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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第二章 魔物大氾濫篇

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第29話 コロニー

これから三週間ほど忙しくなるので、投稿がまた遅くなるかもしれませんが、読み続けていただければ幸いです。

 

 緑小鬼(ゴブリン)の死体が目の前に転がっている。

 それは所々が焼け焦げており、胸には貫かれた刺し傷がある。

 辺りは静寂が支配し、生き物が焼かれた口では説明できない異臭が鼻を刺激する。


「………」


 その中心にいるユートは何をするでもなく、ただただ無言で立ち尽くしていた。

 戦闘後だからなのか感覚が鋭くなっているので、胸の鼓動や風の音、様々な臭いが入り混じった空気などを鮮明に感じ取ることが出来る。

 だから後ろからの足音も聞こえていた。


「終わったみたいだな」


 藪からガサガサと音をたてて現れたのはジャックだった。

 後ろにはオルガ達も一緒にいるようだ。


「ああ、終わったよ」


 少し気疲れしたのか、いつもより気怠(けだる)げな声で答えると剣を鞘に納める。

 今のところ特に生物を殺した忌避感や不快感などは感じられない。

 この状況ではそれは良いのだが、正常な日本人が見れば生物を殺しておいて何も感じないなんて異常だ、と喚き散らすかもしれない。

 残念ながらやはり(・・・)俺は他の人間とは違うのかもしれない、と痛感する思いだ。


「そうか。まあ、見る限りは大丈夫そうだな。吐いていないみたいだし」


 ジャックは軽く全身を眺めるように見ると、おどけるように言ってきた。


「吐いてしまうほど俺の精神(メンタル)やわ(・・)じゃないけどな」


「大丈夫ならいいけど、無理だけはするんじゃないぞ」


 オルガが心配して気遣ってくれるが、それは何と言うか「弟を心配する姉」と似た様な感情を含んでいるように思える。 

 だからなのか、ちゃんと心配してくれる相手に意見するのは気が引けてしまう。


「それよりも、よくやったな。初めて戦う奴ほど型通りの戦い方になるから、想定にない戦い方をされると、どうしていいのか分からなくなって立ち止まってしまう事が多いのに、ちゃんと避けることが出来ていたぞ」


 反対に、アルジェルフは客観的なアドバイスを適度にくれるので助かっている。

 まあ、逆を言えば心理的な距離はジャックやオルガの二人とは違い、まだまだ近いとは言えないということだろう。


「それでどうする、ユート。少し休んでから行くか?」


「いや、大丈夫だ。俺はもう行けるぞ。あっ、でもちょっと待ってくれ」


 ジャックが聞いてくるが、心配無用だと言うように首を横に振る。


 だが、あることを思い出してそそくさと緑小鬼の方へ駆け寄って行く。

 そして少しの間だけ手を合わせて祈ると、おもむろに剥ぎ取りナイフを取り出して躊躇する様子を見せながらも、真っ直ぐ緑小鬼の左胸を切り裂いた。


 裂かれた胸から血が出てくるのを不快に思いながらも、胸の奥に指を突っ込んで取り出したのは、緑小鬼の血に塗れた“魔石”と呼ばれる魔物の心臓に等しい、小さな石のようなものだった。

 そして手と魔石の血の汚れを【洗浄クリーン】の魔法を二回ほど掛けて綺麗さっぱり落とすと、ジャック達の方へ戻っていく。


「緑小鬼の魔石を取ってなかった。これが無いと報酬が貰えないからな」


 気恥ずかしそうにしているユートの指先には、小石ほどの小さな緑小鬼の魔石が抓まれていた。


「なんだ、ちゃんと覚えていたんだな。てっきり忘れていたのかと思ったぜ」


(いや、本当に忘れかけていたんだよ)


 ジャックの言葉に俺は心の中で間髪を入れずにツッコんだ。


「まあそれはともかく、先に進もうぜ」


 とりあえず話を打ち切って、これ以上質問されないように先へ進もうと話を逸らした。


「確かにそうだな。何時までもここに居たって仕方が無いし、薬草を取るには奥に言った方が手っ取り早いもんな」


 ジャックは俺の言葉に賛成なのか、うんうんと頷いた。


「よし! じゃあ次の戦闘では、わたしが手本を見せてやるぞ!」


「いや、俺たちは元々ユートの付き添いだぞ。あまり手出しはしない方がいいんじゃないか?」 


「というか、お前が戦ったらユートの経験になんねぇだろうが」


 オルガが妙な張り切りをみせるのをアルジェルフが宥め、それにジャックがツッコみを入れながら一行は森の奥へと進んでいった。




──☆──★──☆──




 奥へと進み数回ほど単体の緑小鬼を見つけると、事前に言っていた通りにオルガが戦った。

 だがその結果は目を覆いたくなるようなものだった。


「おいおいおい! お前、手本を見せるんじゃなかったのか?」


「これは流石に……」


「……面目ない」


 そうそれは、おもわず二人とも唖然とするくらい酷い瞬殺(もの)だった。

 アルジェルフはこの事を知っていたのか、何だかとても申し訳なさそうにしている。


「し、仕方が無いじゃないか! あいつらが弱すぎるのが悪いんだ!」


 オルガは俺たちの様子を見ると、狼狽(ろうばい)しながら緑小鬼のせいにしている。

 まあ、オルガの言うこともあながち間違ってはいないのだが。


 どういうことかというと、

 「緑小鬼を見つける」

 「見つかる前に近づく」

 「大剣で一刀両断」

 この三つを一つの工程としているため効率が良く、それに彼我の力量差(ステータスの差)が如実に出ているせいで、反撃の隙を与えるまでも無く一撃で倒せてしまうのだ。

 戦闘と言う面に関しては素晴らしいの一言だが、手本となると一撃必殺の為、(ろく)に参考にならない。 


「いや、お前が力を抑えればいいだけだろ。手本なんだから、分かりやすく説明しなきゃ意味ねえだろうが、アホ」


 ジャックも俺と同じようなことを思ったようだ。

 まあ、俺よりも幾分かキツイ物言いだが、これがこの三人にとっての日常なのかもしれない。


「くっ、ジャックに言われるなんて屈辱だ……」


「おい、聞こえてんぞお前」


 オルガが拳を握りしめプルプルと震えるようにしていると、後ろからジャックが半眼で睨みながら呆れた顔をしている。


「まあいいか。それにしても今日はなんだか、いつもより緑小鬼が多いように感じるな。お前たちはどうだ?」


 すると突然ジャックが少し真面目な顔になると、オルガとアルジェルフの二人に問いかけた。


「そうだな。確かにいつもより多くは感じるが、そこまで心配することか?」


「いや、心配はそれだけじゃないぞ、オルガ。緑小鬼が中層付近に多くいることが一番不可解な点なんだ」


 その言葉にオルガは、ハッと何かに気付いたようだ。


「おい、まさかッ……!?」


「なあ、中層に緑小鬼が沢山いると、一体何があるっていうんだ?」


 アルジェルフ達が何に気付いたのか、気になったので聞いてみた。

 三人は俺だけ話の流れに置いていっている事に気が付いたのか、罰が悪そうな顔をしている。


「あー、話に置いていって、すまなかったな。まあ、どういう事かというと魔物にも色々あって、動物系やら人型系の魔物は基本数匹で群れて行動している。それは下級の魔物ほど弱いが故の本能的なモノだ。勿論、緑小鬼(ゴブリン)もその例に漏れてない。

 だが、今回の緑小鬼に限って単体での“はぐれ”を多く発見している。それは普通ではあり得ない事なんだ。まあ、偶々(たまたま)はぐれの緑小鬼を連続で見つけただけかもしれないが……」


 ジャックはそこで言葉を切ると、押し黙った。

 反対に、ユートもすぐに何かに気が付いたのか話し始めた。


「……なるほどな。つまり、さっきの中層に多くいるというのが理由の一つなのか。多分だが弱いはずの緑小鬼が単体で、しかも中層にいることが何らかのカギになっている、という事で合っているか?」


 ユートは様々な得た情報から推測して導き出した。

 それを答え合わせの様に問いかけると、三人とも少し驚いたような顔をした。


「……まあ別に隠したわけじゃねぇけど、確かにお前さんの言うとおりだ。群れで行動するはずの奴等がばらけるように一匹で中層にまでいるのには、何らかの理由があるんじゃないかと疑っている」


「その理由っていうのは何なんだ?」


「それはな――“コロニー”だ」


「“コロニー”?」


 それはどういうモノなのだろうか?と不思議に思い、聞き返すように尋ねた。


「コロニーっていうのは、言わば、緑小鬼が大勢住んでいる(ねぐら)のようなもんだよ。だから数百匹単位でいるときもあれば、数千もしくは一万匹にも達する可能性もあり得るんだ。まあ、一万もいたときは最悪、町が滅ぼされることになるけどね」


 オルガは眉をひそめて、苦い顔をしながら吐き捨てるように言った。

 それを見てユートはすぐに「じゃあ、帰ってこの事をギルドに報告するか?」と聞いた。


「いや、多分だがまだ猶予はあるだろう。今のうちに少しでも緑小鬼の数を減らしておきたいところだが……」


 そこで話を切るとジャックがこちらに顔を向けてきた。

 それに伴って、二人も一緒に俺の方をジッと見つめてくる。


「えっ、俺?」


 よく分からない内に話の展開が変わったので、呆気に取られてしまう。

 ユートのそのきょとんとした状態を見て、ジャック達は苦笑いをする。


「まあ、な……。一緒に行くって言っておいて、一人にさせるなんて本末転倒もいいとこだろ。だから最初にお前の意見を聞こうと思ってな」


 つまり、ジャック達は緑小鬼の数を可能な限り減らしたいが、その為には手分けして別れる必要がある。

 でも、一人残った俺を放っておくわけにはいかない、という事か。


「なるほどな……。でも、そんな事を心配していたのか。別に気にしなくていいのに」


 状況を理解したユートは呆れるよりもむしろ苦笑いをした。

 それは彼らが底抜けなまでにお人好しだと思ったからだ。


「いや、でもな……」


「おいおい……元々俺は今日ここに、一人で来るつもりだったんだぞ。だから、お前たちを縛り付ける理由はどこにも存在しないし、自分勝手な都合に合わせて行動するなら非難はするが、ちゃんとした理由があるならむしろそちらを推奨するよ。俺は」

 

 ため息を吐いて頭を掻きながら、別に何とも思っていないと示す様に口にした。

 

「……すまねぇな」 

 

「それは全然構わないけど、とりあえず俺も緑小鬼狩りに参加するからな」


 面白そうだし、と心の中で付け加えると、自らの口角が少し上がるのが分かった。 


「うーん、少し心配だが分かったよ。けど、何か危険があったら大声で叫ぶんだぞ」


「なるほど、最初に会った時のジャックみたいに叫べばいいんだな?」


「お、おい!」


 神妙な顔をして納得するユートに慌てた様な声を上げるジャック。


「ふふっ、冗談だ」


「お前なぁ……」


 項垂れたジャックの姿を見て、俺達三人は顔を見合わせて笑う。


「まあ冗談はここまでにしておいて、どれくらい倒したら終わりなんだ? それにどこで集合すればいいのか分からないし」


「そうだな……とりあえず三時間後に森の外で集合という事にするか。お前たちもそれでいいか?」


 ジャックが周りへ確認するようにしながら問いかける。


「三時間後だな、了解した」


 アルジェルフが頷くと、俺とオルガもそれに従った。


「それにしてもジャックの言うことが当たっていたら、結構森の中にうじゃうじゃといるんじゃないか」


 ユートは何気なく疑問に思ったことを口にしてみた。


「確かに。コロニーもここから近いかもしれないな」


「それならあまりユートを中層に居させるのは良くないんじゃないか」


「じゃあ、俺達三人は緑小鬼が多そうな中層付近で探すとして、ユート、今日だけはお前は上層の方で戦うんだぞ」


 しまった!

 俺が余計なことを言ってしまったせいで、上層に残る羽目になってしまった。折角、ここでレベル上げやら実戦訓練やらをしようと思っていたのに……。

 仕方が無い、今回は諦めるか。

 

「分かったよ。じゃあ、俺は先に行くぞ。また後でな」


 そう言って手を振りながら(きびす)を返すと元来た道へと歩いて行った。


「はぁ……あいつ大丈夫か?」


 散歩にでも行くかのような軽い足取りのユートを見て、ジャックは先程よりも更に心配になって来た。


「ユートなりの強がりなんじゃないか」


「そう、だな………」 


 とは言え、何も心配している様子を見せないオルガとは反対に、アルジェルフはユートの後ろ姿を無言で見続けていた。


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