後編
慌てて会計を済ませてレストランを飛び出した。
朝乗ってきたバス停に戻るため、全力で道を駆け抜けた。
だが、普段あまり運動をしない俺は、しばらく走ると息が上がってしまう。
視界の端にバス停が現れ、必死に信乃を探すが見当たらない。
息がきれ、一旦足を止めた。周りを見渡すが信乃の姿は見えない。
日が暮れ、すでに街灯が明るく照っている。
そして俺は再び走り出す。
暗闇の中でも美しく散る花びらの中をかける。
昼間にはちらほらと人影があったのだが、今はもうその様子は見えない。
道が長く伸び、幾つかの細い道へと分岐している。
ある程度は見通せるのだが、やはり信乃の姿はない。
すでに帰ってしまったのかと思いつつも、ここで帰らせてしまったら何か大きなものを失ってしまう気がした。
そして俺には頭をさげる義務があった。誰よりもそうしたいと自分自身がそう思っている。
自分のために信乃にもう一度会いたい。そう思った。
公園の端から端まで高速で走り、最後の丘を登った。
公園の端にある丘は、周りが木に囲まれあまり人目につかない。それに公園に植えられている桜を一望できる場所なのだ。
階段を登りきり、細い木の間を抜けた。
そこに彼女はいた。
「信乃!」
おもわず声が出た。
暗闇の中でもはっきりと信乃だとだとわかる。
信乃は少しびっくりした様子で振り返った。
悲しい顔をしながら、目には涙を浮かべている。
信乃の涙に月の光が反射して光っている。
「ごめん、俺信乃にひどいこと言ってしまった」
「ううん、大丈夫。こっちこそ勝手に飛び出してきちゃって」
おもわず俺の目が熱くなった。
信乃の顔は頬に涙を伝えながらもいつもの笑顔を作っている。
「俺信乃になんて言ったらいいかわからない。関係ないなんて思ってないんだ。ちょっと照れくさくて、素直に自分の気持ちを伝えられなかった」
後悔とこうしてまた信乃に気持ちを伝えられる喜びで涙が頬を伝わる。
「俺は、信乃が好きなんだ」
人生で初の告白だった。
俺は昔から信乃と一緒で、仲良しで、好きだった。
その短い言葉に込めた思いはいかほどだろうか。
付き合ってくださいなんて言わなかった。それよりも好きだとただ言いたかった。
信乃は少し間を空けて口を開く。
「私も伊吹のことが好きです」
決して大きくない声で、しかし心に響く言葉だった。
嬉しそうに俺に駆け寄り、抱きしめられた。
桜の舞う中、2人で抱きしめ合いながら泣いた。
幼馴染の俺たちは、昔から一緒で変わらない関係だった。
それが今日から変わったのだ。
それを桜は祝福していた。
今回は春をテーマに短い作品を書かせていただきました。
最初はエイプリルフールだったのですが、いつの間にかなくなっていました。
今年度から私は受験生になりますので、投稿ペースはかなり遅いものとなると思います。
季節ごとにこのような短いお話はまた書いてみたいなと思います。
次回はその時になるかもしれません。
ではまたお会いしましょう。
ありがとうございました。