第102話 人間関係は難しい
かねてから考えてましたが、百話を超えたので感想・評価についてのお願いをあとがきに記載していきます。
少々鬱陶しいかもしれませんが、何卒よろしくお願いします。|ω・)(*_ _)
翌日。
初めてアイゼンと喧嘩をしたが、気分に何の変化も無かった。
言い負かして勝ったという気分でもなければ、この手を汚した事への不快感も無い。
ただ、変わり映えの無い日が少し変わると良いなと思った。
一階に降りて、裏庭に出る。
踏み固められた地面と端には井戸がポツンとあり、広々としている。
他の宿屋もそうだが、この世界の庭はとても広く、走り回れるくらいのスペースがある。
周囲は柵で囲われ、外からは見えない様になっており、唯一、跳ね上げ式の窓から庭が見下ろせる。
ユートはストレッチから始まり、腕立て、腹筋、スクワットなどの筋トレを行ってから、街の外周を走り出した。
三十分近くかけて一周を走り終えると、ここからが本番だ。
汗腺から汗が滲み出ている状態で、剣を振るう。
百回素振りが終われば、十分ほど休憩をしつつ魔力を練る。
迷宮都市に来てからこのルーチンワークは、欠かすことなく続けている。
体の中にある魔力を、息を吸うと同時に流動させて手足に流す。
そして息を吐く時には、手足に流した魔力を心臓に集める。
これを素早く行う事によって、魔力操作を高めると同時にいつでも戦闘態勢に入れるよう鍛えている。
まあ、魔法使いの知り合いはいないので、自己流でしかないが。
そうして、素振りの三セット半ばで腕が上がらなくなったので終了する。
自分に向けて水を生み出し、シャワーの要領で頭から浴びる。
服を着たままびしょ濡れになるが、これも魔法修練。
緻密な魔力制御と水魔法の合わせ技で濡れた服から水分を抜き取っていく。
最初は季節外れの雨に降られて、乾かすよりも水分を抜き取った方が傷みにくいかなと考えて始めた。
やってみたら意外にも難しく、繊細な魔力操作能力が要求されるので、暇があれば行うようにしている。
特に生地が厚いものほど難易度が高く、表面上の水分は抜けても内側がまだ残っている事があるので、修行に最適だ。
それにこれを始めてからというもの、【魔力操作】が目に見えて上達した実感があった。
さらに、探知の指輪と空間認識で肉体を立体として知覚しながら行うと、修行の効率が上がる、気がする。
「……ぐっ、頭が……【洗浄】」
脳が幾つもの処理を行おうとして過負荷が掛かり、頭痛が起きる。
そのシグナルが出たら無理せず終了する。
遊ぶのも良いが、日常生活に支障をきたしては本末転倒だ。
最後に【洗浄】を掛けておけば、あら不思議、濡れた衣服も元通りって訳だ。
【洗浄】の魔法も不思議なもので、それが服に付いた食べ物の染みや砂埃、そして目に見えない水滴であっても、汚れと判断されるものはすべて消える。
質量保存の法則はどこ行ったんだろうか……?
左人差し指に【探知の指輪】、右小指に【指斬】があることを確認し【宵闇のコート】を纏う。
「……よし、準備万端だ」
ブーツの紐を結んで息を吐くと、食堂に向かった。
──☆──★──☆──
いつも通り、食堂で朝食を摂っていると、アギトが下りて来た。
「おはよう」
「……うむ」
何だか距離を感じるが、しょうがないと言えばしょうがないかもしれない。
言わなくていい事を言った自覚はあるが、舐められ続けるのも癪だ。
だから、舐められた時の対応は至極簡単だ。
相手に「こいつを舐めると痛い目を見る」と思わせる事。
これも一種の処世術と言えるかもしれない。
そうして会話も無いまま食事に進んでいくと、今度はノーナもやって来た。
「おはよう」
「あ、うん、おはよう」
こちらは一見何とも無さそうに見えて、その実、距離感を図りかねていると言ったところか。
(何でこんなに人間関係って奴は面倒くさいんだ……)
朝からいらぬストレスに苛まれる。
ノーナが来ても無言の食事に変化はなかった、
結局、朝食を摂り終わってもアイゼンが来ることはなかった。
(誰も喋ろうとしない……)
アギトの顔を見るが石像みたいに変化はなく、ノーナは居心地悪そうに座っている。
(俺に遠慮しているみたいでムカつくな)
「――なあ」
「な、何?」
「どうした?」
二人とも挙動不審だし、いつもより反応が早い。
隠すんならもう少し上手く、取り繕ってくれ……。
「あいつがどこに行ったか知ってるか?」
「あ、あいつ?」
今この状況であいつと言ったら一人しかいない。
「……アイゼンだよ。二人とも何か知らないのか?」
「……うむ。言い出せなかったのだが、我の部屋の前にこんなものがあった」
アギトが見える様に紙を置いた。
そこには、これから一週間、ダンジョンに一緒に潜れないため、パーティーを抜ける事が書かれており、さらに百階層攻略についても話を受ける前提で進めておくと書かれていた。
「……あの野郎」
そういう大事な事は事前に言えよ。
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ!」
ノーナが慌てている。
別に、いちいちこんなので怒ったりしないっつーの。
「俺は落ち着いてるよ。むしろ、お前の方が落ち着け。……チッ、それなら、ここで待ってる意味もねえじゃねえか。
――おい、二人とも。今日から一週間、各自、自由行動な。そんじゃ俺はもう行くから」
全員分の金を置き、宿を出る。
「あ、ちょっと!? ……もうっ、なんなのよっ」
「このまま解散しなければいいのだが……」
アギトの不吉な言葉は誰も反応することなく、宙へ溶けていった。
──☆──★──☆──
「……あー、暇だ……」
調子に乗って出て来たのはいいが、何かを行う気力が沸かない。
ギルドのテーブルで、ぐでーっと顔をつける。
木製の机が空気によって冷やされて、ヒヤリと冷たい。
ギルドは朝から色々な人で溢れており、人の出入りが激しい。
そのせいか俺に気付くと、チラリと変な目で見られる事があるものの、近寄られることなくすぐに興味を無くしてどこかに消える。
俺のような奴がいるからか、おかげで誰も周囲に座ることなく、一人で快適に過ごしている。
そんな風に、ただボーっと時間を過ごしていると、突然誰かが座った。
近付いてきた奴の顔を見上げると、横向きに座った男と運悪く目線があった。
「なんだてめぇ」
ざっくばらんの短髪に、カミソリのような雰囲気。
ダークグリーンの瞳がギロリと見下ろしながら、睨んでくる。
“なんだてめえ”はこっちのセリフなんだが。
「おい、何見てんだよ」
目線を逸らしたら負けだと思い、じっと見つめ返す。
「喧嘩売ってんのか」
見つめ返す。
「なんとか言えや、コラ!」
キレられた。
大きな声を出すから周りで何事かと見られるじゃないか。
「俺はしーらない」と他人のフリをすると、どこからか話し声が聞こえてくる。
「……あの男……見た……?」
「……じゃ……か?」
目を閉じながら探知の指輪を使い、周囲を探る。
生活魔法の【聞き耳】を使用し、雑音から特定の音のみを拾い分ける。
いわゆる盗聴専用の魔法と言っても過言では無い。
すると、離れたところにいた男たちの会話を拾った。
どうやら三人の男たちが会話をしているようだ。
ちょっと聞いてみよう。
「――おい、やっぱりあいつ“狂人アッシュ”だ」
「うわっ、マジかよあいつ、生きてたのか……」
「え、狂人? なんだそれ?」
「ああ、お前、最近この町に来たばかりだもんな。そりゃ知らねえか。まあ、どこにでもある話さ。ダンジョンで刺客に襲われて目の前で仲間を皆殺し。偶然通りかかった他の冒険者のお陰で、運悪く一人だけ生き残っちまったんだよ。それで復讐するために毎日ダンジョンに潜って探し回ってたから、ついたあだ名が【狂人】って訳だ。この半年めっきり見かけなかったけど、どうやら生きてたらしい」
「へー」
興が乗って来たのか、もう一人の男も流暢に喋り出す。
「ついでに、同族殺しの奴にもあだ名がついててな。“マーダー”とか“シャドーマン”、“死の狩人”って名前があるんだが、俺のおすすめは“クラウド”だ」
「いや、どっちかというと俺は死の狩人の方が……」
「そんなのどっちでもいいわ! ……それよりマーダーは殺人鬼で、死の狩人はそのまんま、シャドーマンに至っては魔物の名前じゃねえか! 適当に付けただろ。というか、最後のなんだそれ」
「なんでも、黒い外套に仮面をしてて、二刀を操る達人らしい。それに噂じゃ、殺す理由がアイテム狙いなんだと。人殺しに黒づくめ、そしてコレクターだから、喰人ってわけだ」
「ただのシャレかよ……」
「ハハッ、そんなもんさ。賞金首に掛けられた相手だ。精々、ダンジョンで鉢会わない事を祈るんだな。……げっ、狂人がこっち見てる!? 逃げるぞ!」
「ちょ、待てよ!?」
「俺をおいていくな!」
男たちは目の前の男に睨まれると、大慌てでギルドから出て行った。
俺は使用していた魔法を止めると、むくりと顔を上げる。
「……おじさん。強いんだね」
今聞いた情報から、ふと、意識せずに呟く。
「ああ゛? いきなりなんだお前?」
狂人と呼ばれた男はこちらを振り向き、その名に違わず噛みついてくる。
「いや、ただの……独り言?」
珍しく自分から話し掛けてしまったので、何と返すべきか迷う。
そのせいで変な答えになってしまったが、目の前の男は気にしなかった。
「はっ、一人で勝手にやってろ、ガキ」
「口悪いね。朝からご機嫌斜めな事でもあった?」
「俺に話し掛けてくんじゃねえ」
「分かったよ。……あーあ、暇だなー、なんか良い事ないかな」
「うるせえな!? ぶっ飛ばされてえのかッ」
望み通り、独り言を言っていたら怒られた。解せぬ。
男はゴトッという音を出して威嚇しながら、テーブルに肘をつく。
妙な違和感を感じつつ、黒い手袋をした左手が視界に入る。
直後、全身を覆っていたマントがふわりと揺れると、手袋から覗く銀腕が見えた。
「――ふ~ん、おじさん、義手してるんだね」
「……チッ、目敏いガキだ。誰にも言わずに黙ってろよ」
男は何事も無かったかのようにマントで腕を隠す。
「まあ、別に言いふらす趣味は無いからいいけど、隙あり過ぎじゃない?」
「フンッ、余計なお世話だよ。そういうお前こそ、若いんだからさっさと依頼でも受けに行けよ」
「昨日、ちょっと色々あって調子が出ないんだよねー。それとも、おじさんが話でも聞いてくれる?」
「知るか。自分で何とかしな。俺は忙しいんだ」
「えー、それは情報収集? それとも――復讐が?」
ガタッと音を立てて椅子が動く。
立ち上がった男は上から睨みつけて来た。
「テメェ……何を知ってやがる」
その反応じゃ、さっきの男たちを睨んだのはもしかして勘か。
「いや、さっきアンタらしき噂話が聞こえてね。もしかして、アンタも【復讐者】なのかなって」
「チッ、さっきの奴等か。……おい、いま“俺も”って言ったが、それはどういう意味だ」
「ん? ああ、俺の知り合いに今言った称号を持ってる奴がいてね。そいつもアンタと似たような目をしていたから、そうなのかなって勝手に思っただけ」
ダラムの町で会ったあいつも、今頃どこかで旅をしているだろう。
案外、迷宮都市ですれ違ってたりしてな。
……元気にしているだろうか、フェリシアの奴。
「――くそっ、俺にカマかけやがったな!」
ドスンと椅子に座りながら、男は悪態をつく。
「別にカマかけた訳じゃないけどね。むしろ、アンタについての情報が出回ってる時点で、周りにいる全ての人間がアンタの敵になり得るって考えるべきじゃない?」
「……チッ、今度は説教か、いいご身分だな。復讐を止めろとでも言いてえのか? それとも同情か?」
「ははっ。いや、別に他人事だから、止めろとも可哀想とも思わないけど?」
「は? じゃあ、さっきから何で話しかけてくんだよ」
「……強いて言えば、応援、かな? アンタが頑張ってくれれば、世の中からクズが消える。なら、アンタの事を止めるより、頑張ってほしいと思うのは、別におかしくないでしょ? 役に立つ情報があれば積極的に教えていくつもりだしね」
「残念ながら、ほとんど情報はないんだけど」とあざとく笑う。
「……はっ、なんだそりゃ。やってることは高みの見物と変わりゃしねえじゃねえか」
「それでも邪魔をするより、背中を押すタイプだからマシじゃない?」
「……ふん、変な奴だぜ」
「おじさんの二つ名よりマシだけどね」
狂人は流石にないわ。
「余計なお世話だ、ボケ!」
いつも「ヘレティックワンダー」を読んでくださり、ありがとうございます。
本作品を100話まで続けられましたのは皆様のお陰です。(*´∇`*)
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