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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第四章 迷宮都市中編

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第103話 アッシュ


「――それでお前、なんか情報ないのか?」


「情報? 何の?」


「……さっき言っただろ。迷宮都市このまちについての動向とか、知ってるもんがあるならさっさと吐け!」


(デレた? ツンデレか?)


 冗談はさておき、少しくらいは心を開いてくれたようだ。

 それにしても――


「あんた、聞き方ゴロツキかよ……」


「はっ! 裏社会の野郎どもは基本、表には出て来ねえよ。奴等は領分ってのを弁えてんのさ。表で喧嘩売ろうなんてのは、捕まえてくださいと言ってるようなもんだ。むしろ、どっちつかずのチンピラの方が節操がねえっつの」


「そういうもんかね……まあ、情報って言ってもホントに大したことないけど――」


 ユートは最近オークションがあった事と、近々、複数クランが同盟アライアンスを組んでの百階層攻略の話があるというのを教えた。

 勿論、「オフレコで」と頼んだが、守ってくれるかどうかは定かではない。


(ま、この人、知り合い少なそうだし大丈夫でしょ)


 ユートが失礼な人物評価を下しつつ、時々疑問に答えていった。


「――へえ、そんなことがあるとは、俺がいない間に随分と色んな変化があったみたいだな。それに情報は確かにショボかったが、聞いた価値はあった」


「それどういう意味だよ、おじさん」


 折角、人が教えて上げたというのに食事も奢らず、一人で勝手に頼んで、勝手に食べてるし。

 俺もジュースでも頼もうっと。


「ふん、そのまんまだよ。というか、さっきからおじさんは止めろ。俺はまだ三十だぞ」


「……いや、三十は十分おじさんの範囲だと思うけど?」


「やかましい! 俺の事はアッシュと呼べ」


「アッシュね……カッコいいけど、随分顔には似合わないね」


(まあ、それは見た目だけであって、心の方は灰のように、魂を燃やし続けてるみたいだけど……)


 普通に会話しているが、目の奥に命をかけてもやり遂げるという揺るがない信念のようなものを感じ取った。

 復讐を止めるつもりは欠片もないけど、誰が言っても止まることはないだろう。


「失礼なガキだな。あと“さん”をつけろ。……それでお前は? ガキでいいのか?」


「俺はユート。最近十八になった、らしい」


 この前、ステータスを見たら、いつの間にか十八になっていた。

 たまに忘れかけるが、この世界の暦は十ヶ月かつ、一月ひとつきは四十日だ。

 何が言いたいのかと言うと、いつが誕生日か全く分からん。

 一応、二月二十九日が誕生日だから、年の始まりを基準にすれば、この世界では二月二十日が誕生日になる。

 しかし、元の世界は365日だが、この世界は400日だ。

 単純計算であっちで十年経てば、こっちは十一年になる訳だ。

 まあ、年齢なんて気にしてないから、うん、あまり関係無いな!


「なんだよ、らしいって。まあいい。じゃあ、ガキでいいな」


「おい、一応名乗ったでしょ」


 名乗らせた意味は?


「なんか言いにくいから却下」


「そんな馬鹿な……」


 なんだその理由。名前を呼びたくないだけだろ。


「う~ん、小僧、坊主、ジャリガキ……うん、やっぱりガキでいいな!」


「……はぁ、もうそれでいいよ」


 ユートは溜息を吐きながら、諦めた。

 アッシュは意地悪な笑みを浮かべて、楽しそうに眺める。


「そんじゃ、俺はもう行く。これで良いモンでも食いな」


「あ、ちょっと!」


 アッシュは小銀貨三枚を放ると、ひらひらと手を振り、ギルドを出て行った。




 ──☆──★──☆──




 白磁の塔、内部。


「――そんで、なんでお前もついて来てんだ!?」


 アッシュは体をプルプル震わせながら訊ねてくる。

 ユートはアッシュがどこかに行こうとしたので、暇潰し――もとい手助け(?)のために堂々と後をつけた。

 当然、アッシュも気付いていたのだろうが、白磁の塔に入るまで知らないフリをされ、明確にダンジョンに入った後につっこんできた。


「え? ついて来ちゃダメなんて言われてないですけど?」


「そういう事じゃねえよ! 普通、あの言葉で分かるだろ! ついてくんなって意思表示だったろうが!」


「ごめんなさーい、ちゃんと言葉にされないと僕、分かんないんですぅ」


 テヘテヘ、と照れた顔をしながら、後ろ手で頭を押さえる。

 それを見たアッシュは一瞬、真顔になったもののすぐに顔を真っ赤にした。


「……お前、馬鹿にしてんのか!? 大体、金渡しただろうが。それはどうしたんだよ」


「あ、それならちゃんと懐に……」


 両手で重ねて胸を押さえながら、慈愛の表情を浮かべる。


「なに勝手に自分のモノにしてんだ! 使わねえなら返せよ!」


 胸倉を掴み、内ポケットをまさぐろうとする。

 ユートは体をねじりながら、それを阻止する。


「渡したものをいまさら返せなんて、恥ずかしくないんですか!?」


「お前の方が図々しいだろうが!? 百歩譲って、全部使うならまだしも、全額懐に入れた奴なんて初めて見たわ!! それだけありゃ、一日持つっての!」


「しょうがないでしょ! 朝食もう食ったし、腹いっぱいなんだよ!」


「逆ギレしてんじゃねえよ! ……というか、なんでお前ついて来てんだよ」


 深いため息を吐きながら、アッシュが問いかけてくる。

 真面目な雰囲気になったので、ユートもそれに合わせて真剣な顔をして言った。


「なんとなくです」


「……お前、真面目に答える気ないだろ。俺はここに遊びに来てんじゃねえんだぞ」


 ギロリと睨みつけてくる。

 その視線を意に介さず、毅然と答える。


「それは重々承知ですよ。別にお荷物になるつもりはありませんし、話し相手がいないと暇でしょ?」


「誰目線でモノ言ってんだ、お前は……。まあいい、邪魔だけはすんなよ」


「どういうのが邪魔って言うんですか?」


そういう(・・・・)面倒くさいのだ」


 そうしてアッシュがあしらい、ユートがへこたれずについていく。

 二人は横に並んで会話しながら、仲良くダンジョンを進んでいった。

 入口から十階層まで隅々を見回り、視界に入れた魔物は全て蹴散らすこと数時間。


 十階層にある行き止まりの通路でアッシュが罠を踏み、数え切れない程の魔物が現れた。

 魔法陣のようなモノからゴブリン、スライム、ラット、スケルトンなどの見知った魔物から、木で出来たマネキンや二足歩行の犬顔の魔物など、複数の敵がいる。


 いわゆる、罠を踏んだ冒険者を仕留める、モンスターハウスという奴だ。


 それに驚いたユートも振り向いた時に罠を踏み、大音量の警告音がフロア中に流れる。

 同じ階にいた魔物が流れるように二人の元へと集まってくる。


「――おい、何してんだお前! 収拾つかなくなっただろうが!?」


「俺だけのせいにするなよ! 大体、最初に罠踏んだのはアンタの方だろうが! それにアンタの方がが高いだろ! ほら、今だってオークが出て来たぞ!?」


 この場にいる魔物はどれも雑魚と言っても差し支えないが、オークだけこの階には不似合いの魔物だった。


「オークなんてただの雑魚だろうが! この階にいた魔物、全部呼び出したお前よりマシだ!! 俺が質なら、お前は量だろ!」


 魔法陣から二十体以上の魔物が出てきたが、次第に召喚のスピードが衰えていく。

 それに対して、たった一つしかない出入り口には三十体以上もの魔物が、ひしめきあいになりながらまだまだ集まってきていた。


 そろそろ六十近くになる魔物を前に、二人は罪のなすり合いをしながら何だかんだで倒していく。

 その動きには微塵も迷いはない。

 何故なら、この程度の魔物ならユート一人でも問題なく対処できるものなので、二人とも慌てることなくただひたすらに戦っていった。


「――そういやお前、魔法剣使えんだな」


 あれだけ大量にいた魔物を倒したというのに、アッシュは少しも息を乱さず、剣の血糊を拭っている。

 ユートは辺り一面が血溜まりの中で、出来るだけ汚れてない所を選び、壁にもたれかかるが、そんなユートを他所に、アッシュは自由に話し掛けてくる。


「魔法剣? ああ、もしかして剣に属性付ける奴の事ですか?」


 手に持っていた剣に、先程戦闘で使っていた魔法を纏わせる技法をやってみせる。


「そうだが、お前……知らずに使ってたのか? いや、自分で考えたのか」


「まあ、そこまで難しい事じゃないですよね。だって、魔法を剣に纏わせるだけなんですから、魔法が使えるなら誰でも出来るんじゃないですか?」


「いやまあ、そりゃそうだけどよ……そんな簡単なもんじゃないだろ」


「むしろ、アッシュがやってた、剣を光らせる奴の方が気になるんだけど、あれ何なの? あれやると切れ味上がるとか?」


「……そうだよ。これは剣につけた付与魔法の一種だ」


 剣を翳しながら見せてくる。


「へえ~。あっ、じゃあ、付与魔法使えるの?」


「いや、俺は使えねえ。これは知り合いにつけてもらったもんだ。それを魔力でスイッチみたいに切り換えながら使ってるんだよ」


「なら、それは魔剣なの?」


「魔剣はもっとこう、仕組みからして違う。これはいいとこ、付与付き魔法剣ってところだ」


「ながっ、それにダサい」


「やかましい!」


「じゃあ、ずっと気になってたんだけど、魔法剣と魔剣の違いって何なの?」


「魔法剣っつーのはなんだ。魔法で効果がついてるもんを指す。こいつとかお前の一時的な奴の事だ。反対に魔剣つーつの、それ自体が魔法で出来たような自然的なもんなんだよ。地割れ起こしたり、スキルみたいに効果があるもんの事だ。というか、知りたきゃ本でも読め」


 なんだかんだ聞いたことについて教えてくれるので、素は優しいのだろう。


「だって本に書いてなかったし」


「知るか。というか、さっきからお前、何してんだ……?


「ん? いや、これをすると武器が成長するんだって」


 ユートは【指斬】を手に、魔物の心臓に剣を突き立てていく。

 ある程度の深さに到達すると、パキリという音がなり、魔物が灰のように消滅していく。


「なんだそれ……英雄譚にでも憧れてんのか?」


 アッシュは呆れた表情をしながら、ユートが手に持つ紫がかった剣を視界に入れる。


(なんだか見覚えのある剣だな……)


 そうして思い出しかけた時、頭痛と共に嫌な記憶が蘇って来た。


「――ぐッ! どうしてお前が、それを……!?」


「え? どうかしたんですか?」


 ユートが振り向くと、アッシュが頭を抱えながら苦しみ始めた。


「――――答えろッ!! どうしてお前が、アイツと同じ剣を持っているんだッ!!?」


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