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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第二章 魔物大氾濫篇

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第45話 コロニー探索調査 2


「おいおい! 何だこの数は!?」


 コロニーを見つけた場所に向かうと、そこは想像以上のゴブリンで溢れていた。

 辺り一面は木で作られた柵のようなものがあり、その中に大小様々な家と呼ぶのも烏滸(おこ)がましい粗末な建物や(やぐら)が乱立している。

 その集落の様なものは見渡す限りまで広がっており、数千匹以上のゴブリンがいることが伺えた。


「これは……最悪の状況だ……」


「は、早く報告した方が良いのでは!?」


「まあ、落ち着けってお前ら。今急いだって何も変わんねえよ」


 周りの冒険者たちが慌てる中、ただ一人この場で落ち着いているブロイドは、笑みを浮かべながらコロニーを樹上から眺める。


「で、ではどうするんですか!」


「もうすぐ来る……いや、やっと来たようだな」


 ブロイドはそう呟くと、後ろを振り向いた。


「遅くなった」


「すみません。遅れました」


 そう言って、後ろから現れたのは、サルドとコルナをリーダーとした二組のパーティーだった。


「ホント、もうちょっと早くしてくれよ。じゃなきゃ、俺が一人で勝手におっぱじめてる所だったぜ」


「それだけは止めてください……。それで、本当に戦うんですか?」


「そりゃ勿論。まあ、ギルマスにも言われたからお前たちを巻き込むつもりはねえよ。とりあえずさっさと適当に数を調べたら先に帰っておけ」


「――大変です!」


 ブロイドが言い終わる直前、横から女冒険者が血相を変えている。


「どうした?」


「ゴ、ゴブリンのコロニーから、女性の悲鳴が聞こえましたっ!」


「な、なんだとっ!?」


「そんなっ!?」


 他のパーティーメンバー達は顔色を変えて、驚きを(あら)わにする。


「チッ、それはどこらへんだ?」


「ここから、右中央部付近です!」


「そうか……お前たち、予定は変更だ。ゴブリンに捕らえられた女を救出する。異議は認めねえ」


 ブロイドは先程までとは打って変わって目の色を変えると、真剣な表情をし始めた。


「そ、それは!? この数では真正面から言っても、むしろ嬲り殺されるだけですよ!」


「そんな事は分かってるよ。誰が真正面から行くなんて言った?」


「えっ……?」 


 コルナが驚いて目を大きく見開いた。


「とりあえず、俺とサルドを先頭に、あと何人かで三角形の陣営を組んで女の所まで道を開く。そしてコルナ、お前を中心に女共を全員連れて、対象を救出してこい。あとは最初と同じ様にして元の道を戻り、先に町へと帰還しろ。残りの男共は万が一が無い様に数分の間、俺と一緒に時間稼ぎだ。この作戦で行くぞ」


「だが、それでは真正面からと何も変わらないんじゃないか……?」


 サルドが冷静に指摘する。


「そりゃそうだ。だからここにひと手間加える。お前ら全員、煙玉と匂い玉は持ってんだろ?

 それを進むコース線上にばら撒いて奴等の目と匂いを攪乱させ、ついでに奴等の(ねぐら)に火を付ける。

 そうしてゴブリン共が慌てて、煙が消えない内にさっさ道を通って町へと帰る。簡単だろ?」


「……分かりました。皆さんもそれでいいですね? すぐに始めましょう」


 皆が真剣な表情で頷き、作戦を実行に移す準備をしていった。


「――終わりました。ブロイドさん」


 コルナが代表して言うとブロイドは頷き、目標を見据えながら手を宙に持ち上げる。

 

「全員、やれ!」


 その言葉を合図に、空に放たれた幾つもの煙玉が放物線を描く。そして地面に落下し当たる瞬間、言葉も無しに木々の間から十数人の影が飛び出した。

 彼らが投げた煙玉は、一つたりとも線上に重複することなく道を作りあげ、その道を素早い動きで通過していく。その途中、近くにあったゴブリンの棲家を火で燃やし、混乱を招いて時間を稼いだ。


「ここです!」


「女共はすぐに対象を救出しろ!」


 陣営の中心にいた女性冒険者達は連れられた女性を救出するために小屋へと突入する。

 その間の露払(つゆはら)いをするため、残った男性冒険者たちは小屋を中心にゴブリンの数を削る。

 

「ハハッ! 楽しいな!」


「おい、不必要に声を出すな。ゴブリンに気付かれるだろ」


 サルドがブロイドの響く声を窘める。


「何言ってんだ。とっくに状況を理解したゴブリンは気付いているだろうぜ、ほら来た!」


 ブロイドが両手に持ったバゼラードで多数のゴブリンを相手取っていると、横から黒い衣を纏ったゴブリンアサシンが死角から襲い掛かって来た。

 その攻撃をブロイドは危なげなくかわすと、逆にカウンターを入れて沈めた。

 ゴブリンの上位種と言えど、Bランク冒険者で暗殺技術を武器としてきたブロイドには造作も無かった。

 そのまま数分ほど近くにいるゴブリンと戯れていると、小屋から女性たちの声が聞こえて来た。


「ブロイドさん、女性を救出しました!」


 コルナと女性を背負った女冒険者達を見て一瞬顔を顰めるが、すぐに顔を戻すと声を張り上げた。


「分かった、お前ら! 予定通りすぐに帰投する。遅れるなよ! 行くぞ!」


 最初と同じく三角の陣でサルドを先頭にし、ブロイドは後方で殿として一行は森まで走る。

 その途中、後ろから追ってくるゴブリンを相手にブロイドは斬り捨てながら進んでいく。


「女共は――っと危ねえ、話してる最中に攻撃しやがって! ほら、分かったらさっさと行け!」


「……はい、皆さんも気を付けてください!」


 コルナが彼らを残すことに躊躇したが、迷いを断ち切ると町へと一直線に走る。

 それに追随するように女性冒険者たちも共に向かった。


「――さて、お前たち。時間制限は設けてなかったが、精々が三分と言ったところか。それ以上は雑魚とは言え、流石にこの数では危険だからな。まあ、何とかなるだろ」


「勿論、楽勝ですよ。ブロイドさん」


「そうですよ、早く帰って酒でも飲みに行きましょう」


 ブロイドがその場に残った男たちに向けて笑みを浮かべると、男たちも強く頷き返した。


「んじゃあ、もう少し気合い入れてやるとするか」


 両手に持ったバゼラードを構えて何らかの武術の型を取ると、迫ってくるゴブリンへ振るう。

 そしてそれに後追いするように各々は武器を握り、幾ばくかの時間を稼ぐためにゴブリンへ突撃していく。


「ハッ!」


 ブロイドは近付いてきた二体のゴブリンの横を通り抜けながら斬り捨てると、そのゴブリンを敵の方へと挑発し怯ませるために蹴飛ばした。

 そうして周りのゴブリンの敵意を自分に集め、他の冒険者たちの負担にならない様に自分で処理していく。

 けれど、その意図を理解しながらもただ一人だけ自分に注意してくる奴がいた。


「一人だけ前に突出するな」


 横から棍棒で殴り掛かって来たゴブリンを斬り伏せながら、サルドが話しかけて来た。


「ふっ、たかがゴブリンなんかに俺がやられるわけないだろ」


「そう言って死んでいった新人が何人いると思っているんだ」


「俺はゴブリンなんかにやられるほど貧弱じゃねえよ」


 そんな風に軽口を叩きながら二人は淡々と数を削っていく。

 しかし、そんな事が微々たるものだと言う様に、視界の向こうにはまだうじゃうじゃと見える。


「それより、上位種があまり見かけねえな」


 世間話の様な会話を続けながらも腕は休めず、絶えず動かしている。


「多分、知能の高いキングが雑魚で弱らせた所を叩こうという算段でも立てているのだろうな」


 反対にサルドは逆手に短刀を持ちながら、片手一つで斬り裂いている。


「そりゃあ、随分と舐められたものだな。そうは思わねえか、っと!」


 ブロイドは背中側をサルドに任せ、前方の敵に集中しながら容赦なく攻撃していく。


「何を言うか。ゴブリンが無い頭を絞っているんだ。ここは褒めるべきだろう」


「くくっ、それは流石に言い過ぎだと思うぜ。ゴブリンが哀れになっちまうじゃねえかっ!」


 横から現れたソードマンの攻撃をいなし、逸らしながら隙をついて突き刺した。


「本当に哀れだと思っているなら、そのソードマンに剣を突き刺すべきではないと思うが?」


「それは無理だわ。だってこいつらは俺の獲物でしかないんだからなっ!」


 くつくつを顔に返り血を浴び、笑みを浮かべる様は戦闘狂の本性が出始めたようだ。


「全く、ここで暴走する事だけは止めてくれよ……?」


「心配すんな。せっかく暴れようと思っていたのに暴れられないから、不完全燃焼気味なんだ。だから使う気はねえよ」


「お前の言葉を鵜呑みに出来ないから、俺は心配しているんだが……」


「細けえこたぁ、どうでもいいだろ。あと一分強、時間を稼げば約束通り今日は帰るからな」


「そうしてくれ」


 その二人の会話を戦闘しながら遠巻きにして聞いていた冒険者達は内心、戦々恐々としていた。

 それはサルドが発した、“暴走”という言葉に由来する。

 ブロイドはダラムの町の冒険者の間で、普段は気安く優しい先輩だが、戦闘では性格が鬼の様に豹変し血を呑まなければいけない、という嘘のような評判が流れていた。

 それだけじゃなく、本人から聞いた話によると【狂戦士化】というスキルを持っているという。

 このスキルは冒険者の間では有名なスキルで、敵味方見境なく暴れる代わりに肉体の強度を越えて、通常よりも強くなると言うスキルだった。

 なのでこの噂話を知っていた周りの冒険者達は、使わなくてよかったという安堵と万が一のことがあれば頼れるという安心感、そしてサルドさんがいればブレーキ役を任せられるという、この場にいる全員の感情が一致していた。


「あと少し踏ん張るか」


 ブロイドの言葉を皮切りにこの人に【狂戦士化】だけは使わせない様、もう少しの間だけ頑張ろうとここにいたサルド以外の冒険者は思った。




──☆──★──☆──




「――失礼します。ギルドマスター、彼らが帰還してきました」


「おー、結構早かったな」


 ゲオルグは未だに残っていた机の上の書類と格闘していた。


「ですが、心に傷を負っている者(・・・・・・・・・)がいるようです」


「ッ! そうか……丁重に扱って差し上げろ。それと家族には見舞金を渡してやれ」


 ゲオルグは目を閉じ、黙祷する。

 ゴブリンのコロニーを探しに行って心に傷を負った者(・・・・・・・・)とは、ゴブリンに嬲られたという事に他ならない。

 分かっていても未然に防げなかった自分に対し、悔しさと怒りが押し寄せてくる。

 けれどその感情を表には出さず、「この落とし前はきっちりとつけさせてもらう」と誓った。

 

「はい、既にそちらは準備をしております。それと、どうやら探索隊は男女の二つに分かれて行動したようで、現在は男性冒険者たちがまだ帰ってきておりません」


「何故二つに分かれた?」


「予想よりもゴブリンの数が多かったので、女性たちが捕まらない様に万が一の時間を稼ぐためらしいです」


 「あのブロイドが随分と慎重な手を打ったものだ」と思いながら、笑みを浮かべた。

 ゲオルグは荒んだ心が温まっていくように感じた。


「ははっ、そうか。まあ、ブロイドとサルドがいればすぐに帰ってくるだろうし、心配はいらんだろ。それで、多かったとは具体的にどれくらいだったんだ?」


「それが……正確な数は分かりませんが、数千ないしは万にまで達しているかもしれない、と」


 言いづらそうにしながらも、秘書代わりをしている女性は答えた。

 万のゴブリン。それは大氾濫(スタンピード)と呼ばれるに相応しい魔物の群れだ。

 そもそも大氾濫とは、一度起きれば誰にも止められない魔物の大群を洪水になぞらえて呼ばれている。


 洪水が自然に発生し誰にも止められぬ様に、魔物の群れも自然に大量発生し、行き場を失い森から出てくる。

 その魔物の行動様式を人は大氾濫(スタンピード)と呼び、恐れてきたのだ。

 そのため、この量の魔物は滅多になく精々が数千体と言った所なのに、今回は万という桁に登りかけている。

 この事から、現在の状況がどれくらい危険なのかギルドマスターであるゲオルグはすぐに理解した。


「チッ、思った以上に最悪だな……。この事を領主様には?」


「いえ、つい先ほど聞いたばかりなので、まだ何も連絡してません」


「なら、一先ずこの件を領主様に連絡しろ。ついでに近隣の村や町へも事情を伝える様に付け加えといてくれ」


「分かりました。すぐに伝えておきます。では、失礼します」


 そう言葉を残すと、女性は礼をして部屋から出て行った。


「万の軍勢か……久々に荒れるな」


 部屋の窓から町を見渡しながら、ゲオルグはそう小さく呟いた。


次回、ユート視点に戻ります。

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