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複垢調査官 飛騨亜礼 ≪短編連作版≫  作者: 坂崎文明
第三章 ネット小説投稿サイト三国志
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ねじまき姫

 闇の中に黒い龍の機体が浮かび上がる。

 一つ首の龍の双眼が赤く光っている。

 《YUKI no JYOU》同盟の<ボトムウォリアー>の隠密部隊、<黒龍隊>である。


「夜桜、潜入ご苦労だった。隊に復帰して後に続け」


 隊長の月島が夜桜の長い潜入作戦を労った。

 夜桜は漆黒の<ボトムストライカー>で無言で(たたず)んでいた。


 そこは《飛礼》同盟、今は連合軍の本拠地<スカイパレス>の城壁の背後の崖の上である。

 防衛上の死角となっていて、ここから一気に突入すれば城に容易に潜入できた。


「―――了解」


 しばらくして、小さな声で答えた。

 夜桜は元々、《YUKI no JYOU》同盟のスパイとして《飛礼》同盟に加入していた。

 それを知っていて、メガネ隊長はこの場所に夜桜を配置していた。

 それは何故なのか、別に夜桜の寝返りを期待していた訳ではなかった。


「夜桜、お前………」


 月島が背後を振り返った時には、すでに10機あまりの<黒龍隊>の機体が、一刀の元に切られていた。


 夜桜の左手に、伝説の聖刀が鈍い光を放っていた。

 <天羽羽斬剣あまのはばきりのつるぎ>と呼ばれている闇色の聖刀である。

 隕鉄、つまり、地上へ堕ちた隕石に含まれる鉄を打って鍛え上げられたと言われている。


「なぜ、斬るのかと言いたそうですね。最初から俺は《飛礼》同盟の同盟員だったんですよ」


「二重スパイか」


 月島は意外そうであったが、さほど驚きもしていないようだった。


「蛇の道は蛇というところですか?」


 夜桜はにやりと笑った。


「そんなところだ」


 月島も答える。


「では、殺し合いましょうか」


 夜桜は抜け目なく、<黒龍隊>の残存兵力をカウントしていた。

 残り20機。

 精鋭部隊だから十二聖刀もちでも骨が折れそうだった。

 ハネケさんの方が大変だろうなと思いながら、夜桜は聖刀を構え直した。



 

    †




 ハネケの白銀のボトムストライカーは左手の破損以外にも満身創痍だったが、何とか健在だった。

 <天龍>部隊は残り15機も残っていたが、なかなか上出来と言えた。  


「それにしても、敵の機体の動きが何だかおかしいわね」


 それは長年、このゲームをプレイしてきたハネケだから気づけた違和感だった。

 <天龍>部隊の動きが人間離れしているというか、まるでひとつの生き物のように完璧な連携を見せていた。

 どうも視野を共有してるような感じがした。

 それに、聖刀使いであるハネケがここまで苦戦するのは久々だった。



 一瞬、白銀の翼で空中に静止していたハネケの<ボトムストライカー>がはじけた。

 長距離レーザーか何かで、背後から撃たれたようだ。

 右手と右翼を持っていかれた。

 破片が飛び散る。

 <オリハルコン>も森の中に落下していった。


(ああ、これは落ちゃうな)


 左翼と背中のブースター二基を吹かしてバランスを取ろうとしたが、キリキリと回りながらハネケの機体は木々の間に滑り落ちていった。

 追撃のミサイルが<天龍>部隊から放たれて、集中砲火を浴びる。

  

 これはもうだめだと思ったが、何故か機体には攻撃が当たっていなかった。

 黒い<ニンジャハインド>がズタボロになったハネケの機体を抱えて跳躍していた。

 <ニンジャハインド>は周囲に溶け込むカメレオンのような《迷彩装甲》をもち、隠密機動に特化した機体である。


「大丈夫ですか? ハネケさん? 《飛鳥》同盟の風丸(かぜまる)です」


「ありがと。助かったわ」


「それに、<ねじまき姫>が来たので、もう大丈夫ですよ」


「げ! <ねじまき姫>ですって! あまり会いたくないわーーー」


「ハネケ、何、大破してるのよ! あんた! しゃーないわね。私のスペア機体の<ボトムドール>に乗り換えなさい。あ、白い奴だよ」


 通信ヘッドホンから、ガラの悪い聴きなれた声が炸裂した。


 ハネケの視界に、特徴的なシープホーンと呼ばれる頭部が見えた。

 全身ピンク色の<ボトムドール>と呼ばれる機体である。

 <ボトムドール>は女性的な細身の機体で、機動力に重点を置いていると言われているが、そもそも、その機体を所有しているのが<ねじまき姫>だけなので、真相は謎に包まれていた。


「それと、影丸(かげまる)が<オリハルコン>回収したので、それも持っていってね!」


「<ねじまき姫>さん、それどういうこと?」 


「立花城が空中に舞い上がっちゃったのよ。飛鳥隊長とメガネ君も一緒に空の上よ」


「げげ! うわー、それは大変ねえ」


「という訳で、ここは私と風丸(かぜまる)で何とかするわ」


 もう一体の黒い<ニンジャハインド>が、機体輸送用の<ボトムキャリアー>と共に現れた。

 彼が影丸(かげまる)のようだった。

 <ボトムキャリアー>の荷台には、三本の円筒形のコンテナが積まれていて、そのひとつの扉が左右に開いた。

 中に見えるのは純白のスペア機体の<ボトムドール>らしかった。

 ハネケは素早くその機体に搭乗して、<オリハルコン>を背中に付け直した鞘に納めた。    

 

「では、ここは任せた! 武運を祈るわ、<ねじまき姫>!」


 ハネケはそう言い放つと、ふと気になっていることを付け加えた。 

 

「敵の連携攻撃に気を付けて」


「わかってるわ。私を誰だと思っているの?」


 予想通りの自信満々の返事が返ってきた。


「はいはい、天下の<ねじまき姫>様、大変、失礼しました」


 ぺこりと頭を下げると、ハネケは純白の<ボトムドール>を駆って森の中に消えていった。

 影丸(かげまる)の黒い<ニンジャハインド>も後ろに続く。


 十二聖刀で唯一の<聖弓>使い、それが<ねじまき姫>であった。

 そして、<ボトムドール>には飛行機能もある。


 ハネケの純白の<ボトムドール>には、いつのまにか透明の妖精のような(はね)が生えていた。

 しばらくして<天龍>部隊の攻撃範囲を抜けると、森の上空すれすれに浮上して一気に加速する。

 影丸(かげまる)の黒い<ニンジャハインド>も障害物を巧みに避けて森の中を異常なスピードで移動してそれについていっていた。


「立花城が飛行コマンドを実行していたとわね」


 ハネケは誰とはなしにつぶやいた。

 

 <刀剣ロボットバトルパラダイス>のゲーム開始当初から本拠地飛行機能コマンドがあるというは、みんな知っていたが、気の遠くなるような膨大な資源が必要で、それを実行する同盟はほとんどなく、資金豊富な《メガロポリスの虎》同盟ぐらいだと思っていた。


 とはいえ、運営会社がつくった≪YUKI no JYOU≫同盟がそのコマンドを実行するのはテスト的な意味でも不自然ではない。

 ただ、飛行機能を有さない部隊が多い連合軍には不利ともいえる展開である。


 《メガロポリスの虎》同盟辺りが秘密兵器を持ってることを祈りつつ、空中要塞と化した立花城へと急ぐハネケであった。

  

 

 

この話も何とか2015年度中に終わりたいですが、ちょっと長引きそうな感じです。



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