いろいろとストーカーな人々
そこは<作家でたまごごはん>の会議室である。
神楽舞の正面で、細面の顔にどじょう髭、洋風の黒マントに漆黒の鎧を着た戦国武将が緑茶をすすっていた。
無論、織田信長である。
その右隣には人を何人か殺していそうな鴉のような男、飛礼同盟のザクロ、純白のワンピースに金髪碧眼のオランダ人美少女のハネケ、身体の所々が義体化された黒いジャージの上下、黒髪の日本人の夜桜が並んでいた。
神楽舞の手前にはメガネ君こと服部新三郎がいたのだが、めんどくさいので、やっぱり、メガネというあだ名で呼ぶ。
「<刀剣ロボットバトルパラダイス>やってたら、火星ステージに飛ばされて、龍頭のボトムウォーリアーに襲われて、憑依されてた織田信長さんが助けてくれた、まとめるとそんな感じですね?」
神楽舞は事務的に言った。
「で、この人たちは?」
事情は何となく分かっているが、メガネに聞かずにおれなかった。
「俺は飛礼同盟の副隊長ですから、メガネ隊長の機体のマーカーに反応して、いつものように後を追ったんですよ」
ザクロが聞かれもしないのに答えた。
「あたしもメガネ隊長の機体マーカーを見たんで、いつものようにちょっと話でもしようかなと思って」
ハネケが続く。
「僕はハネケさんの機体マーカーを見たんで、いつものように後をつけてみたんですね」
夜桜の発言だけはニュアンスが微妙なので、ちょっと全員の視線を集めたが、ほぼ言ってることは同じである。
「まあ、いいわ。みんなゲーム仲間なんだから。仲良しでいいわね」
神楽舞は冷静沈着に対応している。
「で、あの信長さまはどうすればいいの?」
神楽舞は一番の懸念材料に言及してみた。
「大変、言いにくいのですが、しばらく預かってもらえないでしょうか?」
メガネはおそるおそる言い出してみた。
「は? 何か、言ったかなあ、メガネ君?」
舞はとぼけようとしたが、絶妙ばタイミングで信長が助け舟をだした。
「清明殿から、京都での舞殿の活躍を聞き及んでいるので、わしも話がしたいのじゃが」
流石の神楽舞でも、第六天魔王といいますか、戦国の覇王の申し出は断りづらい。
「―――はい。ですが、私ひとりでは心許ないので適任者を呼んでも宜しいでしょうか?」
意外というか、当然の提案だった。
「誰じゃ?」
信長は訝しんだ。
「織田めぐみ。信長様の子孫に当る者と思います。素敵なお茶でおもてなしできると思います」
神楽舞はさらりと言った。
†
「ザクロ、ハネケ、夜桜、ありがとう。お陰で助かったよ」
メガネが安堵のため息をついた。
そこは、<サンライスカフェ>京都伏見桃山店である。
一般的には「めろんぱん」と呼ばれている食べ物が、西日本の神戸~岡山~広島地域では「サンライス」と呼ばれている。
ひたすら「サンライス」ばかりを、つまり、めろんぱん地獄に浸れるカフェチェーンで岡山が発祥である。最近の京都でもごく一部で人気だという。
「信長さまを、舞さん、めぐみちゃんに押し付けましたからね。ちょっと肩の荷が下りましたか?」
ザクロがメガネの本心を言い当てた。
眼光が鋭すぎる。
「ちょっと、気の毒だけど仕方ないわよね」
ハネケは他人事だと思ってるので、のんきなものである。
「でも、ちょっと、織田信長の話は訊いてみたかったです」
夜桜ひとりだけ、あまり信長と過ごしたことがないので夢見がちな発言をしている。
俺にもそんな時代があったよなとメガネは懐かしくなった。
「意外とそばにいると疲れるよ。夜桜」
「どの辺りが?」
黒髪の好青年然とした夜桜が身を乗り出してきた。
カルピスを啜ってるのが妙に似合う。
「やっぱり、アレがねえ」
ハネケが透き通るような碧色の双眸をキラキラさせはじめた。
金髪とあいまって妖精然とした存在感があった。
夜桜は惚れ直した。
「駄洒落というか、ギャグがねえ」
ザクロも珍しく何か言いたそうだった。
「きっつーな感じなんだよ」
メガネは本当にきつそうな顔をした。
好物のダブルチョコサンライスをパクついている。
そのせいか、口の周りに髭のようにチョコがついている。
田舎の百姓のようにも見えた。
相当なストレスがかかってたことが想像できた。
「織田信長が24時間憑依してる状態って想像つく?」
とメガネ。
「つかない」
ザクロ。
「想像したくない」
ハネケ。
「きっつーーーー」
夜桜。ノリがいい。
「なかなかいいギャグじゃな」
信長。
「きっつー」
メガネ。
とても背中が重い。
この話、幕間話ということで、これで終わりでいいかと思います。




