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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第二章 魔物大氾濫篇

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第32話 油断大敵

遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。

今年も精一杯頑張っていきますので、宜しくしていただけたら幸いです。

因みに目標は百話まで行くことです!



 ハニービーが追ってきていないことを確認すると、安全マージンの為にさらに離れてから一息つく。

 流石に無傷とはいかず、体には幾つもの切り傷のような傷跡が出来ていた。

 そう言えば朧気ながらハニービーには、<毒針>というスキルがあったような気がする。

 このまま放って置いては体に毒が回るかもしれない。

 戦闘での疲れで一周回って冷静になったユートは、自らへとそう判断を下す。


 ――確か、魔法大辞典に【治癒ヒーリング】と【解毒デトキシフィケーション】という魔法があったはずだ。これを使えば傷も傷口から入った毒も治るだろう。


「使う魔法は神聖魔法か。イメージしづらいが……【解毒デトキシフィケーション】」


 体の傷口から体内にある毒素を一つ残らず除去していくイメージをしながら唱える。

 すると、淡い光が現れて体へ降り注ぐようなエフェクトが出てくる。

 妙なところでファンタジーっぽいが、光は十秒と経たずに消えた。

 元々毒による苦しみとかがあった訳ではないので、効果があるのか分からないがこれで良しとする。


「最後に…【治癒ヒーリング】!」 

 

 こちらは傷の回復力を高めるようにイメージすると、同じような光が体に渦を巻くように出現した。

 すると効果がすぐに出てきたのか、コマ送りのように小さな傷口が段々と閉じていく。見た目が気持ち悪いが我慢する。


「これでよし、っと。もうすぐ集合の時間だろうし、早いとこ帰るか」


 座っていた倒木から立ち上がると、最初に来た道へと歩いていく。

 



──☆──★──☆──




「ふぅー、ようやく戻ってこれた。早く宿に帰って休みたい……」


 アマゾンのような密林を抜け、最初の薄暗い森の入り口まで戻ってくるとユートの口から本音が出る。

 流石にハニービーの後の連戦がユートの少ない体力を奪ったようだ。

 それだけではなく、森では緑小鬼ゴブリンにしか出会っていないので、疲れによって周りへの警戒心が疎かになっている。

 そのせいで、後ろの草をかき分けるような物音への反応が一歩遅れてしまう。


「!緑小鬼ゴブリンか?」


 後ろへと振り向きながら剣を抜くが、その構えには油断と言う言葉が見え隠れしている。 

 しかし、ゆっくりと木陰から姿を現したのは緑小鬼ゴブリンではなく、通常よりも大きく全身が黄色がかった奇妙な熊だった。

 

「ここで熊かよ……」 


 まさかここで熊に会うとは……と自分の運の無さを呪いながらも、人間である俺は熊にとって狩りやすい獲物の一つに過ぎない。

 それを静かに認識すると無暗に動かず目を逸らさずに、前に本で読んだ熊への対処法を思い出していく。

 

 確か一つ目は、「死んだふりは禁止」だったはずだ。

 何故なら、熊は死んだ動物の肉を普通に食べるから。

 だからいきなり目の前で倒れても、獲物がいきなり死んだとしか熊には思われない。


 二つ目は、「無暗に木に登っては危険」という事。

 それは熊は木に登るのが得意だからだ。

 昔の人は熊に出会ったら木に登れとか言っておいて、本当は熊は木登りが得意だなんてとんだ裏切りだ。


 三つ目は、「大声を出すこと」だ。

 熊は元来、臆病な性格の動物だ。

 だから大声で威嚇すると、相手も驚いて反射的に攻撃してくるかもしれない。

 なので、戦わないためには、相手に勝てないと思わせるか、敵ではないと理解させなければならない。

 ……魔物がそうだとは限らないけど。


 最後は、「背を向けて逃げてはならない」だ。

 熊に遭遇したら走って逃げろとよく言われるが、それは即座に殺されてしまうパターンだ。

 確か熊の時速は六十キロ以上のスピードの為、人間が逃げる事はほぼ不可能。

 しかも背を向けて逃げたら、動物の本能として追いかけられる可能性が高いから尚のこと危険だ。


 ――と熊への対処法を思い出したは良いものの、この状況を打開する策が見当たらなかった。

 むしろ逃げるという選択肢が無くなっただけかもしれない。

 何となく気分が沈むのを感じながら、とりあえず膠着状態の今の内に相手のステータスだけ見ておくことにする。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


名前:ーーー

種族:ハニーベア

称号:雑食・蜂蜜好き

Lv:32

HP:1060/1060

MP:286/286


スキル

爪術Lv5

咆哮

怪力

追跡

登攀(とうはん)Lv2

採掘Lv1

毒耐性Lv2

嗅覚上昇Lv4

蜂蜜感知Lv3

直感Lv1

食い溜めLv2


ラージベアから進化した蜂蜜を好む魔物。蜂蜜を食べる事によって能力値が上昇する特異な体質を持つ種族。その強靭な腕から繰り出される鋭い爪は鉄すらも切り裂き、その強靭な顎から繰り出される牙は骨すらも噛み砕く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ……思っていたよりヤバい相手かもしれない。

 まずスキルの数が予想よりも多いし、爪術に限ってはスキルレベル5と熟練度も高い。

 それにレベルは俺の倍なので、ステータス値も倍以上だと予測できる。

 さらに<追跡>というスキルを見た限り、たとえ逃げたとしてもどこまでも追いかけてきそうだ。

 多分、今の俺ではあのハニーベアに傷をつけることは出来ても、倒すことは難しいかもしれない。


 読み取った敵のステータスから現状を正確に判断し、どうしようかと思っていた所で、終わるのを待っていたとでも言うかの様に前触れもなく突っ込んできた。 


 ――こいつマジか!


 目の前まで迫ってきて腕を叩きつけようと振り上げた瞬間に、俺は慌てて右へ飛ぶように避ける。

 だが突然のことで上手く避けることが出来ずに、ハニーベアの腕に触れてしまう。


「ぐはっ!?」


 たった少し掠ってしまっただけなのに、とんでもない力で吹き飛ばされる。

 運良く樹々の間を縫って吹き飛ばされたため、樹に打ち付けられることは無かったが、十メートル以上空中を浮遊する羽目になった。

 けれどハニーベアは突進の勢いを殺すと、直角に曲がってこちらに向かってくる。


「くそっ!痛ってぇなぁ!【氷の矢(アイスアロー)】!」


 痛みを堪えて根性で立ち上がり、悪態をつきながらも十本の氷の矢を生み出すと、即座にハニーベアに向けて放つ。

 ハニーベアはそれを蚊でも落とすかのように手で撃ち落とすと、先程よりもスピードを上げて突き進んでくる。


「燃えろ!【炎の壁(ファイアウォール)】!」


 俺とハニーベア、ああもう面倒臭いから、あの熊との間にタイミングを合わせて炎の壁を作る。

 すると奴は急停止する事が出来ずに、自ら炎の壁に突っ込む形となった。


「グウワアアアアアァァァアアアア!!?」


 炎に燃やされるという経験をしたことが無いためか、奴は熱さと痛みで叫びながら周りへの被害など考えずに見境なく暴れまくる。

 けれどそれに耐えられずに火を消すため、無防備な姿を晒しながら地面へと擦り付けるように転がりだした。

 その隙に俺は距離をあけてから、【氷の投槍(アイスジャベリン)】や【大地の投槍(アースジャベリン)】などの魔法を浴びせるが効果は薄く、腹の脂肪を傷つける程度にしかならない。

 そして俺が体勢を立て直している間に、ようやく鎮火し終えたのか体中泥に塗れながら立ち上がると、プスプスと焼ける音と焦げ臭いニオイを漂わせながら、こちらに殺意を持って睨みつけてくる。


「グウウゥゥガアアアアァァァァァァァァ!!!」


 ()くなる上は剣を使うしかないか……と柄に手を掛けた時、怒り狂ったのか奴は突如咆哮してきた。


 ――ヤバい!


 その咆哮を聞いた瞬間、俺は背筋に冷たいものが走り体が強張った。


 ――これはガチでやんなきゃ、死ぬ!


 先ほどよりもピリピリとした空気を肌で感じながらも、焦ったら死ぬと冷静な部分の俺がそう囁いたおかげで、ゆっくりと余裕を取り戻していくのが分かった。

 俺が咆哮で硬直している時に奴は若干血走った目でこちらを睨むと、牙をむき出しにしながら猛スピードで走ってくる。

 その体には拙いながら魔力を纏っているようにも見えた。


「随分とお怒りのご様子で……じゃあ、俺も容赦しないから」  


 先程の緊張し焦った面持ちとは変わり、目をすぅっと細めながら冷徹な瞳で熊を射抜くと薄らと冷笑を浮かべた。

 

 ――このまま突進されれば非力な俺はゴミのように吹き飛ばされ死ぬだろう。

 ――それはあの鋭そうな爪で斬り裂かれても同じだ。

 ――そして一撃喰らえばデッドエンド。

 ――なら、喰らわなければ良いだけだ!


 一瞬の内に油断を切り捨て、甘えを絶ち、覚悟を決めると剣を抜き放つ。

 お世辞にも上手とは言えない構えをしながら、けれどユートの剣からは油断という言葉はもう見えない。


 接敵までおよそ八秒。

 ユートは残りの全魔力を【身体強化リインフォース】のみに使う。

 これでステータスだけなら同程度になっただろう。

 そして奴の体の動きにのみ集中すると、突然、走馬灯のように視界がスローモーションに変わる。


 接敵までおよそ五秒。

 急な魔法使用の為コントロールが効かずに、半ば暴走状態になり体中に痛みが走る。

 痛みに呻きながらも絶対に集中力を途切れさせず、意地で暴れる魔力を纏め上げる。


 接敵までおよそ三秒。

 奴はもう目の前まで近づいて来ており、右腕に大量の魔力を込めて振り上げている。

 その顔には自分の勝利を確信している嗜虐的な笑みを浮かべていた。


 それは本能的なモノだったんだろう。

 奴はこの危機的状況において、魔力を使うという事の意味をわずかながら理解した。

 これを食らわせれば勝てると、イラつかせるこいつを殺せると本能がそう判断を下したのだろう。

 だからこそ奴は一瞬だけ、油断してしまった。

 

 その瞬間が俺と奴の生死を分けた。


 俺はその一瞬の隙を見抜くと、技術も何も無い魔力で強化した肉体で強引に熊の左脇をすり抜けながら、同じく強化した腕力に任せて剣を振り抜く。

 熊は脇腹を深く斬り裂かれたため呻き声を上げる。

 そのせいで一瞬動きが止まるが、後ろを見ずに裏拳の要領で左腕で薙ぎ払う様に攻撃してくる。


 そのまま反転し、背中にも一撃入れようとした所で迫ってくる左腕に気付いた俺は、それをしゃがんで避ける。

 そして頭の上を通り過ぎる瞬間を狙って、立ち上がる反発力を利用しその左腕を半ばから斬り落とした。

 

「ガアアアアァァァァアアアア!!?」


 うまくタイミングを合わせられたおかげで、あの熊の左腕を斬り落とすことが出来た。

 奴が左腕を斬り飛ばされた痛みで狂乱している内に、俺は何度も斬りつける。


 だが熊も無意味に斬られ続ける訳もなく、冷静さを掻きながらもこちらに残った右腕で攻撃してくる。

 それを強化した目で見切りながら、無理矢理肉体を操作して紙一重でギリギリの所を避ける。

 

「ガアァァァ!!」


 継続する痛みと当たらないことに奴は苛つき始めた。

 俺はその間にもカウンターのように小さいながらも傷をつけていく。

 そして熊の出血量がどんどん増えていく度に、少しづつ動きに精彩が無くなり大振りになってきている。

 奴はそれに気付いていないようだ。 


 魔法の効果時間も残り少ない。

 次の大振りの時に決めると、紙一重で避けながら手に持つ剣に強く握りしめ機を(うかが)う。

 

 そして、ついにその時が来た。奴が腕を大きく後ろに引いた瞬間、


 ――今だ!!


「はああぁぁぁ!!!」


 臆せずに足を踏み出して熊の懐に潜り込むと、力いっぱいに剣を斬り上げた。

 ブシャッ!とユートが斬った傷口から血飛沫が(ほとばし)り、少しばかり顔に跳ぶ。

 それを気にも留めずに受けながら、視線を一切動かさずにただ何かを見続ける様に残心していた。


 右腰から斜めに真っ直ぐ斬り上げられた奴は、振りかぶった動作のまま前のめりに倒れる。

 奴は身じろぎをしながらも断末魔をあげる事はせずに、そのままゆっくりと動きを止める。

 そして奴は二度と動き出すことは無かった。


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