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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第四章 迷宮都市中編
100/105

第100話 初めての■■

ちょっぴり長い。

同時に100話達成!


「ああ、満足したよ。みんな待たせたね。じゃあ、先に進もうか」


 その言葉を合図に俺達はダンジョンの奥へと進んだ。

 それから何度か魔物と戦い、数時間後に二十階層に辿りついた。

 目の前にはお馴染みの金属の扉が道を塞いでいる。


(十階層のボス部屋はトロールだったけど、この先は何だ?)


「――さて、ここからはボス部屋だけど、今日は趣向を変えよう」


「なんだ突然?」


 アイゼンがいきなり妙な事を言い出した。


「今までと違って、今日は言葉が通じる彼がいるだろう? これから百階層を潜るにあたって、連携を強化したいんだ」


 そう言って、アイゼンはアギトが身に着けてる腕輪を見た。


「そういうこと。じゃあ、俺はまた指揮だけ執ってればいいのか?」


 これまでは俺がパーティーリーダーという関係上、戦闘を控えて指揮を執っていたが、アギトに指示が出せるのなら本格的に魔法と指揮のみが仕事になるかもしれない。

 そう思い、アイゼンに問いかけた。


「いや、五十階層より先は指揮と戦闘なんていちいち分けていられない。だから極力魔法は使わずに、むしろ抑えながら剣のみで戦闘して欲しい」


「えー……まあ何とかしてみるよ」


 魔法は俺が戦う上での要だ。

 どんな時でも魔法があるから無茶できたし、調子に乗ってこれた。

 だから、一人の時なら積極的に武器で戦ってたが、パーティーでの戦闘に入り込むのは実力差があり過ぎるので魔法に専念していた。

 そのため、魔法を使わずに戦う事は無理ではないが、足手まといになるのではないかという不安があった。


「そんなに心配しなくていいよ。ある程度は頑張ってもらうけど、危なくなったら援護はするから」


「分かったよ」


 アイゼンが言いたいこともおおよそ理解していた。

 自分で言うのもなんだが、この中で一番攻撃力があるのがおそらく俺だ。

 そんな俺が魔法をバカスカ使う事で、もしもの時に魔力枯渇になる、なんていう可能性を消すために魔法を使わせないのだろう。

 それに、魔力を温存しておけば継戦能力が上がるし、俺だけに頼っていたら危機感が無くなってしまう。


 どの道、武器戦闘に集中していかなきゃいけない時期だと思っていた。

 なので渡りに船なのだが、もう一人、心配そうな顔をしている奴がいた。


「もしかして、私も……?」


「もちろん、これまで以上に君にも頑張ってもらうよ」


「うう、厳しいのは師匠だけで十分だっての」


 時々、ノーナの口から出てくる師匠という言葉が気になるが、まあいい。


「アギトはどうするんだ?」


「うむ。我は何をすればいい?」


「君には自由に動いてもらう。最初は俺が指揮を執るが、その後は君が指揮を執るんだ」


 アイゼンは皆を見回しながら、最後に俺を指差した。


「は? 俺が? なんかの冗談か?」


「俺が冗談を言わない事は知ってるでしょ? もちろん、これも冗談じゃない」


「おいおい、そのままお前が指揮を執ればいいだろう? どうして俺が代わるんだよ」


「いや、俺が指揮を執るなんて性に合わないでしょ? それに君の方が視野が広いし、これまでずっと君がやってきたのに、指揮が変わると受ける側も混乱してしまう。それは好ましくない」


「じゃあ、結局俺が指揮やるんじゃねえか」


「確かにそうだね。まあ細かい事は気にしなくていいじゃないか。細かさよりも、時には寛容さも必要だよ?」


「……お前、いつか絶対ぶん殴ってやるからな」


「おお、怖い怖い。じゃあ、早速行こうか」


 アイゼンは大袈裟に反応すると、逃げるようにボス部屋の扉を開けた。

 みな、武器を手に持ち構える。

 キィィという音を立てて扉が開いていく。


「行くよ!」


「おう!」


「ええ!」


「うむ!」


 各々返事をして走り出す。

 中にいたのは――


「人狼か!?」


「……まあ、間違っちゃいないけど、ライカンスロープだね」


「お、おお……なんかスマン」


 目の前にいたのは狼が二足歩行の姿をした魔物だった。

 身体中は茶色い毛で覆われ、その体には一切身に着けておらず、赤い瞳と長い犬歯、そして鋭く尖った爪が特徴的だった。

 そんなライカンスロープがこちらを見た瞬間、勢いよく向かってくる。


「ちょっとふざけてないで、こっち来たわよ!?」


「アギト! そのまま後ろに受け流すんだ!」


「承知!」


 アイゼンが簡潔に指示を出す。

 アギトは言葉を話せることが嬉しいのか妙に張り切り、機敏な動きでライカンスロープの前に出ると、力に逆らわずに後ろに受け流した。

 アギトをすり抜ける様にライカンスロープがたたらを踏む。


「体勢が崩れた! 今がチャンスだ!」


「よし!」


 ユートは剣を手にし、生物の急所である首を狙う。

 振り下ろした攻撃は真っ直ぐに首を斬り落とす軌道だ。

 よし!と思った束の間、ライカンスロープはしゃがんで躱すと、爪による下からの斬り上げをしてきた。


「ぐっ!?」


「ちょっと!?」


 予想外の動きに攻撃を避けられず、革鎧が切り裂かれる。

 後ろに押され、怯んだところを狙われるが、ノーナとアイゼンの援護で追撃を免れる。

 ライカンスロープはバックステップで距離をあけ、余裕そうにこちらを窺う。


「貴様ッ!」


 アギトは怒りながら剣を手に走ろうとする。

 それをアイゼンが止めた。


「待つんだ」


「何故止めるのだ! クッ、こんなことであれば最初に首を切り落としておけば……!」


「彼は怪我をしてないよ」


「刻んで……今なんと?」


「――アギト、俺は大丈夫だ」


「ユート!」


 ノーナが体を支えようとしてくるが、それを手で抑えながら自力で立ち上がる。

 大丈夫な証拠を見せるために、斬り裂かれた胸を押さえつつも、ゆっくりと手を外していく。


「この通り、怪我はしてない。嬉しいけど、少し落ち着け」


「む……」


 アギトは俺が怪我をしてないと理解したのか、怒りを消していった。


「――さ、アギトも落ち着いたみたいだし、反省会は後にして仕切り直しだ」


「ああ……」


 アイゼンが雰囲気を入れ替えようとする。

 俺も忸怩たる思いはあったものの、不要な感情は無理矢理押し殺しておく。


「じゃあ、指揮を頼むよ」


「……わかった」


「――一つだけヒントを言うなら、攻撃は途切れさせない事だよ」


「え……?」


 そう言葉を呟くと、アイゼンは一人で戦いに行った。

 そこにアギトも加わっていく。


「ほら、早く指示出しなさいよ。アンタが指示出さないと何したらいいか分からないでしょ」


 ノーナが短剣片手に腕を組んでいる。

 もしかして、慰めてるつもりか?


「……まったく、言ってることとやってることが違い過ぎるんだよ。サボってないで行くぞ」


「ふん。戦闘は嫌いなのよ」


 俺は戦っているアギトとアイゼンに近づき、二人を呼び掛けた。


「アギト! アイゼン! そのまま、こっちに誘い込んでくれ!」


「承知!」


「やってみるよ」


 二人とライカンスロープの剣戟が増していく。

 どの攻撃も一撃で仕留めるのではなく、腕や足を狙い、小さな傷を負わせていっている。

 堪らなくなったライカンスロープは跳び跳ねるように退避するが、そこにノーナの投げナイフが放たれる。

 空中で避けることも出来ず腕や体に刺さると、ライカンスロープはノーナを睨み付ける。


「ガァァァ!!」


 ライカンスロープが苛立ちながら、疾走してくる。


「ちょっと! ホントにこのままで大丈夫なの!?」


「言ったとおりにしろ」


「くっ、これで死んだら恨むからね!」


 彼我の距離が二十メートルを切った時、ノーナが再びナイフを投げた。

 ナイフはライカンスロープによって避けたり、叩き落とされる。

 ライカンスロープが迫りくる中、ナイフよりも大きい短剣が飛んでいく。

 心臓に当たると思ったその時、ライカンスロープは視界から消えた。


「上だ!」


 アイゼンの声が聞こえる。

 しかし――


「そう来ると思ってたよ!」


 頭上から迫りくるライカンスロープに斧槍を掲げた。

 ライカンスロープは空中で身じろぎして斧槍から逃れようとするが、その大きな隙目掛けて斧槍をぶん投げた。

 ライカンスロープは防ぐことが出来ずに土手っ腹に突き刺さりながら地面に落ちる。

 衝撃に身もだえしながら立ち上がろうとする所を剣で止めを刺した。


「よし。これでさっきの借りは返したぜ……」


 息を吐きながら誰に言うでもなくこぼす。


「お疲れ。まさかそんなものまで持っていたとはね。それにハルバードを投げるとは思わなかったよ」


「確かにな。しかし、隙を突いた良い攻撃だったぞ」


 アギトとアイゼンが近寄ってくるが、どちらも大して疲れたようには見えない。


「ありがとな。何とか倒せたけど、やっぱ魔法無しは難しいな」


「ま、その調子で頑張ってよね!」


 後ろから背中を叩かれる。


「むしろお前の方こそ、もうちょっと頑張れよな」


「私は良いの! むしろ、私が暇なくらいがちょうどいいのよ」


「まったく、屁理屈こねやがって……」


 後ろでふんぞり返ってるノーナに文句を垂れる。

 それをアギトが笑い、アイゼンは興味深そうに見ている。


「――それじゃ、恒例の宝箱ターイム!」


 ノーナは我先にと出現した宝箱へ向かっていく。

 俺達三人はいつも通り、後ろをついていった。




 ──☆──★──☆──




「――ハァ……まさか、宝箱の中身があれだけなんて、信じらんない」


「おい、いつまで文句言ってんだよ」


「当然でしょ! だってほんの少しの硬貨とたった一つの魔道具よ!? もっといっぱいあると思うじゃない!」


 あれから二十五階層まで行き、とある小部屋で宝箱を見つけた。

 宝箱を開けると強制的に音が鳴るモンスタートラップという奴で、ニ十体以上の魔物と戦う羽目になった。

 流石に魔法が無いと危なかったので、ところどころ弱めの魔法を使い勝利したのだが、肝心の宝箱はショボいモノしかなかった。

 ノーナはよほど許せなかったのか、帰り道の際中に愚痴を吐き続けていた。


「【ファイアロッド】だろ? 確かに効果はショボいけど、そんな時もあるだろ」


 短杖型の魔道具で、柄尻に火の魔石というものが嵌めこまれているらしく、魔力を通すと火の魔法を放てるようになるらしい。

 ちなみに、魔石が壊れたら付け替え可能なので、半永久的に使用可能だそうだ。

 まあ、【炎の投槍(ファイアージャベリン)】を一、二回撃てるくらいの耐久度しかないらしいけど。


「ハッ! あんなガラクタで一々喜んでるからアンタはまだまだなのよ。もっと夢を大きく持ちなさい。【神金オリハルコン】とか【転移の指輪】とか、有名なモノなんて世の中無数にあるのよ!?」


「そんなアーティファクトレベルのものが、こんな低階層でゴロゴロ落ちても困るけどね」


 なんだそれ、と言おうと思ったら、アイゼンが代わりに答えた。


「だからこそ、夢があるんじゃない! 一つ得られるだけで億万長者の仲間入りよ!?」


「ちなみに、どれくらい貴重なものなんだ?」


 【神金オリハルコン】はその語感から想像がつくが、【転移の指輪】は基準が無いので測りようがない。

 転移と書いてあるくらいだし、ダンジョンから転移するのか、それとも好きな場所に転移できるのだろうか?


「アンタ、マジで言ってんの? 【神金オリハルコン】は鉱石の中でトップクラスに有名じゃない! 上位冒険者の武器には大体、【神金オリハルコン】が使われてるのよ!

 【転移の指輪】だって耐久度があるけど、一度行った場所に移動できる超優れモノなんだから!! 私も一つでいいから欲しい―!」


 Aランク以上の上位冒険者はみんな【神金オリハルコン】を使用しているのか。

 アギトも強さへの貪欲さからか、興味深そうに聞いている。


「でも、手に入れるには深層レベルの規模じゃないと、流石に難しいだろうね」


「深層って百二十五階層以下のダンジョンだろ? そんな大きなダンジョンって白磁の塔以外にもあるのか?」


「まあ、有名どころでは【水晶宮殿クリスタル・パレス】の二百五十階層、【煉獄】の三百階層越えとか色々あるけど、どれも他の国に行かないと入れないね。それに大規模迷宮は入るのにも条件がいるから」


「条件?」


「そうだよ。一番シンプルなのでランク制限とか、ところによっては住民証とかレベルによる上限も設けているらしい。だから、入るだけでも一苦労って訳。まあ、そういう迷宮は冒険者にも嫌厭けんえんされてるから、もっぱら自国の騎士育成専用のダンジョンにされてるけどね」


「なんだそれ、ダンジョンを占有とか随分自分勝手なんだな」


「貴族とか王族っていうのは大体そういうものさ。自分たちの利益さえよければいいんだろ」


 吐き捨てるようにアイゼンが言った。

 こいつも色々あったんだろう。

 そっとしておこうと思っていると、ノーナが突然ぼそりと言葉を漏らした。


「あれ、何かしら……?」


 ノーナの言葉に前を向く。

 すると、前方から二人の男がモンスターを引き連れて走ってくる。

 いわゆる、モンスタートレインという魔物の誘引行為だ。


「おい、あのバカな奴等、どうする?」


「ふむ。無視でもする?」


「どちらでも構わないが、あれは間違いなくこちらに向かってきておるぞ。あと、三十も数えぬ間に接敵する」


「えー……あんな奴ら自業自得なんだから放っておきましょうよ。もう疲れたー」


 このパーティーには率先して人助けしようとする精神の持ち主はいないらしい。

 頼もしくはあるが、同時に意見がまとまらないのが残念だな。


「あっ、あいつら逃げたわよ」


 考えていた矢先に、ノーナが情報を伝えてくる。

 先頭を走っていた男二人が左右の道へと走り去った。


(面倒ごとを……)


「……どうやら、無視は出来ないらしい。とりあえず、各自で適当に対処するぞ」


「えー!?」


「しょうがないだろ、文句言うな。こんなだだっ広い部屋じゃ、逃げるものも逃げられん」


 むしろ、逃げるほうが疲れるだけだ。


 ここは十五階層に設置された、特定数を倒すと次の階層に行ける特殊なフィールドだ。

 だから、ある程度の大きさの部屋がブロックのように分かれており、別の部屋への道は四つしかない。

 四角い部屋の前後左右の内、奥からはモンスターがうじゃうじゃおり、後は歩いて来た後ろの道と中央にある左右の道しかない。


「とりあえず、戦ってから考えるぞ」


 それぞれが適当に返事をする中、突発的に戦闘が始まった。

 俺は修行ついでに剣のみで戦い、じっくり十五分かけて戦闘が終了する。


(予想外だったが、いい経験を得た)


 そんな事を思ったが、しかし、これで終わらなかった。

 休憩のために休んでいると、前方から二度目のモンスタートレインがやってきたのだ。


「……ちょっとあいつ、とっ捕まえない?」


「賛成。あいつ、ぶっ飛ばしてやるぞ」


 ノーナが自分から案を出してくる。

 俺はすぐに賛成した。

 前方から気持ちの悪い笑みを浮かべて走ってくる男を睨む。

 魔法でとっ捕まえようとした矢先、突然、目の前から消えた。


「は? 消えた?」


 距離が百メートルを切ったと思った瞬間、男たちは突然白い光を残して消えたのだ。


(まさか、転移だと……?)


「――やられた、帰還石か」


 横でアイゼンが気になる言葉を漏らす。

 その事について聞こうとするが、後ろからノーナが切羽詰まった声を出す。


「ねえ、ちょっと! 後ろからも来てるんだけど!?」


「チッ、マジかよ……!」


 後ろからも魔物が走ってくる。

 一瞬、白い光が見えたから、それも先程と同じ様な仕掛けだろう。


「……ふざけやがって」


 どうやら相手は悪意を持って殺しに来てるらしい。

 何が目的かは分からないが、喧嘩を売るとは良い度胸だ。

 苛立ちを感じながらも我慢する。


「ユートよ、どうする?」


「とりあえず、三度目も来ないとは限らない。速攻で倒してここから出よう。ついでにあいつらを見つけたら、ボコボコにして捕まえる方向で」


「了解、リーダー」


「承知した」


「……」


 ノーナは据わった目をし、アギトはここでもいつも通りの返事をする。

 二人とは裏腹に、アイゼンがボーっとしていたので様子を見た。


「どうした、アイゼン? 大丈夫か?」


「……ああ、大丈夫だ」


 アイゼンの様子が変だったが、気にする間もないまま二度目の戦闘に入った。

 魔物相手に苛立ちをぶつけながら、効率よく倒していく。

 そうして時間が掛かりながらも十五階層を抜けた。


「――ちっ、もう誰もいないようだな」


「そうね。いたらタダじゃおかないのに」


「二人とも、目的が変わっておるぞ」


 そんな一幕があったものの皆に回復魔法を使い、疲労を癒やしておく。

 そして、十階層のボス部屋を抜け、鍾乳洞のエリアに戻ってきた。


「そろそろ出口だな」


「そうね。でも奴等はいなかったわね」


「残念ながら、我の鼻でもそこまでは分からぬのでな」


「それはしょうがない。とりあえず、帰ったら次にあった時の対策を――」


「静かに」


 考えよう、と言おうとした時、アイゼンに手で制止してきた。

 アイゼンの纏う空気がピリピリとしている。


「……どうした?」


 アイゼンに訊ねるものの、口を開こうとしない。

 もう一度、問いかけようとすると、知らない声が聞こえて来た。


「――どうやら、バレてるみてえだな」


 そちらに首を受けると、十字路の陰から人が現れる。

 ぞろぞろと抜き身の刃を片手に十人以上の男たちが道を塞ぐ。


 ――穏やかな雰囲気じゃないな……。


 視線を鋭くし、魔力を纏いながら周囲を警戒する。

 さらに探知の指輪を使い、他の生命体がいないか探る。


「……それで、君たちはなんの用かな?」


「――おいおい、それ本気で言ってんのか?」


「『君たちはなんの用かな?』だってさ! ギャハハ!!」


「お前、マジで言ってんのかよ!」


「くっそ、ダセェ!! 俺はシラフじゃ言えねえよ!!」


「ハハッ! 止めてやれよ。精一杯の強がりなんだろ!!」


「カッコイイ! ヒューヒュー!」


「くはは、笑わせてくれるぜ。なんの用かって? 死にたくなきゃ、女と持ち物、全部寄越しな!!!」


 欲望に濁った目で、男たちはアイゼンの事を嘲笑う。

 堂々とした強奪宣言。

 ただのゴミの様だ。

 それを俺は冷めた目で見下すが、アイゼンは一切の反応を示していない。


「なにあいつら、マジキモいんだけど……」


「何という侮辱! 人面を被った獣であったか……!」


 ノーナは生理的に受け付けないのか、腕で体を抑えながら引いている。

 アギトは義憤に駆られて、剣を抜きかけている。

 俺も魔法の準備に入ろうとすると、アイゼンに止められる。


「まだ魔法を撃っちゃダメだよ」


「じゃあ、どうするんだよ」


「まあ、見てなって」


 アイゼンは何か策があるらしい。

 何の気負いもなく平然としながら、ゆっくりと口を開いた。


「――ねえ、余裕ぶってるところ悪いんだけど、通り道の邪魔だからどいてくれない? あっ、ゴブリン以下の君たちに言葉は通じないか。ごめんごめん」


 ――汚物に塗れた臭いがするから、ゾンビの間違いだったか。


 痛烈な罵倒がクリーンヒットする。


「はぁ!?」


「んだとォ!!」


 男たちはアイゼンの言葉に反応する。


(くく、沸点が低い上に語彙が少ない。典型的な馬鹿だな)


 笑いをかみ殺している俺を他所に、アイゼンはさらに口撃・・の手を休めない。


「それにしても、どうしてゾンビが歩いてるの? ……もしかして、ダンジョンの吸収機能にすら拒否されたの? そんな事になったら、俺だったら恥ずかしくて自殺しちゃうなー。ねえ、何で歩いてるの? さっさと土に還りなよ」


「テメェッ!! なめやがって!」


「こいつら、ぶっ殺しましょうよ!」


 男たちはいきり立つように敵意と殺意を漲らせる。

 どれも同じ様な顔をしていて、誰が統率者か分からない。


「……ああ、どうやら本気で殺されたいらしい。命乞いしても、もう許さねえ。身体の端から刻んで殺してやる」


 群れの真ん中にいた男が冷静に喋る。

 もしかしたら、あいつがリーダーかもしれない。


「フッ、面白い事言うね」


「何?」


「最初から生きて返すつもりがない癖に、言葉だけは随分ご立派だ」


「フン、てめえの方こそ、これだけの数に囲まれてるのに、いい度胸してるじゃねえか」


「数? ああ、もしかしてその程度の雑魚で相手になると思ってるの?」


「雑魚だと!? ここにいる奴等は全員レベル三十以上だぞ! こんな低階層にいるようなお前らが相手になる訳ねえだろうがッ!!」


「そう思うなら、さっさとかかってきなよ」


 アイゼンが相手を挑発すると、男たちは青筋を立てた。


「上等だ! やっちまえ!!」


 男たちはてんでばらばらに駆けだしてくる。

 アギトとノーナが武器を手に走り出そうとする。


「【氷の壁(アイスウォール)】!」


 氷の壁で通り道を全面塞ぐ。

 男たちはぶつかりそうになったところで立ち止まり、アギトとノーナも動きを止める。


「前だけじゃなくて、後ろにもいるぞ!!」


「なに!?」


「うそッ!?」


 二人はすぐに後ろを振り返る。

 しかし後ろに続く道には誰もいない。


「ちょっと、どこにもいないじゃない!? アンタ、こんな時に嘘つくんじゃないわよ!!」


「いや、いるよ。あの曲がり角の陰さ」


「えっ!? だって、あそこまで五十以上も離れてるじゃない!」


 歩いてきた道の分かれ道は確かに遠い。

 ノーナはそんな遠くまで分かるはずがないと言いたいのだろう。


「それよりのんびり話してないで、前にいる奴等なんとかしてくんない?」


 アギトと俺で壁の向こう側にいる男たちを警戒しているが、いつ壊されるとも限らない。

 現に氷の壁を壊そうと武器で破壊しようとしている。

 ガリガリと音を立てたり、脅してきたりとやかましい。


「後ろは俺に任せて、三人で前の奴等を頼むよ」


「あ、おい!」


 そう言うと、アイゼンはすぐに走り出した。


「……とりあえず、うるさいから黙らせるか」


 俺は壁の向こうにいる奴等に向けて、魔法を発動する。

 【氷の壁(アイスウォール)】の近くにいた男たちは氷魔法によって足先から凍っていく。

 男たちは悲鳴を上げていきながら、凍りついていった。


「すごいな……」


「し、死んだの……?」


「いや、表面が凍っただけだ。放置したら凍傷か、凍え死にはするかもしれないけど、まあ大丈夫だろ」


 レベルが高いなら生命力も高そうだし、アイゼンが来るまで放置しておこう。

 魔力が減っていくので【氷の壁(アイスウォール)】も解く。


「――死ねえ!!!」


 後ろを振り向こうとした瞬間、一番遠くにいた男が凍りつきながらも剣を突き刺そうとしてくる。


「危ない!?」


「ユート!!」


 ノーナが警告を発し、アギトが駆け寄って来る。

 今から防ごうとしても間に合わない。

 そして――――


 二人が交差した瞬間、ビシャッと血が跳び、辺りに飛び散る。

 場は静まり返り、誰もが口をつぐんだ。


 ――肉を貫く不快な感触。

 ――手に感じる生ぬるい血の温かさ。

 ――ぽちゃんと音を立てて血が滴る。


 俺はゆっくりと視線を下に向ける。


 ――そこには、剣が男の腹を貫く確かな現実があった。


ユート「人狼か!?」

アイゼン「正確にはライカンスロープ……」


■和訳


ユート「犬か!?」

アイゼン「(犬……? いや、耳あるし、牙もあるから間違ってないけど……)あれは狼だね」


こんな感じの思考の食い違い。

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