第4話 魔法とキノコと叫び声
優人はとりあえず、【魔力操作】を試してみることにした。
「おおっ! 本当に何か謎のエネルギーを感じられる。何か感触が水風船みたいに反発した感じがして、変な気分だな。
しかも、スキルがあるからか意外と簡単に出来ると思ったけど、そこまででもないなぁ。まあ、最初に比べたら楽ではあるけれども」
優人はぶつくさと呟きながら、魔力をゆっくりと回転させたり、動かしてみる。
「魔力を動かすことは出来るようになったから、
これを色々な形に変えて……」
優人は魔力に対して、赤く燃え上がるような火のイメージを送ってみた。
ヒラヒラ魔力が揺らめいた次の瞬間、ボウッ!と音をあげて手のひらから火が燃え上がった。
「おおおっ!!! これが夢にまでみた魔法か!! 本当に出来るとは……!」
いきなり火が出てきたことに対して内心ではビクッとしていたが、そんなことはおくびにも出さず、魔法を出すことに成功した優人は少しばかり感動に浸っていた。
「ステータスを確認してみたが、確かに【火魔法】と書いてあるな。それに魔力消費量は1秒あたり10か。もっと節約出来るのかはいずれゆっくりと試すとして、とりあえずは成功ということで良いだろう」
俺は喜びから帰ってきて冷静に考察した。
「じゃあ早速キノコを食べるとしようか!」
──☆──★──☆──
そこでは枯れ枝をくべられた焚火がぼうぼうと燃えている。
「いやー、紅白キノコは焼くと微少な毒が消えるのか。しかも意外と美味しいし。味とか普通のキノコじゃん」
そんなことを言いながら優人は、美味しそうにキノコをほうばっていた。
「他の状態異常系のキノコは、どうすれば良いか分からないから村とか街に行った時の換金用としてとっておくとして、次はギンイロダケだな!」
生だと見た目まんまの金属のように固く、食べられたものではないが焼いてみると――
「うまッ!!」
あんなに固かったギンイロダケは、焼いていると笠がピクピク動いて旨味がじわじわ出てきて、なおかつ凝縮した味わいを醸し出していた。このキノコだけでも十分に出汁がとれると思うほど、その大きさ10㎝のキノコからは想像以上に旨味で溢れていた。
「おっと、顔が変わってしまったな。それにしても旨いな。たった1つだけでこの味なら調理したらもっと旨くなるんだろうな……。俺、料理できないけど」
そんな悲しいことを暴露しながら、優人は黙々とギンイロダケを食べ進めた。
「さて、最後はオウゴンダケだな!」
優人は知らぬが、このキノコは幻とも言われている生きた伝説であり、幾人ものキノコハンターが夢半ばで諦めていったと言われるほどに貴重なものであった。
その金色の見た目とは裏腹に一流キノコハンターが10年に1つ見つけられれば御の字とまで言われている。
そんな生きた伝説をこの男、霞野優人はごく普通に見つけ、そしてごく普通に食べようとしている。
もしこの場面を見たキノコ愛好家がいたなら、突撃して全財産を払ってでも「買わせてくれ」と泣きながら懇願していたことだろう。
その本人である優人は、
「おおっ! 金色がピカピカ光って、キノコなのに神々しいな」
そんなことを言っていた。
とりあえず、毒はないらしく生で一口だけ食べてみると――
「…………」
優人は沈黙した。
「旨すぎる……」
一口食べ終わった優人は、真顔でそんなことを口にした。
「このキノコ焼いて食べたらどうなるんだ?」
生来の好奇心気質がとどまることを知らず、キノコを枝にさして炙ってみると、空気に旨味が溶けだした。
一瞬、「もうこのまま食べてもいいんじゃないか」と頭に過るほど、強い旨味が脳を揺らした。
そこからはほとんど覚えていないが、ただただ旨かったのだけは脳に焼き付いていた。
──☆──★──☆──
「はぁ~! 食った食った!」
優人は満足そうな顔をしていた。
「とりあえず、体力と魔力を確認してから川を下っていくか。」
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名前:霞野 優人
年齢:17
性別:♂
種族:人族
称号:異世界転移者・読書家・哲学者・一流キノコハンター
Lv:1
HP:260/265 +5
MP:600/1131 +5
筋力:105 +5
体力:121 +5
耐久:285 +5
敏捷:148 +5
魔力:115 +5
知力:270 +5
スキル
高速思考Lv3
算術Lv5
速読術Lv2
採取Lv2
魔力操作Lv2 +Lv1 up
気力操作Lv1
火魔法Lv1 new
水魔法Lv1 new
氷魔法Lv1 new
ユニークスキル
鑑定Lv3
言語術
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「鑑定通りに本当にステータスが上がるんだな」
そんなことを口にしながら、スキルが増えているのもちゃんと確認していた。
「火魔法は焚き火に、水魔法はキノコを水洗いして、氷魔法でコップを造り水分補給したから、スキル化されたのかな」
優人がやっていることは普通、精密な魔力操作を使うのだが、そこはこの世界にはない異世界の知識と持ち前の創造力、そして好奇心によって成し遂げた。
異世界に一つ持っていくとしたら、最も役に立つのは武器ではなく知識かもしれない。
「さて、飯にステータスの確認とやることは終わったから、早速下っていきますか」
と重い腰を上げた瞬間、どこか遠くで叫ぶ男の声が聞こえた。
「……はぁ、なんだか面倒そうなことが起こっているな」
優人は悠長に喋りながら、キノコ集めの時に拾った、ちょうど良い長さの棒を持って叫び声が聞こえた方にゆっくりと歩いていく。
「人を助けて森の出口まで案内させて、ついでにこの世界について聞くとするか」
そう優人は嘯いて、声のした方に向かっていくのだった。




