表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第一章 異世界適応篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/105

第24話 新装備を取りに行こう! 2


 レイグのおっちゃんへの用事が終わった後、今度は“服飾屋ガーベラ”へ向かった。

 時間的には結構立っているから大丈夫かな~と微妙に自分を納得させながら、店の中へと入る。

 扉を開けて入っていくとドアベルのカランカランという音が涼しさを感じさせた。

 その音を聞きつけたのか、奥からバタバタと足音がしてこちらに向かってくる。


「はいは~い、お待たせしました――って、あんたか……」

 

 最初はいつも通りの店員の対応をしていたが、俺だと気付くとすぐに尻すぼんでいった。

 確か名前は……セシル、だったような気がする。

 町娘Aみたいな格好してるし、目立たなそうだから咄嗟に名前が出てこない。

 いつもは人の顔を見れば思い出すんだがな……。

 何故だろうか?

 それにしても人の顔を見て態度を変えるとは、全く失礼な奴だ。 


「はぁ……」


 俺も呆れながらため息をつくと、町娘Aのセシルがこちらを睨んでくる。


「あんたねぇ……人の顔を見てため息をつくなんて最低な男ね!」


 お前に言われたくねぇわ。

 その雑な対応は、今どきのコンビニ店員でもしないっつーの。

 

「その言葉、そっくりお返しするから。それでそんなことはどうでもいいんだが、とりあえず服を受け取りに来たんだ」

 

 いつまでも(じゃ)れていては仕方がないので、俺はさっさと話の本題に入る。


「あら、そういうことね。こんな朝から何の用かと思ったわ。ちょっと待ってなさい!」


 セシルは自分の言いたいことだけ言うと、奥へバタバタと音を立てながら走っていった。

 そんな急がなくていいのに……と思いながらも反面、早くしてくれる分にはありがたいので黙っていた。


 これからまた婆さんに一日中しごかれるので、一時の休息じゃないが気分的にゆっくりできるのはラッキーだ。

 だが喜んでいるのも束の間、バタバタという足音と静かな足音の二つがこちらに向かってくる。


 もう来てしまったのか……と自分でもよく分からない悲しみを感じていると、横からそっと話しかけられた。


「ねえ、あんた大丈夫?」


「あ、ああ、大丈夫だ。それよりもやっぱりあんたも一緒だったか」


 変な空気になっているのを吹き飛ばすように、セシルの横にいた大柄の男、ベイドルフに話しかける。


「ええ、あなたが来たってこの娘が言うからね。どうせなら新しい服を着ているのを見たいじゃない?」


「そういうことか。それで肝心の服はどこにあるんだ?」 


「はい、これよ!」


 どんっ!とでも音がするかのようにテーブルに載せたのは風呂敷包みの要領で包まれたなにか(・・・)だった。

 当の本人であるセシルは何も言わずにさっさと包みを開いているが。

 中から現れたのは俺が注文した白と黒、そして青の色を使用して作られたコートと服の上下、ブーツだった。


「おお~、いい服だな」


 ベイドルフ達が作ってくれた服は見た目も派手過ぎず、爽やかな印象を与えるものだった。

 

「うんうん、頑張って作ったからね。それに使っている素材も結構高級品だから」


 とセシルが前置きして説明してくれた。

 何でも結構な量の高級素材がふんだんに使われているらしい。


 例えば、今回使われた主な素材は5つ。



 一つ目、冷碧草から生成された【冷碧糸】。

 青く冷たい金属のような硬度を持つ花びらから生成された糸で、植物自体に元からあった特性がそのまま活用されている。熱帯地域では重宝され、【熱紅糸】と対になる素材だ。主な特性は、常時冷気生成、防刃効果だ。


 二つ目、熱紅草から生成された【熱紅糸】。

 赤く熱い金属のような硬度を持つ花びらから生成された糸で、同じように植物自体に元からあった特性がそのまま活用されている。寒帯地域では重宝され、【冷碧糸】と対になる素材だ。主な特性は、常時熱気生成、防刃効果だ。


 三つ目、ミスリルスパイダーによって生成された【蒼銀絹(ミスリルシルク)】。

 今着ているこの微妙に呪いが掛かった、詳細不明の『宵闇のコート』にも同様に蒼銀絹が使われている。メタルスパイダーという魔物の上位亜種であるミスリルスパイダーは蒼銀(ミスリル)を特に好む食性を持っており、こいつの体内で生成された蒼銀絹を使うと蒼銀の特性である魔法防御力や魔力循環しやすくなるなど魔法関係の効果や防刃効果が上昇する。


 四つ目、ワイヤーシープから採れた【硬軟毛】。

 動物系魔物に共通する肌触りが良く柔らかい柔毛と、魔力により針金のように硬さを変化させる剛毛の二つがある。この二つを兼ね備えた硬軟毛は服飾に最適だとか。衝撃を減らしたり、斬撃をいなしたりなど攻撃に対する防御としても役に立つ。


 五つ目、スライムから作られた特殊な【万能糸】。

 スライムと言えば元の世界で雑魚敵として超有名だが、この世界でもまあまあ当てはまるところがある。魔法に弱い、弱点の核がある、攻撃力が低いなど大体想像できるものがほとんどだろう。だが、ある一面においては無敵とも呼べる能力を持っている。例えば物理攻撃をほぼ無力化出来るとか、触れたモノを溶かす酸性の肉体(ボディ)?だったり、不死身とも言える再生能力だ。

 つまり、スライムの特性を有しているのがこの糸だ。

 主な効果は、伸縮自在、物理耐性、酸・腐食耐性、魔力による修復、清潔保持、微小冷気などだ。逆にデメリットを挙げるならば、魔力耐性低下のみと言えるだろう。



 この計五つを贅沢に使用して作ってくれたのが俺の新たな服だそうだ。

 

「――――という訳で、これらの素材を生かして作ったのがあんたのコート一式ってわけよ!」


 セシルがドヤ顔をしながら、こちらにビシッと指を向けて言ってくる。

 確かにすごい効果ばかりだが、お前ひとりで作った訳でもないだろうに……。

 そんな事を思ったがさすがに口にするのは憚られた。

 作ってもらったことに感謝はしても、文句を言うのはお門違いだからな。


 それよりもコートを手に持ち、左右に広げてよく見てみる。

 全体は白をベースにところどころにある青と黒のラインがほどよく調和している。

 しかもコートにはパーカーについているようなポケットがあったり、フードだったり、内側にもたくさん収納できるスペースがある。

 とてもありがたい……と思ったがよくよく考えると空間魔法があるから飾りになってしまう可能性(オチ)が……。


 他にも包みに入っているトップスやズボンを見てみるとこちらは暗色系になっており、ポケットが特に多いから特殊部隊の戦闘服のようにも感じられる。

 まあ、冒険者にとっては基本となる形の服装だと本にも書かれていたから一番シンプルな服なんだろう。


 最後に注文してあった靴もあったので取り出してみると、安全靴というかコンバットブーツというかそんな感じの靴だった。

 つま先や靴底などの要所要所には金属が入っており、ノックするように叩いてみると逆に指を痛める程に頑丈だ。

 またこの靴にも先程の五つの素材が使われているので機能性も十分に高い。

 ついでにこの靴に使われている金属は何かというと【閃鉄鋼】と【蒼銀(ミスリル)】の合金で造られているそうだ。

 そう、先程レイグのおっちゃんの店で武器を造ってもらった剣にも使われた素材だ。

 そして蒼銀は魔力親和性が非常に高い希少金属で、服に作るのに使われた蒼銀絹よりも性能は高く、金属なので防御力も十分だ。


「聞いてみるとやっぱりすごいなぁ……。だが、高価な素材を使い過ぎじゃないか? 初心者に持たせるには分不相応だと思うんだが」


「確かに聞いただけじゃそう思うかもしれないけど、別に損をしている訳じゃないのよ」


 ベイドルフが笑いながらそう言ってくる。

 どういう意味なんだろうか?


「ふふっ、不思議そうな顔をしているわね。分かりやすく言えば色々と特殊な伝手を使ったり、モノによってはわたしが自分で採ってくるものもあるからよ!」


 ……それはつまり、色々な地方に知り合いがいるから遠くまで採りに行く必要が無く、近場なら自分でも採りに行ける実力があるという事なのか。


「なるほど、それなら納得だな。でもそれを俺に使う理由が無いんじゃないか?」


「いいえ、そんな事は無いわ。あなたが今着ているその『宵闇のコート』は本当は何人も買おうとする人がいたのよ。でも呪われていると分かったら、すぐに興味を無くして他の服を探していたわ。……別に責めるつもりなんて無いの。ここに来るのはお金を持っている中位冒険者が多いから、そんな危険なモノを買おうなんて酔狂な人は残念ながら上にはいけないもの。

 まあぶっちゃけちゃうと、冒険者って結局は賭け事みたいなものだから、少しでも運が悪くならないように堅実な賭けをする人だけが上にいける。でもあなたは違った。ただの蛮勇かもしれないし、何も知らない初心者(ビギナー)なだけかもしれない。それでもあなたは何か他の人と違うような気がしたの。だから私はあなたのためにこの服を作ったのよ」


 「まあ、私の勘だけどね!」とベイドルフがお茶目に言いながら、こちらを暖かな目で見てくる。

 と言うか、普通に馬鹿にされたような気がする。

 酔狂な人って……。


「ふん、その勘が外れないといいな」


 何だかその視線がむず痒く感じて俺は顔をそらしながら、悪態をついてしまう。

 少し変な空気になったのを払拭するように、せっかく作ってもらった新品の服を今から着替えようと思う。


「じゃあ、着替えてくるから試着室を貸してくれないか?」


「ええ、いいわよ。場所は分かるわよね?」


「ああ、流石に三日じゃ忘れはしないさ」


 俺は苦笑いしながらそう言うと着替えに行く。

 試着室に入った俺は最初に宵闇のコートを脱ごうとした。すると、


「――え、あれ? コートが脱げない!?」


 体にぴったり張り付いているかのように、コートを外すことが出来ない。一応、胸元までは広げることが出来るのだが、腕を通り抜けようとすると不思議な力が働いて、何度やってもコートを脱ぐことが出来ない。


「何故? どうして脱げないんだ?」


 本人であるユートが一番驚きながら、素早く頭を働かせて黙考する。


「もしかして……このコートの呪い、なのか?」


 可能性として最も高いだろうことを確信しながら、顔がだんだんと青ざめていくのが分かる。

 そして、この奇妙な現象をどう対処すればいいのか頭を抱えた。


「ベイドルフ達に相談してみるか……」


 まさかこんな目に合うとは……別方向のベクトルで驚いたわ。

 とりあえず着替えを一旦中止して、ベイドルフ達の方へと向かう。


「あら? どうしたのかしら?」


「あんた何で着替えてないのよ? もしかして服が小さかったとか?」


「あ~……何ていうかすごく言いづらいんだが、服を着れなかった。というか服を脱げなかった」


 ユートは真面目くさった顔でそう言った。


「服を脱げないってどういう意味? まさか一人で着替えられないという訳ではないんでしょ?」


「よく分からないから、もっとわかりやすく説明しなさいよ!」


 ベイドルフは冗談のような口調で、セシルは早く言えとばかりに責めてくる。


「え~と、多分だが……このコ-トの呪いで服を脱ぐことが出来なくなっているんだ」


「まあ!」

「うそ!?」


 二人とも口に手を当てながら驚いたリアクションをした。

 まあ、普通はこういうリアクションだろうな。

 だが俺は逆に驚きすぎて、一周回って変に冷静になってしまった。


「とりあえずどうすればいいか、アドバイスをくれ」


 何ていうか一周回って冷静になると、変な風にテンション上がるよな。

 今俺はそのテンションが上がっている状態にいる。


「……と言われてもねぇ。わたしも呪いに関して詳しいわけじゃないから何とも言えないけど。

 それに今までそんな事は一度も無かったし……。

 でもそうね、迷宮都市ではそういう風な外せない武具の場合は幾つかタイプがあるの!

 例えば、迷宮ダンジョンで見つけた呪いのアイテムには【解呪ディスペル】の魔法を掛ければ使えるようになるタイプ。

 他に、怨念によって呪われた根源の願いを叶える、もしくはこれも【解呪】の魔法を掛ければ解けるタイプ。

 最後に長い年月を掛けて“意志ある武器インテリジェンスウェポン”へと変化、またはそういう風に創られたタイプ。この三つかしら?」


「ならこのコートはどれに該当するんだ?」


「……そうね、それはわたしが作ったモノだから、どちらかと言えば二番目のタイプじゃないかしら? 何かそのコートから思念とか、情感っていうのを感じたことは無いの?」


「思念や情感?――――あっ、確かこの前、聞いたような……」


 そう、それは広場であの呪われた斧を持つ男を目にした時、体の中から何故か懐かしさ(・・・・)憎悪(・・)、そして破壊衝動(・・・・)が込み上げてきた。

 幸い、目の前に斧男という危険な存在がいたので意識をそらすことが出来たが、つまりそういうことなんだろうか?


「このコートからなのかは分からないが、そういう感情らしきものを確かに感じたぞ」


「それってどういう類いのモノかしら?」 


「そうだな、負の感情って言うか特定のモノに対する破壊衝動みたいな?」


「あ~、そういう感じなのね……。ならそれを叶えられるなら大丈夫だと思うけど、そんな簡単に叶えられる訳じゃないでしょうし。難しいわね」


 何でも、そういう意志ある武具とかは【解呪】の魔法を掛けても効果はほとんどないとか。

 そんな中で俺とベイドルフの二人が色々と考えていると、セシルがこんな突拍子もないことを提案してくる。


「……ねえ、今すぐに叶えることが出来ないなら、そのコートにお願いをすればいいんじゃない?」


「……お願いってどういう意味だ?」


 いまいちよく分からない提案だったのでセシルに聞き返してしまった。


「ああ、もう! 一回で分かりなさいよね! そのコートに恨み辛みとか意識みたいなものがあるんだったら、話し合って譲歩してもらえばいいのよ!」


 自分の言っていることが子供じみていると分かってて恥ずかしいのか、セシルは顔を赤らめながら口早に言いたいことだけ述べた。

 でもそんなことが出来るのだろうか?

 その疑問をベイドルフにぶつけてみる。


「う~ん、確かに特殊な怨念には生前の人物の思考とか感情が残ることは稀にあるけど、“魔物の”っていうのは聞いたことが無いから、試してみないと何とも言えないわね」


 というあやふやな答えが返ってきた。そう言うのホントに止めてほしいんだけど。


「マジか……。でも流石に一生脱げないとかは嫌だからな。具体的にどうすればいい?」


 とりあえず覚悟だけは決めて、どうやって会話するのか方法を聞いてみた。

 すると、口を閉じて黙っていたセシルが適当に意見を言ってきた。


「そんなの知らないわよ。そのコートにでも話しかければいいんじゃない?」


「あはは……。まあ、何でも試してみるものよ」


 流石のベイドルフも苦笑いしながら、俺にそう慰めて(?)言ってくる。

 まあ確かに、文句だけ言って試さないとかウザい奴の典型だと思うしな。

 でも物に話しかけるとか、そんな羞恥プレイをしたことなんてないんだけど……。

 

 俺は一度瞑想するように目を閉じながら呼吸をすると、そのままコートに手を当てて心の中(・・・)で話しかけるように念じてみた。

 すると突然、背中を引っ張られるように、底の深い水の中へぐんぐん引きずり込まれる感覚を覚えながらも、その身に任せて抵抗せずに流されていく。




 体感で結構長い時間引っ張られるのが終わったと思ったら、俺は暗い暗い(おり)のような場所にいた。

 そんな暗い中で目を凝らすように見回していると、影のように黒く朧げな姿をした狼らしき存在(もの)が視界にいた。

 内心で何となくコートに憑いている存在だと当たりをつけたが、ジッとしていても仕方が無いのでとりあえずそいつに話しかけてみることにした。


(ふぅ……。なあ、俺の声が聞こえるか? 聞こえたら返事をしてくれ)


(………)


(返事はなしか……。まあいいや。俺の名前は優人という)


(………)


(今から俺がお前に言いたいことを言っていく。それに返事をしようがしまいが自由だ)


(………)


(あんたの名前は?)


(………)


(何で俺から離れないんだ? 今までそんな事は一度もなかったんだろう?)


(………)


(お前は俺を使って何がしたい?)


(………)


(お前の望みが何かは俺には分からない。ただ分かるのはお前が何かに対して憎悪と破壊衝動を持っていることだけだ)


(………)


(俺が望むのは一つのみ。お前から解放されることだ)


(………)


(逆にお前は俺に何を望む? 何をさせたい?)


(………)


(お前の本心を聞かせて欲しい)


(………我ガ……望ムハ……呪イノ…破壊ナリ…………)


 魂にまで響くような老練さを感じさせるその低い声は俺に向けて放たれた。


(……呪い? 呪いとは具体的に何を指す?)


 返答してきたことに少し驚きながらも、ユートはここぞとばかりに聞きたいことを問うてみた。


(……我ヲ……斬リ裂キ…傷ツケ…(ムシバ)ンダ……五ツノ…呪ワレシ…武器ダ…………)


 “呪われし武器”っていうことは、この前の呪斧と同じような類いの奴か。


(五つの武器とは何だ?)


(……大剣……斧……槍……弓……ソシテ…大鎌ダ…………)


 その五つの武器でこいつは殺されたということだろうか。


(……どうして俺を選んだんだ? 他にも変わりはいただろう? 俺を逃がさないかのようにコートを外せなくしたり、なぜ呪いの武具を破壊させようとした?)


(………オ主ガ…最適ダッタノダ…………)


(……どういう意味だ?)


(………我ト…適合サセルニハ……様々ナ…条件ガアル…………)


 適合……それは特殊なアイテム全般に共通する、相性の良し悪しを意味する言葉だ。

 相性が良ければ十全に能力を引き出し、呪いの効力を最小限に無効化出来る可能性がある。


 反対に、相性が悪ければ中途半端にしか能力を引き出せず、呪いに蝕まれて不幸になったり、最悪死ぬことすらあり得る。

 そういう“特殊なアイテム”にはモノによって多くの隠された前提条件がある。

 この時のユートはそんなことなど知りもしなかったが、この状況と照らし合わせて大体のニュアンスは理解できていた。


(はぁー……つまり、都合よくその条件とやらに当てはまる存在が俺だったって訳か)


 頭を掻きながらため息をこぼしてユートはそう言った。


(……ソウダ……ソノ為ニ…オ主ニ…取リ憑イテイル…………)


(それってつまり、その呪いの武器とやらを俺に探させて、復讐する為ということか?)


 俺は俺自身に取り憑いている本当の理由――核心――に容赦なく迫る。


(………違ウ…トハ言イ切レヌ………ダガ……我ガ…守護シテイタ…森ヲ……傷ツケサセヌ…タメダ………)


 朧げな形をした狼らしき存在は迷いながらもそう答えた。


 どちらにせよこいつの願いは、俺にその五つの武器を探させて破壊したいということか。

 まあ、受けるかどうかは別にして、難易度は結構なレベルのものだ。

 今の俺では逆立ちしたってこの願いを叶えてやることは出来ないだろう。

 しかもデメリットばかりだしな。

 だが逆に、メリットは何だろうか?

 それを少し聞いてみるとしよう。


(お前の願いを聞くかどうかは別にして聞きたいことがあるんだが、俺が受けることによるメリットは何だ?)


 ユートは単刀直入に聞きたいことを文字通り、斬りこんだ。

 狼の奴も少し戸惑っているのか、間を開けてから質問に答えようとする。


(…………魔法ノ……特ニ……闇ト光ノ…魔法ニ関スル…能力ノ上昇………マタ……呪ワレシアイテムノ…大体ノ…場所ガ分カル………後ハ……瘴気ヘノ…耐性ダ…………)


(……それだけか?)


 言っちゃ悪いが、もっと便利な能力があるかと期待したんだが……意外と普通でショボいというかなんというか。


(………ソレダケダ…………)


 俺の思ったことが伝わったのか、心なしか狼らしき存在が落ち込んでいるようにも見えた。


(……まあそれは良いとして。俺の“解放して欲しい”という望みはどう叶えてくれるんだ? 後で叶えるとかは無しにしてくれよ?)


(……ソレハ難シイ………オ主ガ…我ガ一部ヲ…身ニ着ケタコトデ……契約ハ…既ニ為サレテイル…………)


 我が一部? 契約? それってもしかして……俺が服を着たことで勝手に契約が結ばれているってことなのか? そんな馬鹿なことが……。

 だが、そこで諦める俺ではない。他に呪いを解くとまではいかなくても、何らかの方法があるはずだ。


(今すぐに呪いを解けないのならそれは仕方が無い。こちらも勝手に身に着けたという落ち度があるからな。でも自分の好きなように服くらい着替えさせろや!)

 

 折角作ってもらった服なのに、着られないなんてもったいないだろ!

 そんな思いを込めてギロッと精いっぱい睨みつけると、朧げな見た目の狼が陽炎の様にさらに揺らいだ気がした。


(……服ヲ全テ…外スコトハ…出来ナイガ……我ガ一部ヲ……一ツダケ…身ニ付ケテオケバ……可能ダ…………)


 ……一つだけ身に着けるということはコート、服の上下、靴の四つの内どれか一つは必ず着用していなければダメということなんだろう。

 ……なんて面倒臭い条件だ。


(分かった、もうそれでいい。じゃあ最後に整理するけど、俺は特定の呪われた五つの武具を探し出した後に破壊すること)


(……我ハ……約束ガ…果タサレタ時ニ……汝ヲ…解放スル…………)


(これで望みはいいのか?)


(………ウム……巻キ込ンデ…スマナイ…………)


 朧げな姿をした狼が俺に頭を下げるように謝ってくる。


(気にすんな。とは流石に言わないが、俺自身の過失が引き起こしたことだからな。だから謝る必要はない)


(………ソウカ…………)


(ああ。……そういえばお前の名前って何て言うんだ?)


(………ソモソモ……元カラ我ニ…名ナド無イ…………)


(名前が無いのか。でもそれだと呼びづらいな……。そうだな適当に――“オボロ”とでも呼ぼうか。じゃあな、オボロ)


 そう言ってユートはこの世界から“帰る”と念じると、さっさと出て行った。

 今までと同様にひとり残された、朧のように揺らめく影のような狼――オボロと勝手に名付けられた存在――は呆気に取られていた。


(………オボロ………ソレガ…我ノ……名前カ…………)


 傍若無人で、呼びづらいからと勝手に名付けられ、その本人はさっさと居なくなる。

 そんな生前の自分ではあり得ないような体験を受けて、オボロと名付けられた狼は小さく声に出して名前を呟く。


 恨みと無念によって蘇った浅ましき自分を今この瞬間(とき)だけは忘れることが出来たのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ