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壱・シンユウ

     ◆




【西暦2006年

   7月14日

  午後16時30分】




「お待たせっ!ごめんね!」


孝介は半乾きの制服を着る


「外暑いし着てれば乾くよ」


オレをあんまり待たせないように気を使っている。


「ああ」



変な気分だ。


何というか…複雑な感じか?



どっちかと言えば…



気分悪い。



まあ、今に始まった事じゃないが…


孝介はトモダチゴッコとは思っていないのか。


こんなオレをシンユウだと思ってやがる。



…くだらねえ…。


「孝介、ちょっとさ…オレ銀行寄りたい」


「うん、いいよ!」



証拠因滅。

さっさと銀行預ければオレが金を取った事がバレてたとしても…


奴等に知る由なし。




     ◆




銀行に向かって歩きながら孝介はオレに笑顔で


「本当…いつもありがとうね…崇くん…」


「はは。大したことないさ…」


オレこそ…ある意味ありがとうだな…


「崇くん…うらやましい…」


はぁ?


「勉強できるし…頭も良くて…トモダチ多いし…僕なんか…ダメだなぁ…」


孝介はオレの複雑な表情なんか気付きもしないで


「僕も…崇くんみたいな人になれたらなぁ…」



や、…やめてくれ。


「よせよ…」


お前馬鹿だろ…


背中を嫌な汗が伝う。


心臓が嫌な音をたてる。


「…そ…そうか…」


「うん!」


やめろよ…

笑顔になるなよ…



なんだ…この気分は…?



そんな事を思いながら歩いているうちに、町の銀行にたどり着く。


孝介は…

目の前で自分がさっき取られたはずの金の一部が信頼を寄せている…悪魔のようなオレの…大友崇の口座に入って行くのを何も知らずに目撃するんだな。



オレの指が止まる。


「………」


暗証番号が…


…押せない?



「…っ?」



「崇くん?」



何も知らない孝介が不思議そうにこちらを見ている。



見るな!

見るなよ!!



らしくねえ!!

どうなってんだ!?

このオレが…躊躇してるというのか!?



ドカッ!!

ざわざわ…



「金だせっ!金っ!!全部だっ!!全部よこせっ!!!」



「キャーッ!!」



「騒ぐんじゃねぇっ!!!」


「たっ!崇くんっ!!」


様子がおかしいのは聞こえて来た怒鳴り声とざわつきですぐにわかった。



銀行のカウンターにいるのは…体格のいい…強盗。


怯える女性職員。



強盗はナイフを突き付けながら職員に金を出すように要求している。



うっ…マジかよ…!?



そのうち、近くに居た女の子を捕まえて、女の子にナイフを突き付ける。


「うわあああん!!!ママァ…!!」


「うるせえ!!黙らないと殺すぞ!!」


「ななちゃん!!」

「まっ…ママァ…!!」


うっ…

くそっ…

身動きがとれない!!



つうか…こんなに人が居るのに…皆…我が身可愛いのか誰も動かねぇ!



卑怯で…最低だな!

所詮…人間なんて…こんなもんか…!






…っ?



強盗に掴みかかる少年…?



「…孝介!?」



孝介は自分よりも体格のいい強盗からナイフを取り上げようと飛び込んで行ったのだ!



お前!不良にすら勝てないくせに何やってんだ!?


死ぬぞ!!



なんだよ!!?



ふざけんなよ!!!






―その時―

オレの記憶は途切れた…




     ◆




「そうして…気付いたら…ここに居た……ふん!笑えよ!オレはどうせ気ぃ失ってたんだろ?…そーだよ!最低野郎だ!…人間なんてこんなもんさ…アンタ、死神でも一応神様だろ?…オレのような奴は人間の底辺のまた奥で這いつくばっているような存在なんだよな!……いーよ。地獄でも逝くところ逝ってやる!…」


「拗ねるな!」


大友は私を気弱そうに見つめた。



「…お前は…気付いたんだよ。大友崇。」


「…何にだよ?最低野郎だって事にか?」



私は頷く。

そして、


「ズル賢い性格…目も当てる気にもならないが…お前は…確かに賢い。」


大友は困った顔をして、


「か…賢い?」


「あの生死を分かつ一瞬で…取るべき行動が取れたから…今ここにいる。…行動を起こさなければ私の所なんかに来ないで…強制的に『死』の判決…間違いなく冥界の扉をくぐる運命が待っていただろう。」


「オレの…起こした…行動?」


「無意識。…無意識のうちにな。私には…お前が閉ざした記憶を読むことができる。…肩を見ればすぐ理解できるだろう。」


大友の左肩には…

大量の血痕がついていた。



「こっ…これは…まさか…オレ…!?」


私は頷く。


「思い知らされるのは戻ってからにしろ。私の答えは…その後悔と共に『生きる』道をお前に与える。」




     ◆




「崇くん…!!」



孝介の声で気が付いた。


どうやら…俺は今まで変な夢を見ていたみたいだ…


白い天井から孝介に目線を移す。



…ズキッ…


左肩に電気が流れたような激しい痛みが走る


「…いてぇっ…ううっ…?」


孝介はオロオロしながら

「無理しちゃダメだよっ…傷…まだちゃんと塞がってないんだから…」



傷…?



左肩が包帯でかなりキツくグルグル巻きになっていた。


「あなたが大友くんね…息子を…孝介をまもってくれたのは…」


孝介の横に孝介の母らしき女性が涙目で何度も頭を下げてお礼を言っている。


孝介は


「あの時…崇くんが助けてくれなかったら…僕死んでたかもしれない…ありがとう…!でも…崇クンがひどい目にあっちゃったね…ごめん…何と言ったらいいんだろ…本当にごめんね…」



ようやく今の自分の状況が読めてくる。


そして…


閉ざされてた記憶が蘇ってくる。




…オレは…!

危険を顧みずに強盗に飛び掛かった…


そして…


強盗の持っていたナイフに刺されそうになった孝介を…


突き飛ばして…


孝介はナイフから逃れて…カウンターにぶつかった…


バランスを崩して転んだオレが…


起きようとした時!


ガスッ…!



何かが左肩に当たった感じだ…鈍く…突き刺さる痛み…


ズルッ!


強盗はオレに刺さったナイフを勢いよく抜いた。


真っ赤な物が周りに飛び散った。


「血っ…うわあ…うわあああ!!!」



俺は気絶しかけた。


その時!


再び孝介が強盗に掴み掛かる!


「コノ野郎っ!うわああぁぁぁ!!!」



そこに警察が来て…


強盗は現行犯逮捕された。


怪我人は俺だけだ。


深く刺されたのが心臓じゃなくて肩で良かった…!




全て…思い出した。




「こ…、孝…介?」

「…ごめんね…崇クン…僕のせいで…」



孝介は俯きながら答える。


「ち…違う…」


偉いんだよ!お前は!


周りの奴等は我が身可愛くて動けなかった…

お前は…違う!


普段…不良にやられてるのに…


やられてる…?


俺が原因だ!



なのに…!!


「どうして!俺なんか助けたんだよっ!!」


俺は病室のベッドから身を乗り出して孝介に怒鳴った。



孝介はキョトンとしていたが、


すぐに笑顔で…

何一つ曇りない笑顔で


「だって。僕の大切な大親友だからじゃない。」




そして…

孝介はまた慌てながら


「わっ…だ、大丈夫!?…痛む!?」


…と、俺を覗き込んだ。

多分俺がいきなり大粒の涙を流し始めて…止まらないからだろう



痛くない。

傷なんか痛くない。




痛いのは…

ナイフで貫かれたように…痛くて、痛くて…たまんないのは…




俺のドス黒い心の奥底に僅かに残っていた良心。






     ◆




暗闇の独房


もう誰も座って居ない独房を見つめながら私は溜め息をついた。



「…。やれやれ…やっと取り戻したか。…1人目はこれで済んだな。多感だが…素直な部分の残る年代だから、こうすんなり道を取り戻せた。いつもこう、すんなり逝くと楽なのだがな。」



そして弐のプレートを首からぶら下げている女に目線をやる。



どうやら…

事務職の制服を着ている性格のキツそうな女性。


「聞いて居ただろう?ここのルールと…迷いこむ愚かさを…お前も何かしら原因を作って来て居たはずなのだ…先程も言ったが、私には嘘や言い訳は全く通用しない。…話してみろ。」


女は覚悟をしていたかのように私をキッ!と睨み付けるように見つめながら、


「なによっ!!名前ぐらい名乗りなさいよ!偉そうに!!…わたしは高嶺英菜。…あなたは?死神さま!」


名前など聞いてどうするんだ…まあ…いい。


この女のやたら高そうなプライドを下手に揺すって、へそを曲げられたら…面倒だな。


周りにはあと5人も残っている。


時間を無駄にする気にもなれない。


「…ハメツだ。高嶺英菜…33歳。」

「トシ!バラすことないじゃない!!」


なるほど。

やはり性格に多少問題があるか。


「今全てを告白せよ」


高嶺英菜は足を組み、ふん反り反って髪をいじりながら、


「…しょうがないわね…」

と告白を始めた。



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