第16話 図書室で 2
*2017/4/27 一部加筆修正を行いました。
『魔法大辞典』の著者を“王立魔法研究所”から“魔術師ギルド”に変更しました。
*2017/7/8 一部誤字修正をしました。
一冊目の本を読み終えた俺は、二冊目の本を手に取った。この本は先ほどの本より断然きれいだった。まあ、さっきの本がボロボロ過ぎたんだけれど。
題名は『魔物大図鑑』とあるだけあって、結構分厚く5㎝程あった。著者は“グレイル・オーウェン”と書かれている。
表紙を捲ってみると“はじめに”と書き出しがあって、「ここに書いてある魔物が全てではありません」等と注意書みたいなのがあった。思わず笑ってしまったが、気を取り直してパラパラと捲って本の全体像を見てみた。
内容は種類別にあり、魔物と一括りに言っても多種多様にあることが窺えた。
魔物はゴブリンを始め、スライム、コボルト、オーク、オーガなどよく知られているものから、竜やグリフォン、ヒュドラなど物語に出るような伝説的な生物などについても説明が書かれていた。
しかもどこが素材になるのかなどや弱点、好物や習性なども書かれていて、とっても分かりやすい親切な本だった。
それと最後の方に、「新種の魔物を討伐、もしくは捕獲してきた場合、冒険者ギルドで魔物のランクに見合った報奨金を差し上げます」と記されていた。
いくらなんでも全ては覚えられないので、気になったものを読んでみたり、大体の傾向を掴んでから三冊目へと進む。
三冊目の本は『魔法大辞典』と言う題名で、魔道書とはこんな感じなんだろうと思うような装丁だった。
著者は“魔術師ギルド”と書いてある。
角は金属で補強され、触ったことの無い表紙の感触。異世界なのだから当たり前だが、見たことがないのでとても興味深い。
そんなことを考えながら、丁寧に本を開いていく。
この本は属性ごとに沢山の魔法の種類があり、一つの属性で約60種類近くはあるのではないかと驚くような豊富さで、属性は火、水、風、土、光、闇、無の七柱の神と同じ数だけでなく、氷、木、雷、影、血、神聖、空間、時間、重力の上位属性。
精霊、付与、死霊、結界、幻惑、召喚、契約の特殊属性で、基本7属性、応用16属性と計23種類もの魔法属性というものがあった。
まあ、後ろにいくほど魔法の種類は極端に下がっていく様だ。それに例外もあり、死霊魔法については、その効果が忌み嫌われているとの理由により書かれていなかった。
多分過去に色々合ったのだろうと邪推してしまった。
どっかの禁書庫とかにはありそうだけど。
また、精霊魔法は精霊と契約しなければ力を使えず、いない状態で使ったとしても生活魔法にも劣るレベルだとか。
だが、魔法については知らないことだらけなので、この機会に出来るだけ覚えるつもりだ。
そうして1時間ほどざっくりと見て覚えるのに疲れてきたところで止めて、次の本へと移った。
四冊目は『スキルとステータスについて』とそのままな感じで書かれた題名の本だった。著者は“ヘニング・ダーシュ”と書いてあった。
(この本には俺が知りたい情報がたくさんありそうだ)
そう感じながら本を開いて読み進んでいくと、色々と書いてあった。これはその一部である。
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「――ステータスとは神々が創りし理であり、己の存在がこの世界にいることを証明し、自らの力の“限界数値”を表すものである。」
「このステータスが存在しない生物は現在のところ一切確認されず、もしステータスが無い者がいたならば、それはこの世界に根付いていない“招かれざる存在”だと言えよう。」
「そして勘違いしているものがほとんどだが、ステータスに記されている数値は『ここまでの力を発揮できる』という目安であって、数値が高いだけがそのまま力に直結するわけではない。」
「しかもこれらの数値は『レベルを上げる』だけで上昇するため、そこに疑問を持たずに生を全うする人間が多い。」
「しかし、残念ながらその固定観念はもう古いものである。」
「我々が独自に調べたことによると、レベルを上げるだけでなく、しっかりとした修行することによって数値が上がることが確認された。」
「おそらくだが、上位の冒険者や騎士になるほど、このことは暗黙の了解として認知されていたのだろう。」
「だが、彼らのことは責めないで欲しい。彼らは己が力で肉体を、心を鍛えることによって知り得たことであり、我々もこの情報は世間へ知らせるべきでは無いのではないかと何ヶ月も議論になったほどだ。」
「しかし我らはこの情報を公開することに決めた。それは、強くなればなるほど、この情報は必然として知られていくからだ。簡単なことなのだ。弱いものは努力を怠り、他者の、世界のせいにする。自分はこんなに頑張っているのにふざけた奴らほど、どんどん上へとあがっていく。そして“理不尽なこんな世界など滅びてしまえ”と……。」
「確かに才能の差があるのは否定しない。現実にユニークスキルの存在やスキルの覚えやすさ、強くなる速度、レベルの上昇率など様々な所で垣間見られることだ。」
「だが、それだけが全てではなく、他にもやれることがあるのではないかと私は問いたい。」
「残念ながらこのいずれにも含まれず、努力しても能力が伸びない稀有な存在がいることも事実だ。そんな彼らも含めて、どんなことでも続けていけばいずれこの真理へと辿り着く信じている。」
「つまり、この本を読んでいる君たちには諦めるのではなく、立ち止まるのではなく、前へと進み続ける勇気を持ってもらいたいと私は伝えたい」
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「スキルとは己の能力を結晶化し、具現化して表したものである。」
「ステータス、並びにステータス上に現れる“スキル”というモノは、遥か昔、この世界が創造されたときに神々によって創られた恩恵とされている。」
「そしてスキルは知識や経験の集合体だと考えられている。例えば一番知られている『剣術』というスキルは、剣を縦横斜めに真っ直ぐ切ったり、薙いだりする。これが一つ目の知識である。」
「二つ目の経験は、相手と切り合う。つまり木剣なり真剣なりで打ち合い、躱し、弾き、斬る。
それらを繰り返し続けているうちに少しずつ技量が上がり、隙が小さくなっていく。
生きたものを斬れば、肉を切り裂く感触、力の入れ具合、必要最低限の振り下ろす剣の速度など、剣技というのはこれらの要素が集まり、混ざり合うことでスキル『剣術』へと昇華し、己が力となる。」
「スキルは魔物や魔法と同様に多種多様に存在している。魔物は進化し、魔法は変化し、スキルは昇華する。この様にこの世界はこれらの理が多く集まり、組合わさり、そしてこの世界を形作っている。」
「そのため今も尚スキル、魔物、魔法は新たなものを生み出され続けている。それは時代に適応するためだと私は考えている。
だが今は良いのだろうが、いずれこの適応する力が魔物だけとなったら、人類は滅びるかもしれない。弱者である人類に強者となった魔物は容赦なく牙を突き立てるだろう。」
「ならば我々人類は今この時だけでなく、未来にまで目を向けなければならない。己に慢心せず、ひたすら突き進み、未来を想像し続ければスキルという可能性が答えてくれるだろう。
人はそれを“ユニークスキル”と呼ぶ。」
「ユニークスキルとは、ユニークと名の付く通り、その人にしか持っていない、いや、持ちえないスキルの事だ。普通のスキルと段違いな性能、能力を誇り、持っている者のそのほとんどが、強者や偉人として今現在も名を馳せている。
無論、その力に胡座をかいて、犯罪者や盗賊となったものも少なからずいる。そのため、その強力な力を持っている人を忌避する傾向の者達がいるのもまた事実。
だが、今の時代はその者達の力によって創られたといっても過言ではないだろう。」
「ユニークスキルとはそれを為せる力を持っている。知られているものでは『鑑定』『魔眼』『限界突破』『再生』など大半の冒険者なら常識として、一般人や村人なら一度は聞いたことはあるくらいの知名度を誇っている。」
「そんなユニークスキルは先天的に取得している者も多く存在しているが、稀に後天的に得る者達がいる。
それは何か人とは違う経験をし、その時の感情によって得られると言うことが今のところ判明した事実である。それは恐怖や歓喜、絶望や希望、闘志、憤怒、喪失感など己を構成する感情が重要だということだ。」
「人は何かを失い、あるいは得ることで掴むものがあると言うことなのだろうか……。」
『スキルとステータスについて』
著者 ヘニング・ダーシュ
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この本を読み終えて、いくらかスキルとステータスについて理解を深めたが、どちらかというと哲学的な本だった。
まあ、面白かったから構わないが。
それにステータスが神によって創られたシステムだと仮定している話も信憑性があり、なおかつ独自の見解があって大変興味深かった。
この作者と会ってみたいものだ。
優人は椅子に深く腰掛け、天井を見上げながら静かに考えに沈んでいった。




