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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第一章 異世界適応篇

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第19話 初依頼 2


 10分ほど街を歩き続けていると大きな店が見えてきたので、そーっと中を覗いてみると一人のゴツイ男が何かを叫んでいた。


「おらー! もっと気合を入れねぇか! だらしねえぞ! もうばてたのか!」


「う、うっす! 俺たちゃまだやれるっす!」


「こ、こんなもん屁でもねえっすよ!」


 息絶え絶えになりながらも諦めず根性一つで頑張っている様子は熱いものがあるが、「これを俺もやるのかー……」と考えてくると、ちょっとばかしテンションが下がるのを感じる。

 だってよく考えてくれ。大の男たちが汗水たらして働いてるむさ苦しいところに誰が好き好んで入りたいと思うんだよ。

 まあ愚痴になってしまったが、観念して入ることにする。


「すみませ~ん! ギルドで依頼を受けた者なんですけど?」


 とりあえず中に入って大きな声で呼びかけた。すると物を運んだまま全員漏れなくこっちを見てきやがった。

 顔じゃなくてさっさと手を動かせよ……。

 そんなことを思っていると――


「こら! てめぇらはよそ見してないでさっさと手動かしやがれ!」


 ……俺が考えていることが聞こえたのかというほど同じタイミングで、先ほどのゴツイ男が怒鳴る。

 なんとなく気が合いそうだと思った俺であった。


「で、お前さんが依頼を受けに来た冒険者か?」


 じろじろとこちらを値踏みするように見てきながら依頼者だと思われるゴツイ男が近づきながら聞いてきた。そこで俺は臆せず、ギルドカードを見せながら答えた。


「そうです、俺がこの依頼を受けさせてもらいました」


「ほう、だがお前さんのその細っこい腕で大丈夫なのか? 悪いがこっちも遊びじゃねえんだよ」


 こちらを威圧するように、というよりもやる気があるのか見極めるようなそんな目で問うてきた。

 ある種侮辱(ぶじょく)のようにも取れる言い方だが、職人として誇りがあるんだろう、とその時の俺はそう感じた。

 だから俺は、


「大丈夫です。どんなことでもやってみせます」


 と気楽に、けれど真剣な意思を見せると、それをどう受けとったのか分からないが、目の前の男はニヤッと男臭い笑みを浮かべた。


「よーし、じゃあ来い! お前には一番大変なのをやってもらおうじゃねえか! それと俺の名前はボッグだ。お前さん、名前は?」


「ユートです」


「ユートか。だがそんな堅苦しい言葉を使わなくていい。ここは働きのみが認められる場所だからな」


「わかり……わかった。今日一日よろしく頼む」


「おうよ! っとここだ」 


 そうして話しながら連れてこられた場所は広い倉庫のようなところで中にはぎっしりと、でも丁寧に詰め込まれた木材や石材などが五つの山となって積まれていた。


「ここにある全ての材料を五か所に運んでもらうぜ。なーに手段はどんな手を使っても構わねえ。勿論ぶっ壊すのはダメだけどな。場所はこの紙を渡すからよ!」


 ボッグに手渡された紙とこの材料の山を見比べてちょっとヤバいかなーと内心冷や汗をかき続けるユートだが、もしかしたらアレを使えば何とかなるかもしれない、と今一度冷静に考えてからボッグに聞いた。


「それってつまり、魔法を使っても構わないのか?」


「……どんな手段でも止める理由が無いから、こっちは構わんが大丈夫か? 止めるなら今だぜ?」


「冗談はよしてくれよ。どんなことでもやるって言ったばかりだろ」


「……そうかい、そんじゃあもう何も言わねえ。俺はさっきのとこにいるから何かあったら俺んところにすぐ来いよ」


 そう言ってボッグは元の場所へ帰っていった。

 その後ろ姿を見送ってから、さて……と心を切り換えて俺は地面に座り込んだ。

 これからするのは【身体強化(リインフォース)】という魔法だ。感覚、筋力、体力、耐久、敏捷の全てに効果があるそうだ。

 方法は至って簡単。

 魔力を体全体に満遍まんべんなく、均等に維持して纏うのが身体強化の魔法だと本に書いてあった。

 だが俺は必要に駆られて魔法を発動させてばっかりなので、この時間を有効活用させてもらって魔法に、そして魔力に慣れるつもりだった。


 まずもう一度魔力の感覚を正確に掴むために、スキル無しで肉体の内側へと集中して意識を向ける。

 昨日はとんだミスをしてしまったが、今日は失敗をしないためにちゃんとイメージする。

 魔力のイメージは俺の中では炎だ。体の中に熱く、燃え滾るような力の塊。何分か続けているとイメージとは違うが、温かい光のようなものを心臓から感じる。

 おそらく、丹田にあったモノは“気”だったんだろう。

 どうにかしてその魔力だと(おぼ)しきものを操れないか考えていると、魔法大図鑑に方法が書いてあったのを思い出した。

 確か、心臓から血管を通って体を循環するようにイメージすればいいらしい。


 思いついたことを試してみると、体の内部で魔力を循環させることが出来た。

 その調子で皮膚呼吸するように体外に放出し、体表に纏わせるようにしてみたはいいものの、素早く発動させることが出来なかった。

 実戦じゃまだまだ使えないなぁと思ったが、とりあえずこのまま【身体強化】の魔法を維持しながら運ぶ場所の近いところまで行こうと決めた。


 木材一本の高さを約ニメートル、直径は大体二〇センチと仮定するとおよそ八〇キロの重量と考えられる。

 その木材の重心の真ん中を掴むようにして持ち上げようとしたが、ほんの少し上がっただけでそれ以上は上げることが出来なかった。


 何が失敗なんだろうかと思索しながら、腕だけに魔力を集めてみたらどうだろうかと考え、早速実験してみた。

 体に使用していた魔力を肘から手先までに全て集めてみたら、ボクシンググローブみたいになっていた。不格好で仕方がないがこのままもう一度持ち上げてみた。

 すると今度は膝の高さまで持ち上げることが出来た。最初の重さが約七十キロ近くだとしたら、二回目は約五十キロぐらいに感じた。

 だが生来の負けず嫌いゆえに俺はまだまだ上手くできるだろうと考え、もっともっと魔法に慣れるために試行錯誤していく。




 一時間後。

 色々とやりたい放題していたため、全くと言っていいほど仕事が進んでいなかった。だがそのおかげという訳でもないが、身体強化の魔法がとても使いやすくなった。

 まず体に纏う魔力量がある一定までいくと無駄になることが分かった。つまりアホみたいに魔力を多く込めても無駄に消費してしまうだけで、意味が無いという訳だ。

 他にも魔力を腕にやれば筋力と耐久が、足にやれば体力と敏捷が、五感はそれに対応する部分に集めればそこが強化されることが分かった。

 まあ、まだまだ稚拙で素早く魔力を操作することが出来ないが、今後の目標が一つ増えた。


 そして、持ち上げるパワーを増やすために一番大事なことを発見した。

 それは体の内部である「筋肉」と「骨」にまで魔力を纏うことで飛躍的に効果が上昇したのだ。

 これをしながら動くことの難しさは、頭の上に壺を乗せながら手放し運転で自転車を漕ぐかのようだ。

 しかも俺の熟練度が低いせいで長時間維持することが難しい。

 無論これらの工夫を一度にすることによって、あの木材が簡単に持ち上げることができるようになった。

 体感重量で言えば十キロほどまでになるだろう。

 時間がもったいないので近いところからどんどん運んでいくことにした。



 

──☆──★──☆──



 

  ~時刻:午後五時頃~ ~場所:東地区 大工屋~


 今回の荷物運びの依頼人であるボッグは気難しい顔をしてイスに座っていた。それはユートと名乗った少年が一日じゃ不可能な量と重さのモノを、頼んだ本人でも出来ないのに今も一人で頑張っているのだ。


(さすがにあれはやりすぎたか……というより俺でもあんなの一人では無理だぞ……)


 そんなことを考えているとから近くから声が聞こえてくる。


「すいませーん! 依頼についてなんですけど」


(おっ、やっと帰ってきたようだな。だがやはり運ぶことは諦めたか……) 


 ボッグはそう結論付けるとイスから立ち上がり、声のした方へと向かって行くとつい先ほどまで考えていた青年が立っていた。


「おう、ユートだったな。今回の仕事は色々大変だったろう」


「あー、まあそうだな。結構厳しかったな」


「そうか……だが気を落とすことはないぞ。俺でもアレは一人では無理だからな」


「ん? どういう意味だ?」


「隠さなくていい。あの量にあの重さはたった一人でできるものではない」


 ボッグは一人そう納得していた。

 普通に考えて、できる訳がないと思い込んでいるからだ。

 だが実際は、(魔法を使って)不可能を可能にする男が目の前に存在することを知ることとなる。


「いや、何か勘違いしているようだけど、運び終えたからあんたに報告しに来たんだが……」


「そうだよな、やっぱり――っては? アレを運び終えただと……!?」


「お、おう、嘘ついてどうすんだよ」


 いきなり大きな声で驚かれて、逆にユートの方がビックリした。

 そもそもなぜこんなに驚いているのか、ユートは分からなかった。


「まあ、とりあえず、さっきの場所に行かないか?」


「…………そうだな。そっちの方が早いか」


 そうして、事実だと証明するため大量に置いてあった倉庫まで戻るのであった。




──☆──★──☆──




 あれから材量が大量に置かれてあった倉庫に行き何も無い所を見せたが、いまいち納得してもらえなかったので五か所全て回ると、やっと本当だということが認められた。

 それから店へ戻ってきた時間は六時をとうに過ぎていた頃だった。


「――それにしても、よくあんなの運ぶことができたな。どうやったのか教えてくれねえか?」


「構わないぞ。最初は身体強化の魔法だけで頑張っていたんだが、無理そうだったんである魔法を使ったんだ」


「ある魔法?」


 そこでボッグはある魔法について考えた。

 時間をかけずに物を楽に運ぶ方法……そんな特殊な状況で使われる魔法などボッグは一つしか知らなかった。


「それは……空間魔法か?」


 空間魔法……それは魔法の中でも難易度が特に高い魔法だ。

 そもそも一般的な魔法は火や水、風、土など初歩的なものが一番知られている。しかも身近に存在し、イメージしやすいものだ。

 それらとは反対に、空間という概念的でありながら目に見えないモノを魔法で操る場合、感じることすら難しく、ほとんどの魔法使いが使うことを諦めてしまうのだ。

 そのため、空間魔法を扱う者は数があまりにも少ない。


「その通りだ。正確にはまだ空間収納(アイテムボックス)だけしか使えないけどな」


 そう、最初からユートが考えていたアレとは空間魔法のことだった。




 遡ること2時間ほど前。

 材料の山が五つから三つになった頃、身体強化の魔法が維持できなくなってしまった。

 このままいけば初依頼が無残にも失敗になってしまう。

 そんなことはプライドの高いユートにとって、断じてならないことだった。

 つまり……形振なりふり構ってなどいられないのだ。


「仕方ない……諦めてアレ(・・)を使うしかないか……」


 俺はそう言って、諦めとともにある魔法を使う。


「はあ……空間収納アイテムボックス


 すると、目の前に見覚えのある渦を巻いたような黒いあなが出現する。

 それに向かって物を入れようとするが、よくよく考えたら重すぎて素の力では持てない。

 そして考えた末に「黒い孔を動かせばいいじゃない!」と思いつき、先ほど開いた孔を閉じて資材の下に新しいのを出現させると面白いように中に吸い込まれていった。

 ついでに魔法を発動するとき、わざわざ言葉にするのは想像力の強化と効果上昇があると本で知ったためだ。


 それらを何回か繰り返していくと全て空間収納に入れることが出来た。

 一度に全部入るとは思ってもみなかったが、入ること自体に文句などないので、ラッキーとでも考えておくことにする。

 いずれどれくらい入るのか調べなくてはならないが。

 そんなことを悠長に考えながら、残り三つの場所までゆったりとした足取りで運んで行くのだった。


 ~回想終了~




「……それだけって。お前はいつか大物になるかもしれんな。だがなるほど、そういう方法なら確かに可能だろうな」


「じゃあ、これで依頼は終わりでいいのか? 仕事はやっぱり大変だなー」


「あ~、それについてなんだが……」


 ボッグは真剣にやってくれた目の前の少年に、これ以上騙すようなことを続けるのは忍びないと考えて、真実を打ち明けた。


「………なるほど。だからあんなに驚いていたんだな。だけどまあ気にしなくていい」


 本当は文句を言われる覚悟だったが、ユートが簡単に許してくれたことにボッグは信じられなかった。

 客観的に見れば、初心者ルーキーに無理難題を言って依頼を失敗させようとしている初心者潰しのようにしか見えないからだ。


「何でそんな簡単に許してくれるんだ?」


「んー、まあ普通の人じゃ無理だから怒るかもしれないけど、結果的に成功して終わったからかな。でもなんでそんなことをしたんだ?」


「それはだな……半分は脅しみたいなもんなんだ。どいつもこいつも今まで来た奴はロクなもんじゃなかった。

 上から目線で『お前らの仕事を手伝ってやる』っていう顔してくる奴や、資材を蹴飛ばす奴までいやがった。

 だから、無理難題を目の前で見せてやれば少しは大人しくなるかと思ってやってみたんだが、これが面白いように上手くいった。

 それからは毎回仕事に来る奴に見せて、俺たちは遊んでるんじゃねえってことを示すためにやってたんだ。でもお前はそんな無茶をいとも簡単にやるって引き受けちまうもんだからな。何回もお前に聞いただろ? 『止めないのか?』って。そのせいで俺が引くに引けなくなった所で、まさかの運び終えたって報告が飛んできちまう」

 

 途中で何度止めさせようと思ったか、と言って苦笑いをしながらこちらを見てくる。

 何故か俺が悪いみたいになってしまっている。


「そういうことだったのか。でもあんなのを運ぶのは二度と嫌だからな!」


「ははっ、悪かったな。それとこれが依頼書だ」


 そう言って今回の依頼に関する報酬などが書かれている紙を渡してくる。


「おっと、これをギルドの受付に渡せばいいんだな?」


「そうだ。それと初依頼お疲れさん! もしなんかあったら俺に相談しろよ!」


「おう! それじゃあ、お疲れー!」


 依頼の成功に喜びながらギルドへ向かって行ったユート。

 その後姿うしろすがたを見て「よし、俺も気合を入れるか!」と喝を入れるとボッグは中へと戻っていった。


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