気になる。
そのまま何事も無かったかのように弩砲の向きを変え終わると、衛兵さんは矢を装填して準備を済ましてくれた。
「では、準備完了だ。何をするのか見せてもらおうか」
その問いには沈黙で答え、弩砲専用の鉄の矢を手に持って小細工をしていく。
魔法で作った炎の結晶。それは前に創った紅く煌く焔の宝玉。【紅輝焔玉】と名付けたその魔法を矢の後ろに取り付けた。
さらに矢に薄い氷を全体に纏わせておけば完成だ。
見た目は氷の青と炎の赤で目立つ上に、創った俺自身ですら戦場の雰囲気にそぐわないと思うが致し方ない。
この二つの魔法には重要な意味があるのだから。
「準備出来ました。後はあいつを狙って撃ってくれますか?」
「ふむ、何をしているのか結局分からなかったか。ところで私は君が撃つと思っていたんだが、撃たなくていいのかね?」
「こういう時に変にこだわると失敗するのは理解しているので、後はお願いします」
「そういうことなら任された。責任重大だな」
「そこまで気を張らなくていいですよ。当たっても当たらなくても大丈夫な様にしているので」
「……そう言われたら、何だか無性に当てたくなってきたよ」
「はあ、そうですか。ではすみませんが、よろしくお願いします」
衛兵さんは頷くと弩砲の前に立ち、戦場を闊歩しているゴブリンジェネラルを狙う。
周囲にはゴブリンジェネラルを抑えようと奮起している冒険者の姿が見える。
けれど、手出しはせずに周りを囲っているだけで、ゴブリンジェネラルが一歩動くたびに下がるという繰り返しを、一定の距離を保ちながらし続けていた。
無言の時間が流れ、緊迫した時間が頬に一筋の汗を伝らせる。
そして、前触れもなく放たれた。
想像していたよりも軽やかな軽快音が弩砲から矢と共に射出されると、真っ直ぐ放たれた鉄の矢は目標へと落ちていくように向かっていった。
それまでゆっくりと冒険者たちを嘲笑う様に歩いていたゴブリンジェネラルは、突然斜めから飛んできた矢に驚きを隠せていなかった。
ちょうど足を踏み出している時に気付いたが、既に避けることの出来ない体勢だったからだ。
ゴブリンジェネラルは本能で何とか躱そうと身を捻るが、変わらぬ勢いの矢はそのまま左腕へと突き刺さり地面に縫い付けられた。
「ギャアアアァァァアア!!?」
痛みと怒りでゴブリンジェネラルは叫びながら暴れまわる。
それと同時に腕を貫いていた矢が前触れもなく爆発した。
ドーン!という音と煙、炎を上げると、ゴブリンジェネラルの周囲が巻き上がった土煙に覆われた。
その衝撃はゴブリンジェネラルを囲んでいた冒険者にまで及んだが、怪我は無く衝撃に飛ばされただけの様だ。
「な、なんだあれは……!? 何が起こったんだ!?」
「……矢を、爆発させたのか」
衛兵さんたちが目を剥いて驚いている。
俺はと言うと、想定通りに事が運んだものの土煙が晴れておらず、倒したのかまだ分からないため油断はせずにゴブリンジェネラルの方をじっと見つめていた。
もくもくと立ち上がる煙が次第に晴れていく。
その中心には左半身が爆発によって焼け爛れ、半ば吹き飛んだ鎧と兜が取れて顔が見えるようになったゴブリンジェネラルがいた。
その目は怒りによって夜の中でも見えるほど赤く爛々と輝いており、攻撃してきた俺の方をしっかりと向いていた。
……どうやら想定よりも作戦が成功してしまった様だ。
「グゴォォォオオオ!!」
どすんどすんと大きな音を立てて走り出す。
その様は不格好で怪我のせいで体のバランスが取れていない様に見えるが、しっかりと地に足をつけ向かってきている。
右手にはバスターソードを握りしめ、殺意を漲らせて突き進んできた。
(うわぁ……本気でブチ切れてんじゃん)
流石の俺も殺意マシマシで向かってこられるのは初めてで、ドン引きせざるを得ない。
それに、ここに居ると迷惑を掛けると思い、持ち場に戻ることにした。
「――それでは、ありがとうございました。自分はこれで!」
「ああ、良いものを見せてもらった。そちら側は頼んだよ」
大きく頷くと来た時と同じように走っていく。
ついでに気を引くために魔法を使って誘導させる。
念入りに火の魔法のみの攻撃だ。
途中、ゴブリンが俺の魔法によって吹き飛ばされたり、ゴブリンジェネラルによってひき潰されたりもしているが、関係のない事か。
魔法による釣り出しは思っていたよりも効果があったのか、面白い様に向きを変えて付いてくる。
気分はペットとじゃれているような感じだ。
そんな様子を見て、緊張なんて遥か彼方に吹き飛んでおり、不思議と体に力が満ちた気さえする。
そのせいか、今までフレンドリーファイアを気にして遠慮していた分まで容赦なく魔法を大盤振る舞いしてぶち込んでいく。
何だか、魔法だけで死にそうになっているが気のせいだろう。
そうこうしている内に弓士たちの持ち場に戻って来た。
幾人かは俺に気付いたのかジロジロと無遠慮に見てくる。
あまりいい気分にはならないが、それも仕方のないことかもしれない。
あれだけ魔法を連射していれば、誰だって嫌でも目に付くだろう。
「おう、ユート! よくやったな。お前は少し休んでいていいぜ。あいつは俺が倒してやるからよ」
「そうか? 何だか力が湧いているから、まだまだやれそうだけど」
「えっ? あー、とりあえず今は休んどけ。後は任せておけって」
そう言ってクフェウスは弓を構え直すと、ゴブリンジェネラルへと狙いをつけた。
俺はそれを黙って見ることにし、胸壁に顔を寄せゴブリンジェネラルを見下ろした。
未だにゴブリンジェネラルは怒り狂っており、誰も手を付けられない状態だった。そして城壁から数十メートルの距離になった所で、躊躇なくクフェウスの矢が放たれた。
矢は当たる寸前で剣に弾かれたが、続く二射目の矢は右肩の付け根をピンポイントで打ち抜いた。
「すごい……!」
誰か弓士と思しき人間の感嘆の声が漏れた。
間近で見て、あれは確かにすごいと思った。
見た目は何の変哲もなさそうな二連射だが、一射目が弾かれるのを計算して放たれた矢は、相応の技術が無ければ出来ないものだ。
しかも、右半身の鎧はいまだ健在だ。あの隙間を動いている敵に撃つのは相当な腕が無いとできない技だろう。
それと同時に、俺に弓を教授してくれたエルフは、クフェウスよりもさらに飛びぬけた技術を持っているのだといま本当の意味で理解した。
続いて三射目は右足の膝関節を狙い撃った。
これは弾かれるよりも早く突き刺さった。
ゴブリンジェネラルは痛そうに呻きながら膝を地につけるが、まだ戦意を失ってはいない。
しかし、ここでゴブリンジェネラルは思わぬ行動に出た。
肩も膝も撃たれて動けぬ状態にされたにもかかわらず、門に向かって走り出したのだ。
「な!? あの状態でも走れるのか!」
「は、早く倒さなきゃ、門が破られちゃう!?」
これには他の弓士も驚いた顔をして声に出た。
ゴブリンジェネラルは最後の気力を絞って走っているのか、スピードこそ速くは無いが恐ろしかった。
慌てた弓士たちは自分たちも加勢しようと弓を弾き絞ろうとするが、
「お前たちは何もすんな! 最後は俺が決める! よーく見ておけよ!」
というクフェウスの命令でゆっくりと弓を下ろしていった。
何をするつもりなのだろうか。
ここに居るみんなの心が同じ思いになった時、クフェウスの矢が一直線となって放たれた。
「あっ……」
矢は走ってくるゴブリンジェネラルの眉間を捉えると、寸分の狂いもなく突き刺さって貫通した。
ゴブリンジェネラルは避ける間もなくくらい、そのままゆっくりと前のめりに倒れていった。
数秒の間を開けて、ゴブリンジェネラルが動かなくなったのを確認するとクフェウスは勝鬨をあげた。
「ゴブリンジェネラルの首は、俺が獲ったぞーッ!!」
「う……」
「「「うぉおおおおおおおお!!!」」」
その言葉を聞いて、冒険者たちだけでなく衛兵たちも歓声を上げた。
反対に、ゴブリンジェネラルが倒されたことで士気が失われたのか、ゴブリン達の動きに精彩が無くなっていく。
それを好機と見た冒険者達は先程までの気勢が何だったのかというほど、一気に攻勢をかけて行った。
戦場は既に戦士たちの独壇場になっており、俺達弓士はむしろ邪魔になってしまうほどだった。
破竹の勢いでゴブリンが倒されていくのを上から眺めていると、次第に臆したのか次々とゴブリンが森の方へと逃げていく。
それを追う戦士たちを見下ろしながら、肩の力を抜いていく。
長くて短い戦いは勝敗を決した様だ。




