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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第二章 魔物大氾濫篇

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第46話 王の胎動と小さな縁


「――何ダカ、騒ガシイナ」


 人間の二回り以上もある大きな人型の存在が、獣の骨や人骨を飾り付けた玉座らしきものに腰掛けている。

 ソレは血の様な赤いマントを羽織り、頭にはくすんだ宝石のついた王冠を、首には謎の髑髏の首飾りを身に付け、蛮族を連想させる腰巻をしていた。

 その大きな人型の存在は誰に言うでもなく、片言の人族の言葉を空に向けて放つと、それを近くで聞いていた、汚れた外套を被り杖を携えている呪術師風の者が反応した。


「王ヨ。ニンゲンガ、襲ッテ来タヨウデス。女ヲ、ウバイカイシニキタ、ト」


「ナルホド、人間ニ気付カレタノカ。ソレデ?」


 王と呼ばれたものがギロリ、と目玉を呪術師風の者に向け睨みつける。

 ソレは少しでもふざけた言葉を言えば、その場で嬲り殺されてもおかしく無い様な雰囲気を醸し出した。

 その視線を至近距離から浴びせられた陰気な印象を持たせる魔術師は、おどおどしながら口を開いた。


「ソ、ソレガ、下僕ドモヲ殺シテ、女ヲウバウト、逃ゲテ行キマシタ」


「――クックック、グハハハハハ!――――コノ無能ガッ!!王ノ領域ニ下等ナニンゲンヲ侵入サセルトハ、守護スラマトモニ出来ヌノカ!!」


「ヒイッ!?ド、ドウカ、オユルシヲ!!」


 笑顔から一転、憤怒の顔を浮かべた王は、腰を抜かしてただひたすらに頭を地面に擦り付ける男に向かって腕を振り降ろした。

 ドスン!と派手な音をあげると、その握り拳が男のすぐ目の前で埋まっていた。


「――蹂躙ダ」


 王は濁った眼を輝かせながら、一言呟く。


「ソ、ソレハ……?」

 

「コレカラ、町ヲ襲イ、ニンゲンドモヲ喰ライニ行ク。雌伏ノ時ハ終ワリダ。下僕ドモヲ、全テアツメロ」


「ハ、ハイ!ス、スグニアツメマス!」


 男は慌てて飛び上がると部屋から出て行こうとするが、王が呼び掛けると立ち止まる。


「オイ、待テ貴様」


「ハ、ハイ!?ドウシマシタカ!?」


「次ハ許サヌ」


「ハ、ハイ!!」


 王の最後の宣告を受け先程よりも大きな声で返事をすると、逃げ出すように大慌てで男は部屋を出て行った。

 一人残った部屋で王は玉座に腰掛けながら、欲望という名の炎を燃やす。


 ――蹂躙だ。

 ――ニンゲンを殺し、恐怖させ、絶望の表情を眺める。

 ――一匹ずつ追いかけて、悲鳴を楽しむのも面白そうだ。

 ――そう、王である自分に敵う者など存在しないのだから。

 ――戦いの後は死肉を喰らい、溺れる程の血と酒を浴び、オンナを貪る。

 ――これ以上の娯楽があるだろうか。いや、存在しない。


 町を攻め落とした後の事を夢想しながら、酒を呷る。

 人間に見付からない様に注意しながら、力を蓄えて来たのだ。

 だから、負けるはずがない。

 王は一人静かに、その時を待ち続ける。

 戦いの火蓋が落とされるのはすぐ近くまで迫っていた――。




 ──☆──★──☆──




 その日、ユートは嫌な予感を感じて目が覚めた。


「うーん……」


「朝から辛気臭い顔してどうしたんだい、ユート?」


 テーブルで一人寂しく食事をしていると話しかけてきたのは、宿屋の女将であるアマンダであった。


「何と言うか、寝覚めが悪かったのでちょっと不機嫌なんです」


「ぷっ、あんた見た目と違って、面白い事を言う子だね~」


 今のありのままの感情を伝えると、どういう訳か笑われた。

 俺が冗談を言ったように見えたのだろうか?


「そうですか? 別に普通だと思いますけど」


「いーや、あんたは見た目は普通だけど、ちょっと他の人とは違うよ」


「具体的には?」


「なんだろうね……言葉には出来ないけど、感性とか雰囲気みたいなものが違うのかもしれないね。あっ、オーダーが入ったから話はまた今度ね!」


「はい」


 言うが早いか、アマンダさんは他の客の所にすっ飛んでいった。

 また一人になったユートはさっさと食事を取ると、食休みついでにほぼ底をついたポーション瓶のストックを作り置きするために部屋へと戻る。

 それから地道に作り続けて数時間後、ユートの眼前には数が多くなりすぎたため山の様に積まれた土の瓶があった。


「――それにしてもたくさん作りすぎたな……」


 しかもここにある数だけでなく、優にこの十倍を超える程の瓶が亜空間の中に仕舞われている。


「えーっと、全部で大体三千個かぁ…」


 亜空間へ意識を向け、中を調べてみるとすぐに個数が頭へと浮かび上がってきた。

 流石に現在の俺の魔力量では、三千個もの数を作るには魔力が足らないので、途中から魔力回復薬(マナポーション)をちょびちょびと飲みながら作っていたが、今考えるとくだらない事に使っていた、と自分に呆れてしまう。

 とりあえず、目の前にある瓶を全て仕舞うと身体を解す。

 こういう地味な作業は簡単に没入出来るから嫌いではないが、身体が凝るところが残念だ。


 それから後片付けをして部屋を綺麗にすると、もうすぐ昨日注文した約束の時間になるので鎧を受け取りにレイグの店へ向かう。

 三度目ともなると勝手知ったる店の扉を開け、当たり前の様に入っていく。


「こんにちはー」


「おう、来たか。待ってたぞ」


 男臭い笑み……かどうかはドワーフなので分からないが、多分それに近い笑みを浮かべているようだ。

 それだけの変化も驚きだが、こんな知り合いが誰もいない異世界で「待っていた」と言われた事も少しばかり新鮮な気持ちにさせた。


「じゃあ、早速鎧を見せてもらおうかな」


「くくっ、そう言うと思ってここに置いといた」


 カウンターの横に置かれ、大きな布を被せられた物体を叩きながら示す。どうやらそのオブジェクトみたいなのが鎧だったようだ。


「さあ、これがお前さんが注文した鎧だ」


 その言葉と同時にさっと布を(まく)り上げると外した。

 中から出て来たのは一見普通の革鎧(レザーアーマー)の様だけれど、部分部分で異なるところが見られた。


「お前さんの注文通りに、急所部分や守りづらい場所へは鉄板を仕込んでおいた。それと革鎧(レザーアーマー)を阻害しない形で鎖帷子も入れることは出来た。予想以上に面倒だったがな」


 愚痴りながらも言葉とは裏腹に笑みを浮かべているようだから、俺の注文は結構面白かったのかもしれない。

 そして俺の注文とは、革鎧と革鎧の隙間に細めの鎖帷子を仕込み、心臓部やそれに類する急所や守りにくい場所に鉄板を仕込むという子供っぽい発想で作った鎧だ。

 まあ、革鎧(レザーアーマー)と鎖帷子の性質の二つがあるので、そう簡単に怪我をすることも無くなったという訳だ。


「思ったより違和感が無いな」


「まあ、本来の鎖帷子では大きすぎて仕込むことが出来ないから、小さく改良する必要があったが、その分防御力は想像以上に高まっただろうな」


「それは好都合だな。それで着けてみてもいいか?」


 ワクワクしながら問いかけると、レイグは苦笑いしながら頷いた。


「うんしょっと。結構きついな……」


「きついのは革がまだ馴染んでいないからだな。他に腕や脇で何か違和感があるか?」


「左肩が少し変な感じかな。後は胸の所が結構隙間が空いてるように思うんだが……」


「ふむ、左肩はこれで大丈夫だろうが、胸部は……筋肉的な問題だな」


 ささっと左肩の調整を済ませ、胸の部分に取り掛かろうとするが、レイグは変な事を言って止まった。


「んん? どういう意味?」


「何と言うか、お前さんは一般的な冒険者と違って全体的な筋肉量が足らんのだ。だから普通はその鎧でピッタリと合うはずなんだが、どうやらそのせいで隙間が空いた様だ」


 何だか間接的にディスられている様な気がする。

 まあ最初から平和な世界で生きて来た以上、どこかで噛みあわない所が出てくると思ったが、まさかこんな所でそれに気付かされるとは。

 そう思うとちょっぴり悲しくなった。

 そうか……異世界では筋肉を標準的に装備しているのか。

 確かにRPGでも筋肉キャラが結構出てきたが、そこまでは考えてなかった。


「えっと、どうすればいいの?」


「うーん、さて、どうしたものか。まあ、お前さんがそこまで邪魔だと思わなければ、そのままでいいんじゃないか? 直してほしいと言うならすぐに直すが」


 「そんな適当な!」と思ったが、まあ着るのは俺だから選択を委ねたのかとすぐに思い直した。


「いや、まあ、このままでいいんじゃないか?」


「そうか……」


 何と言うか、締まりのないまま会話が途切れた。

 それから鎧の金額を聞き出すと、きっかりお金を支払った。

 ちなみに値段は八万ノルと高いのか安いのか微妙な所だった。


「――あっ、そう言えばこの鎧って革鎧なのか? それとも鎖帷子なのか?」


 唐突に浮かんだ疑問を目の前に居たレイグに聞いてみた。

 この鎧は二種類の鎧を組み合わせているので、どちらとも言いにくいのだ。


「ん? そうだな……どちらでもあるし、どちらでもない鎧とも言えるからなあ。しいて言うとすれば――複合鎧(コンポジットアーマー)とでも呼べば良いんじゃないか」


複合鎧(コンポジットアーマー)か……それカッコイイな!」


 頭の中で反復していくと、よく馴染む五感に思えた。


「そうか。じゃあ、これからはこの鎧はそう呼ぶとしよう」


「じゃあもう用事も終わったし、この鎧を着てちょっくら一狩り行ってくるよ」


「今からか……まあ、気を付けろよ」


「分かってるって。ついでに今度来たら、この鎧の評価をするから楽しみにしててくれ!」


 鎧を着たユートは満面の笑みを浮かべながら手を振ると店を出て行った。




──☆──★──☆──




 一狩りすると言ったユートは今まで行ったことの無い方へ来てみた。


「ここが平原か……随分遠くまで見渡せるな」


 ユートが来ていたのはルクスの森の反対側に位置する一般的な平原だ。

 残念ながら特に名前などがある訳では無いが、ダラムの町の西門を抜けて行くため“西平原”とか、ルクスの森にあやかって“ルクス平原”とか呼ばれているらしい。

 そんな事を考えながら適当に何処へ行くともなく歩いていると、俺と同じ冒険者に出会う事が多々ある。


「よお、同業! 今から狩りに行くのか?」


 二メートル程離れて話しかけてきたのは三人パーティのリーダーと思しき剣士の男性だ。後ろにいる短剣使いらしき男性と杖を持った魔法使いの女性がこちらに向かって軽く会釈してくる。

 普通ではもっと近くで話すモノだが、外では誰が敵で、誰が味方か分からないためこのくらいの距離を保つのが常識らしい。


「ええ、そうなんです。ちょっとお金が減ってきたので稼いで来ようと思いまして。そちらは今からお帰りですか?」


 俺がユーモアを交えながら当たり障りのない質問をする。

 どうやら冒険者の間では、獲った獲物に関して根掘り葉掘り聞いてしまうと、奪うのではないかと要らぬ猜疑心を生んでしまうそうだ。

 だからそれに触れるか触れないか程度に納めれば、人によって勝手に自慢げに話したりするし、あまり詳しく語らないのか判断できる。


「ははっそうなんだよ。ちょうど時間的に区切りもいいし、大量に獲れたからな。そっちは見たところ一人らしいが、大丈夫か?」


「はい、ご心配ありがとうございます。ですが、平原なので竜が出てこない限りは大丈夫でしょう」


「そんなもん、竜が出ちまえば誰だって無傷じゃ済まねえさ! でも、その調子なら一人でも大丈夫そうだな」


 俺のジョークに三人ともくすりと笑みを浮かべて、警戒を解いている。


「ええ、皆さんに負けないくらいお金を稼いで見せますよ! あっ、そう言えばルクスの森でゴブリンが大量発生しているという噂があるそうですよ。皆さんも森へ行くのでしたら気を付けてくださいね」


 ここで俺が知っている情報をさらっと告げる。

 この情報を信じるか、それともほら吹きだと思うかは個人の勝手だ。

 けれど犠牲者を増やさないためと、少しばかりの恩を着せるためにあえて教えて上げた。


「おっと、貴重な情報ありがとな。ギルドであったら声かけてくれや、今度一緒にパーティでも組もうぜ!」


 どうやらこの男の人は警戒心が薄いのか鵜呑みにして信じている様だ。

 いつか痛い目に遭わなければいいが……。


「はい、では今度あったら是非」


「おう、頑張れよ!」


「また今度会おう」


「頑張ってください」


 三人と別れの挨拶をすると、俺は振り返ることなく進んでいく。

 こうして小さな縁が結ばれる事となった。


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