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複垢調査官 飛騨亜礼 ≪短編連作版≫  作者: 坂崎文明
第六章 《複垢調査官》飛騨亜礼の華麗なる帰還
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神霊転生

「飛弾君、私もダンスバトル参加したいのよ」


 神楽舞の第一声がこれである。

 走ってきたらしく、息を切らしている。

 桜色のストールを首から垂らして、まるで古代貴族の婦女子がつけていたヒレのように振っている。

 天の羽衣もその一種だが、ヒレは害虫や毒虫を追い払う呪力があると信じられていた。


 その起源は古代文書『ホツマツタヱ』のワカ姫で和歌山の田んぼでイナゴが大量発生した際に和歌の呪文を唱えながら扇子をあおいで風を送り、イナゴ退治したというエピソードがある。 

 イザナミ、イザナギの長女にして呪術としての和歌を伝え、琴の名手でもあり古き神様のひとりと言われている。彼女の弟たちはアマテル、スサノオ、ツクヨミと言われている。


「舞さん、さすがにそれはないと思うよ」


 飛弾亜礼は冷たく答えた。

 ダークブルーのサイバーグラスに黒色の背広、革靴という代わり映えしない服装だ。


「メガネ君はあると思うわよね?」


「僕はあると思います」


 メガネ君の信念に揺らぎはない。

 正確には妄想であるが。 

 彼は黒いジャージの上下にスニーカーというラフな格好である。


「でも、あったらいいよね。楽しそう」


 織田めぐみはあくまで前向きだ。

 戦国時代のお姫様の衣装を信長の神霊力によって与えられていた。なかなか似合ってる。


「わしも来るなら受けて立とう」


 信長はらしいコメントである。

 ちょんまげにどじょう髭、表が金ぴかで裏地は朱色の羽織、袴を纏ったド派手な戦国武将らしい出で立ちで、腰には愛刀の『へし切長谷部』を差している。


 観光客は貸衣装だと思っているのだが、何となく本物の信長の気、もしくは迫力に押されて遠巻きに取り囲んでいた。京都では舞妓さん体験コースとかが普通にあるので、こういう服装は珍しくはあるが、違和感なく受け入れられていた。


 とりあえず、舞の合流によって、飛弾亜礼、メガネ君、織田めぐみ、信長、神楽舞の五人のメンバーが揃った。

 信長一行はそのまま清水寺の観光に赴いた。


 清水寺では清水の舞台で景色を眺め、地主神社で恋占いをし、音羽の滝で水を飲み、胎内巡りで暗闇できゃあきゃあ言ったりして、なかなか楽しかった。


 すっかり見物を済ませて、松原通りから清水坂に差し掛かっていた。

 そのまま八坂神社方面に下っていって参拝する予定である。


 神楽舞と織田めぐみは土産物などに夢中で、織田信長は道端で茶色のベレー帽をかぶった金髪外人の画家に似顔絵を描いてもらっている。


 飛弾とメガネ君も土産物屋の試食コーナーで、緑茶を飲みながらお菓子を食べて長椅子に腰を下ろしていた。


「メガネ君、ところで、どうして信長さまが復活したんだ?」


 飛弾は前から気になってることを訊いてみた。


「そこからですか」


 メガネ君は面倒そうに答えた。


「長い話になりますが、敢えて短く説明すると<神霊転生>です」


「<神霊転生>?」


 飛弾は眉をひそめた。


「つまり、非業の死を遂げた魂が偉大な行為をなして亡くなった場合、時に人を飛び越えて神霊に転生することがあるみたいです。例えば、安部清明、柿本人麻呂、菅原道真、飛騨さんもご存知の大和朝廷最強の巫女姫、倭迹迹日百襲姫命やまとととひももそひめのみことさまなどもそれに当ります。桃太郎の鬼のモデルと言われてる吉備の国の温羅(うら)さんは特殊で<地霊>になりますが」


「なるほど」


「信長さまは本能寺で救出されて、安倍晴明、安東要、メガネ君たちオタク軍団と戦国時代を駆け抜けて、最終的には東日本の天山原発沖の太平洋上で、魔女ベアトリス率いるイスパニア帝国を撃破し、その代償として非業の死を遂げた」


「それは聞いたよ」


「その後、この前の<刀剣ロボパラ>のゲームバトル終盤で俺を助けてくれて、神霊として復活し、僕がそのまま憑依されてしまったという話は?」


「それは初耳だな」


「それでこの前、信長さまが退屈して、一緒にネットゲーの<刀剣ロボパラ>の地下迷宮最深部に潜ったんですよ。そこで竜頭蛇尾のボトムウォリアーが転位魔方陣でどこかに転位したのをつけて行ったら、見事に返り討ちにあって、またも信長さまに助けられたりした次第です。てへ」


 とか言ってるが、当然、全く可愛くはない。


「で、どうして信長さまは生身に生まれ変わってるんだ?」


 飛弾にとってもそれが最大の疑問点だった。


「その助けてもらった時に、<刀剣ロボパラ>の火星ステージで拾ったものらしいです」


「メガネ君、何故、そんな得体の知れないものが神霊である信長さまの力を存分に発揮できる仕様になってるんだ? <境界性次元変換機械生命体マージナル・ボディ>とかいう神霊に最適化した魔法の身体が都合よく現れるんだ?」


「それは何者かがそう仕組んだんでしょうね」


「それはたぶん、時間を遡行することができる能力者がいるんじゃないかと」


「一体、そんな存在がどこにいるんだ?」


常世岐姫命(とこよきひめのみこと)


「え?」


 飛騨は思わず訊き返した。


「彼女なら、あるいは可能かもしれない」


 見上げれば、信長が飛騨の視線の先にいた。

 完成した似顔絵を小脇に抱えている。


「そんな存在が秘密結社<天鴉(アマガラス)>にいるんですか?」


「むしろ、彼女、常世姫(とこよひめ)が<天鴉(アマガラス)>を作ったと言われている」


 信長は重々しく語りはじめた。


「常世とは常夜、隠世(かくりよ)(幽世)とも呼ばれて、永久に変わることのない神の世界だと言われている。わしも神霊に転生した後、常世にいたが変わり映えしないので退屈で、ついついメガネに憑依して現世(うつしよ)に彷徨いでた」


「おいおい!」


 メガネ君が突っ込んだが、信長は当然スルーする。


「冥界、死後の世界、黄泉の国とも言われ、『古事記』や『日本書紀』ではた少彦名神が去った海の彼方にある国であり、沖縄などでは同様に、海の彼方にある『ニライカナイ』という理想郷という説もある。『万葉集』では浦島太郎が亀に乗っていった竜宮城であり、時間の流れかなり違うので、人の身での長居は禁物じゃが、ある意味、不老不死の楽園ということもできる。『日本書紀』では天照大神から倭姫命が賜わった神託によれば『伊勢を常世の浪の重浪の帰する国(「常世之浪重浪歸國」)』とあるという。集落の境の神である道祖神、神籬(ひもろぎ)磐座(いわくら)の先に広がる異界であるとも言われている」


「なるほど、<(ただ)すの森>の磐座で安部清明様が現れたのは偶然ではなかったのですね」


 飛騨はいろいろと腑に落ちたようだった。


「そうじゃ。そういう神域、聖域、禁足地の山々などは、常世の神が降りる場所になっておる」


「常世岐姫命って、どういう神様なのですか?」


 メガネが興味深げに訊いてきた。


「いや、まあ、とても古く強力な神で、さすがのわしの<魔人眼>でも底が見えない神じゃった。うん、強いて言えば『ばあさん』かな」


「何がばあさんじゃ! 信長!」


 信長が振り返ると、そこに、六歳ぐらいの白い可愛らしいドレスを着た金髪の少女がいた。


「AI読者のエリィちゃんじゃない!」


 お土産を買い終えて帰ってきた織田めぐみが叫ぶ。


「諸般の事情で、このアンドロイドに憑依しておる」


 好きだったAI読者のエリィちゃんの中身がばあさんというのも夢が壊れるなあとメガネは思った。


「ばあさんで悪かったな! メガネ!」


 いや、この人もさりげなく心を読んでくる。

 信長もだが、神霊と付き合うのは大変だとメガネは思った。

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