中編
バスを降りると綺麗な花を咲かせた桜があたりに咲き誇っている。
桜がアーチのように道の脇に植えられ、ピンク色に染められた道が伸びている。
地元では花見で有名な大きな公園なのだが、道を抜けると動物園につながっている。
今日は動物園で生まれたクマの赤ちゃんを見たいという信乃に付き合うことになっていたのだ。
園内に入ると、様々な動物たちの声が遠くから聞こえてくる。
目的のクマは入り口からは距離があるため、まずは他の動物を見て回ることにした。
猿やライオンなどの動物を見るたび嬉しそうに目を輝かせる信乃を見ているとこっちも楽しくなってくる。
ネコ科の動物が昔から好きな信乃は、ライオンや虎を可愛いと言いながらなかなか動こうとしない。
俺はそんな信乃の方が可愛いと思いつつも、急かすことなくじっくりとライオンを見つめていた。
少し園内を回ったところで昼食を済ませ、そのあとも信乃に腕を引っ張られていた。
そして目的であったクマの赤ちゃんの元へとやってきた。
ぬいぐるみのような大きさのコロンとした可愛らしい見た目をしている。
「わぁ、可愛いね。伊吹、転がってるよ」
ゴロゴロと遊ぶクマを見てより目を輝かせる信乃。
クマの前からうごくまでかなり時間がかかったが、俺も嫌な気はしなかった。
クマを見て満足してると、日がすでに沈みかけている。
入り口近くに建てられているお土産売り場に入り、この後何をするかを考えていると信乃が話しかけてくる。
「このキーホルダー可愛いね。一緒に買おうよ」
「お揃いって、流石に恥ずかしいけどな」
そう言うと不満そうに頬を膨らませる。
しょうがないなーと言いながら手に取るとわかりやすく嬉しそうにする。
しばらく店を物色した後、晩御飯を求めて動物園を出た。
夕日がオレンジ色に輝いているのとともに、綺麗な桜が舞っている。
「後で夜桜でも見に来ようか」
「いいね、絶対綺麗だよ」
そんな会話をしながら、ファミレスに入る。
料理を口に運びながら会話を弾ませる。
「伊吹はさ、好きな女の子とかいないの?」
急にそんな質問をされ、動揺を隠しきれない。
「そりゃあ、いるさ」
馬鹿正直にそう答えてしまった自分を殴りたい。
「どんな子?可愛いの?」
勢いを止めない信乃を制止するように料理を食べる。
「別に俺が好きな子なんて信乃には関係ないだろ?」
質問攻めを食らった俺はおもわずそんな言葉を口にしてしまった。
「そうだよね。ごめんね」
うつむきながら謝る信乃を慰めるように声をかける。
「すまん、少し言い過ぎた」
「いや、伊吹は悪くないから。ごめんね、今日はもう帰るよ」
目元に涙を浮かべながら席を立つ信乃を引き止めるが、止まる様子はない。
急に店を飛び出すわけにもいかず、信乃を一人で帰らせてしまった。
すぐに信乃に電話をかけるが出ない。
仕方なくメールを打ち、謝罪の言葉とともにメールを送信した。