第27話 冒険の始動
今回のお話から新たな章に移り変わっていきます。
テーマは書いてある通り、『魔物大氾濫』です。
進行は出来る限り早く更新して行くつもりです。
~翌日~
一週間に及ぶ回復薬作成依頼という名の修行が終わり、俺はとうとう解放される日が来た。
なんだがすごく濃い時間だったから、一か月近く居たような気さえする。
そんな事を感慨深く思いながら、まだ早朝とも言える早い時間に店前では俺を含めた三人が立っていた。
「本当に行っちゃうんだね……」
レイラが悲しそうに小さくそう呟いたのを俺の耳が拾う。
「その話は昨日もしただろう、レイラ。別に死ぬわけじゃないし、何ならいつでも会えるんだからそんな顔すんなよ」
そんなぶっきらぼうに、けれど優しく諭すようにユートは話し掛けた。
昨日、婆さんが帰ってきた後、今日で最後という事でパーティーのように――この世界の基準では――豪勢な食事をしながら一晩語り過ごしたのだ。
その中で酒を飲んだレイラに絡まれて、今のようなことを何度も言われ続けた。
例えばもうずっと薬師としてここで働けばいいとか、依頼を終わらせないとか、最悪縛り付けても……などなど。
異世界初の絡み酒で俺は散々な目に遭ったのだ。
(ホント、あの時のレイラはすごく怖かった……)
内心、少しばかりレイラを恐ろしげな目で見ながらそう呟く。
「そうだけど……でも」
「これ、レイラ。あまり此奴を困らせるでない」
レイラがごね続けていると、カトレアが窘める様な口調で言った。
「男というのはそういう生物なんじゃ。だから女はそんな男をいつでも迎えられるように、どっしりとした気持ちで居なければならんのじゃぞ。それともレイラはそんな事も出来ぬのか?」
その目は挑発するようでいて、けれどレイラに問いかける様なモノだった。
レイラも同様に見返すように自分の祖母を見る。
「ううん、……私は大丈夫だよ。ちゃんと出来るから」
「そうか、それなら良いじゃろう」
カトレアはレイラを暖かな目で見守るように視線を向ける。
それを傍目から見ているユートの心情は何とも微妙だった。
「……なあ、そんな大げさな話じゃないんだけど。というか、明日にでも会えるじゃん」
なにこの茶番……。
そしてあんたら俺の母親かよ、とツッコミたくなるような状況に呆れて少しばかり素が出てしまった。
「うるさいぞ、バカタレ。この感動的なシーンを見て最初に出た言葉がそれか。それに、出ていった弟子をすぐに迎い入れる訳がなかろうに。来ても中に入れぬわ!」
「えー、マジっすか……」
そのあまりの言い種にさすがのユートも二の句が継げなかった。
特にないだろうが、何か困ったり、暇になったら訪ねに来ようとか楽な感じで思ったのに、何故だが勘当されたみたいな状況になってしまったようだ。
「師と弟子の関係なぞ、そんなものじゃろうて。次に会いに来るときはもっとマシになっとれよ」
ほれ、と依頼書をぞんざいに渡しながら言ってきた。
その隣にいるレイラは苦笑いしながら小さな声で「頑張って」と応援してくれた。
これも婆さんなりの挑戦状か激励なのだろうか。
ならば、受け取らない訳にはいかないな。
そんな風に勝手に解釈して依頼書を受け取った。
「……そうだな、一先ず上級回復薬をちゃんと作れるようになるかな」
俺は清々しい笑みを浮かべながらそう言った。
「そんな簡単にいくものか! と言いたい所じゃが、お主ならすぐにそこまで行けてしまうかもしれんのう。まあ、成長したと思ったら帰ってくることを許すのじゃ。ついでにこれもやろう」
そう言って渡してきたのはこの十日間ほとんどの時間を共に過ごした【魔法の釜】という魔道具と小さなポーチだった。
「これは……」
「お主が更なる上を目指すというのならば、これが必要じゃろう?」
「……ああ、ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
「そうか……」
(それは昔、わしと友が迷宮で大量に見つけた内の一つなんじゃが、そんなに喜んでくれるのなら取って置いた意味があったのかのう……)
カトレアが胸中でなんとも複雑な思いを抱いているとは知らずに、ユートは貴重なモノを貰ったという思いで胸がいっぱいだった。
もしかしたらユートはこの時初めてカトレアに感謝の念を抱いたかもしれない。
「それとそのポーチには色々な回復薬が入っておる。大事に使うといい」
婆さんにもう一度お礼を言って軽く頭を下げると、ポーチの中は見ずにそのまま腰につけた。
「それじゃあ、あんまり長居するのも悪いし、もう行くわ」
「うむ」
「じゃあ、またね!」
言葉が短いながらも、俺は一週間過ごした場所へと別れを告げた。
この数日間、色々なモノを見聞きして異世界という所がどんなところなのか朧気ながら分かってきたつもりだ。
元の世界とは何もかも違うし、食事や文化、人に魔物と苦労することは多々あるだろう。
でも俺は今――――この世界で生きている。
これから俺は沢山の困難に出会うかもしれないし、死にかけるかもしれないし、裏切られるかもしれない。
それでも俺は今まで通り何も変わらず、何も曲げずに、俺らしく生きていこうと今一度そう思った。
──☆──★──☆──
久々に、というのは語弊があるかもしれないが十日ぶりに冒険者ギルドにやってきた。
中には結構人が来ているようで騒々しい。
まあ、今の時間は大体朝七時過ぎくらいの時間なので、冒険者はこのくらいの時間から来始めるのかもしれない。
と言ってもまだ俺はこの町のギルドしか知らないんだが。
カウンターなど目もくれず、依頼掲示板を品定めするように眺める。
未だ俺はGランクなので一個上のFランクの依頼までしか受けられない。
どうしようかと思い悩んでいると、『Fランク 薬草採取』と書かれた依頼が貼ってあった。
森にも入れるし、色々と都合がいいのでこれに決めることにした。
そうしてとりあえず列に並ぼうとしたら、一つの列にだけ多く人が集中している所がある。
面倒臭そうなので、人が誰もいない強面の男性の受付に行く。
「すみません。ここって空いていますか?」
指で場所を指しながら話しかける。
面識のない人には敬語で行くスタイルなので、いつも通り社交的な仮面を貼り付ける。
「おう、空いてるぞ。何の用だ坊主?」
見た目に反して、意外にも普通に対応してくれた。
もしかしたら「ここはてめぇみたいなガキがくるところじゃねぇ!」とか言われるかもしれないと思ったのに。
でも一つだけ、訂正して貰わなければならない事がある。
「依頼が終わったので報酬と新しい依頼の受理をお願いします。ついでに俺はもうすぐ十八歳なんですけどね、お兄さん?」
依頼書二枚とギルドカードを出しながら笑みを浮かべて言ったのに、どうしてかひどく慄かれた。解せぬ。
「お、おう、そうか。それは済まねぇな。じゃあちょっと待っててくれ」
取り敢えず俺は無言で頷いて待つことにしたが、暇なのでギルドの中を見回すことにする。
カウンターは全部で四人分で、その内の左端に俺が一人でおり、右端に行列の様に冒険者たちが並んでいる。
中央の二つにも数人ほど列を成して並んでいる。
ついでに丁度ここからだと、右端で沢山の冒険者たちを捌いている少女の姿が見える。
彼女も十中八九、受付嬢なのだろうと予測を付ける。
年の頃は十四、五と言ったところか。一見普通の女の子に見えるが、人間離れした端正な顔立ちをしており、それがこの冒険者ギルドでは一際目立って見えるくらい場違いな感じがする。
それに新人なのか緊張しているからなのか分からないが、何度もミスしながらも仕事を投げ出さず根気強く頑張っている。
たまに後ろから他の受付嬢の助けをもらったりしているが、それは気にしなくていいだろう。
それとどうやら冒険者たちは彼女がそうやって慌てたり、失敗しているのを気持ち悪い顔でニヤニヤ微笑みながら眺めるためだけに並んでいるようだ。
遠目から見れば、緩みきった顔の男達と慌てている少女という何だか犯罪チックで、元の世界だったら即通報案件な状況だが、この状況はギルドでも一般的な様で誰も騒いでいないようだ。
と言うかそんな事の為に朝から早く来たのだろうか?
暇人だな……。
何となくもう飽きたので、久しぶりにステータスを見ることにする。
本当はちょいちょい見ようとか思っていたんだが、どうせならと一週間(この世界では十日)の集大成を実感するためにずっと我慢していたのだ。
つまり何が言いたいのかと言うと、俺も一週間ぶりにステータスを見るという事だ。
という訳で回りに聞こえないようにステータス、と小さく唱えた。
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名前:霞野 優人/ユート・ヘイズ
年齢:17
性別:♂
種族:人族
称号:異世界転移者・読書家・哲学者・一流キノコハンター・中級薬師
Lv:13
HP:385/385
MP:1294/1294 +39
筋力:203 +18
体力:201
耐久:365
敏捷:228
魔力:214 +14
知力:396 +26
スキル
剣術Lv1 +Lv1up new
高速思考Lv4
算術Lv5
速読術Lv3 +Lv1up
採取Lv2
調合Lv4 +Lv4up new
魔力操作Lv4
気力操作Lv1
火魔法Lv2 +Lv1up
水魔法Lv2 +Lv1up
風魔法Lv1 +Lv1up new
土魔法Lv1 +Lv1up new
光魔法Lv1
闇魔法Lv1 +Lv1up new
無魔法Lv3 +Lv1up
氷魔法Lv3
生活魔法Lv2 +Lv2up new
神聖魔法Lv2
空間魔法Lv2
瘴気耐性Lv1
呪い耐性Lv2 +Lv2up new
ユニークスキル
鑑定Lv4 +Lv1up
言語術
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声を合図に何も無い所から半透明の板状のものが現れる。
どうやらこの一週間は無駄ではなかった様で、沢山のスキルレベルが上がっているようだ。
まずは称号から。
<見習い薬師>と書かれていた所は<中級薬師>という上位(?)の称号に変化しているようだ。
説明を見てみると――
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中級薬師:中級回復薬を作れるようになった者に与えられる称号。
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と、これだけだった。
付属効果とかそんな便利なモノはこれには無いらしい。
次に能力値。
どういう理由で上がっているのかまだ分からないが、つい先日、本で読んだように能力値に関する事柄をしたことによって上昇したのだろう。
例えば、筋トレしたことによって“筋力”が上昇するかもしれないし、本を読むだけで知力が上がるのかもしれない。
これについては要検証だ。
最後にスキル。
どうやらこの十日間の間で起きたことがスキルとして認められたのかもしれない。
暇つぶしに剣を振ったり、本を読んだり、魔法の練習をしていたことが原因だろう。
一番上昇したのはやはり、【調合】スキルだったのは言うまでもないことか。
でも、ユニークスキルの【鑑定】が上がってくれた事が一番嬉しい。
これがさらに上がったら、面白いことが出来るかもしれないからな。
これのおかげで少しばかり異世界での楽しみが増えた。
そんな風にステータスを眺めていたら、受付の強面の男が小さな袋と紙を持ってこちらに戻ってくるので、ステータスを閉じた。
「おう、すまん。待たせたな。えーっと……」
「ユートです」
さっき少年じゃないと遠回しに言ったのを気にしていたのだろうか?
そう思って、あえて名前を言ったら合っていたようで、心なしかホッとしたようにも見える。
「そうか、ユートか。依頼の報酬と新たな依頼の受理をしてきたぜ。ついでにこれもな。ほれ」
そう言って先程持ってきた小袋と紙、そしてギルドカードをカウンターに置く。
ジャラっと音を立てた小袋には俺の予想よりも多く金が入っているらしい。
それを受け取って礼を言う。
「ありがとうございます」
「おう。また来いよな」
終わってみれば結構いい人だった。少しばかりギルドに対する好感度が上がったのを感じた。
さて、次は……と思い出していると、レイグのおっちゃんに依頼していた武器を受け取りに行かなければならないのを忘れていた。
最近やることが多くて忘れることが多いな……と遠い目をして現実逃避しながら出口に向かっていると、十日ぶりに彼らに出会った。
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名前:霞野 優人/ユート・ヘイズ
年齢:17
性別:♂
種族:人族
称号:異世界転移者・読書家・哲学者・一流キノコハンター・中級薬師
Lv:13
HP:385/385
MP:1294/1294 +39
筋力:203 +18
体力:201
耐久:365
敏捷:228
魔力:214 +14
知力:396 +26
スキル
剣術Lv1 +Lv1up new
高速思考Lv4
算術Lv5
速読術Lv3 +Lv1up
採取Lv2
調合Lv4 +Lv4up new
魔力操作Lv4
気力操作Lv1
火魔法Lv2 +Lv1up
水魔法Lv2 +Lv1up
風魔法Lv1 +Lv1up new
土魔法Lv1 +Lv1up new
光魔法Lv1
闇魔法Lv1 +Lv1up new
無魔法Lv3 +Lv1up
氷魔法Lv3
生活魔法Lv2 +Lv2up new
神聖魔法Lv2
空間魔法Lv2
瘴気耐性Lv1
呪い耐性Lv2 +Lv2up new
ユニークスキル
鑑定Lv4 +Lv1up
言語術
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現在の残高
150700-12,700(食事代+雑貨代等)=138000ノル




