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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第二章 魔物大氾濫篇

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第44話 コロニー探索調査

今回はユート視点ではありません。


  ~時刻:午後一時頃~ ~場所:ギルドマスター室~


 ユートが森の中に入る前の頃。

 その時、ギルドマスターであるゲオルグはゴブリンの大量発生の対処に追われていた。

 そんな時、ギルドマスターの部屋へ来訪してくる者がいた。


「入れ」


 ゲオルグがコンコンと言うノックの音を聞き、即座に返答する。


「失礼します。大量発生したゴブリンの原因場所を突き止めるため、調査する冒険者の選出が終わりました」


 一人の女性が扉から入ってくると、要件を簡潔に述べた。


「もう終わったか……意外と早かったな」


 ゲオルグは書類を書きながら、見知った声の訪問者へ目を向けず応対する。


「前もって、準備しておきましたからね」


「お前、そんなことしてたのかよ。まあ、いい。それで出発するまでに後どれくらい掛かる?」


「いえ、もう既に準備は終わり何時でも出発できますが」


 その女性は淡々と喋りながら、眼鏡をくいっと上げる仕草をする。


「はっ?」


 グレイグは何を言われたのか理解できず、書いていたペンを止め顔を上げた。


「……すまんが、もう一度言ってくれ」


 眉間を指で揉みほぐしながら、もう一度訊ねる。


「ですから、もう既に準備は終了し、いつでも出発できるように待機させていますが?」


「……はぁ、お前はやることなすこと早すぎる」


「そうですか? それより、皆さんを待たせているのでこちらに呼びますね。では入ってきてください」


「えっ! ちょっ、おい!」


 言うが早いか、女性は扉に向けて合図を出した。


「失礼します!」


「少しの間、お邪魔します」


「おっと、ギルマス。久しぶりでーす」


「……」


 すると、扉を開けて十数人の男女が口々に挨拶をしながら入ってくる。

 彼らは今回の大量発生したゴブリンの場所を突き止めるために選ばれた、一種のエリート達だ。

 音を消し、気配を消し、敵に気取られない為の技術を持つ、そういう特殊な技術を持った斥候達である。

 そのほとんどがCランクの冒険者で構成されているが、その中の二人だけが特に突出していた。


「……あー、ごほん。知っていると思うが、俺がこのダラムの町のギルドマスターである、ゲオルグだ。とりあえず、いきなりで悪いが本題に入っていく」


 手を伸ばしたままだったゲオルグはさり気なく引き戻すと、咳払いをして何食わぬ顔で話始めた。

 各々の冒険者たちは気の抜けた雰囲気を止めると、真剣な表情になって聞き入り始める。


「今回、お前たちが集められたのは、ルクスの森でゴブリンの大量発生があちこちで報告されているためだ。今の所、上位種が何体か発見されているだけに留まっているが、このまま増え続けていけば最悪の事態を巻き起こしてしまうかもしれない」


 ゲオルグの最悪の事態という言葉を聞いた冒険者たちは、ゴブリンによって町が蹂躙されゆく様を想像し顔を顰める。

 毎年、ゴブリンによる悲しき犠牲者の数は後を絶たない。

 特に女性の場合は、人間としての尊厳を穢され、踏みにじられる可能性がある。

 それが町規模で起こった時を想像すれば、目も当てられない地獄絵図と化すだろう。

 そのため、他種族を孕ませることが出来る魔物の場合は、早期に及ぶ解決が世界共通の認識とされていた。


「そのためお前たちには現在、ゴブリンがどの地点に、どれだけの数がいるのか調査してきてもらいたい」


 ゲオルグが言葉を切ると、そこに一人の若い女性の冒険者がスっと手を挙げ、一歩前に出る。


「はい、質問なんですが、この調査は何をもって終了になりますか?」


「そうだな。とりあえずゴブリンのコロニーを発見し、具体的な数や上位種の存在を確認し終えたら調査終了だ」


「分かりました。ありがとうございます」


 質問した女性は礼をすると元の位置まで下がった。 


「他に何か質問は無いか?」


「あっ、じゃあ俺からもいいですかね?」


「何だ、ブロイド」


 ブロイドと呼ばれた革鎧を身に纏った軽薄そうな男は、俺も俺も!と言わんばかりに手を挙げながら自己主張する。

 

「えーっとすね、もしもの話なんすけど。――もしも『キング』を見つけたら、俺が()っちゃって構いませんよね?」


 冒険者たちの動きが固まる。

 一見、問い掛けている風に見えて、その実、既にやる気満々で戦う事が確定しているブロイドは挑発する様にゲオルグに訊ねた。

 その本人であるゲオルグは、頭をガシガシと掻きながら溜息を吐くと見つめ返してこう言った。

 

「……お前なぁ、そんな獲物を見定めた獣みたいな目つきをしやがって、どうせ俺がダメだって言ってもこっそりヤるつもりなんだろ?」


 ブロイドはニヤニヤと含み笑いをしながら、問いに答えない。


「……はぁ〜、全く、これだから問題児は……。分かったよ、もしキングを見つけたら戦っても構わねぇ」


 ブロイドともう一人の男以外が驚きの顔を浮かべた。


「ただし! 今回の調査が最優先だ。それと戦いたかったらお前一人で戦え。他の奴等を危険にだけは晒すんじゃねぇ。これが絶対条件だ」


 ゲオルグは睨みつけるように言った。


「いやー、そりゃあ勿論ですよ。物分かりの良い上司で良かった!」 


「お前は信用ならん。サルド、こいつの綱はお前に預けるから、しっかり握っておけよ」


「……あまり俺に期待しないでくださいね」


 全身を黒い外套で覆った男が、小さな声で自信なさげに呟く。 


「うわー、それはマジでヒドいわ!」


 ブーブーとブロイドが文句を言うが、誰もそれに取り合わない。


「……じゃあ、もう他に質問は無いな? では解散だ。吉報を待っている」


「「「了解!」」」

「分かりました」

「了解っす」


 冒険者たちは返事をすると、扉を出てそのまま森へ調査しに出かけて行った。


「……それで、あんなことを言ってもよろしかったのですか?」


 人が減り、静かになったギルドマスターの部屋で、ゲオルグの左隣に控えていた女性は問いかけた。

 あんなこととは、勿論、ブロイドにキングとの戦闘を許可したことだ。


「まあ、あいつは俺にまで喧嘩を売る戦闘狂だが、馬鹿じゃない。きちんと相手との力量差が分かる奴だ。

 それに、もしキングと戦うとしても俺の言いつけ通り、いや、最初から他の奴等を巻き込むつもりなんて無かっただろうさ。

 あいつはああ見えて他人思いの奴だからな。

 ――ってそれよりお前が選んだんだから、そんな事は最初から分かってるはずだ。

 全く、どいつもこいつも俺の気苦労を知らないで……あっ、勝手に出て行こうとするな! おい、話の途中だぞ! おーい!」


 女性はゲオルグの話を無視するかのように、扉を開けると勝手に部屋から出て行った。




──☆──★──☆──




  ~時刻:午後一時半頃~ ~場所:ルクスの森 入口付近~


「――では、調査に入る前に自己紹介をしましょうか。今回、この調査のリーダーを務めさせていただく、コルナ・リコレットです。

 ランクは皆さんと同じCランクですが、このパーティーの最高ランクであるブロイドさんはリーダーになるのを拒否し、もうお一方(ひとかた)のサルドさんは指揮をするのに慣れていないとの理由で辞退されました。

 他に自らがリーダーになりたいと言う方がいらっしゃらなければ、このまま私が続けさせて頂きます」


 コルナと名乗った、整えられたボブカットの茶髪に小柄が特徴なその女性は、ハキハキと言いたいことを述べ周りを見渡すと、自らがリーダーであることに不満が無いと知り、少し安堵する。

 出だしでリーダーになることに不服だと言われれば悲しくなるし、それにこれから調査に行くと言うのに、パーティーの心がバラバラでは先行きに不安を感じるからだ。

 けれどそんなトラブルに見舞われることも無く、話はスムーズに進んでいく。


「――それでは皆さんの顔と名前が分かったと思いますので、次に進みましょう。これから向かう場所は中層辺り、正確には中層よりの(・・・)上層です。

 まあ、あの森は未だによく分かっていないので、こんな変な言い方になるのは仕方が無いのですが」


 コルナがおどける様に言うと、小さな笑いが起こる。

 “中層よりの上層”とは、一般的には中心から等間隔に森が出来ているはずなのだが、ルクスの森は例外として非等間隔に森が形成されている。

 つまり、上層と中層の間が狭い所もあれば、反対に広がっている所もあるという事だ。

 そのため、今回のゴブリンが居座っている場所は、その間隔が広がっている場所にいるのではないかと目星がつけられている。

 この事は冒険者の間では公然の秘密として知られており、曰く、妖精が面白半分で森に幻覚をかけたとか、曰く、森自体が大きな魔物なのではと面白おかしく噂されている。

 因みに、ユートは知らなかったが、ジャック達は勿論この事は頭に入っていた。


「そういう訳で、最弱のゴブリンが中層に居るとは考えられないと言うのがギルドの考察結果なので、この結果を元に上層を探して行きましょう!」


 皆が頷いたのを確認すると、一同は森へと入っていく。




 森の中を一組のグループが走る。

 今回の依頼は大氾濫(スタンピード)の前触れである、コロニーの発見がメインだ。

 そのため、15名いたパーティーは三名ずつの五組に分かれて、手っ取り早く探すことにした。

 けれどその冒険者たちはコロニーを探すのに大きく足踏みをしている状態に陥っていた。


「――なあ、もう二十分以上探してるけど本当にあるのか?」


 その文からは“何”を示す言葉が抜けていたが、残りの二人の冒険者たちはきちんと理解していた。


「さあな。けど突然、ゴブリンが瞬間移動してきた訳じゃあるまい。何処かに必ずいるはずだ」


「そうは言ってもよ……遭遇すんのはただのゴブリンかちっこい動物だけじゃねえか。これじゃ、やる気が無くなっちまうぜ」


 そう言いながらも、彼の腰に付けた魔石入れの袋が少し膨らんでいる。

 道中に見つけたゴブリンを何体も狩って出来たモノだろう。

 現にふざけた態度をとっているが彼は油断しておらず、いつでも主武器である短剣を抜けるのだ。

 そんな風に男三人で暇つぶしをしながら森の中を駆け回っていると、何かの音が聞こえてきた。


「おいお前たち、何か言ったか?」


「何の事だ?俺は何も喋ってないぞ」


 首を傾げながらお前はどうだ、と隣に居た男に顔を向ける。


「いや、俺もこいつと同じだが、何か聞こえたのか?」


「そうか、俺の勘違いか? 何やら、滝壺に落ちる水みたいな音が聞こえたんだが……」


 それを聞いた二人の男たちは、顔を見合わせると大きく笑い始めた。


「アハハハハ! そんな馬鹿なことある訳ねえだろ!」


「そうだぞ! この近くに滝なんて今まで聞いたこともねえよ!」


 二人して一人の男を笑い飛ばす。


「チッ! 嘘じゃねーよ!」


 笑われた男は一人顔を顰めながら、大声で言い返す。

 無論、森の中なのを考慮した声量だ。

 すると突然、男の声と呼応するように爆発のような大きな音が聞こえてきた。


「うぉ! な、何だ!?」


「お、おい! いきなり何が起きた!」


 突然の爆音に驚いた三人は、この原因に対し何かを警戒するように武器を抜いた。


「これは! もしかしてさっきの音と何か関係しているんじゃ……?」


 最初に音に気付いた男は今の爆発音と何か関係性があるのでは、と疑った。


「そんなこと――」


「ある訳ねえって何で言えるんだ。確かにこじつけがましいが、もしもゴブリンの大量発生と何か関係性があったらどうすんだよ」


「まあ、落ち着け二人とも。とりあえずここから離れるか、ここで立ち止まるか決めよう。いや、もしくはこの爆発音を生み出した奴の顔を拝みに行くというのもアリだな。それでどうする?」


 三人で顔を突き合わせて考える。

 ゴブリンの大量発生と何か関わりがあるとは言ったものの、三人ともそれを真っ向から信じている訳ではない。

 どちらかと言えば、不幸にも大量のゴブリンと出会って戦っているというのが最も想像しやすかった。

 ここに居る三人はゴブリン程度で足元を掬われる程、弱くはない。

 けれど、何が起こっているか分からない状況で容易に近付く程、短絡的でも無かった。

 そのため数分ほど話し合うと、結局この原因を起こした奴を見に行く事に決めた。


「こ、これは……!」


「なんだこれは……」


 走ること五分。

 爆発の音がしたところに向かうと、そこは焼け焦げた地面と何らかの魔物の肉片がそこかしこに散見していた。


「この肉片……それとこの魔石はゴブリンのか?」


 男は足元に血がこべり付いた魔石に気付くと、拾い上げた。


「……そうみたいだな。どうやらここで誰か戦っていたらしい。それもつい数分前にな」


「それだけじゃないぞ。この血の量と焦げ跡からして、随分と多くのゴブリンを火魔法でヤったようだ」


 三人はそれぞれ辺りを探索すると、見つけた痕跡を一つも逃さずピタリと当てていた。

 そう、ここはユートが三十匹以上のゴブリンを倒した場所なのだ。

 その本人は既にここから離れて、町へと帰還している最中だったりする。

 

「でも、森ん中で火をぶっ放した馬鹿野郎は見当たらねえな」


「そりゃあ、もうどっか行ったんだろ」


「ッ! 誰だ!?」


 後方から突然三人以外の声が聞こえてきたため驚いて後ろを振り向くと、そこには同じくコロニーを捜索している見知ったメンバーの一人がいた。


「なんだ、レクスか……」


 三人とも武器から手を離すと、ゆっくり警戒を解いていく。

 レクスは両手をひらひらと上げながら三人に近づいた。


「それで、お前さんも俺たちと同じ件でここに来たのか」


「ああ、それも(・・・)あるが、コロニーを見つけたから他の奴等やリーダー達に知らせようと思ってな。その道中に大きな音がしたから見に来ただけだ」


「何だと! もう見つけたのか!?」


「あー、いや、俺じゃなくてブロイドさんだよ。俺はただの使いっ走りだ」


 頭を掻きながらレクスと呼ばれた男は苦笑いする。


「なるほどな……じゃあ悪いが、俺達も案内してくれ」


「分かってるよ。んじゃ、行くぞ」


 おう、と三人は返事をするとレクスについてまた走っていった。 


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