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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第二章 魔物大氾濫篇

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第50話 大氾濫――スタンピード―― 


 フェリシアとの会話の後、騒々しくしてしまったと気付いた俺達は周りの視線から逃れる様に店を出た。


「あちゃー、ちょっと騒ぎ過ぎちゃったかぁ」


「いや、大体全部お前のせいだからな? そのせいで出ていく羽目になったんだから」


「もー、それはさっき謝っただろう」


「反省しているように見えないんだから自業自得だ」


 頬を膨らましながら女の子らしく抗議してくるが、どんな態度を取られても俺がそんな簡単に(ほだ)されたりするはずもなかった。


「それでこれからどうするんだ?」


 周りの屋台や店の繁盛している声をBGMに、街中を二人並ぶようにして歩きながら次の予定を尋ねる。

 その問いにフェリシアは少し考え込む様に一拍開けると、何か思い付いたような顔をして上げた。


「うーん、そうだね。奴等についての情報を集めたいところだけど、今の時間帯じゃあ冒険者や商人も少ないだろうから無駄だしね……。あっ、なら今から僕とパーティーを組まないかい?」


 奴等とは盗賊団の事だろう。疑っていた訳では無いが本当にその盗賊団の事を追っているとは、人は見掛けによらないものだ。

 それにしてもパーティーか……。

 今度は何をするつもりか分からないが一応忠告しておこう。


「パーティーって言っても、ここら辺で行くような場所なんて森か平原しかないけど、それでもいいのか? それに今その森は、ゴブリンが沢山増殖している可能性が高いから危険みたいだし」


「えっ、そうなの? 僕はそんな情報知らないけど、それはどこで手に入れた情報なんだい?」


「あー、つい先日その森で知り合いの冒険者と一緒に異変を見つけたんだよ。そしたらジェネラルとかキングがいる可能性が出て来たって訳」


「そんな事態になっていたのか……ならこの町も狙われる危険がある、ってことだよね」


「その可能性は十分にあるだろうな」 


 「むしろ、その可能性しか考えられないけどな」と心の中で付け加えながら溜息を吐く。

 今の内に逃げた方が良いのではないかと考える事もあるが、この町で知り合いが出来てしまった。

 そんな彼らを見捨てるのは後味が悪い。

 それに、この世界で生きるのならばこういう命を対価に(ベット)する機会もこれから増えていくだろう。

 ならば最初の内に経験しておくのも悪くない、というのが半分であとの半分はレベル上げに利用出来るというのが内心の思いだ。


「それなら外には行かない方が良いね。……そうだ! 一緒に町の中を見て回りながら買い物をしないかい!」


「えっ、俺もか?」


「君に決まってるじゃないか! どうせ何もする事がないんだから、この機会に自分が住んでいる町を知るのも悪くはないと思うんだけど?」


 何もすることが無いのはゴブリンのせいで、という意味を含んでいるんだろうが、それを知らなければすごい嫌味な奴に聞こえるな。


「まあ、別に構わないけど」


「それじゃあ決まりだね! でもその前に最初はどこかの屋台で腹ごしらえしてからにしようか」




──☆──★──☆──




 それから俺達二人は様々なところを見て回った。

 コップの様な小さな雑貨から、箪笥(たんす)の様な大きなものまで取り扱っている生活用品専門店や意外にも清潔で綺麗なものが多く置いてある古着屋、店は大きいとは言えないものの本棚にびっしりと敷き詰められている本屋、更に冒険者が良く使う消耗品なんかを扱っている商店など色々な店を回っていった。


 生活用品店では金属製のタンブラーみたいなコップや木製の皿、スプーンにフォークなどの食器を幾つもまとめ買いすると新婚と間違われたのか安くしてくれて、おまけに魔除け代わりに木彫りで出来た何かの動物をくれた。

 特に嬉しくは無かったが、善意でくれたのでありがたく貰い、礼を言っておいた。

 古着屋では現在中と外用の二着しかないため、何かあった時の為にと予備の服を三着ほど適当に選び、本屋では以前から欲しいと思っていた魔物の解体について書かれた本やこの世界の伝説や神話に関係する物、スキルに関しての物、そして他国に関しての説明が書かれた本など計十冊程これもまとめ買いした。


 他にも広場で買い食いしたり、武器や防具の店を冷やかしてみたり、商店街っぽいところを散策しながら、この町の特徴的なところを回ったりもした。

 そうして時間が過ぎていき、気付くと太陽は地平線に差し掛かっていた。


「あー、今日はいろんな所を見れて楽しかったよ。君はどうだい?」


「俺も欲しかった本が買えたし、雑貨に予備の服、冒険者に必要な道具も大体買い揃えられたから結構満足だな」


 事実満足げな顔をしているユートの背には、通常空っぽなはずのバックが少しばかり丸みを帯びていた。

 

「そりゃ良かった。もしかしたら無理やり連れ回して迷惑かなとも思っていたけどそんな事は無かったみたいだね」


 少し気恥ずかしそうにフェリシアは胸の内を打ち明ける。


「お前、今までそんな事を考えてたのかよ」


 そんなフェリシアをユートはアホを見るような目で見ながら小さく溜息を吐いた。


「当たり前じゃないか! 失礼だね。大体僕は気遣いのできるいい女なんだから!」


「気遣いのできるいい女なら、人様を数時間も連れ回したりはしないと思うけどな」


「うぐっ! 痛い所を……」


 小さいながらも彼女に聞こえるような大きさの声でカウンター気味に言い返すと、大げさなリアクションをしながら胸に手を当てて押さえている。

 その時、手を当てた女性らしい大きさの胸が形を変えたのが目に入ったが、すぐに馬鹿馬鹿しいと思い目を逸らした。


「ん? どうしたんだい?」


「いや、何でもない。それよりもうすぐ暗くなってくる頃だけど、宿とか大丈夫なのか?」


「あー!! 何も考えてなかったよ……ねえ、どこかおすすめの宿は無いかい? もしくは君が泊まっている所でもいいんだけど」


 どうやらまだ宿を見つけていないらしい。

 このまま宿が見つからなければ野宿しなければならないという悲惨な羽目になるだろう。

 だから仕方無く自分の泊まっている宿を教えてあげることにした。


「じゃあ、今から俺が泊まってる宿に連れて行こうか? ついでに空いてたら早いけど晩飯でも食うか」


「うんうん! そうだね、お願いするよ!」


 首を縦に力強く振りながら頼み込んでくる彼女の様子は、幼気(いたいけ)な兎かリスの様な小動物を彷彿とさせた。

 そんな彼女の望み通り、俺が泊まっている“旅人の憩い亭”という宿屋へと案内をした。

 そこで運よく一つだけ空いている部屋があったようで、即決で決めると野宿する羽目にならずに済んだと喜んでいた。


「――いやー、良かった良かった! もしもこれでダメだったら教会にでも泊めてもらおうとか考えてたけど、そんな事にならずに済んだよ!」


「ああ、良かったな」


 彼女の返事に適当に相槌を打ちながら食事を頼んだ。

 数分後、食事が運ばれてきた俺達はテーブルを挟んで向かい合わせに座ると食事を取り始める。

 それから彼女が果実酒の入った杯を何杯も呷り続けていくと、少しずつ饒舌に喋る姿を見て酔っていくのが手に取るように分かった。

 まあ、一人で旅をしている様だから精神的にも肉体的にも疲れているのだろうと思い、今日くらいは好きなだけ喋らせてあげる事にした。


 そんな気楽な食事から数時間後、眠りについて人気のなくなった夜の町に突然悪意が襲ってきた。




──☆──★──☆──




 カランカランカランと打つ者のはやる気持ちを表す様に、町中へと鐘の音が鳴り響く。

 すると真っ暗な街並みに一つ、二つと次々に明かりが灯り始めた。

 それと並行する様に外へと出始めた人たちによって、幾つものどよめきと怒り、そして焦りの声が静かだった町に広がっていく。


「いったい何なの!?」


「何が起こってんだよ!」


 町の人々は滅多に聞かない厳戒態勢を示す鐘の音に驚きと不安を感じていた。

 そんな中、部屋の外から鳴り響いている鐘の音と何やら外が騒がしい事に気が付いたユートは、目を擦りながらベッドからしぶしぶ起きると窓の外を見た。


「……こんな時間に何なんだよ、ったく……」


 しかし、外を見ただけでは人が騒いでいるだけで何が起こっているか分からない。

 ユートは着ている黒いコートのまま、水で顔を洗い目を覚まさせると一階へと降りていく。

 そこには慌ただしく動いているアマンダさんと宿から逃げる様に出て行く冒険者と思しき男達が目に入った。


「あの、アマンダさん! さっきから何が起こっているんですか?」


 忙しい所に申し訳なく思いながらも、現在の状況に詳しそうなアマンダさんに訊ねてみた。


「ああ!? この忙しい時に……ってユートかい。あんたもしかして、いまの状況何も分かってないのかい?」


「あー、えっと、はい。いまいちよく分からないんですけど……?」


「はー、まったく、何も知らないっていい気なもんだね! ……まあいい。今はね、魔物がこの町を襲ってくるって知らせが入ったんだよ。だからみんな避難するために忙しいんだ。

 というかあんたも冒険者なんだから、ギルドからこの町にいる全ての冒険者に対して緊急時における招集命令が下ってるはずだけど、行かなくていいのかい?」


「えっ、そんな事になってたんですか!? わかりました。ちょっとギルドに行ってきますんで、情報ありがとうございました!」


「はいよ! あっ、ついでにこれ持って頑張ってきな!」


 アマンダさんは近くに置いてあったバケットからパンを一つ手に取り、こちらに放り投げると気合を入れる様に激励してくれた。


「はい!」


 それを手できっちりキャッチし、力強く返事を返すと走って腹に入れながらギルドへと向かった。

 ギルドに到着した俺は意を決して扉をくぐると、どうやら訓練場の方に向かって流れている様だ。

 そちらに俺も向かうと、百人は優に超えるだろう結構な数の冒険者が既に中に集まっており、入り口近くに居た冒険者がこちらをジロジロと値踏みするように無遠慮に見て来る。

 その視線を極力無視しながら出入り口付近の壁に寄りかかると、訓練場内の全体を見渡した。

 そうしてみると冒険者という職業柄なのか、誰も彼も自分勝手に振る舞いながら喋っているので落ち着きがない。

 勿論、何人かの冒険者達は黙って何かが始まるのを待っているが、彼らからは我関せずと言った印象を受ける。

 そんな中、俺もすることが無いので黙って立っていると、ふとフェリシアの事を思い出した。


 ――やばい、普通に忘れてた……!

 けどまあ、こんなに煩かったら勝手に起きるだろうし、どっかでバッタリ会うだろう。

 まあ、何で置いていったんだとか後で文句を言われるかもしれないが、それについては半ば諦めながら思考を打ち切った。


 手持無沙汰になったので、周りを見渡しながら冒険者を観察する事にした。

 ギルドに入った時から思っていたが、一般的な長剣や短剣を使っている奴が結構多く、他にも槍、弓、杖の順で一定数おり、中には極少数ながらも両刃の戦斧や戦鎚ウォーハンマー鎚矛メイスなどの重量武器を軽々と背負っている猛者がいた。

 ちなみに今の俺は道中に装備を付けたため弓を背負っており、あえて剣を外していた。何故ならもしも前線で戦わさせられたら、味方からの攻撃で殺されそうだと思ったからだ。


 そういう想像をした理由には、戦場での死亡原因が味方からの誤射が二割を占めると本で読んだ覚えがあるため、後方での支援をしながら安全にレベル上げをする事に急遽変更した。

 そもそも寄せ集めの冒険者なので、誰も彼も信用できないと言うのが最大の理由かもしれない。

 それと防具に関してだが、革鎧、部分鎧がやはり圧倒的大多数を占めている。

 それは防御を削り、身軽さを求める冒険者ならではの選択なのだろう。

 他にはローブやマントで傍目には見えないが、鎖帷子(チェインメイル)部分鎧(ハーフアーマー)を付けていると思われる。

 しかし、その中にも数人ほどしか見えないが胸甲(ブレストプレート)を身に着けている稀少な者がいるため、結果的には趣味趣向というのが一番の決めてになるのだと思った。

 

「――おお、ここに居たのかユート!」


「ん? この声は……」


 そんな風に冒険者たちについて結論付けていると、ジャック、オルガ、アルジェルフの三人がこちらに近付いてきた。

 三人ともこれから戦いに行くための装備に着替えてるためか、他の冒険者と比べていつにも増して仰々しかった。


「やっぱりジャックだったのか。それにしても気付かなかったけど、もしかして三人とも結構前からいたのか?」


「うーん、そんな大して変わらないと思うぞ?」


「あたしとアルもさっき来たばかりだから、何ともね……」


 オルガの返事にアルジェルフもそれに同意するように無言で頷いた。

 そんなアルジェルフは俺の後ろを一瞥いちべつすると、何かを理解したのか面白そうに含み笑いをしてきた。

 すると今度はジャックも気付いたのか、俺の背中をいぶかしげに睨んできた。

 こいつら意外と鋭いな……。


「そういやお前、何で弓なんて背負(しょ)ってるんだ?」


 その言葉にオルガも気付いたのか怪訝そうな顔をして見てきた。

 文字通り読み取れば、弓を持っている事に疑問を感じているのだろうが、そうではないのだろう。

 何故なら二人は、森へ行った時に俺が剣を使っていた事を知っているのだから。

 そのため何となくこの状況は面倒だと感じた俺は、適当に煙に巻こうかとも考えたが、別に隠す必要はないと思い返すともっともらしく告げた。


「そりゃ勿論、弓で戦うためさ」


 その言葉に納得しなかったのか、ジャックが表情を引き締めると、


「じゃあ、何で剣を出さねぇんだ」


 と眉を顰めながら低い声で問い詰めて来た。

 

「いやー、まあ、弓で戦いたいと思ったからだけど? それに前線に居るより後方で戦った方が安全かなーって」


 そんな恥ずかしい事を臆面もなく言い放ったユートに、ジャックは毒気を抜かれ、オルガは大笑いし、アルジェルフは後ろで小さく吹き出していた。


「……そうか、ちゃんと考えてんならまあいいが、後ろに居たって必ずしも安全じゃない事だけは覚えとけよ」


「それは俺が一番分かってることさ」


「だといいがな」


 話は終わったのかジャックは前をじっと向き始めたので、これから何が始まるのか最後に聞こうと思ったのだが、何やら先程よりも周りが騒がしくなっている事に気が付いた。


「おっ、もうすぐ始まるらしいな」


 一体何が始まるのだろうと疑問に思うが、ジャック以外の二人も静かに前を向いているので黙って見守ることにした。

 すると、奥に建てられた簡易の壇上に見覚えのある男が上がってきた。

 その男――ギルドマスターのゲオルグは左手を軽く上げる様な動作をすると、騒がしかった声が次第に波が引くように静かになっていった。


「――俺はこの冒険者ギルドのギルドマスターをしている、ゲオルグだ」


 どういう訳か、やけに響く声でゲオルグは話し始めた。


「時間も無いので端的に言わせてもらうが、今この町はある魔物の大群に襲われている」


 その言葉によって冒険者たちへ少しずつざわめきが伝播していき、前方のどこかで「ある魔物って何だよ?」という疑問の声が聞こえてくる。


「その魔物の名は――緑小鬼ゴブリンだ」


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