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複垢調査官 飛騨亜礼 ≪短編連作版≫  作者: 坂崎文明
第四章 僕の彼女はアンドロイド/複垢調査官 飛騨亜礼2 TOKOYO DRIVE
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奇襲

 SSSRトリプルエスレアクラスボトムドール<紅>は光子波動エンジンを全開にして巨大なボトムウォーリアーの上空を越えると、隠蔽装甲(ステルス)のまま一直線に地下要塞に突っ込んでいった。

 背中の聖槍<光神ルーの槍>を引き抜いて、そのまま一閃する。


 凄まじい衝撃波が地下要塞の外壁を一撃で破壊した。 

 千機ほどの巨大なボトムウォーリアーは全くの置き去りで、気づいたのはボトムドール<紅>が地下要塞内に侵入した後だった。


(ライト君、あなた、案外、大胆不敵の暴れん坊なんですね?)


 あまりの無鉄砲さに少し呆れながら<常世岐姫命>は言った。

 光子波動エンジンに反重力エンジンを併用して、普通の機体では考えられない鋭角的な動きで障害物を避けて、超高速で施設内を飛行していく。


 隠蔽装甲(ステルス)のままなので、監視カメラにも幽霊(ゴースト)が巻き起こした一陣の風のようなものしか補足されていないだろう。


(このまま時空偏位の中心点に行きますよ)


(はい)


 <常世岐姫命>は短く答える。


 メインモニターの左側の丸い<時空レーダー>に緑の光点が見える。

 反重力エンジンの運用、『宇宙ステージ』での無重力戦闘においては、この<時空レーダー>がなければ敵を捕捉することすらできない。 

 ゆえに『宇宙ステージ』に侵入できる数少ない上位機体である、ボトムドール<紅>には標準装備されている。


 通常プレーヤーの初期機体<ボトムストライカー>は陸戦能力しかなく、飛行ユニットは後付けのブースターになる。

 女性的な華奢な機体である<ボトムドール>シリーズは、見かけによらず、ハイパワー、高機動、最初から飛行ユニット付属の機体が多いのだが高価なものであり、かなり経験値の高いプレーヤーしか入手できないことが多かった。


 ライトは突然開けた視界に思わず目を疑った。

 巨大な緑色の光を放つ球体が円筒形のジオフロントの空間に浮かんでいた。

 その広さはライトのボトムドールが豆粒のように見えるほど広大だった。

 円筒形の空間の天井は遥か彼方にあるようで全く見えなかった。

 この空間自体がどこか次元空間に接続している可能性もあった。


(おそらくこれが『異世界転位門』です。あの緑色の球体を破壊してください)


 <常世岐姫命>はエリィの声でライトに指示した。

 モニターに映る彼女の表情はめずらしく緊張している。 


(了解)


 ライトは背中の聖槍<光神ルーの槍>を構え直して無造作に一閃させた。

 緑色の球体がはじける。


 その刹那、時間が遅延していくのが分かった。

 スローモーションのような時間の中で、空間に穴が開いたようにボトムドール<紅>が引き寄せられていく。

 その先に暗黒の重力特異点が出現していた。

 

(これは?)


(罠です。急速離脱して下さい)


(光子波動エンジン全開! 反重力エンジンも並列運転に切替!)


 全ての動力を集中してブラックホールからの脱出をはかる。


 ブラックホールには事象の地平面、シュヴァルツシルト面と呼ばれる情報伝達の境界がある。

 情報は光や電磁波などにより伝達され、最大速度は光速である。

 ブラックホールは光さえ脱出できない天体であり、そこに落ち込んだ場合、どこに飛ばされるか分からない。

 それどころか、ボトムドール<紅>の機体がそこまでもつのかも全く不明であった。


(どんどん中心点に引き寄せられていきます)


 ライトは<時空レーダー>に映る重力特異点との距離の数字が少なくなっていくのを、ただ、見つめるしかなかった。オレンジ色のカウンターが高速で回っていく。

 すでに光子波動エンジン、反重力エンジンの出力はマックスだった。


(――――ライト君、時空転移しましょう)


 ボトムドール<紅>には奥の手としてそういう機能もあった。

 まさにスペシャル仕様の機体である。


(でも、この状態では転移座標が特定できません)


 転移先に障害物があれば大爆発をおこしてしまう怖れがあった。


(なるべく障害物のない上空50メートルに設定して適当に飛びます)


(――――了解です) 


 ライトは覚悟を決めた。

 この辺りの冷静さがライトの長所であるが、<常世岐姫命>としては物足りなさもあった。

 

(座標適当、時空転移します!) 


 ボトムドール<紅>は突如、姿を消した。




     †




 ライトたちはしばし亜空間トンネルを抜けて、光のある所を目指した。

 転移した場所は障害物のない空の上であったが、エンジン不調で墜落する羽目になった。

 広大な緑の森が眼下に広がっていた。


 幸い、緑の樹木がクッションになって怪我もなかったが、周囲は鬱蒼(うっそう)とした森であった。

 ライトと<常世岐姫命>は仕方なく機体を降りると、森の中を探索することにした。


(見たこともない森ですね。こんな場所、<刀撃ロボパラ>のワールドにありましたっけ?)


(………そうですね)


 <常世岐姫命>はライトの言葉に上の空で答えた。

 何か考え事をしている様子だった。


 森の中は涼しく静かで、清らかな水が流れる小川が幾つもあった。

 人が座れるような岩が所々にあったが、<常世岐姫命>はそこに掌を当てて瞑目して何かを感じ取っていた。


(<常世岐姫命>さま、一体、ここはどこなんでしょう?)


(―――ライト君、ここはゲームの世界ではなく、現実の世界よ)


 <常世岐姫命>は重大な事実をさらりと言った。


(それはどういうことですか?)


(…………)


 <常世岐姫命>の答えはなく、重苦しい沈黙が流れる。

 しばらくいくと、森の切れ目に大きな道が現れた。

 幅二十メートルはある黄土色の砂が敷きつめられた道である。

 だが、どうやらその答えを知るものが、みたらし団子を食べながら歩いてきたようである。


「ハットリ隊長!」


 ライトは懐かしい顔を見つけて、思わず呼びかけた。

 ハットリは今日は普段着らしく、Gパンに白いポロシャツ姿である。

 髪は刈り上げて短く切りそろえられていた。

 みたらし団子を食べていたがふと立ち止まった。

 メガネをくいっと上げるしぐさをしながら、ライトの方を見た。


「君は誰だい?」


 ライトは予想外の返答に、二の句が継げなかった。

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